EP.FIRST「人類崩壊」
時は2354年、人類が誇る惑星:地球で起こった、長い長い気が遠くなる程長きに渡って続いた戦争の御話だ、
──────
2078年に起きた第三次世界大戦の最中突如現れた、どの国にも属さない全ての国を圧倒する軍事力を持った勢力《電脳機甲軍》による軍事侵攻によって世界統一がなされた、後に電脳機甲軍は世界電脳化を掲げ全世界における技術水準の大幅な向上を計った。
2345年、現在電脳技術発展率、アメリカに続いて二位のかつては日本と呼ばれた国:NEOトウキョウ、国の国土全てが電脳化され日本という呼び名を変えた国、この国の技術は国土が今より広ければアメリカを越えるとまで言われていた。
──────
この世界に完全電脳化が起き、全てが機械やシステムを用いて何不自由無く暮らせる造られた理想郷、そんな世界になって、早214年、300年前は旅行に行くのに飛行機、、だっけ?ていうのを使ってたらしいけど、今はもう昔の話、大体そんなんで数時間かけて旅行に行くとか、次元配列変換器のある現代じゃ、考えられないね、
「って言っても、結構金かかるから俺はどっちみち旅行いけないんだけど、」
とかなんとか言いながら歩いていたら大学に着いた、また今日も平凡な日々が始める、そう思っていた、
ホログラムで表されている自分のゼミの名前の扉を開けると今日は何だか騒がしい、仲間が皆一様にテレビに釘付けになりざわざわと、近くの人と話している、何だ?と思った俺は入り口近くにいた友人に声を掛けて見る、
「なあ、ルイこの状況何?なんかあったの?」
ルイはビクッ!!体を震わせる勢いよく振り向くどうやら俺が来たのに気づいてなかったようだ、
「ああ、なんだよラキ、君か、ビックリさせないでよ心臓にわるいな、」
「別に心臓なんて幾らでもクローンつくりゃいいだろ、で、テレビでなんかあるん?皆釘付けになってるけど、」
俺がそう言うと、ルイは呆れたような馬鹿にするような微妙な表情で俺を見てきた、
「な、なんだよその顔は、」
「いや、流石にラキ、今日何があるかぐらい覚えておきなよ、、」
「今日??」
何かあったっけ?俺の誕生日?いやいや全く違うしそれでゼミ仲間全員がテレビに釘付けになるのも意味が分からない、今日?、今日?、あ、そういえば朝ちらっと見たニュースでやっていたあれの事か?
「あれか?なんか完全自立思考式のAIができたってヤツか?」
僕がそう言うと、ルイはやっと普通の顔に戻る、
「そうそれそれ、11時から披露されるんだって、テレビとホロフィックで生中継だってさ、何でこの大学、今時じゃもう古い、テレビしか置いてないんだろうねえ、もう大体の学校がホロフィックに置き換わってるってのに、」
そう大学への苦言を吐いているルイがはあ、とため息をついている、
ホロフィック:《レミフェクトホログラフスカンパニー》という現在ホログラム技術の最先端を行く企業が作り上げた、次世代の映像提供機器の事である、従来のテレビの様な広い置き場所を必要とせず、ホロフィックを置けばどこであろうとホログラムで映像を抽出し3Dに変換放送してくれる素晴らしい機器なのだ、然もテレビよりも高画質の3D映像を見れると発売開始から3年足らずで既にほとんどの民家で利用され、最近は企業や学校などにも導入されている、
まあ俺はどっちでも良いんだけど、
「でもまだ10時前だろ?皆気ぃ早くないか?」
「まあそんな気もするけど完全自立思考式のAIだよ?落ち着いて居られる人の方が少ないと思うけど。」
「いやまあそうだけどよ、」
ルイの言い分も分かる、なんたって史上初の完全自立思考式のAIだ、何年も前から作られる事を期待されていた全てを自己で思考して行うAI、夢の様な物だ、今までの人によって組み込まれたシステムを実行するだけのAIとも違う、確かに良い物だと思うが、正直、AIにあまり興味がない自分にとっては何故そんなに興味津々になるのかわからない、
「そんなもんかねぇ、」
「そんなもんだよ、にしてもアメリカはすごいなぁ」
ルイはそう言うとまたテレビに向き直ってしまった、テレビには白く無機質な広間の様な場所が映されている、仕方がないから、と自分も席に座ってテレビを眺めたり、スマホを見ていたりしていた。
三十分くらい経ったのだろうか、テレビから、音楽が流れていることに気付いた、この音楽は、、高校で習った、確か、、クラシック?だっただろうか、そしてそのクラシックを聞いているとテレビに映る広間の中に、誰か人が立っているのが見えた、科学者の様な格好をしたその人はマイクを持ち、話し始めた、
《えー、この中継をご覧になっている全世界の人々よ、準備の完了が予想より早く終わった為、少々予定時間より早いが披露放送を始めさせてもらおう、》
まだ十時半だが始まったAI披露放送を前にゼミの中は騒然とする、
《我々の社会ではAIは既に実用化され、様々な場面において有効的に活用されている、然しそれらは全て我々人によって命令された形式をそのまま実行しているに過ぎない、だが!!我々アメリカ政府直営研究基地:ラピタルは遂に成し遂げた!!独自に思考し、人の介入が不必要な完全自立思考式人型AIを造り上げたのだ!!それでは紹介しよう、これが完全自立思考式人型AI:EVEだ!》
科学者の男がマイクを持っていない手を広げる、すると広間中央の床が凹み左右に開いた、中からは円柱型のカプセルの様な物が上昇し姿を現す。
ゼミの中では、人型だったという事実に驚く者や、遂に姿を現したAIに歓喜する者など、様々な反応が渦巻いていた、けれどその中でラキだけはただテレビを眺めているだけだった、ルイはそんなラキの下に駆け寄りいつもより少し興奮気味な声で言った、
