48話 試験再び
第2中間試験―その2日目。
初日と午前中の筆記試験を俺はしっかりと本気でやり終えた。
そして午後からは実技試験が始まり、俺たちは第一演習場に集められた。
「形式は前と同じ。誰と当たるかだな」
「この間みたいなヒヤヒヤする戦いは遠慮してくださいよヴェル」
ローディが半ば呆れたように言う。
確かに中間試験の際のヴェルとシオンの戦闘は、学生の試験というにはあまりにも度を越した戦いだった。
「はぁ……筆記試験だけでもう十分疲れたのに、実技試験だもんなぁ」
フエルはくたびれた様子で話す。
どうやら今回もアリウスによってハルク共々絞られていたらしい。
効果はあったらしく、手応えはあるとのことだが。
「……あれは何だ?」
ヴェルが何か気になるらしい、彼女の視線を追うとそこには光画魔動機を持った派手な女性がいた。
「……ジャーナリストみたいですね」
恐らく学園の生徒たちの取材に来たのだろう。
何やら生徒たちにインタビューをしている。
「あ、ほらハルク君の出番みたいだよ」
フエルが指差す。
あれはハルクと……。
「ん? あの赤いバンダナってどっかで見たような……」
「黄泉の番犬のマックス・レイヴルズ、前の中間試験でユーズと戦った人ですね」
ローディの説明を聞いて思い出した。
そういえばそんなやつもいた、確か結構やかましいやつだったような気がする。
「よぅ、ハルク・レオギルスだったな。知ってるぜ」
「それは光栄だ。良い勝負をしようじゃないか、マックス・レイヴルズ」
試合開始の合図がなされると一気に勝負は始まった。
「おりゃああっ!!」
いきなり仕掛けたのは槍を得物にするマックス。
リーチのある長槍に対して手甲で戦うハルク、圧倒的に不利に見えるが果たして……。
「そらっ!」
長槍を振り回すマックスに対し、ハルクは防御姿勢をとって守りに徹する。
「行くぜ新技!」
『百烈突きっ!!!』
猛烈な勢いでマックスは槍による突きを繰り出す。
あの長さと重さを持つ長槍であれだけの速度の突きを放てるのは大したレベルだ。
「おらおらおらっ!」
凄まじいスピードの連続攻撃を受け、ハルクはひたすら守りを貫く。
「は、ハルク君が防戦一方だ……!」
「いいや、そうでもないぜ。ハルクのやってることよーく見てみなよ」
フエルの認識は確かによく見なければその通りだ。
しかしハルクは突きに対して、全て的確に同じくらいの威力のパンチを繰り出して防御しているのだ。
(こ、こいつ……全然攻撃が届かねぇ!)
ハルクは笑っている。
彼にとってこの戦いは鍛錬と同じなのだ。
「くっ、クソっ……! はぁ……はぁ……」
いくら攻撃を放っても届かない、疲れを感じたマックスは一旦下がろうとする。
だが……。
「参考になったぞお前の攻撃」
「!」
ハルクは素早く近づき、体勢を低くしながら回し蹴りを放った。
「んなっ……!」
回し蹴りがマックスの槍を弾き、無防備となる。
『地砕き!!!』
「うがッッッ……!!」
その隙を見逃さなかったハルクの渾身の一撃がマックス・レイヴルズに撃ち込まれる。
あれではとても立てないだろう。
「試験終了! そこまで!」
決着はついた。
流石はハルク、パワーだけでなくスピードにも磨きがかかり、体術と強化のレベルはかつて俺と戦った時より遥かに上がっている。
恐らくは裏で相当の修練を積んだ筈だ。
それが証拠に手甲を外した彼の手の皮膚はボロボロになっている。
「次に戦う時を楽しみにしていろよ我が好敵手」
「ああ……もちろんさ」
壇上からこちらを指名してくるハルク。
仮に当たることがあれば、本気で立ち向かわなければいけないだろう。
「次、天空の鷲獅子ユーズと……」
