45話 森の怪物
森に響き渡る悲鳴、それが耳に入ったのはカーラだけではない。
「なっ、何今の!?」
「誰か魔物に襲われたのか?」
ユーズたちの場所にもそれは届き、フエルとヴェルが反応した。
すぐさま人の気配のする場所へと向かうが、そこには困惑と不安の色を見せる生徒たちが集まっていた。
「大丈夫か? カーラ先生はどうした」
「カーラ先生は皆ここに集まって移動するなって……」
ヴェルが1人の女子生徒に話を聞く。
どうやらカーラ先生は悲鳴の上がった方向へと既に向かっていったようだ。
「どうしましょうヴェル……」
「カーラ先生なら万が一にも魔物に不覚を取ることは無いだろうが……」
これからどうするべきか考えなければならない。
俺たちはこの場所で待っている方が良いのか、それとも……。
「あ、ああああ……」
キャゼルたち3人は腰を抜かしながら後ずさりしていた。
無理もない、目の前には巨大なキマイラが立ち塞がっていたからだ。
凶悪な獅子の頭、竜のように強靭な胴体と翼、尾は蛇が意思を持って身体をくねらせている。
「ひっ、たっ、助け……う、うわああああっ!!」
真ん中にいたキャゼルにキマイラが襲いかかろうとしたその時。
『大波濤!』
大波がキャゼルたちの周りを覆い、キマイラを後ろに退かせる。
その魔法の主はカーラだった。
「ふぅ、何とか間に合ったようだね……こんな結界ギリギリのとこまで来てるとは全く……!」
カーラは息を切らしつつも、生徒たちを守るようにしてキマイラの前に立つ。
「せ、先生……」
「いいかい! 死にたくなきゃアタシの側から離れるんじゃないよ!」
「はっ、はいぃぃ!」
恐怖で泡を吹いて気絶しているキャゼルを抱えながら、2人の取り巻きはカーラの後ろに待機する。
一方でキマイラは実力者が現れたことが分かり、冷静にこちらの出方を伺い始めた。
(キマイラ……脅威度Aランクの魔物の中でもとりわけ危険なヤツだ。ほんっとうに当てにならないね、最近の魔物生息範囲は……!)
カーラは内心でハルファス教頭と話した時のことを毒づく。
いや、常識の範囲内では安全な判断だったのかもしれない。
魔物たちの動きが人間に予測できないスピードで変わっているのだ。
(さて、どうするか……)
だが如何に脅威度Aランクの魔物であろうとも、普段のカーラであれば問題なく倒せる相手である。
問題は生徒3人をかばいつつ立ち振る舞う必要があるということだ。
彼らを巻き込むような魔法は下手に撃てないし身体の動きも制限される。
(!! ……おいおい、嘘だと言ってほしいもんだね。災難ってのは畳み掛けるとは聞くが……)
さらなる不運、カーラはその気配にいち早く感づいていた。
(さらにあと2体……計3体のキマイラか……!)
なんと周辺にさらなる2体のキマイラがいることを感知した。
感知結界のお陰で早めに気づいたとはいえ、状況は非常に悪い。
「グルルルル……!!」
「やれやれお出ましか。随分とまぁアタシもモテるもんだ」
囲まれた状態、カーラは防御の体勢をとる。
こちらから先に攻撃すればその隙に間違いなくキャゼルたちが殺されるだろう。
「グゥオオオオ!!!」
人間のサイズはあろうかという巨大な鋭い爪が襲いかかる。
凄まじい衝撃だがカーラの剣はそれに耐える。
「うっ……ぐっ……!」
強化をかけてもマトモに受けるのは厳しい攻撃、だが受けるしかない。
(とにかくさっさと1体でも仕留めなきゃね……!)
『水流断!』
前方を薙ぎ払うようにして高圧の水流で出来た斬撃を放つ。
キマイラは動作を見切っていたのか、瞬時に上に飛ぶことで回避した。
(消費はするが……一気にケリをつけるとするか……!)
