22話 試験勉強
「王立魔法騎士学園への襲撃事件……しかも犯人は元生徒とは……長い歴史の中でこんなことが起きたのは初めてだ」
ウルゼルクが朝の新聞を眺めながら言う。
"魔物の生態系、かつてないほどに混乱 生息地の知識はもはや過去のもの?"
"王位継承者ティルディス殿下、またしても王城より脱走"
紙面を賑わす話は枚挙に暇がないが、学園襲撃事件ばかりは他のものと扱いが違った。
ウルゼルクも流石に驚いているのか、新聞を食い入るように見つめている。
「しかもディアトリス邸が夜の内に全壊……色々と匂う事件だな」
そして騎士団が踏み込んで一度撤退した後、ディアトリス邸は一夜にして瓦礫の山と化していたらしい。
まるで台風が過ぎ去ったかのように薙ぎ払われ、爆発が起きたかのように粉々になっていたと記事には記述されていた。
だが何より怪しかったのは研究施設と思しき地下室から全ての資料が持ち去られていたことらしい。
また地下室も同様に爆破された跡のように黒焦げで破壊されていたともいう。
「犯人の目撃情報は頭まで被った黒いコートの二人組……か」
「それよりもヴェル。あなたは大丈夫だったの?」
心配するようにヴェルを見るセーザンヌ。
「私よりもユーズの方が今回は無茶をしていた」
「聞けば彼が襲撃した犯人を捕まえたというではないか。やれやれ、お前の無茶をする癖が移ったのか?」
「もう! 父上は一言が多い」
朝から家族団らんの一時、前代未聞の大事件後とは思えない雰囲気のセルシウス家であった。
その後ヴェルとユーズ、ローディも何事もなかったかのようにいつも通りに学園へと向かった。
________
その日のユーズは昼休みに学園の敷地内にあるフクロウ小屋の掃除をしていた。
というのも先日のティモール襲撃事件の独走は不問とされたものの、一応は罰則というか建前上として課せられたのである。
「それにしても……フエルとアリウスがフクロウ小屋の掃除をやってたなんてな……」
俺は入学してから初めてフクロウ小屋に足を踏み入れたのだが、何と意外なメンバーがその場には居た。
「僕は元々フクロウ好きだからね」
「妹がフクロウ大好きでな、だからフクロウの話をすると大層喜ぶ(王国と魔術師の象徴と言ったらフクロウだろう。その世話をするのは常識的だ)」
「本音と建前が逆になってんぞアリウス」
そんな意外なメンバー同士で掃き掃除をしていると、遠くからドドドドという音が聞こえてくる。
「……何だ? 誰かが走ってくるぞ」
「ユーズッッッ! 我が永遠の好敵手ユーズは居るかッッ!?」
バァン!と大きな音で小屋の扉がこじ開けられる。
「わわっ!? だ、誰?」
見るとそこに立っていたのはイエロークラスのハルク・レオギルスだった。
相変わらず暑苦しい見た目である。
「何だ貴様。フクロウが怖がるだろう」
「ん? お前というお前は深淵の海精のアリウス・ハイランドか。それは済まなかった。お前とも手合わせしてみたいと思っていたが今日はユーズに用があるのだ」
「デカい声出して一体何の用だよ」
「中間試験だ」
「中間試験?」
思わずオウム返しをしてしまった。
だがハルクは話を続ける。
「我が永遠の好敵手の前だ。恥を忍んで、いや敢えて堂々と言おう。俺は勉学が苦手だ」
胸を張って言うべきことじゃないと思うが……とハルク以外のその場の誰もが感じていた。
「あ、あぁ……」
「たがそんな俺も近く迫っている中間試験に備えなければならない。中間試験は筆記と実技の両方がある、その筆記試験を何とかするためにお前を頼りたいのだ」
どうも予想外の頼み事だった。
要するにハルクに中間試験に向けて勉強を教えるということだ。
「それなら僕も教えてもらいたいなぁ、僕も自信ないんだ。薬草学とか王国地理学とか苦手なんだよね……」
これ幸いとばかりにフエルも話に割って入ってくる。
「でも俺も上手く教えられるか分からないぜ。人に勉強教えたことなんてないし……」
俺が煮え切らない返答をすると、いきなりアリウスが前に出てきた。
「そんなこともできないのかお前ら。見てられん、まとめて放課後に図書館に来い」
「いや、俺はお前には頼んでな……」
「いいから黙って放課後に来い、文句はそこで聞いてやる」
ハルクもアリウスのまくし立てるような口ぶりに反論できず、結局放課後に図書館で勉強することが決定してしまった。
________
「よし、来たなお前ら」
放課後図書館に集合した男四人。
王立魔法騎士学園の図書館は非常に広く、棚に集められた蔵書は約150万冊にのぼるらしい。
「ユーズ君は今日もヴェルエリーゼさんたちと一緒じゃないんだね」
「あぁ、今日も何か修業するとか何とか……あと女子会?とかよく分からないことも言ってたな」
コホンとアリウスが咳払いをし、全員が彼に向き直る。
「では早速試験勉強を始めるぞ。ハルク・レオギルスにフエル・ウィンドルス、お前たちのまずは一番苦手な科目から処理していく」
「俺が特に苦手なものは魔法数学だ」
「僕は昼休みも言ったけど薬草学と王国地理学かな」
「なら魔法数学からやるぞ。教科書を開け」
アリウスはまるで先生より先生らしく、テキパキと勉強を進める。
「魔法数学で大事なのはどの種類の魔法陣かによって使用する公式が変わるということだ。とにかく最低限の点を取るなら公式の暗記をすれば何とかなる、まずは応用より基礎だ」
「薬草学は最終的に調合する薬と必要な素材の種類と量の暗記が必要になってくる。語呂合わせでもいいからまず覚えろ。いいか……」
「王国地理学は歴史学とも関わりが深い。試験で出てくる箇所もそうした問題が多いと聞く。特に建国神話で初代国王が神から冠を授かったというクリフォト山は……」
ハルクとフエルに勉強を教えるアリウスを見ながら俺は考えていた。
(口調の割には要点をおさえてしっかり教えてるな。もしかしてアリウスって結構面倒見がいいんじゃ……)
天才と呼ばれる男の意外な一面を目にしながら、俺は自分の教科書とノートを開いた。
________
一方その頃―
「……アンタ、いきなり人をとっ捕まえるなんていい度胸じゃない」
「お前がシオン・エルメージュか」
睨み立つ銀髪と赤髪の少女。
場には今にも爆発しそうな険悪な雰囲気が漂っている。
(あわわ……何なんですかこの一触即発な雰囲気は〜!! 大事なことがあるってヴェルについていったらいきなりこれですよ!)
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