69話 ライバル
ローディがしばらく見ないうちに、何やら見た目も性格も一変して3日が経つ。
この事実にはさしものヴェルも困惑を隠せず、しかも彼女のユーズに対する異様な距離感の近さには警戒心すら感じざるを得なかった。
「―で、私のところにわざわざ相談に来るなんて、アンタも血迷ったわね」
「そんなことを言わずに助けてくれ……」
ヴェルは昼休みにシオン・エルメージュのところへ来ていた。
彼女にこの件を相談しにやって来たのだ。
「私だって知らないわよ。地味な娘が急に外見に目覚めて、ハデハデのイケイケになっただけって話じゃないの?」
「それだけなら私だってここまで悩まないさ。しかし……」
シオンはかつてヴェルが自分に突っかかってきたことを思い出す。
あの時は自分に対して警戒感MAXのむき出しといったような状態だったが、今回の相手は長年一緒だった親友。
恐らくヴェルもどんな態度でいればいいのか、全く掴めないでいるのだろう。
(まぁ私からすれば何も困らないけど……)
シオンは紅茶をすすりながら思案する。
そして珍しくしおらしい姿のヴェルを見ていると、何だか妙にイラッときたらしい。
(しっかし男絡みだとこの情けなさか……何かムカつくわね)
「まぁアンタの気持ち次第よそんなもん。別にユーズを取られてもいいってんなら好きに見過ごせば」
「そ、それは駄目だ!」
食い気味にヴェルが机を叩きながら主張する。
「なら腹割って話すしかないでしょあの娘と。ライバルってことよ」
「……」
思えばヴェルはローディと対立などしたことがなかった、昔から仲がよく子供の喧嘩を除けば、ましてや男を巡っての対立など―
だがその日の放課後、ますますヴェルの心がかき乱される事態となる。
「じゃ、後でまた会いましょう♡ しっかりエスコートしてくださいね〜」
「あ、あぁ」
「……?」
ヴェルが2人の交わす会話の意味をユーズに問う、すると衝撃的な答えが返ってきた。
何と放課後にユーズとローディの2人で遊びに行くというのだ。
ユーズは困惑気味で頭を掻いている、すっかりローディのペースのようだ。
(な、何も言えない……)
ヴェルの感じる今まで味わったことのない無力感、2人を止めるような言葉が出てこない。
そして……。
「じゃあ行ってくるよヴェル。そんなに遅くならないと思うけど」
屋敷に一度帰ってから、私服に着替えたユーズを見送る。
しかしこのまま待っているだけというのは身体が拒否反応を起こしてしまう。
(結局、こっそり付いてきてしまった……)
まるでストーカーのような行為であるが、とにかく落ち着かなかった。
街の中を歩くユーズを後ろから見るヴェルは慣れない変装で帽子とサングラスをかけていた。
「う〜ん。びっくりだなぁ……」
「ってフエル!?」
ヴェルが近くにフエルがいたことに気づく。
どうしてここにいるのかと尋ねると。
「いや僕も気になっちゃって。あとアルゼラ先生が友だちの変化には気をつけろとか何とか……」
確かにそんなことを言っていたような気はしたが、鵜呑みにして自分と同じようにストーキング染みたことをするとは……。
といってもヴェルとしては何も言わないでおいた、フエルの感知を活かせば追跡も容易だろう。
「ローディ。ごめん、待たせた?」
「大丈夫です、アタシも今来たとこですよ〜」
既にユーズが到着した待ち合わせ場所にはローディが待っていた。
約束の時間より20分早い。
しかし彼女の格好は白レースの肩出しトップスに同じく肩出しの上着、丈の短いショートパンツにガーターベルトを履き、細い金のチェーンブレスレットをつけていた。
へそにはキラリと光る銀色のピアスも覗く。
前の彼女とはガラリと違う、きらびやかなコーデに驚かざるを得ない。
「それじゃ行きましょうか♡」
またしてもローディはユーズに腕を絡ませながら、街を歩き出した。
最初に入ったのは喫茶店だった。
「今日はどうします〜?」
「そうだなぁ……ショッピングはどうかな」
「いいですね。アタシ気になるのをこないだ"月刊ウィッチ"で見たんですよ〜」
2人でこの後の行き先を決めているところらしい。
そんなこんなしていると、ヴェルたちのところにも店員が注文を聞きに来た。
「何になさいますか?」
「水2つ」
「今のナシで! アイスティー2つお願いします」
ヴェルは動揺の表れか、頓珍漢な答えを店員に返してしまうがフエルが咄嗟にフォローを入れる。
そうしているうちに、ユーズとローディの注文したものが来た。
コーヒーフロートとミニパフェだ。
「……ユーズ、ちょっと口開けてください」
「えっ?」
ユーズはいきなり言われて素直に口を開けると、ローディが口元にパフェをすくったスプーンを差し出し……。
「はい、あーん♡」
反射的にそれを食べるユーズ、自分たちのやっている行為の意味に気づいたのはその直後。
顔が急速に火照っていくのを感じていた。
「んなっ……!?」
「ふふっ。ユーズのそういうところ、好きですよ」
ローディは満足気に笑い、躊躇なく使ったスプーンで再びパフェを掬うと自分の口に持っていく。
ユーズの頭は驚きと恥ずかしさでパニック寸前だったが、それ以上は……。
(なっ……なっ……なっ……!!?)