「おっ、次はユーズ君みたいだよ」
俺の名が呼ばれる、さて相手は誰だろうか。
「深淵の海精アリウス・ハイランド!」
「!」
俺の相手は何とアリウス。
当の張本人は上の観客席の方で腕を組みながら不敵に立っていたが、柵を乗り越えて飛び降りてきた。
「我が好敵手とこんな形で戦えるとは羨ましいぞアリウス・ハイランド!」
ハルクは俺がやりたい!と言わんばかりの態度だが、アリウスはやはり冷静だ。
「お前と戦うのは久々だなユーズ」
「あぁ……」
「3度目の正直、といったところか。悪いが本気で行くぞ」
俺とアリウスは既に2度も戦っている。
最初は入学式の日のサバイバルレース、この時は彼が手加減していた。
2度目は俺とヴェルが魔物退治に行った後、あの時のアリウスは事情もあって、かなり熱くなっていた。
(つまりこの戦いは……初の真剣勝負)
「楽しみだよ。俺も本気で行くからな」
俺がそう返すとアリウスはニヤリと笑い、先に壇上に上がった。
俺も壇上に立ち、互いに構える。
「ユーズ……大丈夫でしょうか」
「大丈夫さ。今回のユーズは気合いが入ってるからな。私が相手でも手は抜かないだろう」
ローディが心配そうに聞く中、ヴェルはあくまでユーズが勝つと自信を持って見つめている。
(へぇー……あの2人がね。中々面白くなりそうじゃない)
遠くの観客席で眺めていたシオンも戦いの行方が気になったのか、近くまで移動してくる。
「試験開始!」
試験官の合図と共に俺たちの剣は音を立てて交わる。
互いの剣は重く押し合い、一歩も動かない。
先に均衡を破ったのはアリウスだった。
『光弾』
アリウスの剣が光を帯びる。
(!)
回避のためにユーズは剣を弾いて後ろへと下がる。
ユーズが動いた瞬間に光球が剣から放たれた。
狙いを済ました光球に対し、ユーズは強化をかけた左手を地面につき、身体を回転させるようにして光球を避ける。
しかしそこまでの動きをアリウスは読んでいた。
『雷よ、刃となりて天より来たれ。雷鳴剣!』
まるで落雷、巨大な光の剣がユーズを襲う。
『氷塊!』
氷の防御魔法、しかし高位階の攻撃魔法に対して低位階のそれでは防ぎ切れない。
ユーズもそれは分かっている。
(! 強化を瞬間的に高出力、一気に距離を詰める……そうだ、お前ならそう来る筈だ)
アリウスの読み通り、ユーズは脚力を一気に強化させて接近、まるで突っ込むかのように剣を振るった。
(!? 何!)
ユーズの速攻攻撃をアリウスは完全に読み、身体を屈めて斬撃を回避した。
攻撃を外し、前のめりになるユーズ。
『光弾!』
『氷柱槍!』
互いに体勢を崩しつつも同時に攻撃魔法を放った。
3発の光球と3本の氷の槍はぶつかって打ち消し合う。
一瞬も気を抜けない勝負、2人は息を切らしながらも何処か楽しそうに笑みを浮かべた。
「す、凄い……瞬きしてる暇も無いよ……。これがユーズ君とアリウス君の勝負なのか……!」
驚嘆するフエル、だが2人の戦いに驚いたのは彼だけではない。
気付けば待機する多くの生徒たちの視線はこの2人の戦いに集まっていた。
さらにジャーナリストの女性はとんでもないものを見ている、とばかりに光画魔動機で撮影しまくったり羽根ペンを走らせまくっている。
「フ……クク……楽しいぞ。ここまで全力で戦い合える相手は他にいない」
思わず笑みをこぼすアリウス、だがそれはユーズも同じ。
「俺もさ。でもまだまだこんなもんじゃないぞ」
白熱する戦いにユーズが零華を抜いた。
(ついに来るか……だがそれでこそ、だ。俺は今日本気のお前を倒し……上へと昇る!)
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