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4話 入学試験

「実技試験に必要になる属性魔法の扱いは私が教えよう。いくら未確認の属性とはいえコントロールは従来のそれと変わらない筈だ」



「えっ、未確認の属性ってどういう意味ですか?」



 ローディが聞き捨てならぬとばかりに振り向く。

 少し長くなるが、と前置きしてから彼女に説明を始める。



「……信じられません。現在確認されてる六属性以外の適性なんて……この目で見ないと」



 それは確かにそうかもしれない。

 当の本人である俺もあの魔剣を握った上でさらにヴェルに指摘されなければ分からないことだったのだから。



 再び中庭に出ると俺は魔剣―零華を受け取り、右手に握る。

 あの冷気が刀身と身体を纏い始める。



「!」



 引き抜いたその刀身を見てローディは驚愕の表情を浮かべる。



「あれが……氷の魔力。確かに感知魔法でも属性を感知できません」



「あの冷気、見ているだけで身体が凍りそうだ。何よりあれだけ膨大な量を常に放出し続けられるユーズの魔力が異常……と言えるレベルなんだ」



 彼の周囲の草が凍り始めている様子を見た二人の少女は感嘆し、また戦慄する。

 そして中庭に立ててあった的用の案山子に向かってユーズは剣を構える。



「!!!」



 放たれた斬撃はあの時と同じ、氷の刃となって案山子を飲み込んだ。



「す、凄い……あの威力・規模の魔法、同じ年とは思えないです」



「あれならば実技試験も突破できる力はある。後は訓練さえすれば完璧な筈だ」







________







「……なんてやってたら本当に受験することになるなんてな」



 あれから一週間、俺は屋敷に泊めてもらいながらヴェルと訓練を重ねた。

 もちろんタダでお世話になるという申し訳無さがあったから、屋敷のメイドや執事に頼み込んで色々と手伝いをさせてもらっていた。



 ヴェルが俺の事情をある程度説明してくれたせいか、俺は貴族に捨てられた哀れな使用人ということで屋敷中に伝わり理解されている。

 まぁ間違ってはいないが……。



「何か言ったか? ユーズ」



「いいや、何も」



 ついにやって来た王立魔法騎士学園(ナイト・アカデミア)の校舎。

 まるで城のようにそびえ立つ荘厳な建物で、巨大な門と大仰な石柱が四方に建てられていた。



 貴族でもない馬の骨の俺が受験できるのかと問うたらヴェルがわざわざ調べてくれた。

 どうやら通常とは別枠で「平民枠」なるものが設けられているらしい。

 と言っても実際に入学した非貴族層の生徒は歴史上存在しないらしいが。



 今日は一応通常の剣と零華の二振りを用意。

 零華は時に強すぎる力を発揮してしまう、あくまで緊急用だ。



「ちょっと緊張してきましたね、早く受付済ませちゃいましょう」



 ローディに促され、俺とヴェルも門の前で受付を済ませる。

 出身と名前を確認したときに受付の顔が一瞬固まった気がしたが気の所為だと思うことにした。



 まずは受付した際に手渡された番号を記載した紙をもとに各講義室に分けられる。

 最初は筆記試験だが、正直これは苦もなかった。

 ディアトリス家で身に着けた知識だけで十分に突破できる内容である。



「では受験生の諸君はこれより実技試験会場のコロシアムへと移動をする。案内に着いていき速やかに移動すること」



 教官の指示を受け、俺たちは校舎を一旦出て巨大な訓練場へとやって来た。

 エリートの学校と言うだけはあり、あらゆる設備は一級だ。



「揃ったようだな。私はこの実技試験を取り仕切る担当教官のオズバルドだ」



 オズバルドと名乗った金髪でひげを蓄えた軍服姿の教官が受験生たちの前に立つ。

 威圧的な風貌と話し方に多くの受験生は気圧されている。



「諸君は血筋と才能を与えられた選ばれし者たちだ。だがそれだけでは我が校には相応しくない。実力だ、実力を見せねばならない」



 ローディは少し緊張した様子だがヴェルは努めてクールな表情を崩さない。



「ではこれより試験の内容を説明する」



 オズバルドが合図すると会場内にある石畳の決闘場に召喚士たちが待機した。



「試験官の召喚士が喚び出すゴーレムを倒す、これだけだ。極めてシンプルかつ正確に諸君らの実力を図ることが出来る」



 ゴーレムと言えば岩で出来た巨人、人間の約3倍の体躯を持つ。

 その内容を聞いてにわかに受験生たちがざわついた。



「静粛に! 速やかに試験を始める。受験番号順に決闘場に入れ!」



 決闘場は8人が同時に戦うことが出来、順番を待つ者たちと合格を得た者たちは上から観戦することも出来る。

 俺の受験番号は300番、時間がかかりそうだ。



火球(ファイアボール)!』



風刃(ウィンドカッター)!』



 各々が得意とする属性の魔法を放ち、ゴーレムを攻撃する。