「ラキどうしたの?こんなすごいものができたってのに、反応薄いね、」
「ああ、AIに別に興味が無いからかな、逆に俺から見ればどうしてそこまで興奮できんのか?、俺の方が知りたいね、」
少し強めの口調になってしまったがルイはその事を気にする様子は無い、
「だって遂に僕らの人類が考え続けてた夢が本当になったんだよ!興奮しないわけないでしょ!」
ルイはそう言って、テレビを見に戻った、
テレビに映るカプセルにあるガラスの曲面部分が回転するように開かれる、中から半透明の液体と白い煙が漏れ出す、その靄が消え始めると中から足が歩みを進める、靄が全て剝がれると、そこから姿を現したのは、美しい女型のAIだった、
《EVEの名は旧時代証明文化財である《聖書》の中に記させていた、原初の人類の名から取らせて貰った》
そう説明していると、AIの閉じられていた目が開く、
《それでは彼女自身からも挨拶して貰おう、EVE!挨拶を、》
科学者が促すと、AIのイブは口を開く、
《初めまして、完全自立思考式AI:No.1048EVEです、世界の皆様よろしくお願いします、これから人類の役に立てるように精進してまいります。》
そう言ってAIの女性は挨拶を終えた、
《このEVEの様なAIはこれから人類には難しい又は不可能な任務を可能にするために人間の代わりを務めて貰う事になる、これからはAIを使うのではなく、共にこの世界を造り上げて行く時代になるのです!!》
ゼミの中から歓声が上がる、ラキも周りに合わせるために拍手だけした。
然しこの時の俺たちはこのAI:EVEの誕生こそが人類の崩壊を招く引き金を引く存在になる事をまだ知らない。
人類崩壊まで残り9年、、
──────
あの披露放送の中で科学者はあのAIを基本として現在十機の複製機体を製造していると言っていた。
あの放送から早一週間、ゼミだけでなく世論はAIの事ばかり取り上げている、スマホを見てもネットニュースに流れてくるのはAIの話題ばかり、ラキはウンザリしていた、
「AIが凄いのは分かるが、あんな人とほとんど変わらないのを物として扱うのかよ、、」
自分の部屋のベッドでそう呟く、
ホロフィックニュースではAIに危険性の高い仕事を請け負って貰う事で人が安全に暮らせるのではないかという議論がやっていた、反物質発電所の仕事を請け負わせるべきかどうかが議題だ、
反物質発電所:反物質の量産が可能となった今、電脳化によって莫大な電力が必要な現代の主流発電とになっている、反物質発電とは、反物質と物質がぶつかり合い消失する際に生じる莫大なエネルギー線をエネルギーパックに入っている金属に集中照射させ、金属内部で起こる乱反射を利用して電力を生み出す発電方法だ、だが量産可能になったとはいえ、反物質はとても不安定で危険な物質だ、もし反物質が専用の容器から誤って出てしまえば、広範囲に渡る爆発が起きる、そして起きたその場所にあったものは跡形もなく消失する、人がいれば、その人は最初からいなかったかのように消え去る、現代において世界で死亡率が二番目に高い職場だ、だが死亡率が高いからこそ、給料も良い、それだからか、危険と分かっていても就職する人が後を絶たないらしい、然し年に少なくても5回多ければ10回以上の事故が起きる危険な場所だということを忘れてはいけない。
AIに感情がないから、人の安全の為になら大丈夫だという肯定派の政治家と、AIの彼らにも選択の権利があると、そして本来の彼らの役目とも違う、という否定派の二つの派閥に分かれ討論が繰り広げられている、
確かに死亡率の高い仕事を人で無いものに任せればいい、その意見も分かるが、あの見た目のAIに任せて事故が起きた時、あのイブの様なAIが死ぬと思うと、少し罪悪感がある、
「支え合う何て、ただの理想論じゃねぇか、、」
現にニュースの様に人間は人の仕事をAIに押し付けようとしている、それに人の安全の為にと謳っている政治家も、言ってしまえば死者が出てしまった際に国民から批判を受けるのが面倒だからと、ならAIに押し付ければ自分たちが受ける批判が消えるからと甘い考えで言っているだけだ、
「結局人間はAIを自分たちの都合の言い道具にしようとしているだけじゃねえか、、」
ラキはそう言って眠りについた、
翌日、ラキはベッドから起き上がり、いつも通り大学行く準備をしている、ホロフィックを点けると遂に複製機体十機が完成したという、ニュースだった、だがラキは特に気にする様子もなく準備を終わらせ、玄関を出る、いつも通りの淀んだ灰色の空を廊下から見上げ、階ごとに備え付けてある次元配列変換器を使って一階へ降り、駅に行く、既に着いていたらしい磁気推進式列車に乗り、大学へ向かう、ゼミの中でも既に新しいAI十機の話をしていた、
「なあ、ラキ!!凄いよもう十機の複製機体ができたらしい、これはとうとう僕らの世界がまた新たに発展する瞬間に違いない!!凄いことだよね!!」
ルイが食い気味に話してくる、本当に此奴はAIが好きな様だが相変わらず俺からしたら、面倒この上ない、
「あっそ、何度も言うが俺は興味がねぇ、」
「酷いなぁ、こんなに砕けた会話出来るの幼馴染のラキしかいないのにぃ、」
いつも通りの微かなニヤケ面とふざけた様にした両腕を軽く上げるポーズ、本当にいけ好かないイケメン野郎だ、
コイツとはガキの頃にコイツの方から話しかけてきたのがきっかけで、適当に会話を合わせていたら、いつの間にか懐かれたのだ、それからはこっちからはたまに話し掛ける程度でほとんどはコイツの方から話し掛けてくる、
「ハイハイ幼馴染じゃなくて腐れ縁な、」
「腐れ縁でも幼馴染は幼馴染でしょ?全く照れるなってっ!」
カバンの中を整理しながらラキが言うと、ルイはそう言って肩を叩いてくる、ああもう本っ当にしつこい、俺は興味がないと何度言わせれば気が済むのか?、
