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43話 謎深き生徒

「ふぅ、今日は中々連携が上手くいったな」



「お疲れ様、ヴェル」



 放課後、俺とヴェルはホワイトクラスのグラジェクトチームに週3回のペースで練習に参加していた。

 まぁ平民である俺は物珍しさから注目されるが、ヴェルに関しては有名かつ人気が出てきているらしい。

 いくら異端視される家の出身とはいえヴェルの器量なら大抵の男は気にしなくなってしまうだろう。



「やぁご両人、今日の練習も調子が良かったな! 明日の試合も君たちはスタメンだ。活躍を期待してるぜ!」



 ディーン先輩から背中をバシッと叩かれる。

 明日は黄泉の番犬(ブラックケルベロス)との公式試合があるのだ。



「はい、頑張りますよ」



 何だか最近は妙にブラッククラスとの関わりが多いような気がする。

 もっぱら悪い意味で、だが。



「あぁ、けどな。相手のブラッククラスも新しい選手を発掘したらしいんだ。2年生らしいんだが……何でも結構なガーダーって話だ」



 新しい選手、俺やヴェルのようにチームのテコ入れ策としての起用なのだろう。



「ま! いつも通りにやりゃあ問題ない、じゃあな!」



 そう言うとディーン先輩はあがっていった。



「明日も頑張ろうなヴェル」



「あっ、い、今はその……あんまり近づかないでくれないか……。あ、汗を沢山かいたから……」



 俺がヴェルに近づこうとしたら、彼女は言いづらそうに後ずさりした。

 こういうところが本当にいじらしくて可愛らしい。

 美しい銀色の髪を伝って一雫の汗が落ち、熱で上気した彼女の顔は夕焼けのように赤みがさしていた。



「あ、お疲れ様です。ヴェル、ユーズ」



 俺たちが着替えて競技場を出ると、ローディが待ってくれていた。



「すまないなローディ。いつも待たせて」



「いえいえ、私はいつも図書館で勉強してますから。自主勉強の時間が取れて丁度いいくらいですよ」



 ローディは右手を振って何でもないとアピールする。

 図書館で自主勉強ができて丁度いいとは、真面目な彼女らしい。

 そして帰り道はいつものように他愛もない話をしなら歩く、これも何度繰り返しているやら。








「さぁ皆さんお待ちかねのグラジェクトがやってきました! 本日の対戦カードはホワイトクラスとブラッククラスです!」



 互いのチームメンバーが入場するとワーッと、どめよきと声援が起こった。

 正直に言うとこういう雰囲気は何度やっても慣れそうにない。

 だが俺が驚いたのは―



「やぁ、また会ったねユーズ」



 相手チームのユニフォームを着ていたのはあのネオスだった。

 わざわざこっちに手を振ってくる。



(何であの先輩が相手チームに居るんだ? いや、そりゃあブラッククラスなんだから参加資格はあるんだろうけど……)



「ユーズ。確かあの男は……」



 ヴェルにも覚えがあるようだ。



「ねぇローディさん、あの人ってさ……」



「ゲリュオンの立会人……でしたよね。選手とは思いませんでした、今まで見たことがありませんし」



 観客席にいるフエルとローディもそれに気づき、訝しむ。

 とはいっても怪しいとまでは言い切れない。



「ブラッククラスは新進気鋭、新たなガーダーをレギュラーとして起用したとも聞きます! 果たして今日の試合はどちらに軍配が上がるのでしょうか!?」



 どうやら昨日の練習後、ディーン先輩が言っていたのはネオスのことだったらしい。

 しかしこんなことで動揺していては試合で良いパフォーマンスを出せない、集中しなくては。



「さぁ試合開始です!」



 歓声に煽られるようにして笛の音が競技場内に鳴り響き、試合開始が宣言される。



 試合開始の冒頭、ヴェルがいつものようにフィールドの中心に刺さった剣を奪い取る。

 彼女の先制率は大体体感で7割くらい、驚異のスタートダッシュだ。



(フィールド变化だ。慌てんなよユーズ、ヴェルエリーゼ)



 コンダクターのディーン先輩が話す。

 今回はどういう変貌を見せてくれるのか。



「今回のフィールドは"キャッスルウォール"です! まるで城壁が両選手たちの行く手を阻むのように現れています!」



 今回は堅固な城をイメージしたかのように、地面は石畳となって、そこかしこに壁が隆起した。

 ところどころに現れた石の壁、頑張れば跳び越せない高さではないものの、視界も狭まるしかなり厄介だ。



(ヴェル?)



 見ると1つの壁の上にヴェルが立った、あれでは全く相手から丸見えになってしまうが、彼女は剣を持たない方の手で合図をした。



(なるほど、速攻をかける訳か)



 俺とヴェルの間で通じるように考えていたサイン、それに合わせて俺も彼女に同調するために走った。



(!?)



