38話 ゲリュオン急襲
パーティー合宿の夜、結局何時間もトランプゲームをして疲れ切った俺たちは翌日寝不足気味のまま過ごしていた。
「えー、ということで一泊二日のパーティー合宿のプログラムはこれで全て終了しました。あっという間に過ぎ去った時間ですが学友たちと同じ場所で寝食を共にするという経験は皆さんも滅多にあることではないでしょう。この経験を糧に今後の学生生活も…………」
(うぅ、話が長いな。正直寝不足で疲れ気味だから早く終えてほしいよ。……深夜までトランプしてた俺たちも悪いんだけど)
ハルファス教頭の話が終わり、俺たちは案内されるままに魔動列車に乗り込む。
行きとは違い、基本的に制服姿である。
「はは、あっという間だったな。思ったよりは面白い行事だった」
「ダンスパーティーもその後も皆とワイワイしてたら本当にあっという間でしたからね。でも……フエルを襲った連中の話は少し不安です」
「次も僕を狙ってくるのかな……でもヴェルエリーゼさんもローディさんもユーズも皆星褒章を複数持ってるから、気をつけないとだね」
「大丈夫だ、連中が襲ってきても今度は俺が守る」
列車の中で今回の合宿のことや褒章狩人集団のことを話し合う。
だが俺たちが思ったよりも早く、事態は展開された。
魔動列車に揺られた後、学園の最寄り駅で解散となったその時。
(! ……殺気、か)
「ゆ、ユーズ君……」
「あぁ、分かってる。どうも嫌な予感は当たったみたいだな」
「注意しつつ、固まって帰ろう。やつらの狙いは私たち全員という可能性がある」
俺たちを狙う強い悪意、俺たちが各々の家に帰ろうするその途上で―
「さっきから何を隠れてる。早く出てこいよ」
俺の声を聞いてその殺気の持ち主は現れた。
眉がなく、目つきの悪い威圧的な外見の男子生徒だ。
そして傍らにはもう1人仲間と思しき男子生徒。
「ふん、先輩への口の利き方がなってねぇなおい。それに生意気にも気づきやがったか」
「そっちこそ、殺気むき出しでついてくるやつの台詞とは思えないぜ」
「ケッ。俺はバドー、人呼んで首狩りのバドーとは俺のことよ。てめぇがユーズで間違いねぇな」
バドーは大剣を召喚していきなり手にした。
俺も剣を抜いて構えたが、周りの気配を探る限り2人の他に仲間はいないようだ。
「ユーズに手を出そうというなら私も黙っていないぞ」
「てめぇはヴェルエリーゼ・セルシウスか。いいぜ1年ども、何人でも来やがれ。どの道この場にいるお前らの星褒章は全部頂くんだからよ」
「いいよヴェル、俺1人で十分だ。それにヴェルはあのもう1人の方に気を配っててほしい」
今のところバドーとかいうやつだけが武器を構えている状態だ。
もう1人は手を出してはこなさそうだがいつ攻撃してくるかは分からない。
「その心配はいらねぇよ。あいつは立会人だ、てめぇらを潰すのは俺だけよ」
立会人?
推測にはなるが、星褒章を賭けて戦う正規の手順に則ろうとでも言うのだろうか。
恐らく教員から何か追及されても言い逃れのために用意しているのかもしれない。
「行くぜ1年、1人でやんのはいい度胸だが……後悔すんじゃねぇぜ!!」
「おい、何なんだ貴様らは。道の真ん中で往来の邪魔だぞ」
「邪魔、か。生憎と俺はお前の邪魔が目的だ。ハルク・レオギルス、星褒章を渡してもらうぞ」
同じくハルクの帰り道でもゲリュオンの手のものが現れた。
あの巨体を誇る男はその手に手甲をはめていた。
「ほう、貴様らがアリウスの言っていた褒章狩人か。まさかこんなに早く襲ってくるとはな、名を名乗れ」
「クロッグ・バースニッチだ」
それを聞くとハルクも手甲を装備し相対した。
「ねぇねぇ君さ、僕と一緒にデートする気ない? 僕はティミドって言うんだ、君は何て名前?」
笑顔で近づいてくる男ともう1人黙っている男、陽気な方は深緑色のくせ毛が特徴的に映るがどうにもキナ臭い。
「ごあいにくさま。興味ないわ」
「あっちゃあ〜! 手厳しいなぁ。フラれちゃったよ」
ヘラヘラと笑うティミド、しかしシオンはあくまで平静を崩さずに彼の伸びる手を見切って後ろへ跳び退いた。
「何のつもり? ナンパが上手くいかなかったら腹いせだとしたら随分と器の小さな男ね」
「おっとっと……不意打ちも駄目かぁ。これは思ったよりガード堅いねぇ。ま、いっか」
ティミドは攻撃を見切られたことに驚き、懐からナイフを取り出す。
