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29話 やるしかない

「……! おお、凄い相性だ! 君たちはブレイカーの才能があるな!!」



 あのグラジェクトの授業、俺とヴェルは2人でブレイカーをやってみたら予想以上に息が合っていることが分かった。

 並の初心者は剣をパスして受けることすらままならないが、俺はヴェルとなら上手く連携ができたのだ。



 驚くムスクルス先生とクラスメイトたち。

 それを見たヴェルは得意気にしていたが、話はこれだけで終わらなかった。



「君たちが噂の新入生なんだって。俺は3年生のディーン・ガジェット! 是非ホワイトクラスの選手として活躍してみないか!?」



 その翌日ガタイのいい短髪の男子上級生が俺とヴェルに話しかけてきた。

 グラジェクトにおける天空の鷲獅子(ホワイトグリフォン)のチームキャプテンらしく、俺たちの噂を聞きつけてきたとのことだった。



 どうやらホワイトクラスのチームは昨年、一昨年ともに全クラス内でシーズン順位は最下位であり、特に得点力が低かったらしい。

 そのため俺たち1年生にもセンスのある人間を探して試合に出させようと考えていたみたいだ。



「でも1年生がいきなり試合なんて出来るものなんですか?」



「大丈夫だ問題ない! 慣れるには実践あるのみ。それになんたってブレイカーは試合の花形だからな、活躍したペアは学園中で注目の的だぞ!」



 俺の心配も意に介さず、ディーン先輩はそう言って勧誘を続ける。

 隣りにいたヴェルを見ると何やら思案していたが……。



「よし、その話受ける。私とユーズでチームに入ろう」



「おおっ、よく言ってくれた! じゃあ早速今日の放課後に練習場に来てくれ!!」



 こうしてヴェルの一声で俺も一緒に参加することになったのだった。







________








「さぁ皆さんお待ちかねのグラジェクトが今年もやってきました! シーズン開幕試合、ホワイトクラスとイエロークラスの戦いです!」



 歓声の中、実況が始まった。

 互いのチームの選手たちは初期位置に構え、試合開始に備える。



「ホワイトクラスは2年連続で最下位! しかし今年は最下位脱出のため、いきなり奇策を弄してきました。何とブレイカーを務めるのは1年生2人です!!! 速攻のホワイトクラス、堅守のイエロークラスといったところでしょうか」



 一気に俺たちに注目が集まった、何でもグラジェクトの試合に1年生が開幕試合で出るのは異例のことで約70年ぶりだとか。



「いや〜凄いね2人とも。1年生なのに試合だなんて。大丈夫かなぁ」



「ヴェルは心配なさそうですけど……ユーズはちょっと緊張してるみたいですね」



 観客席から見守るフエルとローディ。

 心配と期待が交差する。



ピーーーーッッッ!!!



 笛の音がけたたましく鳴り、試合開始が宣言される。

 いよいよだ。



「さぁ、始まりました!!」



 まずは互いの最前衛、ブレイカーがフィールドの中心に突き刺さっている剣を奪い合う。

 これを先に手にした方のチームが最初に攻撃に移れるというわけだ。



 開始のホイッスルと共にいち早くダッシュしていたヴェルが相手より先に剣を手にした。

 その瞬間、フィールドがゴゴゴゴと地響きを立てる。



(! 地形の変化……こいつがグラジェクトのウリってやつね)



 グラジェクトの特別ルール。

 それは試合開始の際にフィールドがランダムに変貌することだ。

 そういう術式がフィールド全体に組み込まれているらしく、これもまた人気要素の一つらしい。



 俺の立っている場所もただの土の平地から急激に姿を変える。

 他の選手たちも衝撃に耐えつつフィールドが変化するのを待っていた。



 地面が盛り上がり、まるで小規模な山のように起伏が出来上がる。

 さらに水源から水が吹き出して川となり、樹木が生え出でた。



「今回のフィールドは"マウンテンストリーム"!! 傾斜のある自然環境のような空間をどのようにして選手たちは駆けていくのでしょうか!?」



(いいかユーズ、ヴェルエリーゼ、落ち着けよ。この地形の変化はグラジェクトの基本だ。そして今回は中央が山になってる以上先に取ったこっちがかなり有利だ、一気に攻撃していこう)



