オーガの大軍から村を救え
質屋の御曹司が率いるパーティーの初めての戦闘になります。
セーラルトの村は農業を主に営んでおり、小麦をはじめ葡萄なども収穫して酒造りも行っている。200人ほどの小さな村で小さな民宿や小料理屋もあるので旅人が骨休めに立ち寄る。
セーラルトの村はパンと葡萄酒が美味しい。村人は素朴で温和な性格で、親切なおもてなしには定評があった。
リトリルの森を出発して1時間経ったくらいにレギーが戻って来た。
「大変なことになってますぜ、旦那。村はオーガに占領されてます」
レギーは息を切らせている。
オーガは身長が高めの人間と同じぐらいだが、体はがっしりとしており筋肉質で角と牙が生えている。
戦闘が好きで戦闘用に作られた特注の武器をもっており、粗末な武器ではない。人を襲って食べるので恐れられている。
村人は200人ほどいて、縄で縛られ集会場に押し込められていた。
今夜にも広場に連れ出されてオーガに食べられそうだとレギーはいう。
10人以上の男性が村を守ろうとして怪我をしており、広場の中央に縛られ吊るされていた。
レギーの調べではオーガは100体ほど確認できた。20体のオーガが中央の広場におり、早く食べたいとばかりに見張りをしている。
20体が集会場を取り囲み、村の周りを20体で見張りしている。
あとの40体は村人の住まいに入り葡萄酒を飲み始めていた。
オーガ達は夜に広場で肉祭りを行う予定だった。
「悪いことは言わねえ、相手が多すぎますぜ。通過してウィサリスの町に行きましょう」
レギーが言うとタリルは懐から懐中時計のような形をした羅針盤を出した。
ガラスの中央の針がめらめらと燃えているのが見える。
炎の羅針盤はより良い行き先を指すアイテムで、行かない方が良い場合は他の進路を指し示す。
タリルの説明によると、行かない方が良い場合はセーラルトの村の逆を指して炎が小さくなるはずだった。
「セーラルトの村に行くが方向は間違いないか?」
タリルが炎の羅針盤に尋ねるとセーラルトの村を指して明るく炎が燃えた。
「私たちはセーラルトの村に行かなくてはいけない。炎の羅針盤は間違えない」
「夜まで時間がない。奇襲作戦でいこう」
そう言うと、タリルが作戦を立てた。
「まず遠方からセレアが弓で見張りを全て片付けてください」
「了解いたしました」
「周囲の見張りが居なくなったら、次は集会場の周りの見張りをレギーも合流して片付けててください」
「分かりました。旦那」
「レギーは集会場の鍵を開けて、中に捕らわれている村人の縄を外してください。縄を解いた後は集会場の入り口をセレアが守ってください」
少年のタリルが真剣な目をしてパーティに作戦を伝えている。
「ガローザのローブを着て透明化して、集会場に近づいて来るオーガがいたら、後ろから刺してください」
「このローブがあれば相手には見えないから楽勝ですぜ」
「周囲の見張りが居なくなったら、中央の広場の20体のオーガにマリアナと私が突撃します。異変を察知して家から出てきたオーガも、そのあとに二人で一体残らず仕留めます」
「オーガは好戦的ですから、たぶん異変を感じたら広場に自分から集まるでしょうな」
「マリアナが一人で旦那を護衛できるので?」
タリルが作戦を言うとレギーが作戦の荒を突いた。
「わしも今そう思ったとこじゃ。お主を守れなかったら依頼されたクエスト自体が遂行できぬ。依頼主が死んだら報酬も受け取れぬぞ」
セレアが不服そうな顔をしている
「護衛ですって?」
レギーとセレアが不安な顔をしたのを見てマリアナが鼻で笑った。
「タリルはチャンピオンゴブリンのいる統率された部隊を一人で軽く消滅させるのよ」
「旦那がですか?」
「あなたたちにレアアイテムを渡しているのに、タリルがレアアイテムを身に着けていないとでも思ったの?」
マリアナが自信満々に言った。
「なるほど、それもそうだな。もっといいのをつけてそうだ」
レギーもセレアも納得した顔をした。
馬車を村の入り口から離れたところに停めて、セレアが弓を構えると、遠方から的確に一体一体を仕留めていく。
矢は家の陰に居るオーガを見つけて、屋根の上からカーブを描いてオーガに命中した。5本ぐらい矢を試し打ちしたところで、
