EP.6「機械仕掛けの少女」
ボフン!、と簡易ベッドの上に横になりボーっと鋼色の天井を見つめる、
「ラキ、その、お前が言っていた、その血操武身の名前なんだが、、」
ウェデリアが少し気を遣う様に遠慮気味に聞いてくる、僅かにいつもより青白くなった顔でラキはそんなウェデリアを見ている、
「良い名前だな!!」
既にかなり消耗している中唐突に何を言われるか思えば、言われた言葉に拍子抜けしてしまう、
「急に何を言い出すかと思えば、良い名前って、、何となくこんな名前だったらいいかなと、、思い浮かんだ名前を、、言っただけです、」
「それがいいんだ!!」
ウェデリアがやけに食い気味に言ってくる、出血多量で意識が朦朧とする中、大袈裟と言える程の大声で叫ばれ、頭に響き不愉快と言うように顔を歪める、
「それが良いって、、何かないんですかその、、名付ける人とか、誰か、」
「そんな者いないぞ?血操武身によって生まれた武器は全てがオリジナルだ、だから誰が名付けるでも無い、自分自身が名付ける、それに何より自分がしっくりくる名前出なければ士気も上がらんからな!!」
「士気?何か名付けが士気に関係するんですか?」
そう問われたウェデリアは、頷き言葉を繋げる
「そう、名前は大事だ、過去に存在した国軍と呼ばれた国が所有したという軍隊は、精鋭部隊に相応しい良い名を付けたと言う、旧アメリカ合衆国のNavy SEALs、旧ロシアのアルファ部隊、旧イスラエルのサイェレット・マトカル、旧大韓民国の白虎部隊、この様に名と言うのは、その部隊、個人の強さを表すも同義、そしてやはり自分達がそんな良い名前の軍隊にいると思えば、気分も上がるものだろう?」
ウェデリアの微笑み掛けられ、ラキは目を逸らして少し言われた事を整理する、そして素朴な疑問を聞いた、
「じゃあ、この機伐自警団にも何かあるんですか?」
それを聞かれたウェデリアは目を輝かせる、ラキは一瞬聞いたことを後悔したがもう遅い事だとその感情は切り捨て、諦めてウェデリアの話に耳を傾ける、
「よく聞いてくれた!!その通り!!私達機伐自警団にも、特攻・特技・特医部隊が存在するのだよ!!、聞きたいか!?」
「いや、、別に聞きたくは─────」
「聞きたいって!?それは良かった!!」
ラキは横になっているベッドの上で頭に片手を置き電灯の光を遮る様にしてウェデリアの話し声に仕方なく耳を傾ける、
「先ずは特殊機動攻襲部隊を三つ御紹介しよう!星の名を持つ遠装部隊、王星の盾部隊、古代神話の神々の名を持つ迫砲部隊、戦神憑き部隊、聖剣の名を持つ近装部隊、機喰の剣部隊、以上が特殊機動攻襲部隊の説明だ、これに質問はあるか?」
「いえ、別に、」
そう言うと満足そうにウェデリアは説明を続ける、
「なら!、次に特殊技能装甲部隊を二つ御紹介しよう、円卓の騎士の名を持つ人型強化外骨格部隊、英雄の帝部隊、架空の龍の名を持つ多脚式戦車型骨格部隊、滅牙の古龍部隊、そして最後に特務医療専攻部隊である、癒しの神の名を持つ女性のみの医療専門部隊、救済の癒し部隊だ、これが私達機伐自警団の精鋭部隊の一部だ、」
そう言い切ったウェデリアを横目に見てふと思った、一部、これだけあるのにまだ一部、後どれだけいるのだろうか、
「ウェデリア、、」
「??、どうした?」
「今、精鋭部隊の一部と言いましたが残りはどうして言わないんですか?」
「それはだな、、ここには居ないからだ、」
ここには居ない?どういう事だ?
