24話 水と火
学園最初の中間試験、その一日目を終えたユーズたちは試験二日目の実技試験のため演習場へとやって来た。
あの入学試験にも使っていたコロシアムだ。
コキコキと首を左右に振るユーズ。
二日目の午前中も筆記試験であったため、身体が少々凝っていた。
だがそれより気になることが一つ。
今日のヴェルはどうにも雰囲気がピリピリしている、というか恐い。
ヴェルが一番前に居て、その後ろにユーズとローディは立っていた。
「そういえば実技試験はどういう形式なんだ?」
「全クラスが男女に分かれて一対一で対決するみたいです」
「なるほど、ありがとう」
ユーズは少しローディに近寄り小声で耳打ちする。
「なぁ……ヴェルはどうしてあんな気合が入ってるんだ? いやもちろん試験を頑張るのは分かるけど何というか……」
「それがですね……」
ローディはヒソヒソと小声でユーズに事情を教える。
2週間前にシオン・エルメージュとあわや一触即発になったことを。
「シオンと? 何でヴェルがシオンとそんなことに」
「……」
理由はどう考えても目の前の男なのだが、余計に事態をややこしくしかねないと思ったローディは黙っておいた。
そんなこんなしている内に実技試験担当の教官、オズバルドがやって来る。
「一年生諸君、揃ったようだな。これより実技試験の内容を説明する。今から男女に分かれ、その中で予め決められた二人一組で戦ってもらう。極めてシンプルなルールだ」
オズバルドによる簡潔な説明が終わると試験官たちから順に名前を呼ばれ、どんどんと生徒たちが決闘場に入っていく。
「次、天空の鷲獅子ユーズと黄泉の番犬マックス・レイヴルズ!」
俺の名が呼ばれた。
どうやら出番のようだ。
「じゃ、行ってくる」
「はい。頑張ってください」
滅多矢鱈とピリピリしているヴェルに代わってローディが見送ってくれた。
指定の決闘場に足を踏み入れると対戦相手のマックスという奴は既に待機していた。
「お前が氷の魔法で有名なユーズか! 俺はマックス・レイヴルズ、今からお前をここでブッ倒してこの学園最強になる男だぜ」
「騒がしいタイプの奴だな」
マックスは短い黒髪に赤いバンダナを巻いた男子生徒で、長い槍を手に持っている。
「では今から試験を開始する。魔法も武器も何を使用しても構わないが、危険だと判断すればそこで止める。そして勝ち負けだけが成績に関わる訳ではない、戦闘の内容が最も重要だ」
決闘場に配置された試験官から詳しい内容が示される。
戦闘の内容とは言うがさて、どうするか……。
「よし行くぜ! 覚悟しな!」
試験官の開始を合図にマックスは槍を振り回してこちらに向かってきた。
「オラオラどうしたぁ!?」
こちらは剣で迎え撃つ訳だが、明らかにリーチは向こうに分がある。
やや防戦を強いられる形だ。
(中々速いな。リーチのある長槍を軽くブンブン振り回しやがって……)
肉体派なのか、強化の扱いもそれなりらしく、攻撃スピードも速い。
零華を使うことも考えたが……いやここはアルゼラ先生に言われたように零華を使わない戦法で行くか。
「食らいやがれ!」
視界の左側から鋭い刃が素早く迫る。
だがユーズは臆せず刃に対して左腕を差し出した。
(何ッ!? 何で避けねぇ! あ! まさか……!)
マックスが気づいた時には遅く、ユーズの左腕は氷の魔力が纏っていた。
ガキン!と音がして、槍の刃が腕に当たる。
(敢えて左腕を差し出して俺の動きを止めやがった……!)
