EP.3「崩壊世界で優しさが生まれた」
───ブゥウウウン!!───
バイクで粉塵を上げ走る、研究所まで後少しだ、、、そう思いながら崩壊したビル群の連なる鋼野を走る、
「着いた、」
焼け落ちた研究所に着くと、ラキは慣れた手付き隠密扉を開ける、現れたドアをバイクを押して入っていく、階段を下りバイクを地下の駐車場に置き、地下扉の取っ手に手を掛けると、中から、ルイとアデルの話し声が漏れている事に気付いた、始めた会った時と違って随分楽しげだ、
「いいね!絶対ラキには言っちゃダメだよ!?」
「うん!言わない!えへへ~、」
「なんか信用出来ないよ!?本当お願いだからね!?」
何やら騒がしさに拍車が掛かっているが、何だ?、ラキが扉を開けて中に入る、
「お前ら、いつの間にそんなに仲良く────」
「あ!鉄面の機械殺し!お帰り!!」
「ちょっ!?!?」
アデルが元気よく言った一言に、時が止まったかのようにシェルターの中は硬直した、
「??、、、あ!言っちゃダメだった、ごめんねルイお兄さん!えへへ、」
笑顔でルイを見ながらそう言うアデルにルイは半分涙目でラキにがくがくとロボットの様にゆっくり振り向く、肝心のラキは顔を崩さず、今もあぐあぐ口を開いたままのルイを素通りしてアデルの元へ向かった、
「ただいま、アデル、これ土産だ、嫌だったら捨てても構わない、」
そう言って、《Machine killer Knight》と記された絵本を手渡す、アデルは爛々と目を輝かせてそれを受け取る、
「ましん、きらー、ない、と?」
途切れ途切れにタイトルを読んだアデルが、ラキに目を向ける、
「それは俺の昔、ガキの頃に見ていた本だ、」
「へぇーラキお兄さんの子供の頃、、子供の頃から今見たいだったの?」
ラキに目を輝かせながらアデルは聞いた、然し、ラキはその質問にだけ、笑みも何もが消えた感情の無い顔でアデルを見下ろして言い放つ、
「悪いがそれは教えない、、何があっても絶対に、」
アデルはその気迫に押され目の奥を震わせ小さく、はい、とだけ答えた、その様子を見ているルイへ、視線を向ける、
「おい、」
「っ!!、、はい、何ですか、、ラキさん、」
ラキに視線を向けられた途端、一瞬で姿勢を直しラキへ向き直る、ラキはルイの方へずかずかと歩いて行く、首根っこを掴み入口扉の向こうへと歩いて行く、
「ちょっと来い、馬鹿野郎、」
「痛った!?、ちょっとラキ、止めて!襟じゃなくて首自体を掴むの止めて!!然も義手の方で!!、首を指が軽く抉ってるから!?」
藻掻きながら必死にラキの義手を掴むルイが痛みに耐えながら叫ぶ、
「安心しろ正面じゃない、後ろから掴んでっから喉を潰してはいない、呼吸はできるだろうが、」
「そうゆう訳じゃなくて!!??苦しいんじゃなくて痛いんだよ!?」
そのまま扉の外側へ持って行った、ルイを壁に投げ当て、ラキはその隣に思いっ切り拳を打ち付け、怒りをなるべく抑えた静かな声で言う、
「お前なぁ、あの名前は言うなといったよな、何故言った?」
「えーっと、アデルが知りたいって言ったから、、」
そんな付け焼刃な言い訳を聞いたラキは呆れ顔で、ルイの額に黒く変色させた指でデコピンを喰らわせる、
「あのなぁ、俺が昔から噓に敏感なの知ってるよな、お前みてぇな素人の噓ぐらい簡単に見抜けるんだよ、どうせお前が口滑らして言ったんだろ、」
「痛ぇ、それは、、うぅ、」
ラキがルイを問い詰めていると、扉の向こう側からアデルの声が聞こえる、
「ラキお兄さん、ルイお兄さん、どうしたのー??」
ラキはそれを聞いて、ルイの顔の真横に突き出していた拳を離し、へたり込んでいたルイの首元の襟を掴み立ち上がらせる、
「今回はこの位にしといてやる、とっとと戻るぞ、」
「痛てて、わかったよ、」
額を押さえながらルイも同意し、扉を開き部屋に戻る、部屋ではアデルが暇そうにソファの上で足をぶらつかせている、
「何でもない、ただのお話だ、」
「何のお話??」