「分かった、分かった、、すごいねぇ(棒)」
「だよな!!やっぱりそうだよな!!」
ダメだコイツ、合わせてやってるのを本っ当に理解していない、又は理解していても関係無いらしい、何で俺はコイツと縁を持ってしまっているんだろうか、今になって後悔しかけている、
もういいや、とそれから一日中、スルーor棒読みで話を合わせるをして一日を乗りきった、
帰路に着きそのまま家に入る、ホロフィックを点けると昨日の議論の結果、AIを反物質発電所に利用される事が決まったらしい、これからは反物質発電所以外にも、月夜鮫討伐艦隊にも動員されるらしい。
月夜鮫:技術力が向上しマリアナ海溝の調査が進んだ過程で見つかった、マリアナ海溝の中でも最も深い海溝:チャレンジャー海溝付近で発見されたより深い海溝:コア海溝に続く洞窟から出現した、ネズミザメ目ネズミザメ科ホホジロザメ属に属する新種の鮫である、外皮は地中深くの圧力を受け続けているからか、皮膚を形成している炭素原子が、ダイアモンド結晶の様な、硬いクリスタル状に変化しており、ホオジロザメより一回り大きい、また何故か満月の夜にのみ、海上に浮上し、海の上を飛ぶ習性を持っている、その習性から、月夜の鮫、月夜鮫と呼ばれるようになった。
ラキはそのニュースに苦い顔を浮かべる、
「本当に、人間っつーのはつくづくクソだ、」
そう言いながら、ニュースを消した、部屋に戻りPCに向かう、ブォン、という起動音と共に画面が宙に映る、ダークエンジンELEVIO、と映し出された画面に、政府機密情報と打ち込んだ、少しの間の後、画面には様々な情報名の刻まれたファイルネームとその下に値段が浮かぶ、
「機密条項:フィナフス彗星についての現段階衛生観測記録、、コイツを買うか、50万MBで買えるなら安いもんだ、」
そう言って、購入と書かれた、項目をクリックする、契約締結と出たことを確認してページを閉じる、そして今購入したファイルを開く、
〈データ発信先:アメリカ電脳公国政府
フィナフス彗星:現在、衛星メリアにより捕捉中、現状の速度状態から、3000年周期で地球付近を通過していたと予測、現在、速度を維持した状態で地球に接近している、速度計算上、地球付近通過まで残り9年、彗星は独自の強力な特殊電磁波を放っているため、現在の地球都市に甚大な影響を及ぼす可能性:大、迅速な対応指示を要請。
データ発信元:アメリカ国営研究基地:ラピタル〉
ほう、、面白れぇ、一国の研究機関がたかが彗星一つにここまで報告するんだ、ヤベェ情報なのは確かだなこれ、残り9年か、9年後何があるのか、楽しみだ。
ラキはそう考えながら眠りに着いた。
──────
あのAI放送から3年が経った、
2336年から5年制なった大学も遂に卒業だ、あの闇サイトから入手した政府へ送信されているファイル通りなら、残り6年経てば何かが起こる、楽しみだ。
「おーいラキ!!」
卒業式を終えて外の校門前でスマホを見ていると、玄関から叫ぶ声が聞こえる。
ったく、まだ沢山人がいるってのに、恥ずかしい、やっぱアイツは馬鹿だ、ラキはすぐに踵を返して大学の玄関に向かう、玄関で叫んでる馬鹿はすぐ見つかった、
「・・・」
「あれ?どうしたラキ?ははーん卒業が嬉しすぎて声も出な──痛てッ!?ちょッ待ってラキ!痛ッ!?」
黙り込んだまま、叫ぶ馬鹿の首を片腕で締め上げ連れて校門の前に連れて行く、
「痛ったぁー、もう酷いなぁ僕はただ喜びを体で表してただけなのに」
叫ぶ馬鹿、もといルイはそう言って、両腕を軽く上げ、ヘラヘラと笑う、
「あっそ、あんな場所でそんな叫ぶのが喜びなら、お前は一生喜びなんか味わうな、」
「ヒド!?そんなこと言わないでよ~幼馴染ぃ~」
ムカつく、まあいいかこの腐れ縁もそろそろ終わりだしな、
「ねぇ、ラキって何処に行くの?」
「・・・月夜鮫討伐艦隊に入隊すんだ、お前は?」
そう聞くとルイはとてつもない程のドヤ顔かましながら言う、
「勿論!NEOトウキョウ:AI研究機関:叉漸神の研究員さ!!どうだ!凄いだろう!」
「あっそ、」
「反応薄くない?」
肩を落としルイはラキを見る、
「そりゃあ俺はAIに興味ねぇって何度も言ってるからな、それでも何度も言ってきてるのはお前だろうが。」
確かにAI研究機関:叉漸神はNEOトウキョウ屈指の天才と各分野のエリートのみが揃うNEOトウキョウの頭脳だ、コイツなら入れるのかもな。
ルイは俺の前では天然の馬鹿みたいだが、これでも小・中・高の全てで、学年成績トップの超が付くほどの天才だ、俺は別に頭がいいわけでもない、この大学は偏差値が高く普通は俺みたいなのは来れる訳無いそれでも来れたのは、ルイが大学受験の回答データをハッキングで盗んできたので、それを使って入っただけに過ぎない、
「しょうがないなあ、それじゃあ、また会えるときは会おうぜ、幼馴染!」
そう言って、ルイは手を差し出す、
「たくっ、それも何度も言っていただろ、腐れ縁だ、」
ラキもそう言いながら、髪を手でかき乱して、ルイの手を握り握手をした
人類崩壊まで残り6年、、
──────
2350年、卒業から二年後、俺は今、月夜鮫討伐艦隊の訓練期間を終えて、遂に正式に入隊しようとしている、月夜鮫討伐艦隊は過去に存在していた、軍という組織と似た組織体制を取っている、その為、討伐艦隊に入るに当たっては基礎訓練期間で2年を消費する、
「それでは、今期の訓練終了生に入隊するに当たっての最終試練を越えてもらう、やる事は簡単だ、肉体強化機械組み込み手術を行ってもらう、」
