31話 突破
突入、ユーズたちは地下迷宮に足を踏み入れた。
既にいくつかの班も中へと入ったようだが、まずはその広大さに驚かされる。
「これが本当に地下かよ」
内部の見た目は石畳の引かれた巨大遺跡といったところか。
通路の幅も広く、人が30人くらい並んでいても通れそうだ。
両側にはずらっと置かれたランプの火が不気味に輝いている。
「遠い昔の王立魔法騎士学園が創立された時代より遥かに前、古代文明時代に作られた遺跡を改修して利用しているらしいですよ。ここまで来ると失われた技術ですね」
「まったくそうだな」
ローディの解説を聞いて納得する。
これほどの大規模な地下建造物を今の時代に作るのは殆ど不可能といっても過言ではない。
しかもこれが10階まで存在するというのだ。
「さて! そろそろ行こうか。慎重かつ大胆にな」
ヴェルの声掛けに皆頷き、いよいよ奥に向けて歩き出す。
薄暗いとはいえランプの灯りのお陰で割とすんなり進める通路だ。
ヴェルと俺を先頭にして歩を進める。
フエルには常に感知能力を使わせているが、今のところは問題なさそうだ。
「分かれ道……か」
ヴェルが立ち止まってつぶやく、行く手の道が二手に分かれていた。
どっちが正解なのかはハッキリ言って全く分からない。
どっちかが行き止まりでそれより深くにいけない構造になっているのかもしれないし、あるいは難易度が違うだけでどっちも地下2階に続く通路なのかもしれない。
「……不思議ですね。通路に色が塗られてますよ、赤と青」
ローディが言った通り、何故か2つの通路には色が塗り分けられてもいた。
右が赤で、左が青だ。
(何か意味があるのか? 推測だけなら何とでも言えるが……ここはフエルに任せてみるか)
「どうしましょう。外れたらタイムロスにはなりますけど当てずっぽうしかないですかね、班を分けるのは得策ではないでしょうし」
「フエル、俺に考えがあるんだけど……できるか?」
俺はフエルに両方の通路から空気の流れを読むように言った。
さらなる地下に続いている道ならば僅かに行き止まりとは空気の感じ方が変わってくるはずだ。
「う、うん……やってみるよ」
意を決したフエルは目を閉じて意識を集中し始めた。
そして……。
「! こっちだよ。きっと正解は右の方だ、左は先で行き止まりになってる」
これまでになく自信に満ちた表情で答えるフエル。
それを見たヴェルやローディも信ずるに値する情報だと感じたのか、顔を見合わせて頷いた。
「よし。なら右の方に進もう」
「流石ユーズたちはやるね。こういう状況で人は2色を目にしたときに青を選びたくなる。冷静に班員の能力を駆使して正解を選んだね」
アルゼラ先生が上の部屋で既に出発した班の動きを水晶玉で確認していた。
時折ランプには監視用の水晶玉が混ざっており、教員には地下迷宮内部の状況を確認できるのだ。
「間違った方を選べば待ち受けているのはトラップと行き止まり。とはいってもまだ始まったばかりだ、期待してるよ皆」
分かれ道の先は地下2階への階段であり、俺たちは正解を確信してそのまま降りた。
地下2階も同様に広大な遺跡の様相で、大した違いは見えない。
「! 何かいるよ、皆気をつけて」
フエルが何かを感知したらしい。
すると前方から走って逃げてくるクラスメイトが1人。
「う、うわあああっっっ!!!」
どこかで見たことのある角刈り。
そういえばあのキャゼル・アークスの取り巻きの1人だ。
その顔は焦りと恐怖で歪み、よほど恐ろしかったのか俺たちに目もくれずに1階へと逃げていってしまった。
「な、なんでしょうあれ……」
「あの男がフエルの感じた気配なのか?」
「う〜ん……いや、違う。この先に別の何かがいるんだ。多分、アイツの班を襲った何かだよ」
そのフエルの言葉通り、気をつけながら先に進んでいく。
その時だった。
「くるよ!」
「!!」
フエルの叫びと気配に反応して俺は剣を抜いた。
けたたましい金属音が鳴る。
「こいつは……」
「暗殺人形です!」
腕に鋭い刃が取り付けられた無機質なのっぺらぼう、人の形をしているが明らかに人工物だ。
どうやらキャゼルの班を襲ったのもこいつのようだ。
「らあっ!」
剣に力を込めて弾き返す。
すると暗殺人形は後ろに飛んで、その細い足で着地した。
『水流柱!』
着地したところを狙ったヴェルがすかさず魔法で追撃する。
完全に直撃だ。
「……! 何ッ!?」
間違いなく水流柱が当たった筈だが暗殺人形は一切怯むことなくこちらに向かってきた。
『氷塊!』
咄嗟に氷の壁を作り皆を守る。
分厚い氷が刃を防いだが、何故この人形に水流柱が効かなかったのか。
「これは耐魔法装甲を備えてるのか」
ヴェルが人形の表面を見て気づいた。
耐魔法装甲、薄い鎧のような魔力障壁が身体を覆っている。
水流柱が効かなかったように見えたのもこれが原因だろう。
「これは私に任せてください」
ローディが前に出て、詠唱を始めた。
『闇雲』
闇の魔力で作られたガスが球状となって撃ち出される。
そのガスに包まれた暗殺人形は突然ガタガタと震えだし、機能を停止した。
「と、止まったの?」
フエルがやや警戒しつつも、俺の後ろから顔を出す。
「こいつを止めたのは闇魔法の効果だな」
俺が言うとローディはその通りとばかりに頷いた。
「そうか、闇の魔法は魔力を吸収する性質がある。暗殺人形の動力源は魔力だからそれを奪い取って機能停止に追い込んだんだな」
「説明ありがとうございますヴェル。既に性質変換や具現化を経て物質化した魔力だと吸収する効率が低くなりますが、この人形の場合は魔力そのものですからかなり有効でしたね」
ローディの魔法がこんなところで強力な攻撃手段となるとは。
やはり班というのは心強い。
「……ん? あ、あれって」
フエルが先を見渡すと通路にキャゼルたちが倒れていた。
恐らくこの暗殺人形を倒せずにやられたと見える。
しかし直に転移魔法陣が現れ、キャゼルたちは姿を消した。
この演習授業は死なない程度にトラップや敵が妨害をし、やられたらあのように転移魔法で回収される仕組みになっていると先生は言っていた。
「俺たちもああならないように気をつけないと、だよな」
「ユーズの言う通りだ。けれどようやく面白くなってきた」
ヴェルは武者震いがするといった様子だ。
確かにこの授業は中々歯ごたえのある内容だが、この4人なら必ず突破できる、俺はそんな予感というか確信に近いものがあった。
「!! や、ヤバいよ。向こうの奥の方に……5体くらいはいる、かも……」
フエルが先の方を見つめて言う。
これと同じものが5体か、それなりに厄介そうだ。
こちらも慎重に近づくが向こうの方はこちらを感知する能力があるのか、一斉にこちらを見定めてきた。
「よし、私とユーズは物理攻撃主体でいく。ローディは魔法で一体ずつ確実に狙ってくれ」
ヴェルの指示を聞いて突撃、先手必勝だ。
「うん、見事だ。個々の能力を最大限に活かしチームワークも抜群。もしかして君たちなら……」
アルゼラ先生は再び水晶玉を見つめながらつぶやいた。
期待、そんな言葉を超えた感情をユーズたちに抱きながら―
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