68話 休み明け
あれから2週間、夏の長期休暇も終わりの時期となった。
特に目立った事件も起きず、俺たちは平和な時間を過ごしていた。
「明日からは学園再開か。長期休みなどあっという間だったな」
「俺はもう懐かしさすらあるよ」
初の学外任務、そしてティルディス殿下との出会い、皆との楽しい海水浴、そして―
(アイツは一体何だったんだ……)
結局この前の襲撃事件について、俺たちは詳しい事情を教えてもらえなかった。
騎士団の方でも相当上にしか知らされていない情報でもあると聞くので、当たり前と言えば当たり前かもしれないが。
一体何だったのか……。
________
2週間前―事件後の騎士団本部
「奴らは間違いなく秘密結社の手の者でしょうね。まさか学園にメンバーがいたとは……。逃したのが残念です、ハルファス教頭もいらっしゃれば」
「既に起きてしまったことじゃ、悔やんでも仕方なかろうアルゼラ。考えるべき問題はこれからやって来る事態にどう対処するか、じゃ。それとハルファスには別の調査を依頼しておったところ、やむをえぬ」
レインは重体で王立病院へと運び込まれ、ブラッドは騎士団長への報告に行ったため、その場で話していたのはヨーゼルとアルゼラだった。
またハルファスには現在、秘密結社と関係があると思われる違法薬物売買を行う闇ギルドの調査が命じられていた。
「……しかしまさか魔族とは。秘密結社はただの犯罪組織ではありませんね」
「うむ。恐らく何か、ワシらの想像もつかぬようなことを企んでいる可能性がある。1人は退けたが……あれが幹部格だとすれば、騎士団の部隊長クラスでも敵わぬ者が複数存在するということじゃ」
小隊長クラスでは小隊ごと瞬殺、部隊長クラスであってもレインほどの実力者が敵わない相手。
それが敵の実力なのは疑いようもない事実だ。
「しかし流石です校長。魔族を倒すとは……」
「いや……ワシも衰えた」
「!」
見るとヨーゼルの右手が焦げたように黒く傷んでいた。
アルゼラが慌ててその手を取る。
「これは……!」
「杖の出力にワシの身体が耐えきれておらん。具現化できる魔力の量に制約があるということじゃ、それにそもそも保有魔力の量が減少しておる。若い頃のようにはいかんな」
「今すぐにでも医者へ見せるべきです」
「すまんのう」
ヨーゼルは既に齢78、最強と言われ続けるも、かつての実力と比べて大きく衰えを隠せないでいる。
とりあえずはアルゼラが応急処置の魔法を施す。
「……今回の件ですが、ユーズたちにはどう説明しましょう」
「正直に言えば……まだあの子たちを巻き込みたくは無かった」
ヨーゼルは神妙な顔で言葉を続ける。
「しかしネオス……いや、レラジェじゃったか。彼がユーズに接触してきた以上、戦わねばならぬ時は必ず来る。それに目をつけられているのは恐らくユーズだけではない」
「と言いますと?」
「マックス・レイヴルズの件じゃよ」
マックスはユーズを足止めするために襲いかかってきた、その後気を失っていた彼は医者のもとへと運ばれたが、精神的に著しいダメージを負っているとされ、最悪廃人の可能性もあるらしい。
そして症状は現在入院している、あのシルバ・ザンクアリに酷似しているという。
「マックスとシルバの共通点は黄泉の番犬の所属という点のみかと。学園に潜入していたレラジェも同じクラスでしたから、何か精神的な操作を受けた理由は、手頃だったからという考え方も出来ますが……」
「……いや、恐らくそれだけが理由ではないじゃろう。詳しいことは分からんが……精神的な操作を受けやすい条件を2人とも備えていたと考えるべきじゃ」
「条件?」
「左様。しかしそれは今考えても埒が明かぬ。他の生徒たちにそうした影響を受けている者がいないか、休みが明けた後、早急に調査をすべきじゃ」
________
そうして休み明けの当日―
「よく晴れたな。暑さも少し収まったようで過ごしやすい」
「絶好の外出日よりってとこだけど、まぁ俺は久しぶりの学園も楽しみかな」
ヴェルと共に屋敷を出ていつものようにローディを待つ。
学園自体は約1ヶ月ぶりであるが、ローディを始めとした皆にも事件以降2週間会っていない。
学園は俺にとって当たりの強い場所でもあったが、同時に友達もいる場所だ。
「あはっ、おはよーございます♡ ユーズ、ヴェル」
「「……!?」」
待ち合わせ場所にやって来たのは見知らぬ派手な女性、王立魔法騎士学園の制服を着ているが。
俺とヴェルの名前を知っているようだが、こんな知り合いはいない。
「あの、どちら様?」
俺が恐る恐る尋ねると、彼女はクスリと笑い……。
「やだなぁ〜アタシですよぉ。マジお久だからしょうがないかもですけど、ローディ・アレンシアです♡」
「ゑっ」
思わず変な声が出た、隣を見るとヴェルも目が点になっており、驚きを隠し得ない。
「ろっ、ローディ……なのか? 本当に?」
ヴェルが再度確認する、しかし目の前の彼女が言う答えは変わらなかった。
「そんなこと言ってないで〜早く行きましょうよ。遅れちゃいますよ?」
彼女の見た目は金髪に所々紫のメッシュが入ったボブヘアー、耳につけた赤いハートのピアス、両爪の真っ赤なネイル、肌は少し焼けて色づいているように見えるというドハデな格好だった。
あの黒髪おさげで眼鏡をかけていた控えめなローディは一体……?
(な、何があったのか分からないけど……イメチェン?)
ただのイメチェンにしては……変わり過ぎである。
とは言っても他人のファッションにどうこう言うのもおかしいので、仕方なくそのまま一緒に学園に行くことにした。
学園に向かう途中でも彼女は常に明るく喋り、口調こそ面影が残っているものの、すっかり性格も変わったようだった。
「おはようユーズ君、ヴェルエリーゼさん、あれ……?」
校舎の入口に到着し、フエルと出会う。
フエルはこちらを見て挨拶をするが、当然ながらローディのことを分かっていない。
「あ、フエルもお久ですねぇ」
「……??」
「あのなフエル……」
フエルに耳打ちして事実を教える。
「えっ」
チラリとフエルがローディの姿を確認すると、またこちらに向き直った。
「マジの本気で?」
「本当だ。というかフエルの方が魔力で判別できるんじゃないか」
そう言うと、フエルは一応納得したらしい。
それにしても一体何が切っ掛けで……。
「もう、ほらそんなとこで突っ立ってないでいきましょうよ。ね♡」
「!」
俺たちがいつまでも校舎前にいるのに痺れを切らしたのか、ローディは俺の腕を両腕でロックしてきた。
(うっ……む、胸が腕に当たって……)
「な、なぁその……」
「え〜、どうしたんですかぁ?」
ローディはニヤニヤと笑っており、どうやら故意でやっているようだ。
「も・し・か・し・て、アタシのスタイルに惚れちゃいました?」
彼女は俺の耳元で囁く、そんなことを言われるとどんどんと自分の顔が紅潮していく。
そんな俺を見てローディは満足そうに、にししっと笑い、半ば強引に俺を校舎の方へと連れて行った。
残されたヴェルとフエルは呆然と2人を見送るしかない。
(なっ、なっ、なっ……何なんだ!? アレは!?)
ヴェルは頭がパニックになってしまう、昔からの親友が急にガラリと変わったかと思うとユーズへの距離感が明らかにおかしい。
彼女は人生始まって以来の危機感を覚えた。
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