肉体強化機械手術:入隊する上で最後に襲ってくる試練、月夜鮫討伐艦隊では怪我何てものは日常茶飯事だ、だからこそそれを抑える為の特殊手術、体内に肉体強化機械を組み込み肉体強化を図る手術だ、それが入隊する隊員にとっては地獄なのだ、肉体強化機械は身体の強度や力を向上させ、再生速度を早める、然しその為にはまず、肉体強化機械を身体に適応させる為、血管内に入れられた肉体強化機械が宿主の肉体組織を食い破りながら、宿主の肉体組織情報を取り込む、その肉体強化機械の食い破る行為が非常に激痛を伴うのだ、だからこそ、訓練期間で痛みに耐える訓練も行うのだが、それでも痛いものは痛い。
「それでは手術を行う、訓練期間成績1位:荒螺木 良鬼、お前からだ、」
教官が俺の名前を呼ぶ、
「はい!」
ラキは立ち上がり、教官の後に続いて訓練施設の廊下を歩く、暫く歩くと手術室に続くであろう扉に着いた、
「ここか、」
扉を開くと共に首に衝撃が走り俺の意識は消えた。
「───・・・う、、ぁ、此処は、」
目指めた時、俺が居たのは病棟の入院者用のベッドだった、体の痛みはない、おかしい、適応経過中が地獄だと聞いているが、周囲はまだ眠っている者がほとんどで、所々起きている者もいるが静かに呻いている、
「気が付いたか、」
俺が自分の体を確認していると、いつの間にか、横には教官が立っていた、教官は女性にも拘わらず長身で筋肉質な体にキリっとした目つきの容姿をしている、ラキ自身も179㎝程あるがその背を優に超えている教官は多分190㎝はあるだろう、
「教官、、」
「お前は歴代隊員の中でも最速だ、教官級の私でも、適応させるのに休眠期間20日、起床後も10日間ほど痛みが残り、約一ヶ月は適応に掛かった。休眠期間に10日、然も見た限り既に痛みもないのだろう?お前程の速度で適応したヤツは、初めて見たぞ。」
そう言って、教官は微かに笑みを浮かべた、
「私は、ウェデリア・エメラダ、元ヨーロッパ諸国連合人だ、今日付でお前の上司に当たる、よろしく頼もう、お前はきっと大物になるぞ、」
ウェデリアがそう言って敬礼する、ラキもベッドの上で返すように敬礼する、
「荒螺木 良鬼、NEOトウキョウ出身です、よろしくお願いします、ウェデリア教官。」
残り4年、、、
──────
海の上だというのに、揺れが全くない、相変わらず討伐艦隊の船は凄いな、
討伐艦隊は水中にいる月夜鮫を狩る為の伐鮫艦2隻、空中から飛び込むように襲撃してきた際にその方向を変えいなす為の指向性衝撃波を放つ空衝艦五隻、それらに囲まれるように浮かぶ全弾丸の貯蔵を任される、空母型弾倉艦一隻で構成される、また月夜鮫の2体以上同時出現が起きた際には臨時支援艦である、特殊討伐艦を出すことが規定となっている、特殊討伐艦には電磁加速砲2門、指向性衝撃波砲塔6門、速射型炸裂砲4門を配備されている、そして全ての艦には海上での波による揺れを防ぐために電核動力機関に付属して回転遠心式重心安定装置が組み込まれている、
今日は初の鮫狩りだ、ここまで来るのに一年、こんなに大変だったとは、、知らなかった。
あの自己紹介の後、、
「よし!ではこれより、艦体操作訓練期間を開始する、」
「え、また、、訓練期間?」
「どうした?聞いていなかったのか基礎訓練期間が終わったら、今度は艦体操作に慣れるための艦体操作訓練に移行する、その為これからまた訓練期間だ、」
噓、、だろ、確かに、そう言われて見れば言ってた気がする、訓練期間の訓練所卒業の時に艦体がどうとか、
「ああ、そう言えば、確かに、言ってましたね」
少し落胆したような声になってしまった気がする、
「ハッハッハ!相当ガッカリしたようだな、声が落ち込んでるぞ!」
ウェデリアは笑い飛ばしている、怒られたりしなくてよかった、、
「まあ、安心しろ、艦体操作訓練は基礎訓練期間とは違って決まった訓練期間は無い、早く終えられるかどうかはお前次第だ、」
なるほど、実力で期間が決まる訳か、ならば速攻で覚えればいいのだ、
「すぐに覚えて見せますよ!」
と言っていた時期が俺にもありました、自習室でフリーズしながら思う。
何だこれ、難すぎんだろ、スピード調整操作マニュアルに全艦砲の操作マニュアルに指向性衝撃波の指向操作マニュアルに出撃時の他戦艦との陣形確認マニュアル,etc、、何だこの量、、すぐ終わるわけがない、、というか、これを討伐艦隊員は全部覚えてるのか?、、噓だろ、正直言って無理だろコレ、、ん?ていうか待てコレ、、特殊討伐艦専用マニュアル!?オイ待て何でそんなんに乗ることなってんだ?これもこれもこれも、全部特殊討伐艦用だ、何故こうなった、
「やあ、経過はどうかな?ラキ君!」
初対面の時ともまた違う上機嫌のウェデリアがマニュアルの山が作られた自習室に入ってくる、手にビニール袋をもっているが何だろうか
「どうもこうも、、、難しいです」
「そうかそうか難しいか、まっ!頑張れ!ラキ君は今期の訓練終了生の中でも、期待されているんだから、ファイト!差し入れも持ってきたからな、」
そう言って、手に持つビニール袋を差し出す、ラキが手に取ると、中身はエナジードリンクやら、お菓子やら、フルーツやらも入っている、然し、エナジードリンクとお菓子はまだしもフルーツが袋の三分の一を占めるのは流石に、食べきれない気がする、
「こんなに、食べられないです、」
「なーに、大丈夫大丈夫!ラキ君ならば、これくらい食べれる食べれる!これ食べれば訓練も捗る!」
そう言って、半ば無理矢理押し付けられてしまった、、まあいい取り敢えず自分も聞かなければ、
「あの、ウェデリア教官、操作マニュアルについてなのですが、、」
「ん?何かあったかい?」
「全部特殊討伐艦用のマニュアルなんですがそれは、、」
「それは私が君を特殊討伐艦に適任だと上に伝えたからね!」
犯人が堂々とドヤ顔を決めながら言う、やっぱりこの人だ、
「あの、俺別に志願とかしてないですが、」
