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21話 ディアトリス家の破滅②

 雨はより一層と酷くなり、バシャバシャと走る足音が聞こえる。

 ハルファス教頭はようやくユーズのところにたどり着くと驚愕した。

 その場所には氷の彫像のように固まって動けなくなったティモールがいたからだ。



(こ、これは……)



 この周りだけが冬のように寒い。

 まるで隔絶された別世界だ。



「ハルファス先生。……犯人は確保しました」



「…………そうですか。君もとんでも無い無茶をしますね」



 ハルファス教頭は呆れたようにため息をついたが、ユーズがいきなり学園を襲って来た犯人を捕まえたという事実の手前それ以上は何も言わなかった。



催眠(ヒプノス)



 教頭に強力な眠りの呪いをかけられ、ティモールは沈黙した。



「では校舎に戻ります。この後のことは私たちに任せてください、ですが貴方も恐らく事情を聞かれることになるでしょう」



 その後ティモールの身柄は通報を受けてやって来た騎士団に確保されたようだ。

 ティモールがあの入学式の日のサバイバルレースで退学になったということをユーズはそこで初めて知った。

 そしてこの前代未聞の襲撃事件はあっという間に全校の生徒に知れ渡ることとなり、ユーズは校長室へと呼ばれることになった。



「失礼します」



 ノックして入るとそこには王立魔法騎士学園(ナイト・アカデミア)の校長ヨーゼルとクラスの担当教員であるアルゼラ先生が居た。



「さて……君がここに呼ばれた理由は分かっておるな?」



「ティモール・ディアトリスと戦ったから、ですね」



 ヨーゼル校長はゴホンと咳払いをしてからユーズの返答に答えた。



「その通りじゃ。本来ならば君は戦うべきではない、そういう状況だった」



「……」



「君が無傷であったから良かったものの、もし命に関わる怪我をしておったら取り返しのつかないこととなっていた」



 本来ならば生徒ではなく教師が対応するべき事案だったのは間違いない。

 だがあのときのユーズは半ば身体が勝手に動いていたのだ。



「……じゃが」



「こういった事態になることを想定していなかったワシに今回の責任はあるといってもよい。……何より君は他の者たちを守るためにああした、違うかの?」



 ヨーゼル校長は一言詫び、ユーズに問いかけた。

 校長は話を続ける。



「あの確保した少年じゃが、目覚めるとしきりと君のことを喋っておった。君が狙いであったことは明らか、それが分かっていた君は彼を他に被害の出ぬように外へと誘導した。……誰にでもできることではない」



「よって今回のこと、ワシは君の行動を不問といたす」



「え……」



 予想外であった。

 ヨーゼル校長は今回の事件に関するユーズの独断を咎めることはしないと言ったのだ。



「キャゼル・アークスの件といい、君は己を犠牲にして他を助けることのできる心優しき者じゃ。それこそがワシの考える騎士として最も相応しい素質……この国で上に立つ人間が持つべき素質じゃ」



 騎士としての素質、考えたこともなかった。

 前にアルゼラ先生から言われた魔法の真髄とはそういう意味なのかもしれない。



「よし! ではこれで話は終わりじゃ。ユーズ、君にはこれからも期待しておる。その優しき心を君がいつまでも失わんことを……心より願っておる」





________






 一方でまだ何も知らぬディアトリス家、だが破滅の足音はすぐそこまで迫っていた。

 その夜―



「ティモールめ……いつの間にどこへ行ったのだあの愚か者めッ! ディアトリス家の長男たる者が夜遊びなど他に知られたらどうするつもりなのだッッ!」



「だ、旦那様!!」



「何だ騒々しい! 私は今気分が優れんのだ!」



 メイドが青い顔をしてカロンの部屋へと飛び込んでくる。



「き、騎士団の方々が来ております……」



「何だと……?」



 思いもよらぬ訪問者に驚くカロン。

 王国騎士団が来るということは貴族にとって良い意味など殆ど持たない。



「突然の訪問失礼いたします。私は王国騎士団第一部隊隊長レイン・オルテクスと申します」



 藍色の短髪に紫色の瞳を持ち、騎士団の鎧に身を包んだ男がカロンと相対する。



「ほう、これはこれは。騎士団の部隊長が今日はどんな用でしょうか」



「貴殿のご子息ティモール・ディアトリスが先ほど王立魔法騎士学園(ナイト・アカデミア)を襲撃したと通報があった。さらに彼の身体からは合成された違法薬物が検出されている。よって貴殿とこの屋敷に今いる全員を捕縛する」



「はっ? ……今何と」



「確保しろ」



 レインの後ろで控えていた騎士団員たちが次々に押し入り、カロンを縛り上げた。



「なっ……そ、そんな馬鹿な! ティモールがそんなことをッッ!? 何かの間違いでないのか!?」



「本人も既に確保済みだ」



「クッ! ふざけるな、私は何もしてはいない! 評議会の圧力を使ってでもこんな不当な……は、離せえッッッ!!」



「連れて行け」



 騎士団員は大声でわめくカロンを取り押さえ、引きずるようにして外へと連れて行った。

 そうしてディアトリス家にいた全ての者は騎士団によって捕縛された。



「隊長! 見つけました。ティモール・ディアトリスの自室と思われる部屋からこんなものが……」



 屋敷内を調査していた騎士の一人が小瓶を持ってきた。

 その小瓶の中には粒状の薬がいくつも入っており、明らかに怪しい。



「よしよくやった。他に怪しいものは?」



「はっ! これ以上特に違法薬物と思われるものは発見できませんでしたが、地下に続く階段がありました。しかし結界魔法によって封鎖されており、手持ちの装備では突破できません」



「そうか、だが一応の目的は果たした。一度本部に戻れば結界を解除することは可能な筈だが、明日の調査としよう。明朝6時よりディアトリス邸内の再調査を行う」



 そうして騎士団は目的のものを入手し、一旦引き上げていった。

 その日、かつて王国きっての名門と呼ばれたディアトリス家は完全なる破滅を迎えたのである。

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