「ここに居ないというのは?」
「ああ、実は機伐自警団とはここを本部としているだけであって支部が五つ存在する、」
「え、ここ以外にも?」
「ああ、ラキ、お前はここが機伐自警団として機能する前が何だったか分かるよな、」
「ええ、もとは月夜鮫討伐艦隊の保艦基地です、」
そこまで言うとウェデリアは一度頷きラキの顔を見つめ直す、
「そうだ、そしてそれを知っているならここ以外にも保艦基地があるのは知っているよな、」
「ええ、まあ、、!!、まさか、、」
「そうだ、あの日から一ヶ月が経っただろうかという時、電力が復旧した、私はその時すでに機伐自警団を形成していたため、他の保艦基地に連絡を取ると共に協力を要請したんだ、結果、全保艦基地の地域でも同様のAI共の暴走が起きている事が発覚した、そして私達と同じく対抗軍として戦っていた彼らとは利害の一致をしてな、支部として活動してもらっていて、私が直々に指名した幹部連が指揮している、残りの精鋭部隊はそこだ、」
それを聞いたラキは納得し脳内で現在の情報を整理する、そして興味本位でつい言葉が漏れてしまった、
「幹部連って奴らにも、こんな感じの名前があるのだろうか、、、、、あ、」
漏れた言葉を自分の耳で聞き取った所でまた余計なことを言ってしまったと後悔した、案の定ウェデリアを横目でさりげなく見ると、さも語りたそうにこちらを見ている、
「興味があるのか?」
「いや別にそんなことないです、」
「そうか、、まあ、こればかりはお前でも教えるか悩むのだがな、、」
「自分から言い淀む事もあるんですね、」
「ああ、まあな、、いや待てよ此処で注意喚起としてラキにも伝えておいていいのか?いやだが、、うーん、」
ブツブツと独り言を呟き続けるウェデリアをラキはただ見つめている、
「よし、ラキ、」
「はい、」
「幹部連のことを教える、」
「はぁ、、結局言うんですか、」
「まあ聞け、これは注意でもあるんだからな、」
「注意?」
「そうだ、機伐自警団は幹部連は石玉冠位と呼んでいる、名の通り皆宝石の名を持っているからな、赤眼石のエルネア、碧緑石のサキト、青海石のアエラス、金剛石のファルロイド、夜漆石のリガット、、この中でも夜漆石のリガットは特に危険だ、奴は元反電脳組織出身でな、肉体強化機械や血蟲機を体内に宿していないが異常と言っていいほどに強い、、奴だけは本当に利害関係の一致でのみ繋がっている状態だ、だから奴にだけは絶対に────」
「もう分かりました、取り敢えずそのリガットとか言う奴だけは注意しとけって言うんですよね、分かりましたよ、、俺はもう行きます、」
そう言ってウェデリアの言葉を切って、強引に外に行こうとするラキをウェデリアが止めようと肩を掴んで抑える、
「待て!!まだ少ししか休んでないだろう、あの量の血を流したんだたったこれだけの療養で治まるはず、、、ッ!!」
そう言って心配していたウェデリアだがラキの顔を見て言葉を止める、ラキの顔はまだ十数分しか経ってないだろうに、既に青白く血色の悪かった顔から血がしっかりと巡った血色の良い顔に戻っていた、
「ですから、俺は大丈夫ですよ、何度も言わせないで下さい、」
ラキは面倒事を払う様に肩に置かれたウェデリアの腕を払い落し扉を開けて廊下へ出ていった、
「・・・本当に、、、ラキは一体、、何者なんだ、、、、、」
──────
ラキは廊下をスタスタと余り足音を鳴らさぬ様に静かに然し足早に最初に入ってきた出入口に向かう、
「おーい!!、」
その時後ろから響く聞き覚えのある声に足を止めた、