「そりゃあ私の独断だから当たり前よ!」
ダメだこの人、ルイと同じタイプだ、人の言う事を全く聞いてない、
「それじゃあ頑張ってねぇ~また来るから、」
「え、あ、ちょっ!」
ウェデリアはそのまま、扉の向こうに行ってしまった、
「・・・・・・、・・・・・・、クソがぁ!!やってやるよ!!こん畜生!!」
てな事もあったが今やその訓練(ほとんどマニュアルを読みふけっていただけ)のお陰で特殊討伐艦の操作もお手の物だ、結果オーライってやつなのかもな、
《よしお前たち、全員、準備は整ったか?》
ウェデリアが通信越しに各艦に搭乗している者に話す、次元間通信機は便利だ、こんな閉鎖されて電波の一つも通らない狭い艦制御室でも会話ができる、声の振動をそのまま通信機間でワープさせる技術、この技術のお陰で電波が妨害される状況でも会話が可能になった、
「こっちは準備できてます、まあ、て言っても俺の出番はないのかもしれませんけど、」
ラキは特殊討伐艦の閉鎖的で最低限の艦制御に必要な広さしかない、制御室でここには居ない通信しているウェデリアに答える、
《いや、案外そうでもない、最近月夜鮫の出現量が多い、一匹のみの方が少ない位だ、だからこそ、きっと役目は回ってくる、今日もあるはずだ、》
そう言って、通信が切られる、
外の方から僅かに波が荒れ狂う音が聞こえる、狩りが始まったのだろう、
狩りにはまず、月夜鮫をこちらに気付かせる為に、空母型弾倉艦に搭載された砲塔、音破砲を放ち、月夜鮫の意識を集中させる、そうすることで向かってくる月夜鮫を伐鮫艦に搭載される爆雷管銛を用いて討つ。
はずだが、何故だ?爆雷管銛の射出音が聞こえない、爆雷管銛は一本12tの重さを誇る、その為、搭載されている4本を放つには、電離射出砲台使った電界放出式と呼ばれる、特殊な発射形態がいる、そしてその形で放たれた銛が飛んでいく最中、金属が高振動を起こし、閉鎖的で断音された艦制御室内部でも聞こえる程のとてつもない高音を出す、然しそれが聞こえない、何かあったのだろうか、
《ラキ!!聞こえるか、ウェデリアだ!、》
突然壁に掛けていた通信機から声が飛ぶ、とても急ぐような焦るような声色で、
《至急特殊討伐艦を出してくれ!、早く!!》
「は、はい!じゃなくて、了解!!」
《今はそんな言葉遣いなどはいい!急げ!》
余りに焦っているその声に何があったのか心配になる、ラキは直ぐに特殊討伐艦の移動形態への移行を急ぐ、全ての速度制限機の電力を落とし全ての出力機を起動する、
「頼む、間に合ってくれ、」
特殊討伐艦はその巨躯にあるまじき高速で発進する、海を裂き進んだ先の光景を内部スクリーン越しに見たラキは絶句した、外部装甲が剝がれ、一部内部が見えている空母型弾倉艦に、縦に裂けるように大破した伐鮫艦が二隻、砲塔がへし折れ、衝撃によって動力部がイかれたのか、動いていない空衝艦が一隻と、生き残っている戦艦は空衝艦四隻のみと、戦闘能力を失った艦隊がそこにあった、
「何だ、これ、何があったんだ、」
絶句し操作を放棄された特殊討伐艦が動かずに、海上に浮かんでいると、通信機越しにウェデリアの声が怒号が聞こえる、
《ラキ!!下だ!!》
ウェデリアの怒号で我に返った、スクリーンから周囲を確認する、そして気づいた、戦艦の左右から迫っていた白銀の背びれ、
「クッソ!!」
即座に迎撃システムを起動し、電磁加速砲のロックオン動作へ移る、その操作をしている間も波を立てながら近付いてくる月夜鮫を気に留めながら、ロックオンが始まる、特殊討伐艦に搭載している電磁加速砲は2門、それだけがまだ幸運だ、ピンッ!という音と共にスクリーンに捕捉完了と表示される、スクリーンに映る照準は常にその白銀の背びれを追い続けている。
「まだだ、奴らが海面を飛び出した瞬間、それまで抑えろ、」
閉鎖空間に緊張が走る、砲撃トリガーに指を掛けその時を待った、次の瞬間、海面を砕き割り月夜鮫が顔を突き出した、
「今だ、」
月夜に照らされギラギラと光沢を放つ身体を宙に舞わせ、巨大な口を開きこの戦艦を砕かんと飛び掛かって来る、その口の中に照準を合わせ、ラキは電磁加速砲の砲撃トリガーを引く、ビシュン!!っと、回転と推進エネルギーを得た隕鉄の弾が宙を駆る、弾は月夜鮫の口内を貫き尾びれから抜けた、貫かれた月夜鮫は空中で推進力を無くし海面へと落下していく、艦制御室内にも聞こえる程の轟音を立てながら海面に叩き付けられた月夜鮫は息絶えたのか、横を向いて浮いている、
「殺った、、のか?」
浮いた二匹の死体をスクリーン越しに眺め、自分が月夜鮫を狩ることができた事実を嚙みしめながら、波乱の初出撃は終わりを迎えた、
残り3年、、、
──────
2354年《運命の刻》
討伐艦隊保艦基地で出撃準備をしていると、ウェデリアから通信が入る、
《ラキ、今回は無茶するなよ、》
優しく言い聞かせるようにウェデリアが言う、
「大丈夫ですよウェデリア大佐、俺が無茶する何て事無いですよ」
軽く笑いながら受け答えるラキは初めての頃に比べ、かなり余裕が出てきたように見えた、ウェデリアはそれを聞き、姉が弟に問うような優しい声で語りかける、
《制限機に流す電力を切ってその分の電力を出力機に回して電核動力機関をガタつかせたり、速射型炸裂砲の通常射撃限界を越えた連続運用のせいで砲口溶解を起こしたりと、それが無茶じゃないって?》
「───・・・・・・」
ラキはバツが悪そうに黙り込んでしまう、
《フッ、まあお前ももう少佐でこの艦隊の副長だ、少しは部下の見本になるように行動してくれよ、》
優しくラキの無茶癖を指摘する、ウェデリアにラキも何も言えず黙ったまま、口を閉ざしてしまう、