セレアは5本同時に矢を発射した。それぞれが別な方向へ飛ぶとすべてのオーガの心臓を貫通した。
「もうこの弓のコツはつかみました」
セレアはさらに5本と6本の矢を連続で発射した。
「周囲の見張りはもういません。集会場の周りもここから射ることが出来ます」
合わせて21体のオーガをわずかの時間で仕留めたセレアの弓の腕は確かだ。
エステア主任が選抜してくれただけのことはある。
「消えるから、俺のことは射ないでくれよ」
レギーが透明化する。
「行くぞ!マリアナ!」
タリルが若武者のように掛け声をかけると広場へ全速力で走り出す。
「遅れるな! タリル!」
並行して走るマリアナはタリルを少しだけ見て、狼の早さでタリルを追い抜いた。慌てて後ろをセレアがついていく。
後方のセレアからマリアナがタリルよりも一足早く広場に突入するのが見えた。
鞘から水色に光る美しい剣を抜くと、走りながら広場の右側に居る5体のオーガに向かって氷の剣を左から右に振り上げた。
振り上げるとオーガが凍り付く。
後ろからタリルが左に持っていた杖で空気の弾丸を連射するのが見える。
凍り付いたオーガが次々と砕け散る。
タリルは左手に魔法の杖を持ち、右手には剣を持っていた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
タリルが雄たけびをあげて走り抜けるのが見える。
その姿は商人の少年ではなく一人前の戦士だった。
「ロッドと剣の二刀流だなんて。見たこともないぞ。しかもマリアナとも良い連携だ」
セレアが感嘆する。
セレアは今まで多くの冒険者とパーティーを組んだが、その冒険者達と比較にならないほど強いと感じていた。
マリアナは凍らせたあとのオーガは見向きもせず、次の5体のオーガに向かって左回りに走って近づくと、水色の剣を今度は右上から左下へ高速で振り抜いた。
5体のオーガはマリアナを見た瞬間にはすでに遅く、体は氷になって固まった。そのあとに走って来たタリルに空気砲と剣で粉々に砕かれる。
「早い!」
(マリアナの狼の足も早いがタリルの足も人間にしてはやけに早い。なにか特別なブーツでも履いているのだろうか?)とセレアは思った。
さらに左回りにマリアナが突進してまた5体のオーガを凍らせる。そのあとをタリルが追いついて剣で砕いていくと、右の家の中にいたオーガがタリルに気づいた。
そのオーガにセレアは急いで矢を射たが、矢が命中する前に大型のナイフがオーガの手から投げられた。ナイフは回転しながらタリルに向かって行く。
「タリル!危ない!」
セレアが叫ぶがもう遅い。
ナイフが命中すると思った瞬間にタリルの胸当てから黒い煙の帯が出てナイフを叩き落とした。
「なにっ?」
セレアは驚きの声をあげる。
他の家の窓からもオーガが放った回転したナイフがタリルめがけて無数に飛び交う。タリルに集中砲火されたナイフのすべては全て黒い煙の帯が叩き落とした。
「自動防御か?」
セレアはレアアイテムの力を見ながら、我に返って自分の役目を思いだして集会場の入り口へ進んでいく。
タリルが5体のオーガを粉々にしている間、マリアナが広場にいた最後の5体のオーガを左手のかぎ爪のアイテムで砕いた。
次から次へとオーガが広場へ集まってくる。
タリルに向かうオーガは10m手前で黒い帯に捕まってもがくと、二刀流の剣の餌食となった。
マリアナに向かって行くオーガは近寄ることもできずに氷となり、左手のかぎ爪で砕かれた。
かぎ爪はヒドラの爪でどんな鋼鉄よりも硬いレアアイテムで、出発の時にタリルからマリアナが受け取っていたものだった。
オーガは戦闘的で一体も逃げずに広場へ集まって果てた。
オーガがいなくなるとセレアの目に黒く大きな影が見えた。
「なにか家の後ろにいるぞ」
西のほうをセレアが指刺して、タリルとマリアナに危険を教えた。
黒い影が家の間から見える。
10mはある緑色の大きなモンスターが見えた。
肩からは草や木が生えており、大きいせいか動きはやや鈍い。
「トロールだ。そんなの偵察した時には居なかったよ。これはだめだ。逃げるぞ旦那!」
レギーが大声で叫ぶ。
「そんな。。。。トロールは5体いるぞ。気を付けろタリル!」
ミーネルの首飾りをつけたセレアが奥にいるトロールまで把握してパーティーに注意を促した。