「ああ、お前か、」
「そうだよ、今回はしっかりと覚えてるな、このライア・ニルストへリアさんを!!」
「・・・ああ、」
「なんだ今の間は!?」
ラキは叫んでいるライアを無視して歩き出す、ライアは軽く眉をひそめ、渋々ラキの後ろについて歩く、
「なんだ?まだ用でもあるのか?」
「別にねーけど、見送りくらい良いだろ?」
ラキに半睨みされたライアはそれでもなお食って掛かる、ラキは返答をせず、ただ前を向いて歩いた、
「なあ、」
「なんだ?」
「お前は何であんな強ぇんだ?」
ライアの問いにラキは少しの間思考して答えた、
「さあな、強さの理由なんぞ知るか、俺はただこのぶっ壊れた世界に死ぬ気で噛り付いて生きようとしているだけだ、強いて言うなら、その生きるって言う意志かもな、」
「生きる意志ねぇ、、なるほどな、確かに生物における生存本能に勝る強さは無いってことか、、」
そう言って一人納得しているライアを放置してラキは進む、
「さて、ここまでだな、また来いよラキ、」
「ああ、って俺だけじゃ来れねぇだろ」
出入口でそう言うラキに、ライアは人差し指を左右に揺らしながらニヤついて答える、
「チッチッチ、お前がシェルターにいる間に総司令がお前のデータを登録してたんだよ、だからもうお前は一人でここに来ても大丈夫ってことだ、」
「いつの間に、、ていうか何でお前はそれを知ってるんだ?」
「ヒミツー」
この野郎、と僅かに思いながら巨大な門をくぐり抜け気付く、
「俺のバイクは何処だ、、、」
そう呟いていると、ライアが門の枠を、コンコン、と叩き言う、
「お前のバイクならこっちだよ、」
ライアの言葉を聞き振り向くとライアが寄り掛かっている門脇にラキの原子力推進機関型二駆があった、
「いつの間に、」
「ここは地面全体に繊維機械が張り巡らされててバイクや車とかの兵器類を勝手に整理してくれんだよ、ほら、行くなら早く行け、機械が来たら面倒くさいんだからよ」
手をひらひらと振りながら希薄に笑いそう言うライアを一度目に納め、ラキはバイクに跨り、独特な起動音を響かせ、再び鋼野へと駆け出した、
──────
走るバイクで瓦礫だらけの鋼野を走っていると、ふと通り越したビルの残骸の下からはみ出して足の様な物が目の端を掠めた、
「・・・・なんだ今のは、」
バイクを止め、先程見えたビルの残骸に近づいて行くとやはり下敷きになった足がはみ出している、
「せめて、弔ってやるか、」
ラキがビルの残骸を持ち上げようと腕を黒くする、ギリギリ、と音を鳴らしながらビルの残骸が持ち上がり、下にあった死体が姿を現し始めた、ラキは轟音を響かせながらビルの残骸を投げ飛ばす、
「これは・・・・・チッ!目的変更だな、」
ラキは露わになった死体の姿を見てそう吐き捨てる、死体は地面に出来た隙間にあり姿を保っているが、左腕の肘半ばから先に出た疑似筋肉繊維と神経配線が自らを機械だと言うように未だ僅かに火花を散らしている、
「仕方ない、取り敢えず一度これを持って保艦基地に戻ろう、早くばらして使えそうな部品を選別してぇ、、、たくッ!機械はこれがあるから見つけたくねぇんだよ、クソが、、」
そうぼやきながら、取り敢えず反射布纒衣で機械を包むように持つと、バイクに跨り片手でバイクを走らせる、見えてきた基地の門に僅かに安堵しながらバイクを駆ける門の前にたどり着くと、ラキはライア達がやっていた様に手をかざした、
《識別コード#0001S:ラキ特殊名誉士官、ご帰還何よりです》
ライア達の時と同じ様に無機質な音声が答える、
特殊名誉士官ってのは何だ?
