52話 顔合わせ
夏の長期休みの始まり、本来ならば学園の生徒たちは自由な時間を謳歌している。
しかしユーズたちはその日、王都にある王国騎士団の本部までやってきていた。
「う、うわぁ……緊張するなぁ」
フエルは強い緊張からかソワソワしている。
随分と立派な建物だ、王立魔法騎士学園の校舎に負けずとも劣らない。
「さて、時間もそろそろだ。中に入ろう」
ヴェルが先陣を切り、俺たちは続く。
案内によれば入口近くの会議室に行けばいいらしいが……。
「やぁ〜君らが噂の青年たちか。いや若いねぇ」
扉を開けた先に待っていたのは胡散臭い雰囲気を纏った男だった。
「……」
皆が部屋を間違えただろうかと、案内状を確認するが、それを見ると男が笑って言った。
「だーいじょぶ、間違えてないからさ。俺様が今回の担当。ま、そうだねぇブラッドおじさまとでも呼んで頂戴」
ブラッドと名乗る男はそう言うとウィンクをかましてきた。
これは中々のくせ者という感じがする。
「まあまあ座りなって。これからチームになるんだから自己紹介自己紹介」
とりあえず促されるまま、向かいのソファに俺たちは座った。
「んじゃ俺からね。俺はブラッド、齢35のダンディなおじさまさ。ま、これから君らの隊長になるわけだ。君らの担任のゼラっちから話は聞いてるよん」
「……」
自己紹介からもテキトーさが溢れ出ているブラッド隊長。
ボサボサに逆立った黒の長髪は左眼を隠しており、煙草をくわえ、騎士なのに鎧ではない薄い水色の服を着ている。
「おん? あぁこの服が気になるかね? お目が高い。コイツは異文化の珍しいやつでね、陣羽織って言うのよ。んじゃ次は青年、君から時計回りね」
ブラッド隊長は俺を指差して言った。
俺は一度軽く咳払いしてから口を開く。
「俺はユーズと言います。こっちのヴェルエリーゼ・セルシウスの家で護衛として仕えています」
ブラッド隊長は俺たちの自己紹介を聞くと、ふむふむと頷き、全員が話を終えたら俺たちのプロフィールが書かれているであろう羊皮紙をしまった。
「よっし。じゃあ早速チーム内の交流と行きますか」
「交流?」
「そうそう、君らの実力を俺も実際に見ときたいからね〜」
そうして俺たちは騎士団本部の裏手にある広場へ行くよう指示された。
後で隊長は来るらしい。
「……何だかイメージが結構違うというか……独特な人でしたね」
ローディは大分言葉を選んで話す。
「あれは胡散臭いだとか、軽薄だとかいうタイプだろう」
ヴェルが直球にブラッド隊長を評する。
彼女にしては珍しく不満を露わにしているが、彼女からすれば一番苦手、というか嫌いなタイプであろうことは想像に難くない。
「でもどうしよう。もしかしてユーズ君とかヴェルエリーゼさんなら、あのおじさんをやっつけちゃうんじゃ……? 全然魔力とかバチバチしてないし」
フエルが若干不安そうに言う、あの隊長は果たして強いのだろうか?
