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19話 氷と火

「まぁ……何でもいいから早く出ていきなさい。アンタが居ると訓練に集中できないのよ」



 シオンが俺を見据えて言い放つ。



「……分かった。邪魔して悪かったな」



 理由はどうあれ、彼女の気に障ることを言ったのは事実だ。

 俺が元来た道を引き返そうとしたその時。



「!!」



 突然、上空から何本もの触手が伸びてユーズを襲って来た。

 それを咄嗟に回避する。



「今の蔓、魔物か」



 見ると上には毒々しい色の花弁が覗く、その中心には鋭い牙が生えて消化液を垂らしている。

 人間の身体とそう変わらない太い茎と自由に動く脚代わりの根。



「野生の食人植物(マンイーター)、どうやら私たちの気配を察知してきたみたいね」



「こんなもんが出てくる中でよく修業だか訓練だかやってたな」



「初めてよ。アンタが呼んできたんじゃないの?」



「そんなわけないだろ……」



 軽口を叩く二人だが、容赦なく食人植物(マンイーター)はこちらを捕らえようと触手を伸ばしてきた。



「この程度の魔物、恐れる必要もないわ」



 シオンはそう言うと右の掌を前に突き出す。

 すると魔力が集約していき、次第に熱と炎が現れてくる。



(火属性魔法……でもこれは……)



 ユーズも今まで火の魔法の使い手は何人か見てきた。

 だが彼女の魔力はそのいずれも遥かに上回る程に強大なのが感じられる。



爆炎弾(フレイムバースト)!』



 人間の身長大の大きさを持つ火球が放たれ食人植物(マンイーター)の触手を焼き払う。

 さらに体に着弾すると爆発を起こし、完膚なきまでに焼き尽くした。



(凄い威力だ。これだけの威力を修得するには相当の訓練が必要だろうな)



 シオンは得意げに食人植物(マンイーター)が燃えきって炭のようになったのを見届けていた。

 だがユーズは刹那、後ろに潜む気配を感知していた。



(……もう一体!? マズい!)



「危ない!」



「キャッ!?」



 俺は咄嗟に襲い来る触手からシオンを守ろうと、彼女の手を引いて自分に引き寄せた。



氷柱槍アクティ・クリスタロス!』



 ユーズから放たれた三本の氷の槍は食人植物(マンイーター)を串刺しにする。

 食人植物(マンイーター)は力無く地面に倒れ、やがて動かなくなった。



「もう一体いたのか、危ないとこだった」



「…………」



 ユーズが安心したように一息をつく。

 だが冷静になった瞬間、シオンを自分の懐に引き寄せていたことに気づいた。



「! す、すまない。つい……」



 慌てて離れたが、彼女の顔は羞恥のせいか赤く染まり、今まで以上に鋭い目つきでこちらを睨んでいた。



「あ、アンタねぇ……!!!」



「いや、その、悪気は……」



 その日は裏山で原因不明の爆発が起きて黒煙が立ち昇ったという。



「……まぁ、でも、確かに危ないところだったし……」



「?」



「一応礼は言っとくわ。……ありがと」



 油断すると聞き取れないような小さい声でシオンはユーズに礼を言った。

 それを聞くとユーズもどういたしまして、と笑顔で伝えた。



「そういえばアンタの名前、まだ聞いてなかったわね」



「ユーズだ」



「ふーん……ま、気が向いたら覚えといてあげるわ」



 中々とっつきにくいタイプの性格だなと思ったが、口には出さないでおいた。

 そして炎上していた場所を氷魔法で消火していく。

 俺は消火が終わるとシオンの腰掛けていた倒木の隣に座った。



「氷の魔法。前に見た時はハッキリ言って何かの間違いじゃないかと思ったけど、本物みたいね」



 前に見た時というのは恐らくあの入学試験のことだろう。

 どうも本当にやったことだとは皆には信じられていない可能性がある。

 そう考えるとあのハルクは中々の異端だ。



「こっちこそ、あの火の魔法の威力には驚いたよ。随分と鍛えてんだな」



「あれくらいで驚かれたら困るわね。私が本気になればもっと強力なのだって使えるわ」



「山火事になりそうだ」



 ユーズは冗談にならないようなことを呟く。



(…………火の魔法、か)



