39話 頼りになるやつら
「ほぉ……言うじゃねえか。ならさっさと見せてくれよ! 勝ち方ってやつをよ!!」
激高したバドーは巨大な真空波を放つ、しかし……。
「!? ……っ!」
バドーが当てたのは目の前に出現した鏡、氷で生み出された鏡が無数に場に現れた。
そしてそれぞれにユーズの姿が映る。
(何なんだこりゃ……鏡!? 何をしやがった……)
バドーは困惑しながらも目の前の鏡を割り続ける、しかし無数に出現していく鏡に破壊が追いつかない。
『幻魔・氷面鏡』
俺が使った魔法、それは氷の魔法と眠りの霊魔法―催眠の組み合わせだ。
俺は霊魔法に通じているわけではなく、むしろ素人レベル。
だが氷の魔法で生み出した鏡に俺の姿を映し、その全てに催眠を発生させる。
そしてその鏡を真に受けて相手にすればするほどに魔法は作用していく。
「もうお前は終わりだバドー」
気づけば俺の前で静かにバドーは倒れ込んでいた。
今頃は夢の中だ。
「ユーズ!」
ヴェルが駆け寄ってきて治癒を唱えてくれる。
「全く……途中まではどうなるかと……」
「ごめんごめん、ちょっと試したくなってさ」
催眠、かつてティモールが襲ってきたときにハルファス教頭がやって見せたものだが、こうした単純な思考の相手には効果を強く発揮するのではないかと思いやってみた。
結果は予想以上だ。
「それにしてもユーズ君以外にも……こいつらの仲間が皆を襲ってるってことだよね。助けに行かなくても大丈夫かな」
フエルが心配そうに言う。
確かにバドーの言う通りであれば、その危険はあるが……。
「いや……」
あいつらなら大丈夫、何故か俺にはその確信があった。
「それよりも……アンタ、そこから逃げるなよ」
見るとバドーの仲間の立会人なるやつに釘を刺す。
「聞かせてもらう。ゲリュオンとかいう連中のことを」
「どうした、ハルク・レオギルス。逃げ回るつもりか? 武闘家がこれほどまでに距離をとろうとは」
「はぁ……はぁ……!」
クロッグと相対するハルク、炎のバリアと拳の届かない場所へと距離をとった。
「ふ、冗談だろう。俺は貴様をこれから沈める、これはそのための準備だ」
「準備だと? ハッハッハッハッ何を愚かな!」
クロッグはハルクの発言を嘲笑う。
しかしハルクはあくまでやる気であり、両手両足を攻撃のために構えた。
(こいつ、本気で俺を倒そうというのか? だがどうやって……拳だろうが蹴りだろうがこの距離から何をしようというのだ)
「行くぞ!」
ハルクはその瞬間、地面を殴りつけた。
『地動壁!』
唱えたのは地の魔法。
クロッグの目の前に身長サイズの土の壁が地面から隆起した。
(!? これは地属性のメジャーな魔法。地面から土の壁を作り出して敵の攻撃を防ぐ防御魔法の筈だが……)
本来の目的ならばこちらからの攻撃でハルクが自分の目の前に発生させるであろう魔法、しかしどういうわけかこちら側に出現している。
クロッグが訝しんでいたその時、ハルクは脚を強化し、一気に距離を詰めた。
(だが何をしようとお前は俺に手を出せん!)
「うおおおおっっっ!!!」
ハルクは突進して右の拳を思い切り振るう。
狙いはクロッグではなく、その前にそびえる土の壁。
「ッッ……!? ぐはっ……!!」
ハルクの一撃は岩盤を砕き、その砕かれた岩盤がクロッグの身体を直撃する。
30cm大の岩が幾つも身体に打ち付けられて思わず怯む。
「終わりだ。クロッグ・バースニッチ」
(! しまった、ダメージで集中が切れっ……!)
