34話 列車に揺られて
その日、俺たちは魔動列車に揺られながらパーティー会場へと向かっていた。
何とこれは王立魔法騎士学園の伝統行事、一泊二日のパーティー合宿なるもののためだ。
この魔動列車で1年生と2年生が運ばれている。
「……やはり堅苦しいな、この格好は」
ヴェルはいつもと違って貴族に相応しい高級なドレスに身を包み、髪もしっかりとまとめていた。
俺も今回は正装を着て前髪を上げ、フォーマルな雰囲気を心がけている。
といってもこれもセルシウス家に貸してもらったものだ、世話ばかりしてもらって本当に頭が上がらない。
「いやでもそういう格好のヴェルも新鮮に感じるよ」
「そうか? まぁ私は基本的に外で動き回っているからな、確かにそうかもしれないな」
「ヴェルは昔からそうですもんね。本当に何度振り回されたことか……」
ローディが昔を懐かしむように言った。
彼女も今回はドレスを着ているが、何というか失礼かもしれないが意外にもスタイルがよく美しい。
今まで気づかなかったことだ。
……急にこの場面でこんなことが頭を過ぎってしまう自分を殴りたくなった。
「いや〜楽しみだね。山奥の屋敷に泊まりがけのパーティーなんて」
フエルが珍しく楽しそうに喋る。
彼の言う通り、今回俺たちが行く先は王都から離れた山奥の麓にある学園所有の屋敷らしい。
そこで何やら貴族の嗜みとかいうよく分からない理由で学生同士のパーティーを行うとのこと。
本当に楽しいイベントなのだろうか?
「……でもこないだは凄かったよね。何かもう夢みたいだよ」
フエルはついこないだにあった地下迷宮攻略の演習授業を思い出していた。
俺たちも今思えばよくぞあれ程頑張ったものだ。
「帰った時に異様な雰囲気でしたもんね。しかもその後は新聞部の記事一面に報道されちゃうし……」
________
「……やったなユーズ! 勝ったぞ!」
「はぁ〜良かったです……! 上手くいかなかったら本当にどうしようかと」
「す、凄い! やったやった!! やったよユーズ君!」
10階への道に立ち塞がる最後の関門を倒した俺たちは喜びにうち震えていた。
しかし冷静さを取り戻すと、本当に俺たちの推測が当たっているのかどうか、疑いが首をもたげ始める。
もしかすると10階にも似たような敵が存在し、それを倒さねばゴールとは言えないのではないか。
今更考えても詮無いことではあるが、俺たちは覚悟を決めた。
「降りるぞ……」
相変わらずヴェルを先頭にして、最後の階段に足を踏み入れた。
降りた先は……。
「明るい……?」
今まで潜り抜けてきたどの階層とも違う雰囲気。
妙に明るく、最下層とは思えない空間だ。
「あれが原因でしょうか?」
ローディが指さした先にある台座に安置された松明の炎。
しかしその炎は青白く光っており、部屋全面を照り輝かせていた。
「炎にしちゃ明るすぎるよねコレ。何なんだろ……うわっ!?」
フエルが炎に近づいたその瞬間、青白い光がさらに強さを増し、同時に足元に魔法陣が現れた。
そして光が元の強さに戻ると……。
「コングラッチュレーション!!! おめでとう」
「あ、アルゼラ先生?」
そこに立っていたのはアルゼラ先生だった。
俺たちを迎えるようにパチパチと拍手をしていた。
「これでゴールだ……よくやったよ。1年生にしてこの第三演習場―地下迷宮を完走したのは君たちの班が歴史上初めてだ」
その瞬間、初めて俺は身体から力が抜け、安心という思いに包まれた。
やり遂げたのだ。
「は、は、初めて……? じ、じゃあ僕たちって……!!」
フエルが興奮しながら騒ぎ立てる。
それを見たアルゼラ先生が諌めながら話を始めた。
「本当に君たちの班は素晴らしい。各々が自分の長所を活かし、仲間を気遣い、苦しい時でも決して結束を崩すことなくここまでたどり着いた。それこそが最も讃えられるべきことだよ」
「そして君たちはホワイトクラスで一番最後まで残り、一番奥まで到達した。その班にはメンバー全員に銀の星褒章を渡すという規定があるんだが……」
そう言ってアルゼラ先生がこちらに差し出してきたのは金の星褒章4つだった。
「この地下迷宮攻略演習でゴールした班にはこの金の星褒章こそが相応しい」
そうして俺たちは得たのだ。
金の星褒章を、俺たちが班として結束し、先へとたどり着いたその証を。
その後アルゼラ先生に連れられて教室に戻ると、クラスメイトたちからの視線はまさしく異様ともいえるものだった。
驚き、羨望、尊敬、妬み……とにかく言葉にし難いごちゃまぜの何かを俺たちは感じていた。
さらに後日には俺たちの活躍が新聞部によって報じられ、俺とヴェルは再び一面を飾ることになった。
"歴史上初! 地下迷宮完全制覇を成し遂げた1年生たち"
その見出しをみながら俺たちは苦笑し、時には新聞を見たことでやってくる連中を軽く受け流したり……。
ハルクには永遠のライバル扱いをさらに強くされ、ヴェルはシオンとまた何か揉めていた。
そしてアリウスは……何故か高級ハーブティーを寄越してくれた。
お祝い、ということなのだろうか。
________
「う〜ん、夢みたいだったよ。僕が学園新聞の一面に乗るなんて……」
「おーい戻ってこい」
フエルが何か夢の世界に浸っていたのでこっちに呼び戻す。
「あ、見えてきましたよ。あれですね」
「中々大きいな、山に囲まれているとは迫力がある」
そろそろ列車は目的地に着くらしい。
いよいよパーティー合宿なるものの始まりだ。
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