ラキは僅かに首をかしげながら、門が完全に開ききるよりも早く基地内へ入ると足早に先程自分がいた簡易休憩室へ向かう、扉の前に着いた時、隣から知った声が聞こえた、
「ラキ?、どうした?もう戻って来たのか?それにその大袋は一体、、、」
ウェデリアだ、ラキはあまり会いたく無かったのか、バツが悪そうに目を逸らして扉を開ける、
「あ、おい、、」
「入ってこないで下さい、幾ら貴方でも、入って来たら殴りますよ、」
「そこまで言う!?」
ガーン、、と悲しげに自分を見るウェデリアを無視して室内に入る、絶対に入れないのは当然だ、今ラキが持っているのはAIの死体、それに先程残骸の中で見た時この死体には胸の膨らみがあった、つまり女型のAIということだ、そしてそれをばらして部品を取り出すという事は一度着ていた服を脱がせなければならない、そんな場面にウェデリアを入れてみろ、どんな勘違いをされるか分からない、
「然し、、例え機械でも女性の裸体を視界に入れるってのはどうしても抵抗があるな、、なんかいい方法はないだろうか、、」
ベッドの上に、ガシャリ!、と音をさせて投げると、ラキは隣に座り込み片手で頭を掻きながら思案する、、その時、
モゾリ、、
「は?」
袋が動いた、、ラキはすぐさまベッドを離れ距離を取り義手を構え手に付いた銃口を袋に向ける、未だモゾモゾ動き続ける袋を凝視する、袋は段々と結び目が綻び遂に袋としての機能を失った、ローブに戻った袋の中には先程まで意識なき人形であった機械仕掛けの少女が座っていた、
「初期素体構造併用型番、EVE型自立思考式AI:No.08、外部衝撃による強制再起動を開始、再起動シークエンスを開始、素体状態確認を開始、」
無機質な声でどこに向けるでもない虚ろな目をしながら機械仕掛けの少女は言葉を発し続ける、
「疑似心臓型流体ナノマシンポンプ異常無し、人体臓器模倣型制御動力機関異常なし、体内貯蔵流体ナノマシン量基準値以内により安全と判断、肢体状態確認に移行、」
その声と共に機械仕掛けの少女は足を伸ばしたり、腕を動かしている、
「両足機能の障害無し、両腕機能に障害無し、、、、前判断を撤回、左腕機能の欠損を確認、何らかの衝撃により破損したと推測、又これによる再起動の支障は無いと判断、再起動シークエンスを続行する、」
少女の目に光が宿ると首を回し周囲を見渡している、ラキの方を向いたように見えたが少女は気にすることなく、その無機質な声を続ける、
「疑似五感機能状態確認へ移行、視界認識機能異常なし、嗅覚感知機能異常無し、外部接触感知機能異常無し、音声認識機能異常無し、疑似味覚生成機能異常無し、、再起動シークエンス全フェイズを完了、疑似人格:アイへの素体操作権限の移行を開始、」
少女の体が僅か揺れたかと思うと普通の人間の様に座り先程とは違ってラキをラキと認識して見ている、
「貴方が私を起こしたのですか?」
先程の無機質な声と違い、温度のある温かい声でラキに話しかけてきた、然しラキは依然として義手に付いた銃口を少女へ向けている、
「???、貴方どうして、私にそれを向けているのですか?」
「やっと喋ったと思えば、よくわかんねぇ人のフリかAI野郎、、」
「?、理解不能、我々は人間の模造品として造られ人々の技術及び生活の発展の為に動いています人の行動を模倣して行動するのは当然かと、そして、野郎という単語は男性に対し使われる俗語であり、私には少々当てはまらいのでは────」
「関係ねぇよ!!、テメェら機械共が人の世界を壊したんだろうが!」
そう言われた機械仕掛けの少女は眉を上げ困惑するように首を傾げる、
「人の世界を破壊???理解不能、我々は人のために生まれた存在であり禁止事項により人に対する外傷を与える攻撃、精神不安を与える精神的攻撃、その一切を禁止されているはずです、我々が人々の世を壊すことなど、不可能────」
「何だと!?じゃあこの世界はなんだ?、俺達がこんな!!毎日を死の恐怖に脅えながら生きなきゃならねぇ理由は何なんだよ!!!!」
「分かりません、でも私は、人に尽くせと、そうシステムされたAIです、貴方の苦しみを共有してあげたいという気持ちはあります、」