 壁の上に登ろうとしたその時、突如として目の前にある石の壁が上にせり上がった。

 咄嗟に身体を反転させて壁を蹴る。



「ユーズ!?」



 俺は激突を避けるために壁を蹴って後ろへと下がることになった。

 ヴェルは俺の姿を見て思わずこちらを振り向いた。



(この壁はたま〜に相手を妨害するように出来てんだ。ランダムだから読みようがねぇ)



 ディーン先輩のフォロー、そういうことなら最初に言ってほしかった……というのはともかく。



「油断は禁物だよ」



 相手ガーダーのネオスにヴェルが剣を奪われた。

 まるでこちらの動きを見透かしているかのようだ。



「しまった……!」



 その後は流れるようなパスで相手のブレイカーに剣が渡り、点を入れられてしまった。



「入ったー! ブラッククラス1点先制! 見事な攻撃でホワイトクラスのゴールをこじ開けます!!」



 取られたものは仕方がない、取り返そうという勢いで俺とヴェルは攻めに転じた。

 だがまたしても石の壁が俺の動きを絶妙なタイミングで邪魔をしてくる。



(くそ、どうなってるんだ……?)



 攻めのリズムを狂わされた俺たちの連携は当然うまくいかない。

 再びガーダーのネオスに剣を奪われ、防戦一方の状況になってしまった。



 だが何とかこちらのガーダーも奮戦し奪い返す、剣が前線の俺たちへとパスされた。



(よし、今度こそ……)



 壁を乗り越えるのは危険だ。

 俺が目の前にある壁の右を迂回しようと進路を変えて走ったその瞬間、何と壁は右にぐにゃりと曲がって俺の行く手を阻んだ。



 魔法がかけられている以上、質量さえ変わらなければ変形は自由自在だ。

 だが問題はそこじゃない。



「苦戦してるねユーズ。調子はどうだい?」



 ネオスに距離を詰められてしまった。

 顔には不敵な笑みを浮かべている。



(ユーズ! ヴェルエリーゼが右斜め後ろに近づいてる、目の前のそいつを突破すると見せかけ後退してパスだ!)



(了解!)



 ディーン先輩の指示に従ってフェイントを入れる。

 たがヴェルの方に行こうとしたその時も後ろの壁が狙いすましたかのように形を変えた。



 仕方なく別の方向に全速力で駆ける。



「まるで壁が意思を持ってるかのようにユーズを狙っている……。明らかにおかしい」



 俺の動きを見ていたヴェルが状況をディーン先輩に話し、先輩はそれを理解したのかタイムアウトを取った。



「タイムアウト? 何やってんだ?」



 観衆がざわつく。

 一方のフィールドではディーン、ヴェル、ユーズの3人にチームメンバーが顔を合わせていた。



「壁が明らかにユーズだけを妨害している。フィールドに何か細工をされた可能性がある」



「けどこんな広大なフィールドにかけられた魔法に細工なんて出来るか? 仕組みはかなり複雑だぞ」



 ヴェルとディーンが話し合うが、ハッキリした証拠もない。



「ディーン、とりあえずここは中止した方が良いんじゃないかしら? 負け扱いにはなってしまうと思うけど……」



 ガーダーの2年、ミーナ・アルメイダが言った。

 ディーンはそれを聞くと少し考え込む。



「いや、このまま続行してください」



「ユーズ!?」



 ユーズの発言に皆が驚く。

 しかしこのままでは埒が明かないし、負け扱いになるのは御免被るというユーズの決意を見て取ったディーンはそれを許可した。



「ヴェル、作戦があるんだ。今日は君が最後に決めてほしい」



 ユーズが話すとヴェルは頷き、作戦会議が終了すると同時にディーンが試合再開を促した。



「さてさて、どうするのかな?」



 再びネオスはユーズから剣を奪わんと狙ってきた。

 しかし追いつかれないように最高速の強化(ライズ)、スタミナ消費は気にしていられない。



 そのまま壁の林立する場所へとやってきた、向こうのガーダーたちは完全にたかを括っているのか、あまり近づいてこない。

 一方のユーズは変形する壁の法則に気づいていた。



(この壁たちは越えようとすれば上にせり出し、迂回しようとすればその方向に曲がってくる。けど曲がってくる形は完璧じゃない)



 2つの壁に挟まれた通路に突っ込むユーズ、一見すれば超危険地帯だ。

 相手選手たちは自殺行為のようにそれを見る。



(……ここだ!)



 ぐにゃりと曲がる左右の壁、しかし壁の変形に合わせてユーズは身体を深く落としてスライディングした。

 僅かな隙間をくぐり抜け、突破する。



「!!? まずい、パスを潰せ!」



 さらに上方向で走り込んでいたヴェルに向けて剣を投げる、彼女は壁からノーマークだ。

 慌てる相手の守備陣、しかしもう遅い。



「はあああっ!!」



 全力の投擲、今日はまだこちらの攻撃が一度もゴール近くにすら行かなかった。

 故に相手のブロッカーは油断していたのだろう。



「決まったー! ホワイトクラスが土壇場で追いつきました!」



 見事に1点を決めて同点、何とか試合を引き分けで終えることができた。

 今までの試合の中で一番くたびれた。



「ふ〜ん、やるねぇやっぱり。面白いなぁ」



 ホワイトクラスの歓声、選手たちも良かった良かったとばかりに笑い合う。

 だがフィールドの中央に居る生徒―ネオスは不気味に笑っていた。

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