49話 死闘、決着
ついに零華を右手にしたユーズ。
アリウスとの本気の戦いが加速する。
『幻魔・氷面鏡』
アリウスを囲むようにして巨大な氷の鏡が形成された。
氷の魔法と催眠の掛け合わせだ。
(見たこともない魔法……だが氷の鏡を利用した搦め手のようだな。……ならば)
『"領域"発動、魔光結界』
アリウスが左手を挙げると眩い閃光と共に光の魔法によるフィールドが作られた。
それに伴ってユーズの魔法も解除させられる。
「おいおい、見えなくなったじゃないか!」
「どうなってんだ中は!」
既に試験を終えて観客席にいた生徒たちや、観戦している待機中の生徒たちが騒ぐ。
「静まれ! 試験中だぞ!」
試験官が抑えるような動きをしてようやく騒ぎは収まる。
だがその場の多くが戦いの行方を気にしていた。
「……流石に……やるな……! ハァ……ハァ……」
「お前こそだ……ハァ……ハァ……ユーズ……!!」
内部では互角の斬り合いが展開されていたところだった。
互いにスタミナを消耗し、肩で息をしている。
(アリウスはこの光のフィールドを維持するのに多量の魔力を使う筈だ。しかしそれでも高位階の魔法を連発するスタミナを持っている……)
ユーズは2度目に戦った時のことを思い出す。
あの時は魔光結界を使用しながら雷鳴剣や聖光一閃などの強力な魔法を何度も放っていた。
「俺のスタミナ切れを狙っているのか? むしろそれはお前の方こそ気にするべき話と言える」
確かにアリウスの言う通り、零華は使っていると多量の魔力を消耗する魔剣だ。
俺は保有魔力こそ多いものの決してそれは無限ではない。
「さぁ行くぞ!」
アリウスが接近、斬撃を放つ。
「くっ……」
零華で受け止めるが、アリウスの剣は刀身から光を放っていて、そのまるで火花のように飛び散る光が頬を掠める。
(この剣、光の魔力を纏っている。それもかなりの高出力だ……! 光による高熱、零華をもってしても凍らせるのは骨が折れるな)
「ふ、お前の魔剣ほどとはいかないが……中々良いモノだろう」
互いに斬撃を弾いて距離ができる。
(あれは恐らく持ち主の魔力を刀身に纏わせる力を持ってる。だがここまで強力なのは使い手がアリウスである故……)
『光翼の祓い!』
『! 氷塊』
剣から一気に光が伸び、アリウスの前方を薙ぎ払った。
ユーズは氷で防御するが、一撃で焼き切られる。
(危ない……屈んでいなければ一撃だ……!)
「ハァ……ハァ……今のも避けたか……流石だな……!」
今の薙ぎ払い、強力ではあるが消耗は大きいようだ。
とはいえ何発も受けられるような攻撃ではない。
(どうする……? 零華の力を一気に解放するか、だが……)
恐らく天牢雪獄を使ってもアリウスは聖光一閃で対抗してくる。
位階ならばこちらが上だがここはアリウスの光のフィールド、果たして押し切れるかどうか……。
しかし考えている内にアリウスは仕掛けてくる。
受け止めるが、再び火花が飛び散る。
(待てよ……1つ方法がある、あった筈だ。そのためには……)
ユーズは火花で身体が掠められるのを気にすることなく斬り合う。
頬から幾箇所も血が吹き出す。
(何だ……? 何か狙っているのか、だが接近戦においてユーズの強みは……)
アリウスはユーズに氷面鏡を使わせないように素早い戦闘を意識していた。
そのために斬撃で攻め立てる。
(だが何を狙っていようとも無駄だ。これでケリをつける!)
『光翼の祓い!』
再びアリウスが高出力の光剣で薙ぎ払う。
しかしこれこそがユーズの狙いだった。
(今だ! 頼むぞ零華……!)
ユーズもありったけの魔力を零華に流し込む。
そして斬撃が交わったその瞬間……。
(ここだ!)
高密度の魔力同士がぶつかり合う裂け目―ユーズはそれを見逃さない。
裂け目に魔力を流し込んだその時、俺たちの周りから色が消えてモノクロームの世界が映った。
(!? 何だ、これは!!?)
『晦冥!!』
反発し合う魔力、高密度の魔力の渦が爆発したかのようにエネルギーが迸る。
その衝撃はアリウスのみならず、彼の作った光のフィールドを消滅させるほどの威力だった。
その周りは一瞬何が起こったのか―分からなかった。
光のフィールドが消えたその瞬間、アリウスが壇上の端まで吹き飛んだのだ。
(くっ……何だ、今の力は……! 魔力の……反発……? まさか今のが晦冥だと言うのか?)
アリウスは立つことを諦め、大の字で地に伏した。
既に体力は限界を超えていたのだ。
「そっ、そこまで! 試験は終了! ち、治療班!」
試験官の裁量をもって戦いは決着した。
互いに全力を出し切った戦闘だった。
「あ、待ってください」
「?」
ユーズがふらふらとした足取りでアリウスに近づく。
何をするのかと周りは思ったが―
「握手だ。ありがとう、アリウス」
「……! フン、3度目の正直とはいかなかったが、まぁいいだろう」
ユーズとアリウスの固い握手で今試験、最大の戦いは幕を閉じた。
治療班に治療をかけてもらう2人のもとへヴェルたちが駆け寄る。
しかしその場で最も興奮に震える人物が1人。
(み、見ました……見ました見ました見ましたよーーーーーっっっ!!! この最新型の高性能光画魔動機を持っていて良かった!!)
派手な格好の女性ジャーナリスト、彼女の待っていた光画魔動機はアリウスの作った光のフィールド―すなわち魔力による阻害を透視する性能を持っていた。
つまり彼女は他の皆の見れていない2人の戦いを詳細まで記録していたのだ。
彼女は興奮を内に押し殺しながらササッと試験会場を後にする。
その姿に誰も気づくことなく、試験は滞りなく終了した。
本作品を見てくださりありがとうございます。
面白いと思われましたらブックマーク、ポイントを是非ともお願いします。
面白くなくても☆1でも大歓迎です。
それを頂けましたら作者のモチベーションが上がっていきます。




