27話 ケーキ屋修業②
*箸休め回のつもりが思ったより長くなったので分割しました
「ふぅ、一息ついたな」
ヴェルが少し疲れたように話しかけてきた。
確かに繁盛店の店員をいきなりやらされて、中々大変だったのは事実だ。
悪いのはこちらとはいえ……。
「にしてもアリウスの妹って……いい娘だったな」
先ほどまで居たアリウスとその妹、だが彼らの帰り際、俺は妹アメリアに呼び止められた。
「あの……お兄ちゃんのお友達、ですよね?」
「えっ? あぁ……まぁ……」
あくまで店員として接していたが、何となく顔見知りである雰囲気は彼女にも伝わっていたのだろう。
「お兄ちゃんって本当はとっても優しいんです。でも不器用だから……だからお兄ちゃんとこれからも仲良くしてくださいね?」
「……あぁ、分かってる。約束するよ」
俺は身体を屈めて彼女と指切りした。
そのうち、もう会計を済ませたアリウスが彼女を連れて行った。
「あんな健気でかわいい妹がいるんだから羨ましいやつだよ」
別に深い意味はなく、口をついて出た発言だったのだが、俺の言葉を聞いたヴェルは怪訝な顔でこちらを見てきた。
「ま、まさか……ユーズはあのくらいの歳の娘が好みなのか? 流石にそれは……」
「ご、誤解だって!!」
慌てて否定するが、新たなお客がやって来たので一旦営業スタイルに切り替える。
「いらっしゃいませー」
「……!!」
そこにいたのはまたしても顔なじみ。
烈火の覇竜のシオン・エルメージュだった。
あのストイックな修業をするシオンも意外とこういう流行りの店に興味があるんだな。
ユーズはそんな風に思考していた。
「な、何でアンタがこんなところに居るのよ!」
「何でって……別に悪いことしてるわけじゃ……」
「そ、そりゃそうだけど……」
何か納得いかない様子のシオンだが、店の中へと入りテーブルには着く。
「カステラパンケーキとコーヒーをちょうだい。…………な、何よその顔! 私がこんな流行りのケーキ屋に来るなんて意外だとでも言いたい訳ぇ!?」
別に表情を変えてるつもりはないのだが、シオンは何か致命的に恥ずかしい姿を見られたとばかりに食ってかかってきた。
しかし考えてることは当たっている、まさかの読心術か?
「そんなこと考えてないって……カステラパンケーキとコーヒーですね。直ぐにお持ちいたします」
ヴェルにシオンのいるテーブルに配膳してくれるように頼み込む。
これ以上シオンの機嫌を損ねるのは面倒だ。
「!? アンタはヴェルエリーゼッ……何でアンタまで居るのよ!」
……ヴェルに行かせても騒がしいのは同じだった。
ちなみにケーキを食べていた彼女の顔は見たこともないくらいに穏やかで幸せそうだったが、顔を見ていたことがバレて怒られた。
そしてしばらくすると―
今日一番の驚くべき客がやって来た。
「いらっしゃいませー」
ユーズは普通の客のように出迎える。
だが、そこにいたのは……。
「ホホ……噂通り良い店のようじゃな。じゃが、まさか君が働いてるとは思わんかったのう」
優しげな笑みをたたえた老人。
王立魔法騎士学園の校長ヨーゼル・セフィラスが来たのだ。
「こ、校長先生?」
王国で最も偉大な魔術師であり、偉大な騎士と呼ばれた人物。
アリウスやシオンが来たところでそこまで驚きはしないが……。
「こんなジジイがケーキ屋に来て驚いたかのう? ワシは実は甘いものには目がなくてな……この店も評判を聞いてやって来たのじゃ」
「い、いえ……別にそんなことは」
(いや、そうだよな。冷静に考えれば別にヨーゼル校長がケーキ屋来たって何もおかしいことはないし、爺さんがケーキ食べるのだっておかしくないよな)
俺は何となく似つかわしくからといって判断する偏見を自覚した。
ヨーゼル校長がテーブルに座る。
しかしどうしても何というか、威厳のある老人がここに座っていると異質な光景に映ってしまう。
「ふむ……どうしようかのぉ」
首をひねって考え込むヨーゼル校長。
考えた末にホットケーキと黒糖入ミルクティーを注文した。
甘党なのは分かるが、結構普通の注文である。
「お待たせしました」
「ホホ……来たか。さて……タバスコとチリペッパー貰えるかの?」
「……!!?」
一瞬何を言っているのか分からなかったが客からの要望だ、やむを得ずに俺は店長から所望の品を貰ってきた。
そしてそれを校長に渡すと見た目全てを覆うぐらいにかけまくっていた。
「いや〜、これがたまらんな。至福とはまさしくこのことじゃわい。甘さと辛さの織りなす完璧なる……」
もはや別の何かと言ってもいい真っ赤な姿に変貌したホットケーキを食し、幸せそうな表情を見せるヨーゼル校長。
(おかしなのは爺さんがケーキ屋に来ることじゃねぇ……校長の嗜好だった……)
「今日はご苦労さん! よく働いてくれたな」
「いや、こっちこそいい経験になった」
店主に労いの言葉をかけられる。
ヴェルの言うとおり、一日だけでも店で働く経験は確かに良いものだった気がする。
「ほれ、持っていきな」
「? これは……」
店主から箱を渡された、それはケーキの入った箱だった。
「帰って彼氏と仲良く食べな」
ニッと笑いながら、サムズアップを掲げる店主。
「…………!! か、彼氏……」
「ありゃ、違うのかい? 随分仲が良いみたいだからてっきり……」
ヴェルは彼の発言を意味をワンテンポ遅れて理解したようで、瞬く間に顔を赤らめながらも悪い気はしないようだった。
「はは……からかわないでくださいよ。ありがとうございます」
ユーズも恥ずかしげに頭を掻きながら、ケーキを受け取った。
(ったく……今日は何か一日中、色々あったけど……)
まぁ、こういう日もたまにはいいか。
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