 彼女に罪はあるわけはないのだが、苦々しい記憶が俺の脳裏をよぎる。

 そういえばあのディアトリス家も火の魔法を得意とする一族であった。



 冷静に考えればティモールは年齢からしてこの学園にいても何らおかしくない、というより居ないほうが不自然だ。

 彼を見かけないのがせめてもの救いか……。



「どうしたのよ、急に暗い顔して」



「あぁ、いや。何でもない」



 シオンに気取られてしまったらしい。

 慌てて否定を入れる。



「! 誰か来る」



 魔力を感知した後に木々の奥からガサガサという音がした。



「おっと、ユーズ。まさか君がいるとは」



「アルゼラ先生? どうしてここに……」



 やって来たのは何とホワイトクラスの担任、アルゼラ先生だった。



「君は確か……レッドクラスのシオンだったかな?」



 シオンは答えずに軽く会釈をして肯定する。

 何というかアルゼラ先生の飄々とした雰囲気は彼女と微妙に相性が悪そうな気がしてならない。



「それより何で先生はここに?」



「いや、裏山から黒煙が見えたんだ。来ない方がおかしいってものじゃないかな?」



 それはまぁ確かに、とユーズは心中で頷く。



「どうも火は消えてるみたいだし……とりあえず問題なし、かな? 山火事でも起こしたら君たちは校長室行きだよ」



「ははは……」



 乾いた笑いをこぼすユーズ。

 一拍置いたあと、アルゼラ先生はとんでもないことを口走った。



「それにしても二人きりでこんな場所にいる……もしかして付き合ってたの?」



「なっ……!」



「ち、違いますよ!」



 シオンの顔は驚きと共にみるみる紅潮していき、ユーズは慌てて両手を振って否定の仕草をする。



「誰がこんなパッとしないやつと! 頼まれたって御免よ」



(それはそれで傷つくな……)



 シオンの圧倒的な勢いによる否定、ユーズは微妙に複雑な気分を抱く。

 そして二人の姿を見たアルゼラ先生は心底面白そうに笑っていた。



「冗談だよ冗談。見たところ魔法の修業をしていたのかな? それ自体は感心だよ」



「あぁ、でも俺はたまたま通りかかっただけっていうか……」



 少々ややこしい事情だが最初から説明する。

 先生は何度も頷きながら話を聞いていたが、やがて口を開いた。



「なるほど、そういうことだったのか。…………もしよかったら君たちの魔法をここで見せてくれないか?」



「えっ?」



 俺もシオンも思いがけない提案に顔を見合わせる。



「この際だから言うけれど君たちは今年の新入生の中でも魔術師としての実力は上位だ。単刀直入に言えば僕は君たちを目にかけている」



 どうも褒められているらしい。

 悪い気はしないが、それはシオンも同じようで口角が上がり気味なのが俺にも分かる。



「だから僕が魔法の修業を見たいってことだ。君たちを今よりももっと強く、一流の魔術師として育てるには直接見るほうが早い」



 そうして思いもがけぬ魔法の練習をアルゼラ先生のもとで行った。

 シオンも最初は今ひとつ歓迎していなかったが、次第に集中していった。



 アルゼラ先生は座学ではよく知っていたが、実践的な指導にも優れていることが分かった。

 もしかするとかなり貴重な時間になったのかもしれない。



「……ってことが今日あったんだ」



「そ、そうなのか」



 その後、ユーズとヴェルたちは合流して共に帰っていた。

 ユーズは嬉々としてシオンやアルゼラ先生との修業の内容を話すが、一方のヴェルは歯切れ悪く言葉を返すのみ。



 シオンという女子生徒がユーズと自分の預かり知らないところで一緒にいたという事実に動揺していたのだ。

 彼女の胸中ではユーズを放置していた反省と、アルゼラ先生がいたなら大丈夫かという安心のせめぎあいが発生していた。

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