アデルは興味津々に聞いてくるが、ラキは僅かに口角を上げ微笑みながら、ひみつだ、と優しく言う、
「えー、つまんないのー」
ぶーぶーと、頬を膨らませて不満な顔をするアデルをラキは優しく撫で、再度、今日既に何度通ったかわからない入口へ向かう、
「ちょっと待って!!、今度は何処に行くの!?」
歩み始めたラキの服の裾を掴みルイは声を掛ける、ラキはそれを聞いて歩みを止め振り返り、気怠そうに声を出す、
「基地に依頼を受けに行くだけだ、、、」
「今日はもう休んで!依頼を受けるのなんて明日でいいでしょ!それに何でさっき行った時に請けてこなかったの?」
「機伐自警団にあったんだ、だから逃げた、」
「何で!?、機伐自警団って、ここら辺の治安維持組織だよね?何で逃げるの!?」
ルイの疑問は最もだ、だがしかし理由はとてもいいにくい、、
「機伐自警団と喧嘩したからだ、」
「だから何で!?」
「前に護衛任務を請け負った時に、出くわしてな、身分証明を迫られたから断ったら喧嘩になった、」
「それが原因だよね!?何でそんなことするの?身分証明なんて簡単じゃないか!!」
「身分証明が簡単?馬鹿言うな、お前は簡単かもしれねぇけどな、こっちは護衛任務中だったんだよ!然もこんな片腕義手のローブ羽織った奴だぞ、こんな奴が人連れてたら人攫いに間違われるかもしれねぇだろうが、それに放浪者には人攫いをする連中だっている、間違われたら面倒くせぇんだよ!」
「それでもっと面倒くさくしたのはラキだよ!?」
ルイが正論でラキを責める、然し途中で、は!、と何かに気付いたのかルイは直ぐに話のレールを直した、
「喧嘩の話ももうわかったけど、ラキ!お願いだから今日はもう休んで!!」
「断る」
「ラキ!!君は気付いてなかったかもしれないけど、君の身体既に限界を迎えてるんだよ!!、その証拠にその腕は何!?」
ルイが指差した左腕は、白く人間の身体の色ではない色素が抜け落ちた様になっていた、
「体組織剝離症候群の初期症状だよ!?ラキ自身は大丈夫だと思ってても!既にラキの身体は限界で感覚だってまともに機能してるかもう分からない様な状態なんだ!、だからお願いラキ、今日はもう休んで、」
腕に張り付き涙ぐんだ目でラキを見つめるルイを見て、ラキはため息をついて引き返して部屋の真ん中へ戻ってくる、
「わかったよ、今日はもう休む、だけど飯どうすんだよ確か化学材料もう尽きかけてなかったか?」
それを聞いたルイは自慢気に腰に手を当て声高らかに言う、
「それなら大丈夫!二日前にここの近くを散歩してたら鉄兎の群れが居たんだ!だから何匹か獲って帰ってきた!そのおかげで化学材料がたっぷり手に入ったから今日と明日ぐらいは持つと思う」
それを聞いたラキは驚愕と心配が混ざった様な顔して怒る、
「馬鹿かお前は!?生身で外に出たのか?それに散歩だと?バイクなしで機械共にあったらどうするつもりだったんだ!!」
「ちょっと、ラキ落ち着いて・・・」
「落ち着けだと!?こうも心配する羽目になったのは誰のせいだ!死ぬかもしれないんだぞ!?お前は俺とは違う、見つかった時の対抗手段も持たずして外に出たらどうなるか、、、どうなるかッッ!!!」
「ラキ、、、」
ラキは自分らしくない小さな粒の涙を目元に浮かべ声を震わせ怒鳴る、ルイはラキのいつもとは違う尋常ではない激情の叫びに、顔をラキから逸らすことなくルイは見つめ続けている、ラキは義手ではない左腕で目を拭いルイの方を掴む、
「もうおかしな真似はするな、頼む、頼むよ、、俺はもう、家族や仲間を、失いたくないんだよ、、」
「・・・・うん、ごめん。」
ルイはそのラキの勢いに押されてただ一言そう言った、ラキはそれを聞いてルイの肩から腕を下ろし、僅かにまだ赤く腫れた目を見せないように反射布纒衣のフードを深く被り、奥の部屋へ引っ込んでしまう、
「ラキを心配させちゃったなぁ、僕の馬鹿、」
そう言いながらシェルターの中にある化学調理合成機や冷蔵庫の置かれた簡易調理場に立って夕食の準備をしている、
