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57話 重大事件

 ブラッド隊は今回の任務における目的地、郊外の港―バハルオセア港跡にある倉庫施設へとやってきた。

 かつては港として栄えた場所なのだろうが、今やすっかりと寂れきっており、1人の人間がいる姿も見かけない。



「静かだな……」



 ヴェルが海を見据えながら呟く。

 今日の天気は晴れていて、この港跡に響くのは打ち寄せる波の音だけだ。



「ロケーションはバッチリ、しかしまぁやることは地道な作業だねぇ」



 ブラッド隊長はくたびれた様子、だが任務なので仕方がない。



「あれが今回調べる倉庫跡ですか? 何だかかなり大きな建物ですね……」



 ローディの言うように倉庫とは言うものの、それはかなりの大きさだった。

 大手海運ギルドが拠点としていたものなのだから大きいことは予想できたが、それでも気がめいるような広さだ。



「まあまあ、とりあえず入ってみようよ」



「入れるかどうかも怪しそうだけどな」



 放置されて10年近く経っており、一切手入れされることなく雨風を浴び続けた施設は見るからに劣化している。

 果たして入口などはちゃんと開けられるのか。



「合鍵が入るかねぇ。ま、とにかく見てみようや」



 入口の扉の前までやってきて、とりあえずガチャガチャと試してみる。



「ん? あらら、何でか開いてるよ」



 しかし合鍵を入れるまでもなく、入口の扉は開けることができた。

 最初から開いていたのだろうか?



「……」



 ブラッド隊長は訝しげに開けた扉、そして向こう側の通路を見る。

 通路は荒れて薄暗く、カビ臭い匂いが入口まで漂ってきた。



(埃の中に足跡、それも1人じゃないな。数人分……か。どういうわけかねぇ、宿無しが雨宿りに泊まった、とかならいいんだけども)



「隊長?」



 片膝をついてしばらく観察しているブラッド隊長だったが、やがて口を開く。



「フエルちゃん、一応警戒頼むわ。まぁ無害な奴か、それとも既に出ていったんなら良いけど……どーも誰かが通った形跡がある」



「えぇ!? わ、分かりました」



「誰かが通った形跡……盗賊とかでなければいいんですが……」



「いずれにせよ、ある程度の危険は予測できるということか」



 俺たちは気を引き締めて中へと入った。

 今のところフエルによれば近くに誰かがいることはないらしい。



「そういえば今回の任務、具体的にどうすれば達成になるんですか? まさか俺たちで施設全てを見て回ると?」



「いやいや、流石にそこまでじゃないよ。ま! 実際に内部の危険性やどれだけ進めるかってのを適当に纒めときゃいいんじゃないかね」



 相変わらず基準はテキトーである。

 まぁ結局は取り壊す施設なのだから、そこまで厳密に中を調べる必要はないだろうが……。



「地図によればこの先は十字路、そんで前方に2階への階段か。さてさて鬼が出るか蛇が出るか」



 階段の前まで来ると、再びブラッド隊長は屈んで床を調べ出す。



(……足跡は……右の方か。階段と左の通路には一切見当たらない。さっきのもだけど大分新しいな。問題は誰か住み着いてる場合、もしくは良からぬことを企てる連中がいる場合……)



「ちょ〜っと提案があるんだけども、良いかね?」



 隊長は俺たち4人の方向を向き直って改めて話を始めた。



「ま! これは俺のあくまで推測なんだがこの倉庫施設、誰かが今もいる。それも1人じゃなく複数だ。単なる宿無しってんなら良いんだけど、妙なことを企んでる連中の可能性もある。仮にそうだった場合、騎士団として見過ごすのはマズいと思ってねぇ。言いにくいんだけども……」



「任務変更、仮にそうした連中だった場合は騎士団として捕らえる……そういうことですね?」



「そうそう、さっすが青年! 話が早いね。ま、しかしそうなると危険があるのは確かだ。俺は隊長としてお前らの身のため、一旦撤退するという選択肢も取れる。どうするかは……」



「冗談! もしそうなら一刻も早く、私たちの手で終わらせるべきかと」



 ヴェルは撤退など有り得ない、と言わんばかりの勢いで言い放つ。



「ナハハハ! 嬢ちゃんならそう言うわな。さてローディちゃんにフエルちゃん、どうする? 言っとくが、撤退は現実的な選択肢としてアリだぜ」



「私は行きます。ま、ヴェルがこうなのはいつものことですから……ここで逃げるのも効率的じゃありませんしね」



「ぼ、僕だって! それに僕がいなきゃ、周りの警戒はどうするんだって話だしね」



 ローディもフエルも隊長の提案を了承する。

 それを聞いた隊長はニヤリと笑い……。



「よーし、そんじゃ行くぜブラッド隊。大活躍で本部の奴らを飛び上がらせてみようかねぇ」






________







 一方、その頃の騎士団本部。



「た、大変です! レイン隊長!」



「どうした? 何があった」



 レイン隊に所属する1人の騎士が慌てて隊長室へと駆け込んでくる。

 その表情は青ざめており、酷く動揺している。



「お、王城から……ディヴァリアス王城から秘密裏の任務依頼が届きました!」



「秘密裏? それは一体……」



 秘密裏の依頼ということは、王家などにとってのスキャンダルか、もしくは騎士団内であっても広まると危険であるかのどちらかだ。



「こ、これを見てください! 今朝王城内で発見されという……」



 騎士が差し出したのは1枚の羊皮紙、しかしそこに書かれていたのは恐るべき内容であった。



「……何だと!?」



"ティルディス・フォン・マグヌス・アウレクスは我ら死喰いの翼が預かった。12時間以内に現金5億及び、監獄アルカトラズの仲間を全て釈放することを要求する。口外すれば人質の命は無い。現金は12時間後、バハルオセア港跡にて待つ"



「くっ……! 死喰いの翼と言えば凶悪犯罪で有名な盗賊ギルド、まさかティルディス殿下を……」



「い、如何しましょう。既に国王陛下まで話は届いておりますが……アルカトラズの釈放は認められぬと……」



「いずれにせよ下手な動きはできない……待てよ、バハルオセア港跡近くへ任務に行った騎士はいないのか?」



「そ、それが……ブラッド隊です。学外任務の……」



「!!」



 それを聞いたレインはまだ勝算があると見たのか、僅かに笑みを浮かべる。



「もしかすれば……奴らに気づかれることなくティルディス殿下の救出が叶うかもしれない」



「は? な、何故ですか?」



「今はそれを言っている暇はない。とにかく各部隊隊長及び騎士団長に伝えるんだ! 非常事態の重大事件だと!」



「……はっ!!」



(頼みますよ……ブラッドさん。それにヴェル、ユーズ……!)

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