65話 強さの果て
「レイン!」
王国騎士団が誇る若き天才騎士レイン・オルテクス、絶体絶命の危機に彼は現れた。
「殿下、護衛の者たちは……ダグラス隊の者たちは……?」
レインの問いに対し、ティルディスは静かに首を振るだけだった。
辺りを見回すと、バラバラに斬り裂かれた人間の身体がそこかしこに転がっている。
(ダグラス率いる小隊……実力ならば王国騎士団の中において上位の実力者たちであった筈だが……もう少し俺が早く……!)
「くくく……今のは中々効いたぞ。どうやらあのボンクラ共とは違うようだな」
「!」
ムクリとグラシャが起き上がる。
岩盤をも容易く貫通する螺旋水撃の直撃を受けてなお、見た目には殆ど無傷だ。
「一体何者だ、貴様! 少なくとも人間ではない……魔族か?」
「ほぅ、この時代の人間は吾輩のような姿を見るとおしなべて驚くものかと思ったが。如何にもそうだ、吾輩はグラシャ。この世界に君臨するべき偉大な血統の魔族だ」
グラシャはニヤリと笑い、お辞儀をする。
「貴様……秘密結社の手の者か?」
「!! その名を既に知っているとは……何処まで掴んでいる?」
「ここで貴様に教える義理などない。俺は今から貴様を捕縛する、そこで全て教えてもらおうか」
レインが腰に差した2本の剣を抜く。
普段は優しげな彼の姿から想像もつかない殺気を放っている。
「お前は遊べそうだな。ではゲームの延長戦と行こうか!」
先に攻撃を仕掛けたのはレイン、強化の効果であっという間に距離を詰める。
だがグラシャはカウンターを狙っていた、あの黒い刃がレインの身体に襲い来る。
「!」
だがレインはその斬撃を見切る、的確にグラシャが操る刃を二刀流でいなしていく。
「貴様の攻撃、闇の魔法による斬撃だな? スピードは大したものかもしれないが俺には通用しない」
(ほぅ……この若造)
レインは高い魔力感知を活かし、暗闇から突然襲ってくる影の斬撃を事前に察知していた。
だが察知が出来ても反応することができるとは限らない、だがレインは鍛え抜かれた反射能力によってその斬撃たちを全て潰していく。
「はあっ!」
「!!」
レインの二刀流、火の魔力を込められた剣が熱を帯びて赤く光る。
『断罪の紅蓮剣!』
高熱で燃える2つの斬撃がグラシャの身体を斬り裂く。
水と火の相反する2つの力を操るのがレイン・オルテクスの強さだ―
「ごめんヴェル。俺どうしても行かなくちゃならない気がするんだ、フエル案内を頼む」
「ユーズ?」
俺の心中のざわめき、それは抑え難く大きくなっていった。
今からフエルが感知している魔力の源へと行かなければ、何か後悔するような気がしたのだ。
「ユーズ!」
衝動的に俺はフエルを連れて全力で走り出していた。
とにかく行かなくては―
「ユーズ君、こっちだよ」
最短距離で林だろうが突き進む、しかし俺の前にその時思いもがけない障害が立ちはだかった。
「……!?」
暗闇から飛んでくる槍、俺は咄嗟に身を翻してそれを躱した。
「うわっ、なっ、何これ!?」
槍の後ろにはチェーンがついており、標的を外したと分かると持ち主は己の方へと槍を引き戻した。
その持ち主は黒いコートを羽織っており、正体が分からない。
「フエル、念の為に確認するけど、こいつは違うよな?」
「うん……全然違う、けど」
目の前の―恐らく男は俺たちの探している標的ではない。
しかしいずれにせよ俺たちの妨害が目的なのは間違いないだろう。
「こいつも……何だか変だよ」
「変?」
フエルはそう言う、確かに立ち振る舞いは不審人物そのものだが……。
「ユーズ、お前に邪魔はさせない。ここで殺す」
(? この声、どこかで……)
聞いたことがあるような声、だがそんなことは気にしていられない。
黒コートの男は長槍を手に襲いかかってきた。
「フエル、隠れててくれ」
振り下ろされた長槍を剣で受け止める。
だが相手の攻撃は速い、次々と突きや払いを繰り出してくる。
(この攻撃……いや、まさか……)
長槍を振り回す戦法、このスピード、何か覚えがユーズの頭に過ぎる。
『地竜咆哮!』
「!?」