『逆巻くは清浄なる大水、穿て! 螺旋水撃!!』
かつてヴェルが中間試験で見せた大技、その教え主だけあって予備動作は速い。
螺旋回転する水流は邪魔な木々を薙ぎ倒しながらキマイラを貫かんと進む。
「!!?」
だがキマイラたちはカーラの攻撃を見るやいなや、3体が揃って並んで口を開いた。
(まさかこいつら……!)
その瞬間、キマイラたちは同時に口から炎を吹き出した。
3体の吐いた炎が合わさり、螺旋水撃にも対抗しうる猛烈な火力と化す。
(螺旋水撃を打ち消しやがった……)
もしも1体だけならば螺旋水撃を受け切ることは出来ず、その身体は貫かれていただろうが今は3体いる。
数の理を活かした戦いをキマイラは展開してきた。
(ヤバいね、コイツは予想以上だ。どうやら覚悟しなきゃならないようだ……!)
カーラの頭に最悪の事態が過ぎる。
しかし教師として何としても生徒の無事は守らねばならない、例え自分の命は危なくとも……。
『天牢雪獄!』
カーラの後ろからまるで雪崩のように氷河が走り、キマイラの方へと向かっていった。
慌ててキマイラたちは分散して氷の刃を避ける。
(今の攻撃……まさか!)
カーラが振り返るとそこには4人の生徒たち、ユーズとヴェル、ローディにフエルがいた。
「アンタたち……何故ここに」
「先生、話は後で! 今はこの魔物たちを!」
「キャゼルたちは僕らが!」
ユーズとヴェルが前に立ち、ローディとフエルはキャゼルたちを誘導しながら退路を行く。
「危険だ! アンタたちも早く逃げな、アタシ1人なら存分に相手が出来る」
カーラは残ったヴェルとユーズに逃げるよう促す。
「いや、私たちは先生を手伝います。2体は私たちに任せてください」
「俺とヴェルなら倒せます」
「何を言ってる! アタシは教師でアンタたちは……」
そこまで言うとカーラは目を一瞬閉じ、続く言葉を変えた。
「分かった、任せよう。けど死ぬことだけは許さないよ」
「ありがとうございます、先生」
(こいつら覚悟持った眼しやがって……教師としちゃ失格だねアタシは)
しかし不思議と彼らが戦うことに不安は無かった。
「さぁ行くよ!」
各々がキマイラを1体ずつ受け持った形だ。
ユーズは零華を構えながら相対する。
(キマイラか……ヴェルが1人で戦うのは少し落ち着かないけど……まぁ俺は俺の心配だな)
紫色のたてがみに、こちらを睨む鋭い眼光、今にも肉を引き裂かんとする爪と牙。
相手にとって不足なしだ。
「グオオオ!!」
キマイラは口を開けて炎を吹き出した。
『氷塊!』
巨大な氷の盾を作り防御する。
その隙にキマイラの懐へと潜り込む。
『氷縛!』
キマイラの身体を氷の鎖で縛り凍結させた。
しかしキマイラは咆哮を上げると、肉体の体温を一気に上げてきた。
(! なるほど、考えたな……)
キマイラは身体の自由を取り戻すと爪で引き裂こうと振り下ろす。
俺は再び距離をとり、戦法を考える。
(ならこれだ)
『幻魔・氷面鏡』
巨大な氷の鏡と眠りの魔法、キマイラはこちらを見失って眠りに落ちる。
「悪いな、恨みは無いが」
『氷柱槍』
キマイラの急所を突き刺してトドメを刺す。
俺の勝負は終わったが、ふと向こうを見るとカーラ先生もヴェルもほぼ同時にケリをつけたようだ。
本作品を見てくださりありがとうございます。
面白いと思われましたらブックマーク、ポイントを是非ともお願いします。
面白くなくても☆1でも大歓迎です。
それを頂けましたら作者のモチベーションが上がっていきます。