その瞬間ユーズは即座に強化し、右手に握った剣で長槍を弾いた。
衝撃に耐えられずマックスは手から柄を放してしまう。
「うっ……」
次にはもうユーズが接近し、マックスの喉元に刃を突きつけていた。
その様子を見ると試験官が試合の終了を告げる。
「試験終了! ユーズの勝ちだが、敢えて左腕で斬撃を受けるその勇気には驚いた。だが防御能力のある氷の魔法を活用した有効な戦法だ、素晴らしい」
試験官から高評価を受けてユーズは決闘場を降りる。
周囲の戦いと比べても大分早く終わったようだ。
「終わったよローディ。……あれ、ヴェルは?」
「ヴェルは……そのー……」
戻ると少し困惑した表情でローディがある方向を指さした。
そしてそこに居る二人を見て、ユーズも一瞬度肝を抜かれる。
「ヴェルと……シオンじゃないか」
偶然にも対立していた二人が対戦相手に選ばれたようだ。
試験の成績で決着をつけようという話だったが、意図せずの直接対決となってしまった。
「まさかアンタと当たるとは思わなかったわ。でもまぁ、いいわよね。こっちの方が分かりやすくて」
「それには同意だな。やるからには当然勝たせてもらう」
その雰囲気は試験官も感じ取ったのか、好戦的な二人にやや困惑気味の様子だ。
「で、では今から試験を開始します」
試験官の合図と共にシオンは剣を抜いて飛び出す。
だが負けじとヴェルも弓矢を放った。
「フン、こんな直線的な矢……見切れないとでも思ってんの!」
「もちろん分かってるさ」
(アンタの狙いは弓矢を避けたところに追撃の魔法、次に来る手は分かってんのよ)
シオンが剣で矢を切り裂いた瞬間、目の前にヴェルが居た。
(!? 速いっ……!)
「はぁっ!」
「キャ!!」
虚をつかれた。
まさかの強化による直接の殴打で、シオンは弾き飛ばされる。
「本気で来なければ後悔するぞ」
「そーみたいね……望み通りにしてやるわ」
口内が切れて流れた血を拭い、シオンは立ち上がった。
さっきとは比べ物にならない本気の眼光を光らせて。
(この魔力の流れ……来る!)
ヴェルは咄嗟に感知していた。
その読み通りにシオンは魔法を放つ。
『爆炎弾!』
『水流柱!』
巨大な火球を同規模の水の壁が打ち消す。
決闘場に勢いよく水蒸気が発生した。
(視界を絶つのが狙い? でもそれは向こうも同じこと……!)
その時、蒸気を突っ切って何発もの矢が射られた。
(闇雲な攻撃……そんなもの)
『暴火壁』
シオンを囲む炎が結界のように広がって、飛んできた矢を焼き尽くす。
(そして今の攻撃でアンタの居る方向は分かった!)
すぐに炎の壁を解除し、強化を脚に纏ったシオンが突っ込む。
そして読み通りの場所に居たヴェルに向かって斬りかかった。
キィン!と金属同士がかち合う音が響いた。
蒸気が晴れるとそこには斬りかかったシオン、その斬撃を弓の両端についた刃で受け止めているヴェルが居た。
(なるほど、接近戦もできる特別製って訳ね……)
(この剣の威力……幾ら魔力で強化しているとはいえ、侮れないな)
二人の戦いのレベルはその場の戦闘のどれよりも高く、気づけば多くの生徒たちが観戦していた。
ユーズとローディも固唾をのんで見守る。
(ヴェルエリーゼ・セルシウスとシオン・エルメージュの戦いか。両家ともに有名だがセルシウス家は貴族の中では異端的な嫌われもの、反してエルメージュ家は規律を重んじる保守派だ。しかも得意な魔法も火と水、これは興味深い戦いになりそうだな)
アリウスも二人の戦いを観戦し、同時に分析を行っていた。
「はっ!」
ヴェルが力を込めてシオンを押し返す。
だがシオンも退かず、互いに斬り結ぶ。
(……こうなったら臆した方が負けだ!)
(調子に乗ってんじゃないわよ。このっ!)
既に10分を越えた戦闘は互いに全く引かず、次に斬撃がかち合った瞬間、二人は後ろへと吹き飛ばされた。
「「ハァ……ハァ……ハァ……」」
長時間の戦闘に二人とも息を切らし、肩で息をしている。
「……次でケリをつけるわ。私の……最強の魔法で!」
痺れを切らしたシオンは全身に残る魔力を収束させ、一撃で決めようと構えた。
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