 コンダクターのディーン先輩が俺とヴェルに指示をする。

 それを聞いたヴェルは俺の方に目配せしてから一気に駆け出した。



「待て1年ども! こっから先は通さないぜ」



 ヴェルの前に姿を現す相手チームのガーダーたち、こちらが1年生だと思ってナメているのか強引に奪いに来たようだ。



「私たちのコンビネーションを侮るなよ」



 ヴェルは一切後ろを向かずに逆手で剣を投げた。

 俺があらかじめ走り込んでいた方向、タイミングもバッチリだ。



「何ッ!? 全く相方の方を見ないで逆手パスだと!?」



 相手の意表を突く攻撃、俺はそのまま坂を駆け下りた。



「おーっと! ホワイトクラスのブレイカーがイエロークラスのガーダーたちを突破しました、一気呵成に攻めていきます!!」



(後はあの的に投げりゃいいんだろ)



 俺はあらん限りの力を込め、オーバースローで剣を振り下ろした。

 だが……。



「ここでイエロークラスのブロッカー、3年生のジェレミー・ロッドが防ぎました! 流石の防御力です」



 盾を持った相手ブロッカーに弾かれてしまった。

 そして主導権が入れ代わり、今度は相手チームが攻撃してきた。



(やっぱやるなアイツは。昨年の防御力1位の天才ブロッカーだ。素早くこっちの攻撃の方向を見切るだけじゃなく、並大抵のパワーだと簡単に弾かれちまうんだ。あんま気にするなよユーズ)



 ディーン先輩による解説とフォロー、しかし全力で投げても防がれてしまうとはどうしたものか。

 その後も一進一退、しかし互いに点が中々入らない状況が続く。



「こっちの防御も頑張ってるがそろそろ点が欲しいところだな。このままだとズルズルと相手のペースだ」



 ヴェルが汗を流し息を切らしながら言った、確かにスタミナを考えれば守りに自信のある向こうが有利だ。



(ユーズ、ヴェルエリーゼ、こうなったら仕方ない。お前らのアレを見せてやれ)



「! ……練習でも不完全だったし、大丈夫か?」



「だがやるしかないな。行くぞユーズ!」



 考えてる暇はないか、いちかばちかだ。

 練習をしている中で編み出した攻撃技。



(おい、あの1年生ブレイカーどもが妙な動きをしてる。備えろよ)



 イエロークラスのコンダクターから指示を受け、前を見据えるガーダーたち。

 彼らも最初とは違い、ユーズたちの動きをしっかりと警戒していた。



「!!? アイツら……並んで剣を持って走ってやがるぜ!?」



 ユーズとヴェルは互いに剣の両端を持って並走していた。

 全く同じペースではあるが、こんなブレイカーの動きは見たことがない。



「だがチャンスだ! 今囲めばパスもできねぇ」



 こちらに走ってくるガーダーたちを見る。

 そろそろ頃合いか。



「行くぞユーズ」



「あぁ!」



 2人で全く同じ比率の強化(ライズ)を纏わせる。

 さらに互いの体勢を完全に一致させ、手を放すタイミングも合わせる、この状態で……。



「!! 何だ、2人で……投げやがった!?」



 物凄い勢いで剣が坂から一直線に放たれる。

 1人で放おった時と比べものにならないパワーだ。



「こんなもん、止めてや……!!? うわっ!!」



 ブロッカーのジェレミー・ロッドの身体ごと吹き飛ばして剣が的に突き刺さった。



「!! 遂に均衡が破られました、ホワイトクラス1点! ホワイトクラスの1年生ブレイカー、何と2人同時に投げることでパワーが圧倒的にアップしました!」



 観客席がどよめき、歓声が上がった。



「うおおおー!!! やるじゃねーか1年!」



「すげぇぞ!! あんな攻撃見たことねぇ!」



(やりやがったなアイツら。全く同じタイミングで力を込めて放出できる、他人とは思えない、あり得ない息の合いようだよ。俺の目に狂いはなかったぜ!)



 ディーンが満足そうにニヤリと笑う。

 練習の際、そのコンビネーションの良さからあの技をやってみるように促したのもディーンだった。



 その後の試合展開は、ユーズたちの攻撃を警戒し動きが鈍くなったイエロークラスをそのまま抑え込み、見事ホワイトクラスは開幕試合を勝利で飾った。

 そしてユーズとヴェルの活躍は学園の新聞部による広報がなされ、その名を一躍有名なものとしたのである。

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