59話 予期せぬ出会い
「やれやれ、見つかったら面倒だな」
落とされた罠の部屋から出た俺は身体を屈めて潜みつつ、散策をしていた。
この倉庫施設の地下には盗賊ギルドの連中が誰かを探し回っており、下手に目立つと面倒なことになるのは目に見えていた。
(……それにしてもどうするか。とりあえず上に行く階段を探して隊長たちと合流するのが優先だよな。おっと、また来た)
見つからぬようにコッソリと使われていないボロ部屋に忍び込む。
だが……。
ガタッ!
「? 何だ?」
後ろの積まれた箱の辺りから物音がした。
動物か何かかと思ったその時。
「見つかったからにはしょうがねぇ。こうなったら俺は逃げも隠れもしないぜ」
人影、すくっと立ち上がったそれを見て驚く。
「あれ? お前……あの盗賊連中じゃないな。誰だ?」
肩まで伸ばした薄いブロンドヘア、海のように深い青の瞳、耳につけた羽飾りなど所々に気品の漂う若い男。
明らかにこの施設にいるには不自然だ。
「俺はユーズ。あなたこそ一体……」
「ん? お前俺のこと知らないのか? 待てよ待てよ……」
俺が尋ねると目の前の男は妙な質問で返してきた、そして少し顎に手を当てて考え込んだかと思うと―
「俺はイル。まぁ今はわけあって盗賊の連中に見つからないようにしてんだ」
イルと名乗る目の前の男、目に見えて上機嫌だが年は少し年上……大体18とかだろうか?
「俺は王立魔法騎士学園の学生なんですけど、学外任務っていうので今は騎士団の任務に参加してるんです。でもまさか盗賊ギルドの巣になってるとは」
「へぇなるほど、学園の生徒なのか! どうだ? 学園って楽しいか?」
「? えぇ、楽しいですよ。友達もいるし。ただ平民だから周りの目がたまに」
「平民? 一体どういうわけなんだ?」
ついうっかり口が滑ってしまった。
話すと長くなるのだが……まぁ適当に省きつつ、話をすることにした。
「雇ってくれた家が……はぁなるほど。世間ってのは色んなことがあるもんなんだな」
妙に俺の話に関心を寄せているイル。
しかし彼の事情も聞かねば。
「イルさんはどうしてここに?」
「いやぁ、エクラールム街のカジノで遊んでたら声かけられちまって。ホイホイ着いてったら拐われたんだよ」
「さ、拐われた?」
しかしイルは全く何でもなかったかのように笑って話す、どうにも独特の感性持ちというか……何というか世の中と距離を置いた生活でもしていたのだろうか。
「まぁ面白そうだと思って着いてったらこんなカビくせぇ所に閉じ込められちまって。いい加減飽きたから逃げて来たんだ」
感性はともかく行動力はあるらしい。
どうやら盗賊連中が血眼になって探してるのはイルのことのようだ。
「俺は今仲間のところに戻ろうと思ってます。できれば一緒に……」
「ああ、そっちのほうが面白そうだ」
この人の判断基準は面白そうか否かなのか……。
とりあえず俺はイルを連れて、慎重に部屋を出た。
(いないみたいだな……今のうちだ)
しかし問題は上に上がる階段がどこか、という点だ。
内部構造を全く知らない以上、下手な動きをしては敵と鉢合わせるだけの可能性もある。
(けど元は大手海運ギルドが使っていた施設だ。施設の中を書いてある地図くらいどこかに……)
「おいあれ、ここの地図じゃねぇか?」
イルの指指した方向、壁に貼り付けられていたのは確かにここの地図のようだ。
古いものだが中は変わっていないだろう、十分に使えるものの筈だ。
「ありがとうイルさん」
早速破って手に取る。
この先の通路、どうやらそこまで階段は遠くないらしい。
「直ぐにでも対応し、盗賊ギルドを制圧するべきだ。殿下にはそうそう手出しをしまい」
「それではリスクがあり過ぎる! 万が一のことを考えてみろ!」
紛糾する騎士団本部の会議、前代未聞の出来事故に誰も効果的な策を見出だせないでいた。
「フォフォ……よろしいか?」
「!」
そこに姿を現したのはヨーゼル・セフィラス校長。
既にそこまで話はいっていたのだ。
「ヨーゼルさん……」
「ヨーゼル校長だ……」
