42話 闇の種族
俺たちの作戦で褒章狩人集団ゲリュオンのリーダー、シルバ・ザンクアリは敗北。
カジノ内に貯め込んでいた星褒章が発見され、結果としてゲリュオンは違法性が認められることとなり、一夜で壊滅することとなった。
リーダーのシルバが騎士団に逮捕されたことによって学園の被害者たちも次々と声を上げた。
そうして奪われていた多くの星褒章も元の持ち主へと返され、闇カジノも閉店した。
しかもゲリュオンを潰したことは学園側の評価に繋がり、俺とハルクやシオン、アリウスに1枚ずつ金の星褒章が渡されることになった。
一見全ては一件落着したかのように見える。
しかし俺にとって大変だったのは戦闘よりもその後で、ヴェルに黙っていたことは酷く彼女の機嫌を損ねることになってしまった。
特に一緒に乗り込んだメンバーにシオンがいたことが彼女の琴線に触れたらしく、数日は拗ねた彼女に悩まされることになった。
結果彼女の屋敷に住むための条件に、怪我をする危険のある場に行く時は必ず彼女を連れて行くこと、が加わったのだった。
そして―
「おはようローディ」
「おはようございます。ヴェル、ユーズ」
もう何度となく繰り返した朝の挨拶と通学、今日もこの学び舎へと足を踏み入れる。
俺を快く思わない人間が多いのも知っているが、友達ができたのもこの場所なのだ。
俺にとってこの学園は大切な場所になりつつある。
「さて今日も文化種族学の授業を始めるぜえ〜? 準備はいいか生徒たち」
妙に勇ましい口調で話すのは文化種族学担当のボット先生だ。
何とこのボット先生、人間とか亜人ではなく見た目が薄緑色のツボなのである。
曰く古代ツボ族の末裔だとか何とか言っているが、生きているといっていいのやら……この学園で一番謎の多い先生である。
左側には取っ手もついており、正面は顔がついていて普通に喋っている。
「さぁ教科書の46ページを開け、今日は新しい種族について勉強していくぜ」
文化種族学の教科書46ページ、そこに記されていた種族は―魔族。
「今日から見ていくのは魔族だ! 魔族と言ったら皆どうしても身構えちまうかもしれないが人間の歴史にとっても重要な種族なんだぜ?」
魔族、それは別名"闇の種族"だ。
人間よりも強大な魔力を持ち、闇の魔法を自在に操るという。
「皆も知ってるかもしれねーが魔族は約300年―正確には304年前の人魔大戦を境に急速に衰えちまった。人間の"勇者"に"魔王"が討たれて敗戦、多くの上級魔族も戦争で死んじまったと言われてる。残ったのは人間と交配できる種族のみ、それももう現代はほぼ全てが消えちまってるけどな」
今から約300年前に勃発した人間と魔族の全面戦争、それが人魔大戦だ。
双方に多大な犠牲が出たが、最終的には人間側の勝利に終わり、魔族はこれが原因で絶滅したと一般的には言われる。
「まぁ最近でこそこんなことになっちまったが、魔族とお前ら人間の交流の歴史は古い! 最初に文献で確認できるのは約2000年前だ、その時魔族は人間に魔法を授けたともいう。つまり魔法のルーツは魔族ってことだ」
魔族とは文字通り、人間より遥かに魔力を操るのが得意だったと言われる。
魔族は人間に魔力の技術―魔法を与え、人間社会の発展を促したのだ。
「さて復習はここまでにして、魔族ってのが基本的にどんなもんなのかを見ていくぜ」
「魔族ってのは言ってしまえば"魔物"の一種だ。魔力を大量に宿した魔生物、魔族はその中で人間と同等かそれ以上の知性を持つ。エルフやドワーフと同様に文明を築いていた。ただしお前らが想像する種族ってのは見た目が画一的だろ? 魔族はそうじゃない、魔物に様々な種類があるように魔族の姿は多様なもんだった」
「人に近いもんもあれば全くそうじゃないのもいる。そして種類によって持つ文化や特性も本当に様々だ、それだけ多様な生命と文化形態を包括する種族―それが魔族だ」
カリカリとノートに羽根ペンを走らせる音、既に絶滅してはいるが魔族というのは皆にとっても興味深い存在だろう。