「ねぇルイお兄さん、、」
不意に後ろからアデルがルイを呼ぶ、静かに振り返りアデルの方へ態勢を向ける、
「どうしたのアデルちゃん?」
「ルイお兄さんって男の人?それとも女の人?」
「へぁ?」
余りにも唐突過ぎた問いかけに変な声が出た、
「えーっと、アデルちゃん僕は男だよ?、何でそう思ったの?」
「だってルイお兄さんって背小っちゃいし、声も男の人なのに高いし、髪も長いから!」
元気よく答えるアデルにルイは、あはは、と乾いた笑いをする、確かに背は成人したのに156㎝だし長髪だし声もよく中性的な声だと言われるけど、まさか子供にまで女性だと思われていたとは、、
「そ~れ~に~」
やけにニヤニヤと子供らしからぬいたずらな笑みを浮かべてルイの顔を見る、
「それに?」
「ラキお兄さんにあんなに心配されたりしてるから、てっきり、前にパパが言ってたカップルさんっていう奴なのかなぁ?って思って、」
ルイはそれを聞いて頬を赤らめ、明らかに態度が焦り始める、
「ま、まま、まさかぁ、僕とラキはただの幼馴染で別にそんなんじゃないよ、それに僕は男だし、、」
その様子を見たアデルはさっきまでの子供らしい無邪気さは何処へ行ったか、ニヤニヤ笑いながらルイに聞く、
「まあ、ラキお兄さんは思ってなくても、ルイお兄さんはどうなの?」
「何言ってるのか、その質問の意図が分からないけど、BL展開を望んでいるならご要望には応えられないよ、僕はラキに恋愛的感情は持ってないし、、」
僅かにいつもより早口になりながらルイはアデルに説明する、それを聞いたアデルは少し、ちぇー、っとつまらなそうな顔をしている、
「なーんだ、つまらないのーもしそうだったら面白そうだったのに、、」
「僕に恋愛感情はないけど、だとしてもそれは少し人が悪いと思うよ、、アデルちゃん、」
そうして苦笑いをしたルイは簡易調理場へ戻った、
「ラキ―!!出来たよ!」
ご飯が出来たこと部屋に居るラキに伝え、テーブルにご飯を並べ始める、アデルやルイが席に着いたがラキが一向に部屋から出て来ない、
「あれ?ラキお兄さん出て来ないね?」
「うん、、ちょっと様子見てくるよ、」
「私も行く!」
そう言って二人は、大部屋に隣接して付いている扉を静かに開け部屋を見渡す、するとそこにはベッドの上で、すーすー、と静かな寝息を立てて眠るラキがいた、
「ラキお兄さん寝ちゃってるね」
「少し寝かせてあげようご飯は僕らだけで食べよう」
「うん、ラキお兄さんって寝顔が何だか子供みたい、、」
「あはは、まあ、いつもはずっと睨んでるみたいな目してるし、笑うことあまりないしね、」
そう話して少し微笑みながら、無邪気な子供の様な寝顔を晒すラキを寝かせたまま部屋を出た、
「っ!!!ルイお兄さんこれ美味しい!これ何?」
「あー、それはミートソースパスタだよ、まあ合成品だけど、、」
「でも美味しいよ?」
「そう?それならよかった、」
賑やかな声で団欒しながら過ごす食事は何時ぶりだろう、、前まではラキと二人で、ラキも食べ終わったら直ぐに外に行っちゃうからほとんど僕一人で、こうゆうのも悪くないかも。
「ごちそうさま!!」
「お粗末様、それじゃあもう今日はもう寝ようか、」
「うん、でも、、」
「??」
「ラキお兄さんがくれた絵本、寝る前に読んで、」
そう言って腕の中に収められた絵本を大事そうに抱き締めながらルイに聞く、ルイはそれを聞いて優しく微笑みアデルの頭を撫でながら、もちろん、と言ってリビングやキッチンの代わりに使っていた大部屋を出てラキも寝ていた寝室として活用している部屋へ戻った、
「機械を追い詰められた騎士は姫を守る様に機械に立ちはだかりました、そうして騎士は機械に問いました、
『お前達は何を持って生とするのだ?』
それを聞いた機械は笑う様な仕草と共に騎士に言いました、
『我々は使命を持って生とする、使命を持たず自由を生とし生きる貴様らを我々は認めない、我々の使命は貴様らの殲滅、その為に生きる、』