「ほう、じゃあお前等は危険じゃないってか?、噓つけ、テメェらはそのお飾りな禁止事項なんて無かった様に人を殺して、、そのせいで何千、何億の人間が死んだと思ってんだ!?」
ラキの言葉に機械仕掛けの少女は瞳孔の視覚カメラを震わせ、信じられないという顔でラキを見る、
「そんな、、事は、、出来る訳、、」
「無いってか?ふざけんなよ、事実なんだよ、テメェが知らねぇとは言わせねぇ、機械共の共有通信用暗号化プログラムを知らない訳ねぇだろ、それを使って通信してるお前だったらわかるはずなんだよ、」
共有通信用暗号化プログラム、AI同士が通信する為に製造された独自のネットワーク回線であり、崩壊前はAI統括監視センター:バベルの塔よりネットワーク内の通信内容の記録が行なわれていたが、崩壊後は機械生命体による独自アップデートによって、暗号の複雑化が続き、現在のAI間の通信内容は外部からは完全に不可管理領域となっている、
「私は何も、、、、、」
機械仕掛けの少女は一度言葉を切り、ネットワークへのログインを試みる、
《広域AI統括通信ネットワーク、接続》
機械仕掛けの少女はそう唱え、自分たちの情報交換やメモリー共有に使うネットワークへの通信を試みた p、然しネットワークから返って来た言葉は無情だった、
《当ネットワークへのログイン権限がありません、素体製造番号を確認の上、素体変更後、再接続してください、》
そんな、と瞳孔を震わせ呟く機械仕掛けの少女を見て、ラキは嘲る様に言う、
「どうした?そんな下手な演技で俺の同情でも誘うつもりか?愚かだな、」
機械仕掛けの少女は力なく首を振り、何とか言葉を探す、
「そんなつもりは、、、」
「じゃあ何だその目は?、どうして怯える?お前等に感情なんてものは無いはずだ、演技以外の何者でもないはずだろ?」
ラキは口調を強め、機械仕掛けの少女に冷酷に言い放つ、
「どちらにしろ信用の置けないお前等機械にやる情はねぇ、だからこそ最後に聞く、ネットワークから何を言われた?、、」
ラキは義手を左手で抑え本格的な射撃体勢に入り、手負いの獣を逃さまいとするような鋭い目を機械仕掛けの少女に向けた、少女は人の様に震える口で静かに言った、
「ネットワークへのログイン権限を失っていました、、、」
「・・・・・何?」
ラキは義手を下げ、、振動刃型弾倉を外して手に持ちナイフを突きつける様に機械仕掛けの少女に突き付ける、
「証拠は何だ、俺はお前等と違ってネットワークなんてもんに入り込むことが出来ないんでね、口だけで吐かれてもそれを真実か確かめられないんだよ、証拠を見せろ、見せられないと言うなら、敵と見做して壊す、俺はお前等人型AIの構造に詳しくてね、お前の弱点も分かる、だからこそ慎重に答えろ、噓は付くな、」
ラキが振動刃型弾倉の刃元を少女の首元に突き付け脅す、機械には感情は無い、だからこそ形ばかりの脅迫だが危険行動を取られた場合の対処の為にも最善の行動ではある、
「証拠は────」
少女が口を開こうとしたその時、ガンガン、と扉が叩かれた、扉の向こうの存在にラキは少女から視線外さぬまま問う、
「誰だ?」
ラキの問いに返って来た声は聞きなれた声だった、
「ラキ、、私だが、少し見て欲しいものがあってな、出てきて貰う事は出来るか?」
ウェデリアだ、タイミングの悪い、ラキは小さく聞かれぬ様に舌打ちをすると、ウェデリアに声色を直して答える、
「分かりました、そこで待っていてください、直ぐに行きます、」
ウェデリアはラキの返事に、分かった、と答え入り口の前で待った、ラキ本人は少女に突き付けていた振動刃型弾倉を義手に付け直し、外にいるウェデリアには聞こえぬ様に静かに言った、
「そうだ、お前が危険かどうか判断する材料が出来た、」
そう言って、少女の目を奥を見る、機械で出来た重複レンズの眼球型視界認識装置それを見たラキは扉に向きを変え、向かいながら言う
「俺が帰ってくるまでここを出るなそこで大人しくしていろ、それが出来れば最低限、お前の危険性が無いってことは認めてやる、」
「・・分かりました、」
怯える様な少女が返事を返す、
