パーティーのメンバーにレアアイテムを配りました
初めての旅への出発。レアアイテムをパーティーメンバーに配るシーンになります。
月曜の朝になって商人ギルドの北にある広場には、荷を積んだ新品の幌馬車が停められていた。
屋根の幌が真っ白で馬車の木材も新品だった。車輪の金具も錆び一つない。
北の広場を挟んでオクラスの大聖堂がある。広場の西には市場があり、商人ギルドの南に広いダフラック川が流れていた。南東には船着き場があり港町が広がっている。
広場は貿易の中心で東西南北への旅の出発点になるので、朝にも関わらず冒険者のパーティーの待ち合わせで人が多く見られた。荷物を積み込み終わった馬車が出発する音と、荷物を積む音も聞こえた。
新品の幌馬車の前には依頼者のタリルとその横には護衛の狼の獣人のマリアナがいる。
茶色の長い髪から狼の毛並みの耳が出てぴくぴくと動いた。
長身に緑色の長い髪でライトグリーンのドレスのエルフのセレアがその前に現れる。
「エステア様からご紹介いただいたチェシエル村のセレアです。今後ともよろしくお願いします」
セレアは軽くひざを折り、胸に手を当てて会釈をした。エメラルド色の目が美しく、上品で知的な印象だった。
セレアの挨拶が終わると、赤髪を後ろに束ねてフレームレスのメガネをかけた細身の男がどこからともなくスッと現れた。
「盗賊ギルドからの紹介のレギーです。タリルの旦那よろしくたのんます」
腕とひじを前につきたして右足を一瞬引いてお辞儀をした。
少し下町のなまりがあった。人懐こい印象で赤い髪に美形の顔はうす笑いをうかべており、悪く言うとチャラ男だがフレームレスのメガネでその印象を薄くしていた。
フレームレスの中の目はスモ―キークオーツのような黒灰色で、黒い革のベストに動きやすそうなスリムパンツ、ベストの中には盗賊にしては清潔そうなグレーのシャツを覗かせた。
「商人ギルドのダノリクムのタリルです」
「こちらは護衛のマリアナで商人ギルドのダノリクム所属です」
「馬車はの操縦はマリアナが行いますのでに荷台のほうへどうぞ」
タリルが幌馬車の中へ二人を案内した。
二人が幌の中に入ると馬車は時間を惜しむように動き始めた。荷台の幌の中は広く荷物は荷台の半分も埋まっていなかった。
タリルは一つの箱の中を開けると剣がぎっしり入っていた。農業用の道具とは違う、使い古された刃物の匂いがした。
「積荷は質流れしたアイテムでこれらを北にあるウィサリスの町まで運びます」
「1日目は中間点のセーラルトの村に宿泊します」
「中にはレアアイテムはありません。普通の剣と盾と防具です」
「2日目にウィサリスに着いたらウィサリスの商人ギルドまで行きます。そこで私が売却、仕入れなど様々な交渉を行うので4日間宿泊します」
「ウィサリスで仕入れた荷を積んで、帰りはセーラルトの村に一泊してオクラスに帰還します」
「今日はセーラルトの村に行く途中でリトリルの林に寄り道します」
タリルが行程を説明した。若いが要領を得ている依頼者には安心感があった。
リトリルの林につくと全員が馬車から降りた。半分丸焦げになって剥げている林は異様な姿をしていた。木と草が焦げた匂いが周囲に立ち込めていた。
「あちゃー、ドラゴンでも通ったかね」
レギ―がメガネを指で上げながら言うと、マリアナが腕組みして薄笑いした。
「この旅の間、セレアとレギーにはレアアイテムをお貸ししますので、リトリルの林でお二人にはアイテムを試していただきます」
タリルは革の袋から首飾りのアイテムを取り出した。
「ミーネルの首飾りです」
タリルがセレアに首飾りを渡す。
「これを身につけてみてください」
セレア首飾りを受け取ってが首にかけると、首飾りの上で太陽の光が喜ぶように反射して踊った。
「あっ」
セレアは小さな声を出すと、タリルとマリアナを見て白い肌が赤面した。
「見える度合いは慣れると自分で調節できますから」
「わしはお主の、なんだ、あれなんぞ見ておらぬぞ」
エルフは普段の口調になった。エルフの寿命は長い。セレアの普段の話し方は見た目は若い女性なのに200年前の男性のしゃべり方だった。
「レギ―、セレアに分からないように林のどこかの木の後ろに隠れてください」
タリルがお願いすると、レギーは走って林の中に走って消えた。
「レギーがどこにいるかわかりますか?」
セレアは右のほうを指さすと、背中に背負った弓を取り出すと矢をつがえて放った。
「勘弁してくれよ。殺されるところだったよ。まったくどうしてばれたんだい」
右の林の木に命中するとその後ろからレギーが両手を上げて出てきた。
「どこに隠れても透けて見えるので見つけて狙撃ができます」
「それと」
タリルが馬車のほうまで行くと、馬車の荷台の中から銀色の小さな弓をもって来た。
「この弓なんか使ったら、かなり遠くまで届きますよ」
セレアが矢をつがえて射ると遠くに矢が消えた。
「これはよいぞ」
セレアが嬉しそな顔で言う。
「差し上げますよ。追尾系の魔法がかかっているので、慣れれば目標を狙って自在に矢をカーブさせることもできます」
(エステアが言った通りこの依頼主は気前がいい)
「どこに隠れていても相手が見えますから、不審者を見つけて、必要があれば狙撃してください」
「近距離の護衛はマリアナが担当します」
アーチャーを指定した意味がセレアにも理解できた。この依頼者は若いが頭が切れるとセレアは思った。
「レギーにはこちらをお貸しします」
「ガローザのローブは着ると体が他の人から見えなくなって消えます」
レギーのほうを向くとタリルハ革の袋から茶色い布を出して渡した。
レギーが羽織るとすっと体が宙の中に消えた。
「こりゃ、いいや」
誰もいないところから声が聞こえる。
盗賊にはのどから手が出るほど欲しいレアアイテムだった。
「持ち逃げしても、マリアナは匂いで分かるから逃げきれませんからね」
誰もいないところまでマリアナが歩いて行くと、なにかをつかんだ。
「いてててっ」
ローブが地面に落ちてレギーが現れた。
「レギーはこれを着て私たちより早くセーラルトの村に潜入して事前に探って情報を報告してください」
タリルはローブの弱点を伝えると同時に使い方も教えた。
「なるほどね。盗賊の俺がパーティーに呼ばれた意味が分かったよ」
「潜入にはこれを使ってください。これは足音が消える盗賊のブーツです」
タリルは馬車の方に歩くと、荷台に潜ってブーツを取り出して持ってきた。
「これを履いていればまず気づかれませんよ。大盗賊が特別に魔術師に作らせたものが質流れしたもので、レアアイテムですからどこにも売ってはいません」
「これは差し上げます」
「レギーには向こうに着いたらもっと良いものを用意してますから、期待していたくださいね」
さらに気前のよい話を聞いて、レギーはローブを持ち逃げする気もなくなった。
「早速ですがレギーは一足先にセーラルトの村に行って調査をお願いします」
タリルがレギーに依頼すると、レギーは指2本を頭の上で軽く振ってチャラい挨拶をすると姿を消して走って消えた。
透き通った空気が少しだけ揺れた。
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