28話 グラジェクト
「皆、これから先週に行った中間試験の結果を発表する。既に知っているとは思うが、筆記試験と実技試験の結果を組み合わせたものが成績だ」
その日、アルゼラ先生が中間試験におけるクラス内の上位成績者を発表した。
1位 ヴェルエリーゼ・セルシウス
2位 ユーズ
3位 ローディ・アレンシア
教室に歓声と困惑の声が上がった。
「やっぱりセルシウス家はすげぇな。ふん……変わり者の一族のくせに」
「何であの平民が2位なんだ……!?」
俺は机に頬杖をつきながらざわつく教室内に一歩距離を置いていた。
正直に言えば中間試験の成績にはさほど興味はなかった。
それ以上にヴェルが少し誇らしげな表情をしていたのが嬉しい、やはり1位を取るというのは彼女にとっても大きな意味を持つのだろう。
「ヴェルエリーゼ、君がおさめた優秀な成績に対してこれを贈ろう。金の星褒章だ」
ヴェルは教室の前に出てアルゼラ先生から金の星褒章を受け取る。
これでクラス内の星褒章はヴェルが金と銀を1つずつ、俺が銀と銅を1つずつ、ローディが銀を1つだ。
「やりましたねヴェル」
「あぁ、まさか1位とは思わなかったよ。けどローディもユーズも隣合っていて嬉しかった」
笑い合って互いに健闘を称え合うヴェルとローディ、やはり何だかんだ言っても優秀な一族の出というところが分かる。
その後は一人ひとりに細かい得点数などが記載された成績表が渡されていった。
「ユーズ、ちょっといいかい」
昼休みになって、皆が食堂に移動しようとしているときに俺はアルゼラ先生から呼び止められた。
ヴェルたちに後から行くから先に行っててくれと言っておく。
「何ですか?」
「ユーズ、中間試験の筆記……ワザと間違えて答えただろう? 全科目、どれも丁度80点になるように解答したね」
正直バツが悪い、まさかバレるとは思わなかった。
「……わかりましたか?」
「そりゃそうさ。全科目で80点なんてのはワザとでもない限りあり得ないだろう。君ならもっと高い点数をとれた、というかクラス内1位も狙えただろうに、どうしてこんなことをしたんだい?」
「あまり1位をとることに執着がなかったから……ですかね。監督生になるために頑張ってる人がいる、でも正直に言えば興味のない俺はそういう人を邪魔したくなかった」
理由をハッキリと告げる。
俺はハルクやアリウスの姿を見て、自分と比較していたのだ。
それに監督生という立場はヴェルのような人間が圧倒的に相応しい、そう思っていることも事実だ。
「まぁ君がそう思っている以上、仕方がないね。君の言ってることも間違ってはいない」
アルゼラ先生はやれやれといったふうにため息をつく。
「前にヨーゼル校長から言われたこと、覚えているかい?」
ヨーゼル校長……もしかしてティモールの騒動の後に校長室へと呼ばれた時のことだろうか。
「校長は君に騎士の素質があると仰った。つまり、僕が言いたいのはユーズは自分のことをもう少し考えてみてもいいんじゃないか?」
「俺のこと?」
「そう、君自身のことだ。もちろんヴェルエリーゼや他の生徒たちのことを慮ったっていい。けどそれだけじゃなく、君は自分が将来この国で大いなる騎士になる可能性があると……」
将来騎士だって……?
特別な血も引かない、平民でしかない、この俺が?
「ここはそうした才能ある生徒を相応しい舞台へと上げるための学園だ。君には彼らをも凌ぎ得る才能と素質がある……一度、真面目に考えることをオススメするよ」
それだけ言うとアルゼラ先生は去っていった。
その後俺はヴェルたちを追いかけながら、自分が言われた言葉を何度も頭の中で繰り返していた。
午後の授業は「グラジェクト」というスポーツをやることになった。
「グラジェクトって……何だっけ?」
どうも俺以外のクラスメイトは皆知っていたらしく、フエルは信じられないと言わんばかりに大口を開けていた。
「グラジェクトっていうのは王国で一番人気のスポーツなんだよ。簡単に言うと競技場内で刃が上下についた両剣を奪い合って、手に取ったら相手ゴールに投げて得点を競うゲームさ」
ディアトリス家でこうした知識は必要なかったが故に俺は全く知らなかった。
フエルから簡潔に教えてもらったが、何だか結構危なそうな競技だ。
2つのチームが対戦し互いの人数は7人ずつ。
ポジションは相手陣地に突き進むブレイカーが2人、味方陣地に攻めてきた相手を妨害するガーダーが3人、ゴールを守るブロッカーが1人、伝心魔法によって自軍の指揮をとるコンダクターが1人という内訳である。
特に得点に絡むブレイカーはコンビのため、よほど息が合わなければ難しいらしい。
学園の競技場は結構な広さで長方形のフィールドが縦に150m、横に60mとなっている。
そして剣を投げる先のゴールは大きな的で、これに剣が突き刺さると得点になるとのこと。
あと当然かもしれないが相手を攻撃する魔法や影響を与える魔法も禁止で、使えるのは肉体活性化の強化だけ。
「ぐあぁっ! 痛ってぇ!!」
「うわっ!」
授業を見ていると皆、かなり剣のパスに苦戦している。
取り損ねて手を怪我する者、怖がって剣を避けてしまう者、随分と初心者に厳しいスポーツだ。
「ハッハッハッハッ! 難しいだろう。だが各クラスのグラジェクト選手たちはいつもこれをこなしている。そろそろ開幕のシーズンだからな、君たちの中にも才能を見せれば試合に出られるかもしれんぞ」
ムスクルス先生が生徒たちを焚き付ける。
しかし中々上手くはいかない、そしていよいよ俺たちも体験してみる番になった。
________
ワーワーと歓声が上がる競技場。
グラジェクトの校内シーズン開幕試合を学園の多くの生徒たちが見に来ていた。
だがその競技場内にやや困惑気味のまま参加する男が1人。
「……何でこうなるんだ?」
あの授業から3日後、俺とヴェルはグラジェクトの試合のために競技場に居た。
ホワイトクラスのチームメンバーとして参加することになったのだ。
「ユーズ、頑張ろう。やるからには勝たなきゃな」
隣りにいるヴェルは完全に乗り気である。
ローディとフエルも観客席で俺たちを見ているが……まさかこんなことになるとは。
ホイッスルが鳴った、試合開始だ。
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