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55話 天使様

「さてここが……」



「調査対象の湖だねぇ。割と近くでおっさん助かったなぁ、くたびれてくたびれて」



 ブラッド隊はようやく調査対象であるクリオネがいるという湖まで到着した。

 そこは先ほどまでの喧騒と打って変わって、不気味に静まり返っている。



「どうやって調べるんだ? ローディ」



「とりあえず水質調査からですかね、一応出発の時に道具は騎士団から支給されましたし……」



 ヴェルとローディが湖を直接調べ、フエルは周りの警戒、俺と隊長はいざという時の護衛役だ。



「特に何もなきゃいいんだけど……」



「おっと青年、そういうのは口に出すと逆の結果が起こるもんだぜ」



「嫌な冗談ですね」



「ナハハハ、冗談を言えるうちは良いってもんよ」



 隊長は煙管をくわえて煙を吸い始めた。

 相変わらず話していても底が読めない。



「しかし、本当に一体どういうわけなんです? どうして魔法を……」



「おいおい、そりゃ俺も聞きたいぜ? 何で氷の魔法なんてもんを青年は使えるのか、ってな。あればっかりは俺も使えねぇ。未知の魔法だ」



「……」



「ま! 慌てんなって……人生はなげーんだ。言ったろ? 青年が酒を飲めるようになったらゆっくり語ってやるってよ」



 一体どこまで本気なのやら……。

 とは言っても隊長の俺に対する疑問はぐうの音も出ない。



「それにこんなもんは別に大したことじゃーねぇさ。力ってのは何に使うかが問題よ、そこんとこを間違えてたら、どんなに珍しい力があったって意味なし」



「……何に使うかが、問題……」



「お? 何だ今んところは使い道も当てなしってか、ナハハハ! 悩んで考えるといーさ。まだ若ぇんだから」



「だが、ま。1つだけ言えるのは騎士ってのは大切なものを守るもんだ。そして力はそのために使う、これが騎士の持つ答えだ」



 そう話す隊長の視線は何かを思い出しているように、まるで遠いものを見ているようだった。

 そしてそんなことを話している内に湖の方では調査が進んでいた。



「特に異常な値はなし……湖の水それ自体は変わりないようですね」



「なるほど、やはり本当にいるのか疑問符がつくな」



「まぁでも時間の許す限り調べてみましょう」



 一方のフエルはキョロキョロと周りを見回しながら、空気の流れを読んでいる。

 すると何かを見つけたようだ。



(ん? 何なんだろこれ……ユーズ君とブラッド隊長を呼んでこようかな)



「どうしたんだフエル、何が見つかったって?」



「いや、これなんだけど……」



 フエルが指指したのは石造りのオブジェだった。

 四方に柱が立っていて、分厚くて四角い石の板みたいなものが中央に置いてある。



「フエルちゃんも妙なもん見つけるねぇ。ん〜? 何だ墓? いや……」



「祭壇、か?」



 墓というよりは祭壇といったほうがしっくりくる。

 まるで何かを祀っているかのような……。



「はぁ……特に何も見つからないですね」



「一旦ユーズたちの方へ言って、どうするかを話してみよう」



 ヴェルたちがこちらへ来るのとこちらが向こうに戻るのは同時で、合流したその次の瞬間だった。

 フエルが何かに感づいたように冷や汗をかく。



「フエル?」



「マズい……来るよ。しかも大勢、囲まれてる」



「何だと?」



 フエルが感知した相手はやはり村人たちだったようだ。

 いつの間にか松明と武器を持った村人たちが周りにぞろぞろと現れてくる。



「おいおい、何でこいつら俺たちがここに来るって分かってんだ? しっかし参ったねぇこりゃ……」



 こちらも背中を合わせて守りを固めるが、既に周囲は村人たちで塞がれてしまった。

 そしてそこから1人の老人がゆっくりと近づいてくる。



「ぐふふふふふ……どうしたのかね? 騎士団の諸君……儂らの天使様に会いに来たのか?」



 老人の表情は不気味な笑みが貼り付けられていて、かっと開いた目はじっとこちらを見据えている。



「あなたもしかして村長さん? 勘弁してくださいよ、俺らは湖にちょっと生き物探しに来ただけなんですって」



 ブラッド隊長は一応説得を試みるが、全く効果はないようで……。



「やはり儂らの天使様に危害を加えに来たんじゃな。大人しくしておれば天使様の贄となる最上の幸せを味わえたものを……」



「さ、さっきから天使様って何のことなんだろう……」



「恐らく彼らの民間信仰の対象だろう。私たちの推測は基本的に間違っていなさそうだ」



 ヒソヒソとヴェルとフエルが話す。

 しかし天使様とは……まさかあの祭壇に祀っているのがそれなのだろうか?