ヴェルは一連のやり取りを目にすると、驚きのあまり魂が抜けたかのように白くなっていく。
(うわっ!? どうしよう。ヴェルエリーゼさん、ヤバいんしゃ……)
ヴェルの表情を見てフエルは気を揉むが、しかしどうしようもない。
(な、なな……あんなこと……ユーズとローディが……)
だが魂が抜けている暇はない、食べ終えると2人は店を出て次の行き先に向かう。
すぐさまヴェルとフエルも店を出て尾行を続けた。
次に到着したのは服屋、2人して店頭に並ぶ流行の服を眺める。
目に止まったのはファーが付いた赤い派手なコート、右肩を出しつつ着こなすのが正解らしい。
「凄いですね〜。薄い防御用の魔力が仕込んであって、見た目とデザインを両立してるらしいですよ。魔力層は厚さ3cm……ということは軽減できるエネルギー量は……」
何かブツブツと計算しだすローディだったが、直ぐにユーズの方を向き直り、元に戻る。
「あ、何でもないです! それよりどうですか? カワイイと思いません〜?」
「ん? あぁ、そうだね。似合いそうだよ」
「ホントですか〜? それじゃ待っててください」
すっかりその気になったローディは試着室に向かい、しばしその場はユーズ1人となる。
そして周りを眺めているとふと気になったものがあった。
(黒いリボン……か)
ユーズの頭に浮かんだのは今一緒に買い物をしているローディではなく……。
「ヴェルに似合うかな」
思わず口に出た言葉、しかし当の彼女は少し遠い場所にいて、それには気づかない。
「……」
「?」
後ろに何かゾクッとする気配を感じ、ユーズは慌てて振り向いた。
そこに立っていたのはローディだった。
「何だローディか。びっくりする……」
「ユーズ。ちょっとアタシのこと、見てください」
戻ってきたローディの表情はどこか冷たい、ユーズが言い終える前に彼の顔に手を伸ばして言った。
彼女が至近距離で見つめると、ユーズの意識が途端に曖昧になってくる。
(何だ? 頭が……ボーッとして……!?)
それを少し遠くで見ていたフエルが異変に気づいた。
「ゔ、ヴェルエリーゼさん! 何かおかしいよ。ユーズ君に対して魔法を使ってるみたいだし、それと一気に……発してる魔力が大きく……!」
「!? 何だって……!」
感じるのは闇の魔力の増大、詳細は分からないがローディが何か良からぬ魔法を使っているのは間違いない。
もうバレても仕方がない、ヴェルは飛び出した。
「ローディ! ユーズに何をしてるんだ!」
「!! 尾けて来たんですね……!」
ローディが直ぐに店の外に出る、ユーズの手を引っ張りながらだが、かなりの速さだ。
(クッ! 今までのローディと比較にならない強化……)
ヴェルとフエルが通りに出たその瞬間だった。
『黒暗転』
「!? しまっ……!」
闇属性魔法による目潰し、2人がやっと見えるようになった時には既にローディとユーズの姿は無かった。
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