60話 任務達成
盗賊ギルドの頭、ゲムマとの戦い。
「このデブ、見た目の割に結構やるじゃねぇか」
「気をつけてくださいイルさん」
(……左肩が痛むな。いつもみたいにはいかないか)
負傷した左肩を押さえながら構えるユーズ。
消耗するのは避けたい、なるべくなら早めにケリをつけたいところだが……。
「そぉらぁ!」
『海流楯!』
イルが何発もの蹴りを高速で見舞う。
しかしそのどれもが水の防御に阻まれ、水しぶきが激しく上がるだけだ。
「ヒヒヒヒ! 無駄だ! お前らの攻撃なんざ見え見え、俺の水の守りは超えられねぇ!」
(まるで循環する海流のように奴の身体をグルグルと回りながら守っている……恐らく物理攻撃は一切通用しないと見ていい)
ゲムマは余裕を見せ、コキコキと首を鳴らしながらゆっくり歩いてくる。
完全にこちらの攻撃は効かないと思っているようだ。
「どうするユーズ。このままじゃ埒が明かねぇぞ」
「俺に考えがあります」
イルに戦略を簡潔に伝える、上手くいけばいいが危険も大きい。
「行きますよ」
「よっしゃぁ!」
2人が重なって動き、イルが前に、ユーズが後ろでダッシュする。
「ケッ、くだらねぇ作戦ごっこか。そんな付け焼き刃で俺に勝てると思ってんのかぁ!?」
イルは再び高速で蹴り、連打、さらに強烈な掌底を放つ。
しかし全ての攻撃はやはり水の守りを崩すことはできない。
「学習しねぇガキどもだ!」
ゲムマが思い切りイルに掴みかかる。
だがここまでの流れも作戦、イルは素早く身を翻して後ろへと跳んだ。
「何ィッ!?」
そしてイルの後ろに隠れるように近づいてたユーズが代わりに前へと出る。
その瞬間、ゲムマは攻撃から防御へと移る。
『海流楯!』
(水属性の魔法なら……こうやって動きを止められる筈だ)
「!? なっ……!!!」
ユーズはゲムマそのものではなく、ゲムマの身体を覆っていた水流に対して氷の魔法を使った。
(な、何をしてやがんだこのガキ! ば、馬鹿な。水が凍っていく……!)
(おいおい……何だよアレ。氷……?)
ゲムマだけでなくイルも驚きを隠せない。
2人とも目にしたことのない魔法だったからだ。
(くそっ……左肩の痛みで集中が……!)
グルグルと流動する水を凍らせるのはただでさえ難しい、しかも左肩のダメージが身体に響く。
「み、見たこともねぇ魔法……ま、まさかお前……あの組織の……!!?」
ゲムマはユーズに驚愕し、恐怖の表情すら見せる。
「? 何を言ってる……?」
「……俺の命を狙いに来やがったのか!? ならここで消さねぇとなぁ!」
ゲムマは突然激高し、ユーズを掴み上げる。
「ユーズ! 何だあのデブ、いきなり……!」
イルが助けに入ろうとするが、ユーズはそれを制止する。
あくまで余裕を保っている。
「くっ、何笑ってやがんだこのガキィ!」
「後ろに気をつけなよ」
「!?」
ゲムマの視界が突然闇に包まれる。
それに動揺するゲムマはユーズを取り落とす。
(な、何だ目が見えない!? まさかこのガキ、また妙な真似を……! ッッッ…………!?)