「ねぇねぇ、ダメ元で聞くけどさ。星褒章くれない?」
「誰が。土下座されてもやらないわ」
「だよねぇ。……痛めつけてでも言うこときかせちゃお」
ティミドの笑みは邪悪に歪み、シオンもそれに呼応するかのように剣を手に取った。
バドーの大振りの大剣が俺の眼前に迫る。
物凄い勢いだ。
「チッ、ちょこまかと……!」
俺はなるべく打ち合いを避けて攻撃を見切る。
まともに剣で対抗してもパワーでは分が悪いだろう。
「てめぇが逃げるつもりならこっちもそれに応じさせてもらうぜ?」
「……?」
バドーは大剣を右手だけに持ち替えると、左手から風の魔力を発生させた。
「おらよ!」
不意に放たれる斬撃、それは風の魔力で作られた刃だ。
「……っ!」
頬が切れて血が出る。
大剣の攻撃と魔力の剣による二刀流、
トリッキーな動きをするバドーの攻撃は非常に読みづらく回避しづらい。
「あのサイズの大剣を片手で振り回せるのも厄介ですが、風の魔法を合わせた二刀流。正直……このままだと接近戦は不利ですね」
ローディが呟く、それと同様にユーズも接近戦はマズいと分かっていた。
(だったらこれしかないよな)
地面に掌を合わせて氷の魔力を一気に解放する。
『氷面鏡!』
「……!? 何ィ!?」
周辺の地面をまたたく間に凍らせて、強引にバドーに距離をとらせた。
「はん、そんな魔法を使えるたぁ驚いたが距離をとればいいとでも思ってやがるのか? 悪ぃがそれは通用しないぜ」
『真空乱れ刃!』
「!」
バドーの左手から放たれた真空の剣はユーズの目の前で枝分かれするかのように分裂した。
素早い動きに加えてさらに回避しづらくなっている。
「ははは、逃げろ逃げろ!」
「はあああっっっ!!!」
ハルクは手甲による攻撃をクロッグに打ち込む。
だがクロッグの纏う全身の魔力の前に怯み、その威力は当たる直前で一気に衰えた。
「くっ……!」
「くく、幾らやっても無駄だ。お前の攻撃は俺に届かん」
見るとクロッグの身体を覆っていたのは、火の魔力で生み出された炎のバリアだった。
これでは幾らパワーのある拳を打ち込んでもクロッグに届く前に威力を殺されてしまう。
「お前が俺を殴れるのはお前の拳が焼かれるときだけだ。そして……」
クロッグの放つ炎を纏ったパンチ、その熱さでハルクは防御が上手くできずに防戦一方に追い込まれる。
(くっ……!! こいつを倒すには本当に拳を焼くしかないというのか!? いや……)
『爆炎弾!』
シオンが放った火球、並の相手ならば防ぐのもやっとだがティミドは違う。
「はははっ、いや〜当たったら熱そうだねぇ」
(コイツ……ちょこまかと動き回って……全ッ然当たらないわね……!)
全ての魔法攻撃を避け続けるティミド、そのスピードもさることながらシオンの放つ魔法の軌道をいとも容易く読んでいる。
それもその筈、ティミドは感知能力に長けており、さらに攻撃に魔力を回さず、スピードを集中的に強化しているのだ。
「僕は避けるの上手くてさぁ、君みたいな攻撃タイプって魔法がみ〜んな直線的なんだよね」
「うっ!」
そしてティミドは小型ナイフを投擲して徐々にシオンにダメージを与えていく。
「ふふっ、いつまで耐えられるかな? 早く君の泣き顔がみたくなってきちゃった」
「うっさいわね……!」
(と言ってもこのまま避け続けられたら私の魔力の方が切れる……マズいわね。……!! これならもしかして)
「ユーズ!」
ヴェルが思わず叫ぶ。
俺の肩に風の刃が当たり、ドクドクと血が流れ出していたからだ。
「くっ!」
そして身を乗り出して自分がバドーと戦おうとするヴェル、しかし俺はそれを諌めた。
「大丈夫だよヴェル。こいつの倒し方はもう思いついた」
「あぁ? 何をフザけたこと言いやがる、防戦一方の癖しやがって。いいこと教えてやろうか? 今頃お前のお友達たち、ハルクとシオンっつったか? そいつらに俺の仲間が行ってる、そろそろ勝負もつくころだろうぜ」
「! そうか……ふふっ」
それを聞いて思わず俺は笑みがこぼれる。
「……何がおかしい! このクソガキがぁ!」
「心配ないってことだよ。あいつらも俺と同じ、今頃は勝つ方法が思いついた頃だぜ」
不敵な笑みを浮かべているユーズ、しかしそれら彼に限らずハルクやシオンも同じだった。
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