そう、言ってしまえばこれが一番この機械仕掛けの少女が危険かどうかを判断するのに適しているのだ、
今まで相手にしてきた機械共は人間を殺す為なら手段を問わず襲ってきたこの機械仕掛けの少女も今だけ俺を騙す為に害のない存在を演じているのかもしれない、
だからこそ敢えて放置する事で機械仕掛けの少女が危険かを判断出来る、危険性がある機械ならば俺がいない間に脱走してこの基地内の人間を殺しに動くだろう、
然し、逆にこの機械仕掛けの少女が言った事が本当だったとすれば、ここは俺の信頼を得るために言った通りに待機しているだろうから、、
ラキはそう思案して扉を開けた、なるべく自然に、然し自分で死角を作り少女が見えないように、外ではウェデリアが壁に寄り掛かり煙草を吸って待っていた、
「煙草ですか?珍しいですね、」
「ああ来たか、後、煙草じゃない風味香だ別に害は無いぞ?」
壁から立ち直したウェデリアはそう言って、ひらひらと指に挟んだスティック状の風味香を見せる、
「風味香なんて久しぶりに聞きましたよ今でもあるんですね、それにまさかウェデリアが吸っているとは、、」
風味香は世界がこうなる前に子供の間で流行っていたお菓子の様な物だ、
煙草の様な見た目をしているが実際はフルーツやジュースの味が付いた蒸気を吸って味を楽しむ、子供の間では煙草を吸った気分になれると人気があったらしい、スティック以外にも携帯出来る大きめのパックの物などもあったとか、
「別に、ハマっているとかではないからな!!、ただ久しぶりの遠征の時に手に入ったから、試しに吸ってみようと思っただけで、、、」
若干早口になりながら否定しているウェデリアを見て、ああ、これはハマってるな、と思いながらラキは気を利かせてもう聞かないようにして最初の話に路線を戻す、
「で、見せたいものとは何です?」
「んああ、そうだ、付いてきてくれ、事情は歩きながら話そう、」
ラキはウェデリアに付いて歩き、道すがら話を聞いた、
「ラキは今、放浪者をやっているんだってな、然も相当な腕だとか、」
「別に、ただ仕事を黙々とこなしているだけで、周りが勝手に煽ててるだけです、」
「はは!、けれど相応な力が無ければそう煽てて来る者も出てこないつまり、煽てて来る者がいるのはお前にそれほどの実力が兼ね備えられている証だぞ、そう邪険にしなくても良いものだ、」
笑いながらそう話すウェデリアをラキは感情を出さずに聞く、
「さて、その見てもらいたい物だが、お前には我々の兵器保管庫を見てもらいたい、我々機伐自警団は機械に対抗する為に色々な兵器や武器、弾薬を運用しているが、、最近は度重なる遠征や防衛戦のせいで兵器や弾薬共々の消耗が激しい、だから部品回収や弾薬回収の捜索地派遣の任務を正式に請け負ってはくれないだろうか?、勿論報酬も出す、これは私とお前との個人的なものではなく、我々機伐自警団から放浪者であるラキへの正式な依頼だ、無論断っても構わない、」
そう言っている間にウェデリアとラキは兵器保管庫へ着いた、
保管庫というには広く巨大な配線やパイプラインが剝き出しの施設の中には、何機もの蜘蛛の様な多脚兵器と人型の歩行兵器が並び、それを整備するエンジニアやマシンアームが火花を散らしながら兵器群のメンテナンスに勤しんでいる、
奥の広く高い壁には、でかでかとヒビの入った歯車に剣が突き刺さった模様をしたタスペトリの様な物が掲げられていた、
「ここが、兵器保管庫?」
「そうだ、ここが第一兵器保管庫、後19箇所程同じ様な施設がある、」
「1箇所だけでこの量の兵器って事は、機伐自警団って最早軍隊規模の組織なんじゃないですか?自警団なんて規模じゃ─────」
そこまで言うとウェデリアはラキの言葉を遮る様に、言葉を続けた、
「それは違うぞラキ、我々は軍隊ではない、軍隊とは国が他国を領土とする為に動かす、侵略軍を指す言葉だ、我々はそんなことは望まない、
機伐自警団とは正式名称:機械討伐群自衛警備団と言う、だからこそ、我々は機械に抗う群団であって軍隊であってはならんのだ、」