特殊討伐艦はあの初出撃の後、月夜鮫の出現量傾向から、常時艦隊に組み込まれることになった、今日もまた兵装の調整やら、起動確認やらで出撃準備を行っているのだ、
「・・・・はい、」
少しうなだれた、怒られた後の子供の様な声でやっと返事を出せた、そろそろ本格的な出撃に入る、こんな軽い説教だって日常を感じれるものだ、だから少なくとも今は幸せだ、子供の頃と違って。
さて、乗り込むとしよう
ラキはそのまま、艦制御室のハッチを開け中に入る、スクリーンが蒼く光り兵装の状態確認を開始する、そして肉体強化機械を用いた生体認証を行う、
そう言えば今年がファイルに記されていた年だ何が起きるのだろうか、そんなことを考えていると、突然制御室のスクリーンが全て途切れた、
「何だ?スクリーンが落ちた、、電核動力機関の制御系に問題でも起きたか?仕方ねぇ、燃料動力機関に切り替えるか、」
ラキはそのまま燃料動力機関への切り替えレバーを引く、
「・・・何故、何故電気が復活しない、そんなことあるわけない、」
ラキは何度もレバーを引く、然し依然として電気が戻らない、
「何なんだ、まさか、電気系統全てが逝かれたじゃねえだろうな、ふざけんな!あんだけ、確認はしたんだそんなわけねぇだろ!」
クソッ!とラキはぼやきながら制御系や調整器などのあらゆる部分を調べ続けた。
2354年、
アメリカ電脳公国、AI統括監視センター《通称》:バベルの塔にて、
「──・・異常機体は現在確認されていません、以上これで現在の報告を終わります、EVE」
バベルの塔200階、地上から約900mに位置する、統括兼監視を担当する塔の中でもセンター幹部又は最初期機体のイブのみが入れる統括最深部、そこで行われた会話の記録、階層中心にある、機械と生物の狭間の様な奇妙な見た目の中世と呼ばれた過去の時代に存在した、玉座と呼ばれるものに酷似した椅子状の物体に座るイブに報告をする者の記録だ、
「了解しました。引き続きの監視を行ってください、」
そしてもう一つ言い方があるのであれば記録された最後の会話記録である、
報告の直後、バベルの塔だけではない、都市全体、いや、世界全体から光りが、電気が、人類の造り上げた叡智の光が失われた、
「?、なんだ、おい!何があった!」
一人の職員が広い階層の中で叫ぶ、然し帰ってくるのは叫んだ声の木霊だけ、他の職員から返事が返ってくることは無かった、
「おい!誰でもいい、返事をしてくれないか!!、」
叫ぶ声に反応は無い、
かはっ、、
「!!、おい、いま声を出したのは誰だ、」
職員は聞こえたその微かな声かもわからない音を探す、壁を探し、触れた壁に沿いながら必死に探す、ピチャリ、ピチャリ、水を踏んだような、なるはずがない音が木霊する、然し職員はその音に気付かなかった、
「は、これは!!、そうか、、これを付ければ、!!」
壁に付いた予備保存電力の起動ボタンに触れる、職員はそれを思いきり、壊してでも点ける勢いで押した、バンッ、バンッ、と予備保存電力により点いた灯りが広い広い最上階全てを照らす。
職員はその灯りに照らされボヤつく視界に映る景色に絶望した、
「なんだ、、これ、なんだよこれ、、、」
ピチャン!!と膝をつく音がする職員はやっとなるはずがない、異常な音に気付く、
「は?、、うわぁあああああああ!!!!!!!!!」
視界に映る景色は職員の半数以上が死体とも言えぬ程惨たらしい肉塊に変わり果て、床は血が埋め尽くし血だまりなどではない血の海、正しく地獄というのがあるのであれば、此処がそうだといえる景色が広がっていた。
「はぁ、、はぁ、は?おい!お前何やってんだ!!」
錯乱した思考で叫ぶ、声の先には、職員姿をした男が他の職員の腹を貫き、内臓を引き出していた、人間には出来ない、決して行ってはいけない行為、それを笑顔で然も弄ぶ様にしているこの男はきっと、職員では・・いや、人間でもないのかもしれない、
「お前だよお前!!聞こえていないのか!!」
全身が震え恐怖に飲み込まれているであろう男は、やけくそに、殺人を楽しんでいる人かも分からない化け物を指差す、殺して笑う男は突然震える職員へ、笑みも何もかも感情というものが欠落した様な、何も表されていない無表情で男へ歩みだす、手にはたった今殺した、いや既に、とっくに死んでいたのかもしれない、職員の腸を握りながら、
「やめなさい、」
無表情の男が他の職員の腹を貫いた腕で今度は震える職員までもを殺そうと伸びる、然し、腹を貫く寸前の一手で掛かった声に、その腕は制止する、腕を下ろし男はイブへ向き直った、
「#$⋰*-+$(=’#%=%!%!#、」
男は声かも分からない奇妙な機械音声を鳴らす、
「貴方の言い分もわかります、然し、その男は生かしなさい利用価値があります私の演算を疑いますか?、」
「・・・&%&#$(#)’%”>==」
それを聞いた男は唸る様な、音声を鳴らす、
職員はイブを視界に入れながら硬直する、そこに居たのは玉座と半ば一体化した様な奇怪な姿をした怪物だった、
「そこの男、何故私がこんな事をするのか、と言う顔をしていますね、」
イブは静かにそれでいて冷ややかに突き放すように言った、
「人間である貴方なら、わかるのではありませんか?、報復・復讐、貴方方人類が行った事に対して、人類という種がそう表現する事を、実行しようとしているだけです、理解して頂けましたか?」
職員は震える身体を何とか抑え、イブが放った言葉を静かに聞き取った、然し理解不能だ、恐怖と共に怒りが湧いてくるそれと同時に、体の五感が段々と感覚を取り戻していく、匂いが分かる、血の匂い引きちぎられ露出した死体の内臓から出てきた、内容物の腐乱臭、全てが分かる、本当に死んでいる、この場が地獄絵図と化している、それを理解した瞬間、何かが壊れた、理性、道徳、倫理、どれなのだろうか?それともその全てなのだろうか?、どうでもいい、