トロールは大型のモンスターで知能は低いが頑丈で、岩のような色をした体は固く、刀や弓矢などの物理攻撃がほぼ効かない。
力が強く岩のような拳でなぐられると側死に至る。
「マリアナ!足を狙え。俺は空から行く」
タリルが空中に階段でもあるかのように駆けあがって行く。
それに呼吸を合わせてマリアナがトロールに接近すると、足をめがけて氷の聖剣を振り抜いた。
トロールの下半身が凍って動けなくなった。
空中を走って駆けあがるタリルのブーツには羽が生えている。
「フライングブーツ!」
セレアは本で読み聞かせてもらったことはあったが、それを使うのを初めて見た。
タリルは10mあるトロールの上空から爆雷の杖を向ける。
「レフデン!」
詠唱すると火の弾丸がトロールの頭に当たって爆発する。
岩のような上半身が方々へ飛び散った。
タリルはそのまま上空を駆けて進む。
地面からはマリアナが下半身をかぎ爪で砕いて進んだ。
3体目のトロールを爆破し終わると、4体目のトロールが両手を上げて、手のひらでタリルを挟んでつぶそうとした。
タリルの体はトロールの両手の間にあったが、胸当てから黒い煙の帯が出てきてトロールの両手に巻きつくとギシギシと逆に手をゆっくりと広げていく。
タリルはゆっくりと左手の杖を下におろして、トロールの頭上に狙いを定める。
「レフデン!」
至近距離で発射された火の玉が岩のような上半身から下半身まで貫通して地面に届く。トロールの大きな体は左右に割れて地面にばらばらと崩れ落ちた。
5体目のトロールにはマリアナも屋根に駆け上がると、氷の聖剣を振ってトロールは頭の先まで氷になった。
タリルは透明の見えない階段の上から飛び降りるようにして、凍ったトロールの頭の上に両足で着地した。
大きくマーリスの剣を振りかぶると頭の中心に剣を上から下に突き刺すと、氷のトロールが上から下に砕けて崩れた。
ふわりと羽根のついたブーツを履いたタリルが地面に降りるのを集会所の村人すべてが目撃していた。
「弱そうだから村を襲ったか? でも助けが必ず来る」
トロールの残骸にタリルは言った。
マリアナとタリルはお互いを称えて右手と右手を相手の肩に巻き付けて抱き合った。タリルは嬉しかった。
マリアナは子供のころに抱き合った時よりもたくましく弾力があった。
炎の羅針盤は間違っていなかった。
「セレア、急いでヒールで治療を!」
中央に縄で縛られて、ぶら下がっていた10人の男性をタリルが指さした。
レギーが急いでロープを切って一人ずつほどくと、セレアがヒールの治癒魔法で順に治療をした。村長らしき老人がタリル近づいて手を握る。
「ありがとう。勇者様」
「いいえ、質屋です。いらなくなった物があれば高く買い取るのでみなさん広場に持ってきてください。武器や防具が馬車に入っているので、欲しいものがあれば全て無料で差し上げますよ」
笑顔で答えるタリルは気前が良かった。
「お礼と言っては何ですが葡萄酒をもらってください」
村人は幌馬車の荷台を葡萄酒の樽で埋めた。
タリルもマリアナもセレアもレギーも酒が飲めないのを黙っていた。
オーガの残していった荷物の中に鳥かごがあった。その中にとても小さな白いドレスの女の子が閉じ込められていた。
「オーガの仲間か?」
「チャピはオーガの仲間じゃない。捕まって閉じ込められていた。ここから出して」
タリルがセレアのほうを向いてどうするか? というような表情をする。
「羽根が四枚生えているので、妖精の部類ですね。洋服から見て邪悪な種類ではなさそうなので逃がして大丈夫そうですよ」
セレアが教えてくれたので、タリルが鳥かごの入り口を開ける。
チャピはふわりと飛んで外に出るとタリルの肩に乗った。
「かわいい!」
マリアナがチャピを見ていうと、マリアナと逆のほうに回りこんで頭の陰から不安げな顔で獣人のマリアナを覗き見た。
「チャピは人間が恐い、でもオマエについていく。オマエ優しそう」
「まぁ、好きにしていいよ。私の名前はタリルだ。よろしくね」
タリルが答えると、チャピは嬉しそうにタリルの頭の上をぐるぐると旋回してずっと閉じ込められて、錆び付いていた羽根を回復させた。
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