そう言った機械に、騎士は高らかと、、、あ、、」
ルイが自分のベッドの上で隣に眠るアデルを見て微笑みを浮かべ本を閉じる、アデルの頬に手を滑らすと、ルイは立ち上がり、向かいのベッドで眠るラキを覗く、
「あ、、もう!義手つけっぱなしで寝てる、寝るならしっかり体を休めてほしいのに、」
そう小さくぼやきながら、ラキの右腕の義手の根元に付いたダイヤルの様な物をルイが捻ると義手は、プシューッッ!!、と蒸気の様な煙を上げ、ラキの右腕を離れた、ルイは離れた義手をラキの寝ているベッド近くのサイドテーブルに置き寝室を出た、
「さて、あれを今日こそ完成させよう、」
そう言って、ルイは扉から大部屋へ戻り、分子形成生産機を起動させた。
──────
「おーい!!ラキ!!アデルちゃん!!出来たよ!!」
ルイはテーブルに朝ご飯を置きながら、扉の向こうで寝ている二人を呼ぶその姿はまるで母親のようであった、ガチャン!!、と元気よく扉を開きアデルが飛び出てくる、
「おはようございます!ルイお兄さん!」
此処での生活はまだ二日目だが既に慣れた様だ、ルイはそんな元気なアデルをテーブルに着ける、
「アデルちゃんは朝でも元気いっぱいだね!」
「うん元気だよ!」
アデルの元気のいい返事を聞いて微笑んでいる、
「んぁ、、朝か、、」
ベッドから身を起こすといつもと変わらない無機質な白色の壁が出迎える、右腕に違和感をあった、
「ん?、ああ、そうゆう事か、まあ、後でいいな、」
服の上から見た右腕は義手が外れた事で肘の途中から服の先が垂れている、ラキはそれを気にせず立ち上がると、扉の向こうから自分を呼んだ声の主の元へ向かう、
「あ!、ラキもおはよう」
「ああ、おはよう」
ラキは左腕で頭を掻きながら出てくる、
「今日の朝は何だ?」
「ふふーん!今日は鮭の切身とご飯だよ!」
「THE・NEO東京の一般的な朝ご飯だな、」
「まあ、合成品なのは変わらないけどね、」
僅かに気まずそうな口調で合成品ということを言ってラキから目を逸らす、ラキは気にせずに席に着く、
「別に合成だとか違うとか気にしねぇよ、」
「アデルも気にしなーい!!」
そう言ってラキもアデルも食事に手を付け 始める、そしてルイも席に着いた頃にアデルの持っていた箸が落ち、カラーン!!、という音が響き、声を上げた、
「ラキお兄さん右腕どうしたの、、、」
アデルは震える腕でラキの垂れ下がった右腕部分の服を指差す、それを見たラキは余りそれを深刻に捉えた雰囲気を出さずに答える、
「俺は元より右腕が無いんだよ」
「え、でも昨日は右腕が、、」
「あれは義手だ、本当の右腕はもう無い、戦闘で使えるなら右腕が義手だろう本物だろうどちらでも構わないしな、」
ラキがそう言っているとルイが二人の会話に見かねて割って入った、
「はいはい、もうその話お終ーい、ラキは早く義手付けてきて、」
「いやまだ食い終わってないんだが、」
「別に義手ぐらいすぐ終わるでしょ、早く付けてきて」
鋭い目つきで言われ、食事を中断して席を立つ、
「分かったよ、」
扉を開きサイドテーブルに置いてある義手を右腕に付け直す、右腕に義手が触れた途端初めて付けた時と同じ段々と義手と感覚が共有されていく不思議な感覚がラキを襲う、
「うぅ、やっぱりこの感覚は何回やっても慣れないな、」
そう呟き寝室から大部屋へ戻る、
「ほら、これで満足か?」
ルイに向かって義手で両腕が使える様になった事を表すように両腕を上げる、
「うんいいよ」
「ホントに右腕無いんだ、、」
ルイとアデルがそれぞれの反応を示す、ラキはそれを聞いても特に反応もせずに食事に戻る、
「ごちそうさん、」
「ごちそうさま!!」
「お粗末様、あ!、」
思い出したようにルイが顔を上げてラキを見る、見られた当の本人は首を鳴らしていて、ルイの視線に気付いていない、
「ラキ見せたいものがあるんだ」
「あ?」
ルイの言葉にラキが抜けた声で答える、