『地砕き!』
怯んで魔法を解除してしまったクロッグはハルクの全力の拳を喰らう。
「がっ……!!!」
岩をも砕くその一撃をまともに受けるクロッグ。
これには耐えきれず、ノックダウンだ。
「どうだ、届いたぞ。俺の勝ちだ」
「あはは、僕に君の攻撃が当たんないのにどうするつもりなの? そろそろ諦めなよ」
「当ててやるわよ。当てさせる」
シオンとティミドの戦い。
ティミドはシオンの放つ火属性の攻撃魔法の軌道を全て予測し、素早いスピードで避けている。
「さてどうするのかな?」
『こうやんのよ、暴火壁!』
「!?」
シオンとティミドを囲うようにして巨大な炎上網が形成された。
確かにこれならばティミドの逃げ場は一気に削られる。
「へぇ……僕らをこんな炎で囲むとはね。君と二人っきりで嬉しいよ」
「軽口叩くのはいいけど、冷や汗かいてるわよ」
ティミドは自分でも気づかない内に焦りを覚えていた。
この状況は自分の回避能力を締め付ける空間だ、ならばやるべきは唯一つ。
(さっさとケリをつけちゃったほうがいいね)
ティミドは服に仕込んでいたナイフを次々と投げつけた。
しかしシオンは冷静に剣でそれを見切り、はたき落とす。
『爆炎弾!』
「!」
打ち込まれる巨大な火球、ティミドは狭くなったフィールドにおいてもそれを避けた。
「悪いけどこんな程度で僕の能力を殺したと思ってちゃ……」
『連華球!』
5つの火球が花弁のように分裂、サイズは小さいが圧倒的に避けづらくなっている。
(ちっ……!)
しかしティミドは間一髪でそれも避けた。
勝ち誇ったように叫ぶ。
「ハハハハッ! 無駄だって言ってるだろ! こんな場所を作っても僕の能力は健在なんだよ!」
「へぇ……これでもそうかしら?」
「!!」
後ろを振り返るとティミドのすぐそこまで炎の壁は迫っていた。
(な、何っ!? 何故僕のすぐ後ろにまで来ている? まさかこいつの魔法で誘導されてたのか!?)
「炎の壁は徐々に縮小させてもらったのよ、そしてアンタが気づかずに回避に専念するよう軌道も考えて魔法を使った。ようやく追い詰めたわ」
「クソっ!」
ティミドは悪あがきとばかりに仕込みナイフをありったけ投げつける。
だがシオンは爆炎弾を放ってそれを全て焼き尽くし、剣を抜いて駆けた。
「う、うわあああっ!!」
「峰打ちよ。私を誘うなんざ百年早かったわね」
一太刀、ティミドを斬り伏せた。
目の前の立会人なる男は何故かその見た目が特徴的に見えた。
紫の髪の毛に彫刻のような白い肌、紺碧の眼、そして仲間のバドーがやられたというのに全く動じていない立ち振る舞い。
思わず俺は目線を固定してしまう。
「どうしたの? 僕の顔に何か?」
「いや……それよりもまずアンタは何者だ?」
目の前の男はゆっくりと話し出す。
「そうだね。僕はネオス、黄泉の番犬の2年生さ」
「じゃあゲリュオンのリーダーのことを知ってるか」
「リーダー? あぁ、シルバね」
あっけらかんと言い放つネオス、どうも色々と知っているような予感がする。
「誰だって知ってるさ。あぁ言っとくけど僕はやつらに脅されてこういう仕事やってたんだ、立会人ってやつ」
まぁ保身のための嘘かどうかはこの際どうでもいい。
俺は単刀直入にそのシルバの居場所を聞いた。
「王都のエクラールム街にあるロゼっていうカジノによく居るらしいね。最近はクラスでも姿見せないし」
エクラールム街といえば王都最大の歓楽街だ。
行ったことはないが、まさに"夜の街"という空間らしい。
その後にシルバの容姿や特徴を聞き出してネオスを解放する。
だがこれからが問題だ。
「ユーズ、情報を聞き出すのはいいんですけど……まさか直接リーダーのところに行こうとか考えてませんか?」
「え、ええっ!? でもエクラールム街に夜なんて行ったら大変だよ」
「待てローディ、フエル。何もユーズは行くとハッキリ言ってるわけじゃない……どうする?」
ヴェルの冷静な態度、実際問題どうするか。
確かに見かけない学生が夜の歓楽街などに行ったら目をつけられそうだし後も面倒かもしれない。
それに俺が行くと言えばヴェルもやってくるだろう、それが最大の問題だ。
大切な一人娘が夜の街に行くなんてそんなことが旦那様や奥様に分かりでもしたら……。
「いや、一旦考えるべきだと俺は思う」
今は機が熟すのを待つべきだ。
それに俺には頼りになるやつらがいる。
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