 しかし実力の差というものはハッキリ出るもので、人によっては僅か3分程で撃破した者もいれば、あっさりと敗北する者もいる。








「お疲れ、ヴェル」



「あぁ、何とかなったな」



 ヴェルが自分の番を終えて上へ上がってくる。

 汗をかいても爽やかな彼女の微笑みが眩しい。



 水の魔法で防御をこなし、弓矢の一撃で難なくゴーレムを沈めていた、流石だ。



「ローディもどうやら問題なく倒したようだな」



 別の決闘場、ほっと胸をなで下ろした彼女の姿が見える。

 二人が無事に終えられて何よりだ。



「そういえばユーズは私たちと同じ時間に受付を済ませたのに順番はまだなのか?」



「ん? あ、そういえばそうだな。俺300番だからかなり後の方だ」



 ヴェルは首を傾けるが理由はともあれ俺は時間を待つしかない。





________






「300番! 順番だ」



 いい加減に待ち飽きた、そんなタイミングで番号を呼ばれる。

 だが他の決闘場での戦いは既に行われていない、もしかすると俺の番号は最後なのだろうか。



「お前が今回唯一の平民出身者か」



 その言葉を聞いて試験を終えた受験生たちは動揺しているのか、ざわめき立つ。



「300番、我が校は平民枠という特別な枠を設けていることは当然知っているな?」



「はい」



 オズバルドの口調と表情からは侮蔑、軽蔑、そうした感情が見て取れた。

 彼の最初の宣言からしてやはり非貴族はお呼びでないのだ。



「だが未だ合格者はいない。何故か分かるか? 私が直接実力を見てやるからだ」



「それは光栄ですね」



 フンと鼻を鳴らしたオズバルドが魔法陣を発動させ、召喚魔法を唱える。



(賤しい平民の小僧が……! 我が校に貴様なぞが入れると思うな!)



『出でよ! 機械仕掛けの魔装巨人エンシェント・ゴーレム!』



「おい! 何だアレ!」



「ゴーレムじゃないぞ!」



 観客席が大きくざわついた。

 姿を現したのはゴーレムではなく明らかに異質な機械の巨人だったのだ。



 体躯はゴーレムを上回り、装甲は全身が鋼鉄。

 右腕には巨大な拳、左腕には鉤爪が装着されており、赤く光る人工的な単眼(モノアイ)は不気味さを感じさせる。



「さぁ、この巨人を倒してみるのだなワハハハ!」



「!」



 まずは脚力を魔法で強化、攻撃を避ける。

 繰り出された拳一発、外れたそれだけで床がひび割れた。



「ゔ、ヴェル! あ、あんなの幾ら何でも……」



「……」



 観客席のヴェルとローディも心配そうに固唾を飲んで見守る。



「おいおい……大丈夫なのかよアイツ」



「あんなもん食らったら死ぬぜ……?」



 機械巨人の攻撃のあまりの威力に動揺が広がる観客席。



「はぁっ!」



 回避した振り向きざまの剣の一撃が機械巨人の腕に入る。

 だが金属音が鳴るだけでマトモに効いていないことは明白だった。



(フフフフ……無駄だ無駄。いくら攻撃を回避して隙を探ろうとも貴様の攻撃は一切通用せん! 斬撃など通さない頑強なボディと耐魔法装甲、これを突破出来る受験生なぞ存在しないのだよ)



 鉤爪の一振りが胸をかすめる、徐々に機械巨人は俺の動きを学習しているかのように攻撃を鋭くしていく。



(流石にこんなバケモノ……使うしかねぇか)



 もう一振り差してある零華に目を向ける。

 余程でなければ使うつもりは無かったが、こうなれば仕方がない。



「……!?」



 剣を抜いたその瞬間、周辺の気温が下がったかのような―強烈な冷気が辺りを包み込む。



(な、何だ!? あの小僧……何をするつもりだ)



「ユーズ……行け!」



 観客席から見守るヴェルは思わず呟いた。

 その時ユーズを叩き潰そうと機械巨人の拳が彼に迫っていた。



天牢雪獄(フリギ・コキュートス)



 圧巻―誰も声が出せなくなった。

 何故ならばユーズが剣を振り抜いた時、機械仕掛けの巨人はまるでオブジェのように沈黙したからだ。



「こ、凍りついた……? 馬鹿な……」



 斬撃と共に放たれた氷が雪崩のように勢いよく対象を飲み込んだ。

 冷気が強すぎて訓練場はまるで冬のような極寒の地へと姿を変える。

 一週間前にフェンリルを倒したその時より遥かに強大な威力だ。



 氷獄―誰かがそう小さく呟いた。



「終わりですか?」



 ユーズの声に答えられないオズバルド、既に腰を抜かして倒れ込んでいる。



(こ、氷の……魔法だとでも言うのか!? この小僧は……一体)



 驚愕し、恐怖すら覚えるオズバルド。

 だが同じような反応を観客席でもしている者がいた。



「あ、あれは……ユーズ!? な、何でここに……」



 それはディアトリス家の長男、ティモール・ディアトリスだった。

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