港町ウィサリスの酒場で事件勃発
港町ウィサリスの酒場でパーティーの仲間のレギーがやらかします
馬車は目的地の港町ウィサリスに近づいていた。遠くからふたつの塔が見える。
オクラスは大聖堂の塔1つだがウィサリスは大聖堂の塔とは別に、町の北にあるライラス湖から見えるように高い灯台が建っていた。
オクラスの町につくりは似ているが、北に湖があるのでオクラスとは南北が逆になっているような配置だった。
広場の北には大きな港があり、湖が一望出来るので美しい。
湖から涼しい風が広場に流れ込んできた。
西に市場があり市場を囲むように商人ギルドをはじめ、冒険者ギルド、盗賊ギルド、魔術師ギルド、戦士ギルドが並んでいる。
広場の東には闇市とオクラスよりも大きな繁華街があった。
タリルは商人ギルドにつくと荷物を運び込んだ。
自分の店で販売しない場合はギルドの方に置いていけば値をつけてくれる。
「武器と防具と聞いていましたが、これは葡萄酒の樽ですね」
商人ギルドの係員が幌馬車の荷台を見ると葡萄酒の樽で埋め尽くされていた。
「こいつは貴重な葡萄酒だ。高く売れますぜ」
樽にセーラルトの村の焼き印を見るとと親指を立てた。
ギルドに幌馬車を置いていくとタリル達は繁華街にあるホテルへ向かった。
ウィサリスは人口5000人ほどの町で、ウィサリスほどの大きな町になれば高級なホテルもある。
気前の良いタリルはホテルのクロークで一番高級な部屋を三部屋頼んだ。
セレア、レギーの部屋とタリルとマリアナの部屋だ。
タリルとマリアナはセーラルトの村でも同室だった。
マリアナはタリルの護衛として同室に宿泊していた。
タリルはアイテムを外すとマリアナよりも弱い。そこでマリアナは夜の間も護衛を続けていた。
ウルフの習性で床で寝ることもあればベッドで寝ることもある。警戒する場合は足音の振動を感じられるように床で寝る。
「夕食の時間にはまだ間があります。日が沈んだらロビーで待ち合せましょう。それまでは自由行動にしましょう」
タリルが伝えるとパーティーは解散した。
最上階の5階の部屋からは大きなライラス湖が見えた。
「こんなに豪華な部屋に泊まるなら、その分を報酬に加算してほしいでござるな」
セレアはライラス湖を見下ろしながら贅沢すぎて不安そうな顔になった。
レギーはお約束のようにベッドへダイブして飛び込むと、頭の下に腕枕をした。
「このまま、ガローザのローブを持ち逃げしても良いが、ウィサリスに着いたら旦那がなにかプレゼントすると言っていたからな。逃げるのは見てからでも遅くはないな」
天井を見つめて嬉しそうな顔をした。
タリルはクロークで、ウィサリスで一番食事がうまい店はどこか聞くと「エリスの店だ」と言う。
「繁華街は物騒だから、ホテルで食事されてはいかがですか?」と言われたが、繁華街の物騒なところもタリルは体験してみたかった。
「エリスの店でおすすめを食べよう。あとメロンソーダも」
タリルは少年の笑顔で破願した。
「メロンソーダ!いいね」
マリアナが体を横に揺らした。
子供のころから二人はメロンソーダが好きだった。
「チャピもメロンソーダ飲みたい」
チャピがタリルの顔を手のひらでぺしペし叩く。
「メロンソーダだけでなく美味しいものをいっぱい食べようね」
タリルは子供をなだめるように話した。
夕日が落ちてホテルのロビーのソファに4人が集まるとタリルがシースルーの衣を革の袋から出してセレアに渡した。
「これは妖精の衣で攻撃魔法を無効にするアイテムです。服の上から羽織るだけで軽いために重さは感じません」
「物理的な打撃を半分まで軽減できるので致命傷が避けられることもあるでしょう。これを着ているからといって打撃を食らわないわけではないので、物理攻撃は避けるようにしてください」