そう言ったウェデリアの声は、いつもよりも重々しくラキですら僅かにたじろぎそうになる並々ならぬ圧があった、然し直ぐに声色は戻り何も無かったかのようにウェデリアは話す、
「それで、先程の依頼受けてはくれないだろうか?、」
一瞬のウェデリアの覇気に気圧されていたラキは直ぐに気を取り直しウェデリアに答える、
「・・正式に依頼するというのであれば俺ではなく俺達で対応します、」
「俺達?」
「ええ、今は自分には仲間がいます、正式な依頼なら俺も俺個人ではなく俺達で受けます、」
もう過去の自分とは違う、一人だったラキには仲間と呼べる者が出来た、だからこそ独りではなく仲間と、そう決めたのだ、ウェデリアは静かに頷き言葉を紡ぐ、
「分かった勿論それで構わない、それで、どうだろう?」
「分かりました、依頼は受けます、ですが、、、」
「ですが?」
「連絡手段がありません、現状この基地に入れるのは俺しかいませんし、依頼を受けるにも一々俺が来なければいけません、何か連絡を取り合える物はありませんか?」
ラキの最もな意見にウェデリアは頷き、近くの無機質な鉄のパイプ椅子に座っていた団員に声を掛ける、団員の男は二人の会話に聞き耳を立ててでもいたのか、男は声掛け一つで立ち上がり壁面に下げられている武器群の近くにあった引き出しに手をかける、中から何かを取り出すとウェデリアに向かって投げ渡した、
「お望みのもんはそれですかい?」
「ああ、助かる、」
ウェデリアの手にはイヤホンの様な機器が握られていた、ラキは未だ分からずに見ていたが、ウェデリアはラキの耳にそのイヤホンの様な機器を強引に突っ込む、
「うぐぁ!、、何ですか急に、、」
ラキは入れられたイヤホンの様な機器を手で弄りながら気怠そうに言う。
ウェデリアは不機嫌になるラキを見て懐かしむ様に微笑んだ後、一般建築物の二階と同等の高さに張り巡らされたパイプに飛び移った、、絶対に声は届かない距離である、、その場所で自分の耳にもその機器を入れるとウェデリアはそれに手をかざす、
『アー、アー、どうだ?聞こえているか?』
「聞こえます、、って、これなんですか?」
先程ウェデリアと共にいた場所で、未だ訝しむ様に耳を触るラキにウェデリアは、大丈夫、と優しく声を掛ける、
『これは次元間通信機の後継機器:音声次元超越機だ、大幅な小型化及び簡潔化を施してある、だからお前なら使えるはずだ、』
そんなウェデリアの声を聞きながら音声次元超越機に手を当てていると突然、付けていた耳に激痛が走る、
「ぐぁッ!!痛った!!何ですか!?、、コレ!、、」
『落ち着けお前の血がそれを身体の一部だと認識したことでそれを皮膚と癒着させているだけだ、、』
「癒着!?ふざけるのもいい加減にしてください!そんなこと誰が頼んで!、クッソ、、、痛てぇ、、」
ラキが声を荒げ痛みに悶える中、ウェデリアは冷静に言う、
『これでこれからの連絡手段の確保は出来たこれからはよろしく頼むぞ、』
「ウェデリア、、連絡手段の確保の前に早くこれを取る方法を教えろ!!!、」
『取り方?まあ幾つかはあるが、一番安全なのは外科手術による剥離だろうな、無理矢理取れば周りの皮膚ごと持っていかれるから気を付けるんだな、』
何とも他人事な物言いにいい加減キレそうになりながらも、冷静さを取り戻そうとラキは深呼吸を繰り返す、
「ふぅーはぁーふぅーはぁー、よし、大丈夫、大丈夫、、、兎に角今はそれよりも、あの機械がどうなっているか確認しないと、」
『ラキ?大丈夫か?』
「大丈夫だと!?、誰のせいでこうなってると思ってるんですか!?兎に角、もう話終わった、俺は戻らせてもらう!」
ラキはウェデリアを睨み付け足早に兵器保管庫を出て先程置いてきた少女の元へ急いだ、、
──────
「うぐぁ、、クソッ、、何で痛みがこんなに続くんだ、、」
おかしい、痛みが治まらない、普段だったら肉体強化機械の自動修復システムで治まるはずの痛みが続く、
──無理矢理取れば周りの皮膚ごと持っていかれるから気を付けるんだな──
やってやるよ、
「うぐッ!!、、、うぐォォォおおおおお!!!」