突如男は地面に長槍を突き刺すと、ユーズに向かって地面から大きな石柱が飛び出してくる。
この攻撃は剣では受けきれない。
「うぐっ……!」
「ユーズ君!」
後ろへ下がる、油断した。
一瞬の隙をついて魔法を叩き込んでくるとは。
「フッ、アハハハハ!! 届いた、届いたぞ! お前に俺の攻撃がッッッ!!!」
突然男の態度が豹変する、急に高笑いを始めて興奮を隠そうともしない。
(何なんだこいつ……まさか、本当に……)
男の台詞から彼の正体は自分が会ったことのある、しかも戦ったことのある相手という可能性が浮上してくる。
だがそうなると戦闘スタイルから自ずと答えは絞られてくるだろう、つまり……。
「その黒コート、剥ぎ取ってやるよ」
『氷柱槍!』
ユーズから3本の氷の槍が放たれる。
その攻撃をいなそうと、男は長槍で攻撃を弾こうと試みる。
「!」
だがその隙を突く形でユーズは男の目の前まで接近していた。
「はぁぁっ!」
ユーズの振り抜いた一撃、男はそれを避けようと後ろに下がったが、黒コートは首の部分から見事に両断されて崩れる。
「やっぱり……お前か」
「……えっ!? あれって……」
黒コートを脱ぎ捨てた男の正体、フエルもユーズもそれには覚えがあった。
黒髪に赤いバンダナ、特徴的な得物の長槍、そう黄泉の番犬の1年、マックス・レイヴルズであった。
「どうしてお前が俺の邪魔をする」
「……どうして? どうしてか、だって? 決まってるだろぅぅぅがンなもん!!! お前をここでぶっ倒すために決まってんだろオォォォ!!?」
異様なまでの変貌、姿は確かにあのマックス・レイヴルズなのだが……実力も言動もおかしくなっている。
『地竜咆哮!』
「!」
マックスが槍を突き立て、地面から巨大な石柱が飛び出す。
これは避けるべき危険な攻撃だ。
「さぁダサく逃げ回れユーズ! そして俺の勝利のために踊れ!」
次々と繰り出される攻撃に一先ず回避を優先するしかない。
(ユーズ君が防戦一方……? あのマックスってそんなに強かったっけ?)
「俺は強くなったのさ! お前を倒すために! トドメだ!!」
『地竜咆哮!』
マックスが渾身の魔力を込めて地竜咆哮を放つ、だがユーズの狙いはここにあった。
(今だ!)
『氷面鏡!』
「なっ、何ィっっ!?」
マックスの槍が地面に突き立てられる、それより前にユーズの魔法が地面を凍らせた。
これでもう地竜咆哮を発動できない。
「くそっ、小癪な真似しやがって……ぐほっっ!?」
ユーズは全力の強化を纏ってマックスの顔面を右の拳で殴り飛ばした。
マックスの身体が地面に転がり、向こうの木まで吹っ飛ばされる。
「何があったのか知らないが、邪魔しないでもらえるか」
「へっ……くくくく……そうだよな。お前みたいな有名人の強えぇヤローに俺の気持ちなんか……分からねぇ。でももう遅いぜ、あの王子は終わりだ」
「!」
やはり何者かの狙いはティルディスだったのか、図らずも確信を得た。
マックスはそれだけ言い残すと気を失ってしまう。
「やっぱりこの嫌な感じは間違ってなかった……頼むフエル、案内してくれ」
「うん!」
マックスを倒してティルディスの元へ行こうとするユーズたち、だが行く手を阻む障害は彼だけでは無かった。
「いやぁ、流石だねユーズ。"犬"みたいなものとはいえ僕が強くしてやった奴を簡単にぶちのめしちゃうとは」
パチパチという拍手、木の陰にいたそれはあの男だった。
「ネオス……?」
「ん? あぁ……そういえばそんな風な名前で学園にはいたんだっけね。ちょっと忘れてちゃってたよ」
とぼけたような顔でぬけぬけと言い放つ。
しかしどうやらさっきの台詞から察するに、マックスは彼の手の者だったらしい。
「お前の目的は何なんだ?」
「うーん、まぁ君の足止めかなぁ。こっちも作戦があってね、今の段階で君に邪魔されると面倒なんだよ」
「……なら力づくでも通らせてもらう」
剣を構え直すユーズ、マックスなど前哨戦に過ぎなかった。
ここからが本当の戦いだ。
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