「今でこそ魔族は絶滅しちまってるが、今でも魔物には魔族の名残りを感じさせるもんがある。例えばドラゴンなんてのは魔族が隆盛していた時代には人と同じように言葉を話し、中には何百年も生きるとんでもない個体がいたともいうぜ。トロルみたいな巨人も同じさ、昔は人間クラスの知性を持ってたらしいが今は魔族と呼べるようなもんじゃない」
「そういう風に系統単位で知性を失った原因は未だによく分かってねえけどな。人間の跋扈する時代への適応か、ある意味での進化ってもんなのかもしれねぇな」
魔族、俺は歴史の上でしかその種族を知らないが仮にこの時代にいるとすればどんなものなのだろう。
かつては人間と争い合い、滅び失せてしまったが、今ならば共に生きることのできる存在なのだろうか。
珍しく過ぎ去った時代に思いを馳せていると、ふと教科書の1行に目が止まった。
(……人間と魔族の混血は差別の元でもあった。特に魔力や外見的な特徴から、それは度々発生していた。そうした問題解決のため法整備がなされたのはアインソルト6世の……)
そうした差別への法整備がなされても、どんどんと魔族の血は薄まっていき、現在ではもはや殆ど意味をなさなくなっているとも言える。
しかしこの国における魔法の使えない者への風当たりの強さや、貴族階級の平民への関心のなさなど似たような解決すべき問題は山積みかもしれない。
歴史の彼方に消えていった種族と現代の国の矛盾、センチメンタルな気分で俺は授業を終えた。
「ローディ? 大丈夫か、ぼーっとしてどうしたんだ?」
「……い、いえ! 大丈夫ですよ」
授業を終えた後にヴェルがローディに声をかける。
確かに彼女にしては珍しく、気が抜けたような状態だった。
授業内容か何かが引っかかっていたのだろうか。
「ユーズ君、何かユーズ君に用があるって人が……」
そんなことを考えているとフエルに話しかけられる。
「俺に用? 誰だ?」
「それがさ……」
先輩と言えばグラジェクトのチームメンバーの内の誰かというのが普通だが、とにかく教室の外に出てみた。
すると……。
「アンタは……!」
「やぁ久しぶりだね。その節はどうも」
ゲリュオンのバドーの立会人、黄泉の番犬の2年生のネオスだった。
「……先輩は一体俺に何の用ですか?」
1つ咳払いをしてから要件を確認する。
このネオスという男は確か脅されてやっていただけだと言っていた。
怪しいものだが、それを否定するだけの根拠もないのでとりあえずは信用する。
「いやいや、用なんて大層なものじゃなくてさ。ちょっと気になって」
「?」
「どうしてリーダーのシルバを直接倒そうなんて真似したんだい? 普通ならやらないよ、そんな無茶なことは。確かに彼の居場所を教えたのは僕だけど、それが気になってね」
そんなもの答えは簡単だ。
「……友達が襲われた借りは返したかっただけですよ」
「ふ〜〜〜ん。なるほど……なるほど」
俺の理由を聞くと、ネオスはふむふむと顎に手を当てて考え出した。
「やっぱ面白いかも、君」
「は?」
「そういうことで。また会おう、面白い君の面白そうな友達にも興味が湧いてきたよ」
それだけ言うとネオスはさっさと言ってしまった。
全くわざわざ何をしに来たのか、腑に落ちない。
「何なんだ? あの先輩……」
「あ、ネオスって人のこと? あのさユーズ君……」
フエルが何やら深刻そうな表情で俺を見る。
「あの人……何か変なんだよ。何がって言われてもハッキリ言えないんだけど……とにかく感知しても、普通と違うっていうか……」
まぁ普通とは違うタイプだというのは分かる、しかし感知して何かが変とはどういう意味なのだろう。
結局フエルもハッキリしたことが分からないというのであまり気にしないことにしたが……。
どうにも変なのに目をつけられてしまったような気がする。
お待たせしてすみませんでした。
かなり遅れましたが、連載を再開しようと思います。