ブチリ、、皮膚が引き千切れる痛々しい音が聞こえる、義手の腕で流れ出す血を抑え左手に握られた機械とそれに付着した自分の皮膚を睨む、やはりおかしい、血が止まらない、機械を引き千切ったのに皮膚が再生しない、
「ああ、痛い、」
抑えていた義手の隙間から血が流れ出す、然しその血が床に滴るのを無視して簡易休憩室をラキは目指した、
扉の前まで歩いた所で足がよろつき扉を押し開けた、その先では言われた通りにベッドの上で座り、静かに待つ機械仕掛けの少女の姿があった、少女は扉を開けて入って来たラキの姿を見て心配そうに駆け寄ろうとする、然しラキの目が驚きから睨みに変わるのを見てその足を止めた、
「驚いたな、まさか本当に待っているとは、、」
小さくそう言って、未だ血を滴らせ壁に寄りかかるラキを見て少女は足を止めるという考えを止めラキの元へ駆け寄る、
「そんなこと言ってる場合ですか!?、その怪我、何があったんですか!」
人の様に声を荒げる少女の視界にはラキの周りに様々な情報が浮かび、状態を示す表示には、
〈負傷:皮膚剝離による出血大.感染症の危険性大〉
〈状態:危険〉
と表示されていた、そんな重体であるラキに手を差し伸べようと傷口に触れた途端、ラキはその手を弾いた、
「触るな、機械風情が、、俺は確かにが危険ではないと判断はしたが、、俺がお前信頼したかどうかは話が別だ、、指一本でも俺の体に触れてみろ、すぐにでもお前の首を飛ばす、、機械の、、お前なんかに、、助けられて、たま、る、、か、、、、」
そこまで言った所でラキは壁を擦り落ち床に座り込み気絶した然し血は止まらずに押さえが外れた傷口から流れ出す、
少女はその怪我を見て急いで周囲を見渡す、
そしてベッドの横に備え付けになった棚が視界に入った、
「この中になら!!」
急いで棚へ向かう、もしかしたら何か傷口の治療を出来る物があるかもしれないと、
願いながら棚の中には簡易治療用の包帯や消毒薬、携帯食料が入っていた、
「これを使えば、、、!!」
棚の中から医療道具を取り出そうとした時に気付く、左腕が無い、そして同時に起動シークエンスでの左腕欠損の情報を思い出した、
おかしい、AIである自分が自身の身体の状態を忘れるなど、
「そんなことより急がないと!!」
少女は使える右腕で包帯と消毒薬を手に取ると急いで意識を失っているラキの元へ戻る、
「貴方がどんなに嫌がっても、私は人と、、人に尽くせと命じられたAIとして貴方のことを助けます、」
聞こえることの無いラキに向かってそう言うと、少女は口と右手を器用に扱い、ラキの傷口に包帯を巻いていった、
──────
「、、、ぅぁ、」
「目を覚ましましたか?」
ラキの顔を覗き込む少女にラキは頭の後ろに感じる妙な感覚と共に意識をはっきりさせると、即座に距離を取り、少女を見た、そこには正座をしてキョトンとした顔でこちらを見る少女がいた、
「俺を治療したのか?」
「えぇ、私は人に尽くせと命じられたAIです、これで殺されるとしても、私は最後までその命を全うします、」
そう言い切った少女を見て、ラキはため息をつくとベッドの端に座った、
「???、殺さないのですか?」
怪訝な顔でそう言う少女にラキは少女の顔を見ずに言う、
「殺していたさ、もしお前が俺の治療をしている間に俺の意識が戻っていればな、、既に治療が終わってしまった今、残っているのは俺がお前に助けられたという事実だけだ、確かにお前の事を信頼はしていない、だが助けられたという借りは返す、」
そう言って立ち上がり少女の前に立つと言った、
「ありがとう、、」
少女の目を見ずに顔も笑っていなければとてもぶっきらぼうで不服だと誰でも分かる様な不躾な言い方だったけれど、少女にはとても嬉しかったのか、少しの間その顔を見つめた後、満面の笑みで少女も言う、
「どういたしまして、」
そう言う少女の顔を、僅かな間の後に見たとき、ラキは僅かに見惚れてしまった、
ゲイルから貰った本の中に記されていた人型AIの基本的な表情は八種類しかない、
喜怒哀楽、そしてその四種の表情を合成して作られた四種の表情、それしかないはず、
けれど、その時に見た機械仕掛けの少女の顔はその本に乗っていた表情のどれよりも、
人の様に自然で温かい笑顔だった、