「若、色々とありがとうでござる」
セレアは妖精の衣を羽織りながら答えた。
タリルはセレアがお主から若に呼び方を変えたのを聞き逃さなかった。
「スケスケの衣裳を上に着るとかえってエロいぜ」
レギーが言うように、長身のセレアの体形が薄いエメラルドの色で、うっすらとふくらみとくびれを見せたので魅力的だった。
「エロいって言うな。わしをそのような対象で見るなよ。年齢差が大分あるのだぞ」
マリアナが突っ込んだ。
「ふむ、動きは邪魔されないな、若、これもくださるので?気前が良いでござるな」
片手を上にあげると少し背中を弓なりにしてポーズをつくった。
首で後ろを向きながら、後ろ脚をぴょんと上げて少し色気のあるしぐさをして見せる。
「さっきから気になっていたのですが、お主から若に呼び名が変わっていますが、どのような心境の変化でしょうか?」
タリルがセレアに聞いた。
「いや、この仕事が成功したら、継続して契約ができると聞いていたものですから、若の子供に至るまでの長いお付き合いを想定してのことです。タリル様のほうがよろしかったかな?」
エルフの寿命は長い。どころか死なないエルフもいるらしい。
「いや、もう自由にしてもらって結構です。セレアさんとはこの仕事が終了したら、年間契約で継続をお願いしたいと考えています」
タリルがいうとセレアが胸に手を当ててお辞儀をした。
「レギーにはこれです」
タリルは革の袋を探ると、肘まである長い黒革の手袋を出して渡した。
「牛魔王の手袋といというアイテムで牛魔王と同じ怪力が得られます」
「ガローザのローブで姿を消して、盗賊の靴で音もなく忍び寄り、ターゲットを一瞬で絞め殺すことができます。」
「刺し傷もないので、返り血も浴びることはありません。おしゃれなレギーのグレーのシャツには血も付きませんよ」
「密偵の仕事には最高だぜ。そもそも見つからないんだから飛び道具やナイフよりこっちのほうが使えそうだ」
レギーは受け取りながら感心した。
「レギーにはこれだけではありません」
タリルは腰の袋から本を一冊取り出した。
「シーフオブノスタルジアの続編、呪われたシーフです」
目の前に本を突きだすと、本が好きなレギーがものすごい食いつきを見せた。
タリルが突きだした本を両手で握りしめると、すぐに欲しいと潤んだ目をした。
「私と一緒にいると、さらに続編も手に入るかもしれませんよ」
タリルはいたずらな笑みを浮かべる。
貰えるものを貰ったら逃げようと思っていたレギーの魂胆はばれていた。
「あのぉ、いったい続編は何話まであるのでしょうか?」
レギーが聞く。
「現在、6冊出ています。あと4冊も所有しています。隠し場所は内緒です」
「旦那、ギルドからは契約継続の話なんか出てませんでしたが、あっしも年間契約できるんでしょうか?」
レギーが細かく瞬きをしながらタリルを見た。
「盗賊に年俸を先払いする人などいません。成果報酬です」
「そ、そんなぁ。旦那ぁ」
「でも、私はレギーとずっと仕事はしたいですよ」
「ほんとですか!」
「シーフオブノスタルジアのシリーズが終わっても、シーフオブミッドナイトのシリーズなど、ほかにもたくさん所有してます。仕事が終わるたびにボーナスとして本は渡しますよ」
「シーフオブミッドナイトだって! なにそれ? 早く読みたい」
レギーの声が裏返った。見事に去勢された盗賊の姿があった。
「ふふふ」
マリアナがおかしくなって口に手を当てて肩をすくめた。
ホテルを出て繁華街の建物の間の路地を進むと多くのギラギラした荒くれ冒険者達とすれ違った。
ウィサリスの町には物と金と人も集まっていた。