どうにもそんな感じは見えてこない。
「いやぁお待たせ〜」
ブラッド隊長がやって来た、もしかして戦闘用の装備に着替えたのだろうかと思ったら……。
「……!?」
何と酒瓶を手にしながら、あのラフな格好のままで歩いてきた。
「なっ、何でそんなものを……?」
フエルが尋ねるとブラッドはあっけらかんと答える。
「ん? いや、俺さぁコレ飲まないと戦闘ってやってらんないんだよね〜〜〜手が震えてさぁ」
(それは病院に行ったほうが……)
とその場の誰もが思ったが、誰一人口には出さなかった。
「まま、とっととやっちゃおうか。4人全員でいいぜ? 軽〜く見るだけだけど」
「それなら……」
最も速く攻撃を仕掛けたのはヴェルだ。
刃のついた弓でブラッドに斬りかかる。
「ヒュウ♪ やるね嬢ちゃん、中々だよそれは」
「!」
ヴェルの斬撃を全て的確に防ぐブラッド、手に持っているのは小太刀だ。
『水流柱!』
接近戦では埒が明かないと判断したのか、ヴェルは距離を取ってから魔法を唱えた。
「おっ、いいねぇ。水の魔法か」
『水流柱!』
「!!」
ブラッドはヴェルと同じ魔法を使い、水柱を相殺した。
「水の適性持ちか? ローディ、俺が突っ込むから隙を見て闇雲を撃ち込んでくれ」
「はい!」
ユーズはヴェルの援護のために剣で接近戦を仕掛ける。
それを見たブラッドは小太刀を構え直して受ける覚悟だ。
「よっ、次は青年かい?」
「手は抜きませんよ」
ユーズとブラッドの斬撃が互いにかち合う。
激しい音が鳴り、素早い戦闘が展開される。
「はぁっ!」
ユーズが力を込めてブラッドを弾き飛ばす。
ブラッドが着地した瞬間は無防備だ。
『闇雲』
ローディがそれを見計らって闇の魔法を放つ。
ほぼ確実に決まったかと思ったが……。
『闇雲』
「!?」
ブラッドは右手からローディの使った魔法と同じものを発動させ、攻撃を防ぐ。
『風刃!』
ローディの魔法が防がれたのを見たフエルが素早く追撃の魔法を唱えた。
「おっと焦るなよフエルちゃん」
「!!」
ブラッドは慌てずフエルが使ったものと同じ風刃で相殺させる。
「水、闇、風……これだけの種類の魔法を苦もなく……」
ローディが酷く驚いたように呟く。
多種類の魔法をこれほど操る人物はそうそういない。
「それなら……」
『氷柱槍!』
ユーズが3本の氷の槍をブラッドに向けて放った。
槍が思い切り地面に突き刺さり、土煙が舞った。
(だ、大丈夫か? つい本気で魔法を……)
「あ〜痛ててて……ちょっと本気でやり過ぎよ〜青年! おっさん腰痛いんだから手加減してチョーダイ!」
口ではそんなことを言っているブラッドだったが、倒れ込みながらも右手にはメラメラと炎が燃えており、槍の1本を溶かして無事だったことが分かる。
(火属性まで……一体何種類の魔法を使えるんだ? このおっさん……)
ユーズは内心驚き恐れる。
4種類の属性を操る魔法使いなど、間違いなく只者ではない。
(今のが話に聞く氷の魔法か……流石に真似できないねありゃ)
「ナハハハ! ま、これで止めにしよう! やっぱり強いねぇ、推薦されるだけある」
ブラッドはよっこいしょと立つと、こちらまで来て羊皮紙を配る。
「? これは……?」
「こりゃ明日からの任務の概要を書いた紙さ。よぉーし、明日からは任務開始! 頑張ってくれ青年たちよ」
「隊長はあなたなのでは?」
「もー冗談通じないんだから嬢ちゃん。ま、ちゃんと明日からは頑張んないとねーナハハハ!!」
それだけ言ってブラッド隊長は手を振りながら向こうへと言ってしまった。
ヴェルは変わらず仏頂面ではあるが、隊長の実力を見た分、最初の方よりマシだ。
「何だかどんな任務になるやら……ですね」
明日からは波乱の予感だ。
「やーれやれ。ゼラっちもホント人使いが荒いねぇ。セルシウス家の嬢ちゃんに、ウィンドルス家の次男坊かぁ。難しそうだなコリャ」
ブラッドは推薦された4人のプロフィールを再び見直して呟いた。
「でも……ま! 久々に面白くなりそうじゃない。特にあのユーズ、ありゃ大物になりそうだ」
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