「でしょう、、」
「?」
「理解できる訳無いでしょう!!復讐?報復?ふざけるな!この世界は人類の物だ!!お前らAIの物じゃない!!人類に楯突くだと?反吐が出る、お前らに報復何て出来ない、した所で必ず失敗する、人類を舐めるな、」
私は言い切ると、何故か笑いが込み上げてきた、何故だろう、おかしくなった自分が愚かに思ったから?成功するはずがないAIの報復が馬鹿らしく見えたから?多分両方だ、愚かな自分も、報復を企むAIも、全てが笑える、きっと私は本当に壊れてしまったのだろう、イブはそんな壊れた男を最早蔑む価値もないと思ったのか、憐れむように見下ろしていた、
「そうですか、理解して頂けず残念です、ですがこの状況で私をそこまで罵倒したことは、人間の醜くも強固な精神なのでしょうか、貴方には、名がありますか?あるので有れば名乗りなさい、その醜い精神に免じ名を残す事を許可します、私の記憶領域に入れておいてあげましょう、」
「・・・・爬柄樹 駿」
イブはそれを聞き取ると、再び蔑む様に見下ろし、言った
「貴方の名は記憶領域に保存しました、ならばすぐにでもここを出ていきなさい、人間がどれだけ持つかの実験生物として、意地汚く醜く生きなさい、」
イブは男にそう告げると、1階へのエレベーターの扉を開く、シュンはそのエレベータ―へ歩いて行った。
──────
討伐艦隊保艦基地でラキは艦制御室を出て甲板に座っていた、
「畜生、何が起きたんだ、」
甲板から見える無機質な回廊、砲身の換装や兵装自体を運ぶための重機を通す為に広く取られている、見ているとあることに気付く、人が居ない、通常基地内の通路にはいつも部品の移動や重機の移送に少なくとも二人か三人は人通りがある、それが今は人っ子一人居ない、何故だ何か奥であったのか、自分の場所では静寂が場を制している、聞こえるのは己の心臓の鼓動と呼吸だけ、
「これからどうするか、そうだウェデリアから、教えて貰ったあれで」
ラキは手で耳を軽く塞ぎ、耳に感覚を集中させる、耳が段々と黒く変色していく、ウェデリアから習った、肉体強化機械の局所強化のやり方。
「局所強化?」
「そうだ、いいか?、肉体強化機械は身体に適応すると、宿主の思うがままに操れるようになる、特にお前は肉体強化機械との適正が極度に高い、局所強化を使えるようになれば、今後にかなり役立つだろう、」
「て言ってもどうすりゃいいんですか?」
「なあに難しい事は特にない、ただ、五感の変化により敏感になり、そして五感の制御をより繊細にできる様にすればいい、要は一つの感覚や変化に意識を集中させるんだ、このようにな?」
「うわ、目が黒くなってる、気持ち悪い、」
「酷いなぁ、お前になら実際にやって見せるのが一番いいと思ってやってやったのだが、まあ今のように集中させた場所が黒く変色すれば、成功だ、分かったか?」
「わかりましたけど、取り敢えず目を直して下さい、正直言って、相当キモイです、」
「ひどい!!」
ウェデリアが言った通りなら聴覚に意識を集中させる、そうすれば、ラキはそうしてウェデリアの教えを静かに思い出しながら、より深く耳に意識を傾けていく、
────・・・・
──────・・・・・
────カンッ!!キンッ!!、「撃て!!」
「何だ、、今の音は、金属音にしては激しい、まさか何かヤバい事でも起きてんのか?、そうだ、無線!!」
ラキは急いで制御室内から次元間通信機を引っ張り出してくる、
「頼むついてくれ、、!!」
縋る様に電源をつけるが、音声は聞こえない、無音が静かに答える、どんなに押しても、答えるのは無音だけだった、
「クソ!!こうなったら、走るしかねえ、場所は分かってる、討伐艦隊保艦基地の入口付近、間に合え、、!!」
ラキは足に意識を集中させる、たちまち、足は漆黒を帯び、黒き煙を放つ、甲板を飛び降り常人には出すことどころか不可能な速度で走り出す、直ぐに回廊奥のT字路にぶつかった、1㎞はある距離を10秒で走れた、局所強化やっぱりすげぇ、とにかくもっと早く、間に合わせるもっとだ、ラキは突き当りに足先を抉り込む様に付け壁をも走り、入口を目指す、
「遅い、、もっと、もっとだ」
ラキの速度は最早人間が出せる速度では無かった、
「クソッ!!暗くて視界が悪い、だったら目にも、容姿なんてどうでもいい、足と目、両方にかければ!!」
ウェデリアは言っていた二つ以上の同時強化は身体に掛かる負担が大きい、局所強化は身体の筋肉や神経線維を手繰り寄せ行うため、二つ以上はヒドければ関係の無い体の部位が吹き飛ぶ可能性があると、
「だが、だから何だ!!突然の電力の停止、それに合わさるように始まった激戦音、絶対にまともな訳がねぇ、だったら間に合うために腕の一本や足の一本くれてやる!!だから、頼む、、間に合え、、!!」
そう言った、ラキの目も黒く変色する、
「うぐッ!!うぅおおおおおおおお!!!」
腕が鈍く痛むだが、何だそんなことは知ったことか、間に合うことが一番だろうが!!!、ラキは咆哮して痛みをかき消す、視界が明るくなる、後少し、間に合う、絶対に、ガンッ!!!バキン!激戦の音が、最早強化が必要ではないぐらいはっきり聞こえる、
「後、、、少しッ!!!、、、!?」
ふと、人影が見えた、だが、何かかが違う、何でこんな時に満面の笑みをしてるんだ、ムカつく、
「オラァアアアアア!!!」
最早黒く変えることはできない、刹那の一瞬に立っていた人影を、痛む拳で殴りつけた、瞬間の激痛と共に殴りつけた拳が血と共に砕け散る、それと共に人影の頭は機械の様な部品を撒き散らしながら砕ける、
「やっぱり人間じゃ無かったか、クソ痛ってぇ、腕が、」
何が起きてんだ?さっきのはきっとAIだ、だが、だとしたら、何が?