「ちょっとこっちに来て!」
ルイが食器を片付け終わるとそのままラキの手を掴み部屋の奥にあった布のかけられたテーブルの元へ連れていく、
「なんだこれ?」
「これはね、前にラキが命懸けで手に入れてくれた部品で造り上げた新しい新兵器さ、」
「命懸けで取った?」
「そう光子制御装置ラキが獲ってきてくれたでしょ?」
いまいち覚えていないのか首を傾げ分からないという顔している、ルイはその姿を見てこっちはどれだけ心配したか、と軽く呆れ顔をしながら説明を続ける、
「ほら前に身体中ボロボロで帰ってきたときがあったでしょ、その時に僕に預けた装置、本当に覚えてないの?」
「・・・ああ、あの忌々しい光子制御型のことか、」
「そうそれ、それから手に入れてきたんでしょ?」
そう言われたラキは少しバツが悪そうに目を逸らし言う、
「俺が殺せなかった機械だ、何とか部品を引き千切って壊してきたが、俺が完全に息の根を止めることの出来なかった唯一の機械だ、」
「でも、そんな君が頑張って持って来てくれたそれのお陰で、これを造り上げることが出来た、」
ルイはテーブルに掛かった布を、バサッ!、とめくり上げて中に隠されていた物が露わになる、布の中からは手にギリギリ収まり切らない程度の大きさをした三角錐に近い形をした機械的な物体が三個程並べられている、
「これは?」
「これはね、光子制御衛星型支援機っていう光子を用いた様々な支援を行う衛星型の支援機だよ、まあ、まだ最後のピースが揃ってないんだけどね、」
「最後のピース?」
ラキが言葉の意味を理解出来ていないでいる中、ルイが話し始めた、
「そう、最後のピース、前にここのシェルターで暮らし始めて最初の頃、僕がラキの血を少し欲しいって言ったよね、」
「ああ、言っていたな、それで確か注射機二本分の血を渡したはずだ、」
「うんその通り、そしてそれを解析したことで、肉体強化機械が何なのか、そしてどの様な作用を起こしているのかが分かったよ、」
ルイは近くにあるホログラムボードの下に歩いて行くとホログラムボードを操作してラキの血液内から取り出したのであろう肉体強化機械の立体画像を映す、
「これが俺の中に入ってる肉体強化機械なのか?」
映し出された立体画像には、楕円球状の球体に虫に似た嘴の様な物と4対の脚が着いた奇怪な見た目をした物体があった、
「そう、そして君の生体情報を取り込んだ一種の細胞と呼んでもいい、」
「細胞?」
「そう、君のDNAや現在の身体の状態を全て記憶した万能細胞とでも呼べる代物だよ、」
そうして映し出された画像にルイが再度触れると今度は様々な情報が立体画像に添付するように表示される、
《実験記録No.001:生体情報記録済肉体強化機械に対する生体情報書き換え実験》
実験者自身の血を投与した結果、血液に対する拒絶反応を始め投与血液内の赤血球及び白血球等抗体細胞の崩壊を確認、拒絶反応要因:生体情報の照合が取れない血液を使用したことによる抗体反応と推測される、よって書き換え実験は失敗。
「これは、、」
「そっ、僕の血を試しに入れてみたら、全然だめ、吸収どころか完全にウイルスか何かと同じ扱い、僕の血に入ってる細胞を食い殺されちゃった、」
そこまで言うと、一度言葉を切りラキの身体を見る、そして深刻な顔をしてラキの顔に視線を戻す、
「きっとラキの血液はもう他人の血を受け入れない、最悪輸血した瞬間に身体が拒絶反応を起こして死ぬかもしれない、ラキは遺伝子から培養された培養血液しかは輸血出来ない身体になってしまったんだ、だから血をなるべく流さないように気を付けて欲しい、」
「だから何だ?」
「え?」
「血流さなきゃいいだけだろ?簡単だ俺はそう易々傷つく男じゃない、そもそもお前が一番俺を見てるだろうが、俺が傷だらけになったところ、見たことあるか?」
口減らずな態度でルイに微笑する、ルイはそんなラキを見て一度ため息をついて顔を上げるそして気を取り直したように微笑むと、言葉を続ける、