にわかにザワつく会議場、しかし注目の的であったヨーゼルはゆっくりと口を開く。
「件の場所にいる者たちが誰なのか、ワシは既に把握しておるが、心配は無用じゃ。彼らならば必ず殿下を無事に連れて帰ってくるとワシは信じておる」
「し、しかし……!」
「ワシの自慢の生徒たちと……いや、それに殿下のこともある。殿下がどんな人物かは皆も知っておろう?」
ヨーゼルの話、特に後半について誰も反論はしなかった。
それを疑問に感じたまだ若い騎士がコッソリと先輩騎士に尋ねる。
「あの……殿下のこと、ってどういう意味なんです?」
「ん……あぁ……ティルディス殿下はな……」
「おっ、向こうに階段があるぜユーズ」
一方、地下からの脱出を目指していたユーズとイルは、何とか上階へ行ける階段を発見した。
急いで階段の元へと向かう。
「……! イルさん、伏せて!」
「……!? んぉっ!?」
ドォンと音を立てて天井から何かが落ちてくる。
土埃の晴れたそこにいたのは……。
「おぅおぅ、逃げ出してもらっちゃあ困るな坊っちゃん。余計な手間かけさせやがって」
「おっと悪ィな。そろそろ飽きたんで帰るわ」
イルの前に降りた男、それは盗賊ギルドの頭であるゲムマだ。
そしてゲムマが合図すると階段から何人もの部下たちが降りてくる。
「こいつら……最初からここで待ち伏せしてたのか」
「あったりめぇよ。この地下から出るにはこの階段を登るしかねぇ、お前らは袋の鼠ってわけだ」
部下たちがじりじりとにじり寄る。
ユーズはイルを守るようにして前に出たが……。
「大丈夫だぜユーズ、こう見えても結構やれるんだ俺。あ、それ以上近づくと怪我するぜお前さん」
「けっ、舐めるなよコラァ!」
部下の1人がイルを捕まえようとして掴みかかるとその瞬間―
パァン!と弾くような音と共に盗賊は吹っ飛ばされた。
イルは静かに右手を出している。
「言ったろ? 怪我するって」
ニヤッと白い歯を見せて不敵に笑うイル。
「ちっ、おいお前ら! 後ろのガキは殺して構わねぇ。さっさと捕まえろ!」
「おっと来たぜ。ユーズ、半分頼むわ」
敵の数は丁度10人、互いに5人ずつを分担する流れとなった。
(! 凄い……目にも止まらない速さで敵を殴り、蹴り倒している。ハルクとはまた違った体術……)
ユーズはふと見ると5VS1を物ともしないイルの動きが目に入っていた。
全く無駄も隙もない動き、強化の使い方が誰よりも上手い。
「ティルディス殿下は幼い時より神童と呼ばれていた。魔法の才能にももちろん溢れていたが、何より……」
「その体術、王族とは思えない高い戦闘能力で知られていた。幼少の頃から既に王国の騎士を上回る動きだったと言う」
「こんなもんか。ちょっと物足りねーな」
パンパンと手を払うイル。
そしてユーズも既に5人を軽く斬り伏せていた。
「なっ……て、てめぇら……!!」
ゲムマはまさかの苦戦に動揺を隠せない。
既に部下は全員やられてしまった。
「こ、このゲムマ様を……舐めんじゃあねぇ!」
(来る!)
ユーズは突進して打ってくるゲムマのパンチを間一髪で躱した。
だが掠った右の頬から血が出る。
(……巨体の割に何てスピードだ)
その鈍重そうな身体に似合わぬ俊敏な殴り、どうやら部下と違ってそこそこやれるようだ。
「ガラ空きだぜ!」
イルがゲムマの首に向かって回し蹴りを素早く放った。
「!? うおっ!」
まるでゴムボールのようにイルの蹴りが弾かれる。
「はぁっ!」
ユーズの斬撃も水に呑まれて威力を失った。
その光景を見たゲムマは得意げに笑う。
「ヒヒヒ、どうだクソガキ。これは何も通さねぇ水の守りだ」
ゲムマの周りを回転する水流が覆う。
これでは大抵の打撃も魔法もゲムマの身体に届く前に防がれてしまうだろう。
(さてどう戦うか……イルさんを傷つけさせるわけにはいかない)
本作品を見てくださりありがとうございます。
面白いと思われましたらブックマーク、ポイントを是非ともお願いします。
面白くなくても☆1でも大歓迎です。
それを頂けましたら作者のモチベーションが上がっていきます。




