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25話 これが最後

(この魔力は……!)



 ヴェルは初めて、いやユーズの魔法を最初に見て以来久しぶりに―相手の魔法を目にして畏怖という感情を覚えた。

 シオンの身体に膨大な量の魔力が集まり、魔力は炎となって立ち昇る。



『業火よ、竜となりて災いを灰に変えよ! 焔竜乱舞(クリムゾン)!!』



 シオンは剣を横に構えると、彼女の重ねた両手から燃え上がる炎が竜の形に変わった。



「す、すげぇ! 何だあの魔法!?」



「学生の使う魔法じゃないぞ!」



 観戦していた生徒たちもその迫力に圧倒され、驚嘆する。

 対して試験官はこの規模の魔法はまずいと感じながらもその威力に怯んで、手を出せないでいた。



「この炎は追尾する! アンタがどう動いてもこの場所じゃあ逃げ場はないわよ」



 だがヴェルは敢えて立ち止まっていた。



(ヴェル……! 大丈夫なのか!?)



 ユーズとローディは心配そうにヴェルを見つめるが、彼女も魔法の詠唱を始めた。



(今こそカーラ先生に習ったあの魔法を使う時……!)



 水流柱(スプラッシュ)に代わる新たな水の攻撃魔法。

 先生からは本来一年生の生徒が扱えるレベルではないと言われていたが、ヴェルはこの2週間で密かに特訓を続けていた。



(この焔竜乱舞(クリムゾン)を正面から受ける気? 無駄よ、幾ら水の魔法は相性がいいからって低位階魔法で打ち消せる威力じゃない!)



 ヴェルも残る魔力を全て集めて魔力を唱える。

 すると彼女の周りに巨大な水球が生み出された。



「あれで受け止めるのか?」



「いや……違うぞ! 形が変化してる」



 観客たちがヴェルの魔法に対しても騒ぎ立てる。

 ヴェルが左手で魔力の操作を行い、水球の形を変えると水が激しく動き出した。



『逆巻くは清浄なる大水(おおみず)、穿て! 螺旋水撃(スパイラル)!!』



 膨大な量の水が凄まじい勢いで螺旋回転を始めた。

 これは並大抵の魔力操作技術ではない。

 焔竜乱舞(クリムゾン)に匹敵するレベルの、強力な高位階水属性魔法である。



 そうして放たれた螺旋状の水流は焔の竜へと向かっていく。

 同規模の強力な魔法同士はぶつかり合い、互いに打ち消し合った。



「「……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」」



 魔力の殆どを消費し、二人は立っているのもやっとな程に消耗していた。



(ヴェルとシオン……この二人が本気の戦いをするとこうなるなんてな)



 ユーズはシオンと会った時に裏山で彼女が言っていた、本気を出せばもっと強力な魔法が使えるという台詞を思い出していた。



(あれは嘘じゃなかったって訳か)



(……あの二人、第三位階に相当する攻撃魔法を操るとは見事なものだ。あの具現化(リアライズ)の技術は両者とも並のレベルではない。だがもはや魔法の一つも放てないまでに体力・魔力ともに消費している。恐らくは次の一撃で決着がつく)



 アリウスは冷静な分析を続けていたが、彼の言った通り、ヴェルとシオンの二人は武器を手に突進した。



((これが……最後!!!))



 二人は心の中で同じ二文字を浮かべて走った。

 斬撃がぶつかり、その衝撃で二人とも倒れ込む。



「くっ……!!」



(立てない……!!)



「そ、そこまで! 両者とも相打ち、試験は終了です!」



 試験官の裁量で決着はつかなかった。

 こうして一年生の中間試験で最も激しい対決は終わりを告げた。



「ヴェル、大丈夫か!?」



「あ、ああ……このくらいなら平気さ。すぐに治る」



 俺とローディが急いで駆けつける。

 そうして待機していた治癒魔術師の教官はヴェルとシオンの二人に治癒(ヒール)をかけ始めた。



「何て無茶な戦いだよ、見ててヒヤヒヤしたぜ」



 半ば呆れたようにユーズは頭を抱えるがヴェルは何故か妙に誇らしげな表情だ。

 そもそも彼が人のことを言えた立場ではないのでは、とローディは心の中でツッコんだ。



「あーあ、全く……酷い目にあったわ。私と互角に戦える奴がいるなんて思ってもみなかった」



「シオン、驚いたよ。本気出せば凄い魔法が使えるってのは本当だったんだな」



「……ふーん、ふーーん。当然でしょそんなの」



 ユーズの言葉を聞いてシオンは急に得意気な顔になり笑みを浮かべた。



「ま、そんな私と引き分けたんだから……アンタの強さはまぁ……認めてやってもいいわ」



「! お前も強かった。全力で戦えてよかった」



 シオンとヴェルは全力を出して戦った結果何か憑き物でも取れたのか、満足気に称え合う。



「はぁ……何か強引にイイ話にしようとしてますけどこっちからすれば本当に心配でしたよ」



 ローディは二人の姿を見て気が抜けたようにあきれ返る。

 二人の対立騒動で気を揉んでいたのだろう。



「でも、ま! 筆記試験も含めた成績なら私の勝ちね」



「何!? その台詞そっくりそのまま返すぞ」



「「フン!」」



 せっかく和解したのにカチンとくる台詞でまた二人はそっぽを向いてしまう。



 色々とあったが、その後は滞りなく試験が行われ、中間試験はようやく終わった。







 校長室にて―



「ふむ、今年の一年生の中間試験……実技試験だけでもと思って水晶玉を通して見とったが……中々の粒ぞろいじゃわい」



「楽しそうですね校長」



「ハルファス、ワシは有望な彼ら若い才能を見るのが何よりの楽しみなのじゃ。そして彼らに今の世界をより良い方向へと変えてくれるよう願い、導くのがワシら教師の役目じゃ」



「ええ……私もそう思います」



 ヨーゼル校長はピックアップした何人かの生徒の名前を手元の羊皮紙に書き込んでいた。



(アリウス・ハイランド、ハルク・レオギルス、シオン・エルメージュ、ヴェルエリーゼ・セルシウス……そして)



「ユーズ。…………彼らはきっとその高い実力をもって世界に変革を成してくれる可能性がある」



「何か言いましたか? 校長」



「いや……何でもないわい」



 ヨーゼル校長はその羊皮紙をローブにしまい、窓際から空を眺めていた。

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