「天使様は儂らを地獄の苦しみより助けてくださったお方じゃ。それを汚す貴様らは決して生かしておかんぞ!」



 村長がそう言うと、血が盛んな村人たちはオオー!と声を上げた。

 しかし村人たちの騒ぎを聞いたせいだろうか、その対象が姿を現す。



 ゴトゴトとさっきの祭壇の石板が音を立て、そして外れた。



「おお、天使様!」



「天使様だ!」



「天使様がお出でになられたぞ!」



 歓喜の声を上げる村人たち、しかしその正体は……。



「ね、ね、ねぇ……あ、あれってまさか……!」



「もしかして……探していたものって……アレでしょうか?」



「なるほど。淡水に棲んでいるのではなく……」



陸棲(・・)のクリオネってことだったのか。しかしあれは……」



「見るからにあのサイズ……化け物だねぇ。ま! 見つかったから良しとすりゃいいのかねぇ?」



 俺たちの前に姿を現したのは何とふわふわと低空を浮遊する巨大なクリオネだった。

 どうやらあれが今回俺たちが探していたものの正体らしい。



「おお天使様……相変わらず何とお美しい……! 今から儂らが貴方様を汚そうとする不届きな輩を贄として捧げてご覧にいれます」



 村長はじめ、リーダー格の村人たちがクリオネに近づいていく。

 しかしクリオネはその頭を左右にパカッと開くと無数の触手が伸びていき……。



「う、うぎゃああああ!!!」



 触手に捕らわれた村人たちは次々とクリオネの頭の中へ消えていった。



「うっ、うわぁ! た、食べられちゃったよ……!」



 村長とリーダー格の村人たちが喰われたのを見て、他の村人たちはパニックに陥ってしまった。

 いつの間にか蜘蛛の子を散らすようにその場から消えてしまう。



「こ、こっちに来ます!」



「せっかく見つけたのにこれじゃあ捕獲するどころか……」



「捕獲……されそうだねぇ」



 体長はざっと3mくらいありそうだが、かなり攻撃的だ。

 村人たちに対するのと同じように触手を伸ばしてくる。



『飛燕!』



 ヴェルが矢を連発して放つ、当たった触手は引っ込むがそれ以外はワラワラと向かってくる。



『しょうがないねぇ〜、真空弾(ウィンドバレット)!』



氷柱槍アクティ・クリスタロス



 ブラッドが放った真空の弾丸とユーズの放った氷の槍が残りの触手を追撃する。

 クリオネは触手による攻撃を諦め、次なる手段に出る。



「何か吹き出したよ!」



「粘液、毒性があるかもしれないです、気をつけて!」



氷塊(フリギ・スクトゥム)



 氷の盾がクリオネの吐き出した粘液を防ぐ。



「トドメは任せましたよ隊長」



「おろろ……人遣いの荒い青年なんだからもー」



 ブラッドが小太刀を抜いて突っ込む。

 それを見たクリオネが再び触手を出してブラッドを捕らえようとする。



『飛燕!』



「サンキュー嬢ちゃん!」



 的確に矢が触手を撃ち抜き、ブラッドが攻撃を仕掛ける。



「悪ぃね、恨みはねぇんだけど」



『風の如く!』



 まるで突風が吹いたかのようなスピードでブラッドの剣はクリオネを両断した。

 クリオネは地に伏して動かなくなる。



「一丁上がりっと」



 何とか無事に倒したことを実感し、張っていた筋肉が弛緩する。



「それにしても……やっちゃいましたね」



「まぁ仕方ないだろう。あのまま捕獲するというのは私たちの命に関わる」



「ま! いいじゃないの。青年、ちょっと冷凍保存頼むよ。後で騎士団本部と依頼主に言って来てもらうからさ」



 ユーズはブラッドの指示に従い、クリオネの死体を氷漬けにする。

 予想外の任務だったが……これで一応完了したと見るべきなのだろうか。



「とりあえず任務は完了。ブラッド隊はこれより帰還する。ま、こりゃランク詐欺だったねぇ」



 ブラッドは苦笑いしながらクリオネの死体を一瞥する。

 確かに危険度はDランク任務より上だった筈だ。



「いやー無事で何より、初任務お疲れさん。んじゃ帰ろうか」



 ま、確かに何でもいいか。

 全員無事だったのだから……何だか隊長のテキトーさが感染ってきたのではないかとユーズは帰り道で心配になるのだった。

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