レンガの壁にお尋ね者の貼り紙が複数見える。
タリルが貼り紙を横目に見ると黒い眼帯を左目にした大きな白いハットをかぶった魔女が描いてあった。
碧眼の魔女リュアラと書いてある。
懸賞金は一千万ゴールドとかなり高額だ。
この町にはおたずね者もうろうろしているらしい。
エリスの店の中に入ると店の中は広く2階分吹き抜けている大ホールになっていた。
客席は広いがほぼ満席であり、人気店らしくにぎやかだった。酔って会話する声に交じって、食器を片付ける音が聞こえた。
階段をのぼった2階席はガラス張りでVIP専用室になっているようだった。
タリル達はホール係にやや入り口付近で壁に近い端の4人掛けのテーブルに案内された。
「お先にお飲み物をお伺いします」
飲み物を飲んでいるうちに料理が出来上がるカフェや居酒屋によくあるスタイルだ。
「メロンソーダはありますか?」
「普通のとフロートがあります。メロンフロートは上にバニラアイスが乗っています」
4人はメロンフロートを注文した。
「チャピにもあげるからね」
タリルがいうと肩に乗ったチャピがうれしそうな顔をした。
「こちらのお店のおすすめ料理はなんでしょうか?」
「骨つき肉の特製ソースがけになります」
野菜サラダのセレアを除いて、ほか3人は骨付き肉にした。
「メロンフロートでございます」
ホール係の店員が、逆三角のグラスに緑色のシュワシュワしたメロンソーダをテーブルに並べる。
メロンソーダの上には丸くて白いバニラアイスが乗っており、長いスプーンとストローが差し込まれていた。
「おいしそう!」
「お子様かよ」
メロンフロートに飛びつく4人を見ると、横の席で木の樽型のビールジョッキを浴びるように口に流し込んでいる冒険者が茶かした。
タリルはふわふわと宙に浮かぶチャピの口にスプーンでバニラを運ぶと、冷たかったらしく、ほっぺをおさえてチャピが震えた。
その姿がかわいらしくて4人は微笑んで場が和んだ。
間もなく骨付き肉とサラダがテーブルに運ばれて並ぶ。
骨付き肉は骨をもってかぶりつくタイプでエリスの店の鉄板メニューだ。
他のテーブルの冒険者が骨付き肉にかぶりつきながらビールを飲むのを真似して、3人は肉にかぶりついた。
「うまい!」
三人は頬を膨らませて肉をほおばった。
マリアナは狼の血が騒いで尻尾をプルプルと振って喜ぶ。
「サラダもうまいぞ」
セレアがいうと、肉が食べれないらしい妖精のチャピがセレアのほうにふわふわと飛んで移動して、セレアにサラダを分けてもらった。
白いドレスに金色の長い髪の妖精はメロンソーダのグラスより背が低い。
小さな野菜の破片に大きな口を開けてかじりつくと小さな野菜の破片が大きく見えた。
4人のおなかも一杯にになりかけたころに奥のほうの冒険者がざわついた。
ミラーガラスで見えなかった2階の席から、階段を降りて出てくる3人の姿があった。
「ミアレイだ」
「炎姫だよ」
「ハーディンだ」
「剣聖様だ」
「あれがウォルフォード伯爵か」
驚きと肉眼で見れた歓喜の声を出すあたり、かなりの有名人らしい。
階段を降りてくる先頭はミアレイというアマゾネスで褐色の肌を露出した真っ赤なビキニで、腰から下に茶色の布をまとってはいるが、大柄の女の胸は丸く大きくて、くびれた腰はかなり刺激的な格好だ。
アマゾネスの大半は露出が多いので街中でもよく見られる姿ではあった。
黒髪のコーンロウ、アマゾナイト色の浅い緑の目ははっきりと大きく、南の種族の印象で、腰の両脇に戦士用の手斧が見えた。
タリルと同じ二刀流で、高速で手斧を回転しながら火属性の魔法を使うので炎姫とと呼ばれていた。
指に多数の大きめのリングがジャラジャラとはめられており、鋼鉄製の手摺を握ってこすりながら降りると火花が飛び散った。