ガッと鈍い音、それと共にゲムマは地に伏す。
背後からヴェルが思い切りカカト落としをゲムマの頭部に見舞ったのだ。
「ユーズ!」
ヴェルだけではなく、ブラッド隊長もローディもフエルも階段から降りてくる。
「はは、助かったよ……ありがとうヴェ……」
ヴェルは無言でユーズを抱き締める。
「良かった……無事で」
その光景を見てブラッドは若いねぇと呟き、フエルは顔を赤くしてあわわ……と慌て、イルは何が何やらという表情。
「……」
ローディはその光景を見て、何か苦虫を噛み潰したように小さく笑みを浮かべた。
「い、痛たたた……ゴメン、ヴェル……ちょっと……」
「ゆ、ユーズ、何処か痛むのか?」
左肩を抑えるユーズにヴェルが慌てて治癒をかける。
「やれやれ、何があったのか訳分かんないけど仲間が来たみたいで良かったなユーズ」
イルが近づく、そういえば彼の紹介をしなければと思ったユーズが立ち上がる。
「あぁ、この人はさっきここで会った……」
「殿下、お迎えに上がりました」
ブラッド隊長が敬礼する。
それを見たユーズは状況を全く飲み込めない。
「はいよご苦労さん。どうも迷惑かけちまったみたいだな」
「いえ、殿下の身がご無事で何よりです」
ブラッド隊長とイルの話を聞いてもユーズからすれば一体何が起きているのか。
「ゔ、ヴェル……一体どういうことなんだ?」
「あぁ……それは……」
「本当なのかそれ……」
全く気づかなかった、ティルディス殿下の顔は見たことがなかったせいだろうか。
「でも凄いよ、殿下と一緒に戦うなんて他にできない経験なんじゃないの?」
「そりゃそうかもしれないけど……って、いやいや」
まるで学園の先輩のような感じで接してしまったが、しかし実際他の同年代の若者とそう変わらないとは思わされる。
「ま、そうゆうことだ。悪かったなユーズ、騙すつもりはなかったんだ」
「い、いえそんな……」
「今日は楽しかったぜ。近い年の奴と一緒に話すことなんて滅多になかったからな」
何か色々と王族にも事情がありそうだ。
しかしとりあえず結果的に解決できたのは良しとしよう。
「さて戻るか! 殿下も青年も助けられたしな。いやぁ良かった良かった」
「あ、隊長。少し気になることが……」
気絶しているゲムマ、奴が最後に口走っていた言葉が妙に気になった。
それを隊長に伝えると、隊長は真面目な顔つきになって言った。
「……なるほどねぇ。ま、こっちで尋問しとくわ。青年はのんびり待ってな」
その後俺たちはゲムマを捕縛し、騎士団本部へと帰還。
こうして騎士団本部と王城を揺るがした重大事件は公になることなく、大多数が学生で構成された小隊によって解決された。
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「気がついたか。盗賊ギルド、死喰いの翼の頭領ゲムマ」
「てっ、てめぇら……騎士団か。俺をこんなとこに連れてきてどうしようってんだ?」
捕らえられたゲムマがいたのは監獄ではなく、騎士団本部にある尋問室。
その場にはブラッドとレイン、さらに騎士団長が同席していた。
「貴様に聞きたいことがある。言っておくが、素直に話したほうが身のためだぞ」
「ケッ……」
「いいよいいよレインちゃん。こういうのに脅しをかけるのは俺の役目だ」
ブラッドがゲムマに近づき、じっと顔を見据える。
「おい。知ってること洗いざらい吐かなきゃ、お前の頭がどうなるか……分かってるか? その気になりゃお前の情報を盗み取るのは容易い。けどそうしないのは人道配慮ってやつだ」
「クッ……!」
ブラッドの凄みにゲムマは恐怖し、慌てて口を開く。
「お、俺も詳しいことは知らねぇんだ本当だ! れ、連中を見かけたのは2回……」
ゲムマは思い出しながら、その存在についての恐怖からか冷や汗を流していた。
「最初は……貴族の屋敷に盗みに入った時、その時はコッソリ見ただけだ。だが……本能でヤバい連中だと察したよ。大木みてぇなシンボルが1つあしらってある黒いコートを着た奴らだ」
「そ、それで2回目は……連中の1人が直接会ってきた時だ。交渉に来たのは若い男だった、それで……連中は稼げる情報を寄越す代わりに上納金を納めるように言ってきやがったんだ。名も知らねぇが……逆らったら殺されちまうってことだけは理解できた、実際に化け物じみた魔法を見せてきやがって、選択の余地はねぇ。ま、情報のお陰で良い思いしたのも確かだがよ」
「知ってることはそれだけか?」
ブラッドが再び凄むと、一旦黙っていたゲムマはもう一度話し始めた。
「そうだ……奴ら……"秘密結社"と名乗っていた」
「もうこれ以上は何も知らねぇよ。俺の持ってる情報はこれだけだ」
話を聞き出したブラッドとレイン、2人は顔を見合わせて言った。
「ブラッドさん、やはり……」
「そうねぇ。本格的に動いてきたってとこか」
「学園のヨーゼル校長にも報告をしておきます。我々も今後は最大限の対応をしなければならないようです」
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