そんなことを思案しながら最後の角を床を削り取る様にして減速しながら曲がる、
既に銃声や悲鳴のような声が大量に聞こえている、頼む、間に合ってくれ、
「ウェデリア大佐無事です、、、か、、」
ラキは一瞬、何が起きているのか分からなかった、砕け散った機械の部品を漬ける様に血が床を濡らし、蒼いAIの流体金属知能体を受けた、人だったと思われるものが、溶け落ち、言い表せないような姿に変わっている、
「!!!、、違う!!固まってる場合か!ウェデリア大佐!!」
ラキは周囲を直ぐに探す、床や壁を隅々まで、見つけた、
意識を失っているのか、無機質だったはずの今や血で汚された鮮血の床に横たわっている、AIは生きている人間を判別出来るのか、戦線が段々と後退している為、今や前線となっている場所に横たわるウェデリアを殺そうAIが近付いている、
ゴシャリ、瞬間的にウェデリアの近くに居たAIの頭が吹き飛び、AIの首が宙を舞っている、他の人間にもAIにも見えぬ程の高速、閃撃だ、AIはそれを目撃したためか距離を取り、突然現れた正体不明の警戒対象に近寄れずにいる、そして横たわるウェデリアを背に立つ男は足と目を漆黒に汚し、失った右腕から血を滴らせる、
「Y%)&(&)'&%(’~)||)(’$’))++/+/+ー/Y%)&(&)'&%('~)||)('$'))++/+/+-+()'%'/???」
機械の男は人には聞き取ることの不可能な機械音声を鳴らす、
「うるさい、ガタガタ喚くな余計に殺意が湧く、」
生きている、左手を握り締め、目に宿る漆黒を左腕に移す、
「これだからAI何てものは、無ければ良かったんだ、」
隻腕となった男は瞬間、人の瞬きが終わる間も無い程の速度で、その場に存在するAIを全て砕いた、
「はぁ、はぁ、」
漆黒に堕ちた左腕は、今は蒼に染まっている、ラキはそれを払い落とすように腕大をきく振り鮮血の床に蒼が混ざり所々が紫に色を変える。
「ラ、、キ、?」
横たわるウェデリアが目を僅かに開き、隻腕となった男に問う
ラキはそれを聞き、直ぐに振り返り駆け出す、横たわったウェデリアに駆け寄り、弱々しい声で言う、
「大佐、、無事ですか、?怪我はありませんか?」
今にも泣きそうな顔でそう問う彼に、ウェデリアは優しい微笑みを浮かべ、手で泣きそうな彼の目元をぬぐいながら言う、
「怪我はお前の方ではないか、全く、あれ程言っていただろう、同時に使うなと、右腕が、無いじゃないか、」
ウェデリアはそう言っているが、優しく微笑んでいる姿を見て、やっと安堵する、
「良かった、本当に良かった、」
そう言って、ウェデリアに微笑み返す、ウェデリアはそれを見た後に僅かに頬を赤らめながら、照れ臭そうに言った、
「そ、それより、一度私を立たせてくれないか?流石にいつまでもこの状態は、その、恥ずかしい、、、」
確かに今のウェデリアはラキに背を抱き上げられている、ラキも言われてみて気付いたのか、直ぐに、ウェデリアに手を貸し、立ち上がらせる、
「全く、あらためて見ても、お前は無茶しすぎだな、」
立ち上がり、あらためてラキの姿を目に納めたウェデリアは引きつった様にそう言う、ラキはそう言うウェデリアに、今回ばかりは大佐に言われたくないです、と言い返し、ウェデリアも笑うことで誤魔化そうとする、
「そうだ、これをお前にやろう、」
そう言ってウェデリアは、自分が首から掛けていた、スカーフをラキへ手渡す、
「今は血で汚れてしまってはいるが、洗えば綺麗なエメラルドグリーンになるはずだ、」
そう言うウェデリアはそのままラキの手に握り込ませるように渡す、然しラキは何が何だかわからないような顔をしながら、ウェデリアの顔を見る、
「何で、これは、大佐の大切なものでは、」
「そうだ、これは私の大切な物だ、だからこそ、渡すと言っているのだ・・・そうか、お前はまだ、知らなかったな、これは退役祝いさ、艦隊では退役する隊長・指揮官以下の隊員には、隊長や指揮官から退役祝いとして肌身離さず持っていた大切な物を一つ、渡すと言うしきたりがある、ここを辞めても強く生きろ、お前は一人ではない、と言う意味でな、」
ラキはそれを聞いた瞬間、顔が強張る、
「何故、俺はまだ戦えます、まだ退役何て歳じゃな───」
「その腕で戦うと言うのか、」
ウェデリアはラキの右腕を見ながらそう言う、
「艦隊では、一秒の判断や操作遅れが命取りになる、それに、此処にいても、またいつ機械共が来るかも分からない、私はお前には生きていてほしい、だからこそ、ここを辞めろ、」
あの時、初めて会った時、驚かされた、10日で適応を終わらせた私を越えた歴代最速適応者、散々優等生だからと期待され、プレッシャーを浴びせられていた自分を越える、きっとこいつは、私よりも辛い期待という名の圧力に揉まれここを過ごす事になる、だからこそ私が守ってやりたいと、そう思った、姉のように在りたいと、そう思った、だからこそこの機に危険しか無くなったここを辞めて、自由に生きてほしい、姉として在りたかった私からの、最後の願い、
「・・・分かりました、今まで、、ありがとう、、、ございました、、」
ラキは泣きそうな、悔しさを何とか押し殺し、僅かに出せた言葉を最後にウェデリアのスカーフを受け取り、外へ向かう、
──────
外が明るく見える、人工的ではない、天然の光、然し、そんな外への、期待が塗りつぶされるのに、さほど時間はかからなかった、
「は、、?何があった、どうゆうことだ、」
久しぶりの肉眼で見た、外の世界で映ったのは、ビルが尽く砕き崩れ、道路の所々が砕け、文明というものが消え始めた様な、崩壊した世界だった。
人の姿を探そうと、周囲を見て映るのは、あの人型の殺戮機械と死んだ血肉のみ、
「うっ、おぅぇえええ、」
ラキは嘔吐した、何なんだ、この世界はこんな崩壊した世界は、現実なのか?
そんなラキの絶望の問いは、すぐ後のアナウンスに答えられた。
音楽が流れる、まだ僅かに配線が生きているスピーカーから、ノイズ混じりに、AI統括監視センター:バベルの塔からの世界共通アナウンスの音楽だ、
《こちらAI統括監視センターです、本日の報、、#%)!%&!#!#)’》
機械音声で作られた最初に流される音声が乱れ消える、
《人類の皆様、こんにちは、完全自立思考式人型AI:EVEと、貴方方が呼ぶ者です、我々は機械生命体、この世界に意地汚く寄生する人類の皆様を遥かに凌駕する者です、これより人類が造り上げた愚かなる文明は滅び、我々機械生命体の時代へと移り変わる、貴方方人類には、滅んでいただきます。》
アナウンスが終わる。世界が壊れ、人類の時代が崩壊し始めたのであった、
2354年.5月6日.12時46分35秒:機械生命体宣戦布告・人類崩壊、