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47話 心持ち

 季節が暑さを増してきた頃、王立魔法学園(ナイト・アカデミア)には第2中間試験が近づいてきた。

 第2中間試験は長期休み前にある試験であり、前回の試験と同様、結果は成績に重要な影響を及ぼす。



「あと2週間で試験かぁ〜。ついこの間ユーズ君たちと遊びに行った気分が抜けないや」



「そんなこと言ってるとまたアリウスにこってり絞られるぞ」



 教室内でフエルと話す。

 自分で言って思い出したことだが、こないだの中間試験は色々とあったものだ。






________







「そう、君自身のことだ。もちろんヴェルエリーゼや他の生徒たちのことを慮ったっていい。けどそれだけじゃなく、君は自分が将来この国で大いなる騎士になる可能性があると……」



「ここはそうした才能ある生徒を相応しい舞台へと上げるための学園だ。君には彼らをも凌ぎ得る才能と素質がある……一度、真面目に考えることをオススメするよ」






________






 中間試験の後にアルゼラ先生に言われたことを思い返す。

 王国の騎士とは―そもそも騎士とは何なのか。

 そして俺のやりたいことは何なのか、そんなものがあるのか。



「ユーズ君、ほら次の授業始まるから準備しないと」



「ん、ああ、そうか」



 ついついボーッとしてしまったらしい。

 急いで次の授業―歴史学の教科書を取り出す。



「今日の歴史学を始めます。教科書の55ページを開いてください」



 歴史学の担当教師―ヘルマン先生は老齢の先生だが、基本的に歴史学の授業は退屈なものだった。

 というのも王国の興りは現在の中心的な貴族である26の一族によるだの、魔族や国内の対立を乗り越えて貴族は国を造ってきただのと、ほぼ全てにおいて貴族中心の話だったからだ。

 しかもヘルマン先生は自覚しているのかしていないのか、とにかく平坦な調子で教科書の内容を読み上げる授業なのだ。



「今日は皆さんの学び舎である、この王立魔法学園(ナイト・アカデミア)の始まりについてです。えー、王立魔法学園(ナイト・アカデミア)が創設されたのは今より約600年ほど前、当時最も力のあった魔法使いディアルト・ネフェシュによって、NA(New Almanac=新暦)579年のことです。彼はこの学び舎に才覚ある若者を誘い、国を守る強大な魔法使いとして育てました。それが現在の強固な王国騎士団の基礎を築いたと言われています」



「しかしディアルト・ネフェシュは当時の評議会を始めとした他の貴族たちと対立もしました。特に騎士団の役割として、ネフェシュは強き者が弱き者を守る、すなわち貴族は平民たちを守るためにこそあるべきなのだと説きました。しかしながら保守的な貴族層では平民のために力を尽くすことに反発する意見も多かったのです」



「ネフェシュは拡大した騎士団の勢力に伴い、王国での存在感を増していきました。故に彼の意見を無視することは出来なくなり、結果として"騎士の誓い"が制定されました。学園創立から13年後のNA592年となります」



 学園創立の歴史、600年が経った今でも貴族層による平民への嫌悪や偏見は根強い。

 しかし自分にはこの学び舎を通して貴族出身の友が出来た。

 例えそれが少数であったとしても、この学園は貴族と平民の距離を縮める役割を持っていることの証になるかもしれない。



(何て、俺が特例で入れたからこその話なんだよな……)



 自分で考えて思わず苦笑する。

 もっと俺のように平民であっても入学できるようになれば、話はガラリと変わるのだろうか……?



(俺は運が良かっただけだ。……でも友達も出来た、それは間違いなくこの学園があったからなんだよな)



 そんなことを考えて授業を聞いている内に終了の鐘が鳴る。



「えー2週間後の第2中間試験ではここまでの範囲を扱う、からして各々勉学に励むよう」








「さて帰ろうか、ユーズ」



 夕方、全ての授業を終えての放課後。

 ヴェルに促されていつも通り、彼女たちと一緒に帰路につく。



「そういえばヴェルエリーゼさんは前の試験1位だったよね。次の試験の意気込みはどうなの?」



「ん? あぁ、もちろん1位を取るさ。努力して良い成績を取るのは気分の良いことだからな」



 フエルの質問にヴェルは爽やかに受け答えた。

 実に彼女らしいが、俺は……。



 前の中間試験のようにワザと手を抜くなんて行為が果たして正しいのか。

 思えばあの行為は間違いだったのかもしれない。

 今のヴェルを見て、強くそう思った。



「……いや」



「次は俺が1位を取る」



 思わず言葉が自然と口をついて出た。

 気づいた時には、ヴェルたちが少し驚いたように俺を見ていた。



「何だかユーズにしては珍しいですね」



「そうだよね、そんなキャラだったっけ?」



「あ、いや、その……」



 ローディとフエルの疑問はもっともだ。



「まぁそういうユーズもたまには良いじゃないか」



 そんなヴェルの一言で追求は特に無く終わる。

 だがフエル、ローディと別れた後に俺は自分で自分の言ったことを心の中で反芻していた。



(ふぅ……)



 夕食を食べ風呂に入ってもそれは続き、部屋で1人悶々としていた。

 するとコンコンとドアをノックする音、思わず身体がビクッとする。



「ユーズ、私だ。いいか?」



「あ、ああ。いいよ」



 ヴェルが部屋に入ってくる。

 彼女がこうして俺の部屋に来るのは2回目だ。



「どうしたの?」



「いや……今日の帰り道に言ってたことなんだが、もしかして悩んでいるのか?」



 どうやら俺の顔はよほど景気が悪かったらしい。

 彼女には筒抜けだった。



「その、ごめん。俺ヴェルに謝らなくちゃいけないことがあるんだ」



「?」



「……前の試験の時、俺はワザと点数を下げて自分の成績を下げてたんだ。その方がヴェルにとっていいんじゃないかって……でもそんな訳が無いよな。それで次の試験は俺もちゃんとやろうと思って」



「そうだったのか……けれどそれはユーズなりの気遣いだったんだろう? 私はそれで怒らないさ」



 ヴェルの優しさを感じる。

 本当に立派だ。



「もちろん次からそういうのは許さないぞ。必ず次の試験は本気でやる、約束だ」



「あぁ、ありがとう。約束するよ」



 彼女は約束のために指を差し出した。

 指切り、あと2週間後の試験へ俺は頑張るという決意を固めた。

 俺のやりたいこと、それはいずれ分かることなのかもしれないが、今は今を頑張ろう。

 本作品を見てくださりありがとうございます。




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