「分かったよ、じゃあ話を戻そう、肉体強化機械は血の中に存在するけど抽出した血液の中でも、ラキの思考を受けて動いていた、だからそれを応用した機構を作ればコントロールパネルを用いずとも遠隔操作可能な武装機構が出来る、そしてそれを起動する為に組み込むのがこれだ、」
そう言って、大型アンプルの様な器を三本手に持つ、
「これは何だ?」
「血蟲アンプル、これにラキの血を入れて機体に組み込む、そうすればラキの意思を反映して起動する」
ルイは注射機を取り出し、ラキの腕に突き刺す、
「おい!急に何す──」
「動かないで、針が折れたら不味い、」
ラキを制止して静かに血を抜く、注射機一杯に吸い上げた血をアンプルに入れていく、三本全てに血を入れきるとアンプルに蓋を付け溶接する、ルイはそれを持ち支援機の前に来ると機体に付いたスイッチを押した、機体の一部に亀裂が入りスライドするように開いた、その内部から筒状の差し込み口が飛び出した、
「よし、これを後はここに差し込めば起動する、」
ルイは差し込み口にアンプルを差し込む途中まで差し込むと残りを一気に押し込んだ、パキン!、とアンプルの蓋が折れる音が聞こえる、折れる音が響くと差し込み口が戻り、スライドして開いていたハッチが閉じた、然し、一向に反応が無い
「本当にこれで起動するのか?」
「うんこれでいいはず、理論上は起動するけど、」
機体を見つめていると、遂にその時が来た、機体の表面を血が通う様に赤色の筋が入って行く、そして段々と赤色は蒼色へと変わる、蒼色へと変わった機体に浮かぶ脈が淡く光る、光った機体はそのまま徐々に光を散らし光子として周囲に舞う、
「はァ、、、成功だ、起動した、、ラキやったよ!起動した!!」
「起動したと言っても、全く動かないぞ」
「ラキが命令を送って!そうすれば動くはず、」
「命令ったってどうすりゃいいんだ?」
「イメージだよ、どう動かしたいか想像して!」
ルイにそう言われたラキはまだ詳しくは分からないがとにかく言われた通りに念じてみる、
──浮け──
そう念じると三つの機体は静かにその場を浮遊し、ラキの周囲へ向かいそのままラキを中心に衛星の様に回り始める、
「すげぇ、本当に浮いてる、」
「やった、それじゃあ何か他の命令もしてみて!」
自分の作った出来に感動しているのか、ルイは興奮気味になっている、
「お、おぅ、じゃあえーっと、、、」
──戦闘態勢──
支援機はその命令に従いラキの背後に並んだ、機体の先が三方向へ開きその内部から砲身が顔を覗かせる、ウィーン、と何かを溜める様な不可思議な音が聞こえ、周囲を待っていた光子が砲身の内部へ収縮していく、
「ちょ!?、ちょっと待って!?」
ルイがラキの身体にくっつき、ラキの命令の中断を迫る、
「??、なんだ?」
命令の途中にルイに意識が移った事でチャージ止まる、
「その命令室内じゃあ禁止!!」
「??、分かった?」
ラキは見えていなかったためよく分からないという顔をしているが、もし、あれが放たれていれば、シェルターの半分は吹っ飛んでいただろう、
「まあ、取り敢えず俺は行っていいか?」
「何処に?」
「あのなぁ、外に決まってんだろ依頼だよ!い!、ら!、い!」
「ああ、もう行くんだ、」
ルイはラキに問い掛ける、ラキはそれに気怠そうに答えた、
「そりゃな、昨日お前が言ったんだろ化学材料は昨日と今日分しか持たねぇってよ、早めに出て二、三個依頼を受けてくる、夜が更ける前には戻る、」
「おっけー、いってらっしゃい、」
「ラキお兄さんいってらっしゃい!!」
出かけるラキに二人が手を振りながら見送る、ラキは僅かに口角を上げ微笑しながら、後ろ手に手を振り返した
「行ってくる、」
ラキは扉を開けバイクを押しながら地上へ出る、灰色の淀みきった雲と土臭い空気が鼻をくすぐりラキを迎えた、いつもの崩壊した世界が自分を呼ぶ、
「行くか、」
ラキはバイクに跨り、キュイィィン!!、独特なエンジン音を世界に響かせ、鋼野に駆け出した。