2番目に降りてきたのは顔以外の全身をシルバーの甲冑に固めたハーディンで、オレンジの長髪の女性だった。
美しく繊細な見た目ではあるが剣術で肩を並べるものがいないため剣聖と呼ばれていた。
ハーディンはウォルフォード伯爵の側近でウォルフォードの軍を統括する将軍でもあった。
その美しさのためウォルフォード伯爵のお気に入りで、いつも一緒に行動している。そのため、ウォルフォード伯爵の愛人だとも言われている。
進行方向だけを見つめる右目はサファイア色のブルーで左目がアメジスト色のパープルのオッドアイだった。
その美しい顔にはいつも表情はなく、普段は笑うこともない。
そのあとで二人の雇い主でもあるウォルフォード伯爵が下りてくる。
人間にしては青白すぎる顔は短い金髪のせいでより青白く見えた。
「暗闇伯爵」と恐れられ、女が大好きでウォルフォード城に呼ばれて行方不明になった女性は数しれない。
長身で均整の取れた体にフィットした、襟の高く丈の長い上着は軍服のように見えた。好色そうに浮かべた笑顔が気味が悪い。
「あれ、怖い」
不気味すぎるウォルフォード伯爵を見ると、チャピが恐がってタリルの腰の革袋の中に入って隠れた。
3人に続いてドアが低すぎてかなわないと、かがんでドアから出てきた大きすぎる女性の姿が見えた。
銀色の髪を頭の上で束ねていたのでさらにドアがくぐりにくい。
とがった耳と灰色の肉体は到底人間とは思えない色で、ダークエルフの女だと分かった。先端が派手に装飾された長槍のようなロッドを持っている。
張りのある体はセクシーなアマゾネスのミアレイよりもさらにメリハリがあり、黒地に銀の装飾の施された露出の多いコスチュームから女肉がはみ出ている。
冒険者がさらにざわつき、中には腰を抜かして椅子から転げ落ちるものまでいた。
入り口付近の冒険者の中には外に逃げたものもいた。
「グアンダスだ。ウォルフォードの手下になったのか?」
そう言った冒険者を怪しく白く光るムーンストーン色の目が見つけた。面倒そうな顔をして、その男を爪の長い指で指すと白い煙になって蒸発した。
べろりと黒い舌をだして指先を舐めると大きな腰を振って階段を降りてくる。
先頭のミアレイが前を開けろとばかりに右手を前に出して歩くと、客席が真ん中から二つに割れた。
ミアレイの後を無表情なオレンジの髪のオッドアイの剣聖が続く、薄笑いしたウォルフォード伯爵と、そのあとにそれよりも背の高いグアンダスが酔ったとばかりに手で顔を仰ぎながら腰を振って歩いた。
タリル達の席は壁ぎわだったが、中央を通る4人の姿が遠くに見えた。
「あいつがグアンダスか」
レギーが怒りに震えて握りこぶしを固く握った。
「やめな!」
レギーが立ち上がろうとした瞬間に押さえつけて、白い帽子をかぶった熟女が上にまたがって濃厚なキスをした。
「ちょ、まてよ、むむん」
口を塞がれたレギーは声を出すことが出来ない。
ちらりとグアンダスがタリルの席を見たが、大きな帽子でレギーの姿はグアンダスからは見えない。
酔っぱらいの女が男に絡んだのだろうぐらいに、気にもせず出口に向かって行った。
グアンダスが出口を出ると白い帽子の熟女がレギーから降りる。白い帽子の熟女は隣のテーブルから余った椅子をレギーの隣に置いて座った。
「あんた、今、死んでたよぉ。よく見たらイケメンね。惚れなおしたわ」
レギーに色目を使う左目には黒い眼帯があった。
「碧眼の魔女!」
目を開いて後ろにのけぞったレギーの口を魔女が人差し指で押さえた。
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