暗黒の指輪に変えられた暗闇伯爵が人間にもどる
暗黒の指輪に変えられた暗闇伯爵が人間にもどります
田園が広がるセントラルの町は穏やかで住みやすい。最近では繁華街や市場もにぎわっている。
セントラルの畑に雨を振らせるために来ていたサファイアは帰りに闇市を通った。闇市の黒い宝石が気になっていたので店の前で立ち止まる。
(昨日もこの少女は来てたな。買えもしないくせに)
暗黒の指輪に戦慄が走る。
(この少女はハーディンか? 繁華街のバーでダンサーをしていたころのハーディンより子供だったから分からなかった)
左目は眼帯で見えなかったが、その右目のサファイア色は間違いない。暗黒の指輪は嬉しかった。
(そうだ。もっとこっちに寄って俺を見てくれ。そして、できることなら俺を指に嵌めてくれ。そしたら会話ができる)
暗黒の指輪は焦った。
「おじさん、この黒い指輪はいくらなの?」
「こいつは人気のない指輪だ。気にいったのなら安くしておくよ。お嬢さんは美人だしね。そうだな、銀貨一枚でどうだ?」
「私、修行中でお金はあまりないの。またにしておくわ」
(おい、よせ、待ってくれ、行かないでくれハーディン!)
「お嬢さん、嘘、嘘だよ、気にいった人がいたら、ほんとはいくらでも良かったんだ。銅貨1枚で譲るよ」
露天商の男が少女に持っていって欲しそうな顔をする。
(そうだ、そうしろ、ハーディンお金を払うんだ)
「それならもらうわ」
サファイアが嬉しそうに言った。
値切った訳ではないが銅貨一枚でサファイアは指輪を手に入れることが出来て嬉しかった。家に帰ったら嵌めてみようとポケットに入れて家路に急いだ。
サファイアは部屋に戻ると黒い宝石の指輪を見つめて、指に嵌めてみた。
(俺だ。ウォルフォードだ。ハーディン)
頭の中に指輪が話しかけてくる。
サファイアがびっくりして指輪を外そうとする。
(外さないでくれ、これを見て)
暗黒の指輪がイメージを頭の中に送ってきた。
「野良のキャットピープルが消されている」と泣きじゃくる銀色の鎧の女を青白い顔の伯爵が抱きしめてあやしている光景だった。
鎧の女と伯爵が愛し合う姿を見て、サファイアは気が付いた。
「この鎧の女の顔は大人になった私だ」
よくわからないが、懐かしくて涙があふれてきた。
(そうだハーディン、俺とお前は愛し合っていた)
指輪が優しい声で頭の中に語り掛けてくる。
「私は誰なの? あなたは誰なの?」
(おまえはハーディンだ。私はウォルフォードだ)
「ウォルフォード? 私とあなたは。。。」
涙を流すサファイアに暗闇の指輪から二人の思い出が送りこまれてくる。
(おれを人間にもどしてくれ)
指輪に言われると、ハーディンは部屋を出てダイニングキッチンに行く。
「サファイア、今回の町はどうだった?」
料理をしているリュアラが振り向くと首を横に振った。
「おまえ、その指輪をどこで手に入れたんだい?」
「リュアラ叔母さん。ごめんなさい」
サファイアは言うとリュアラに指輪を向ける。リュアラは魔法を使うこともなく抵抗もしなかった。
「タリルは全部知っている。出来るだけ遠くに逃げるんだよ」
(ノクターン)
ウォルフォードの声がサファイアの頭の中で聞こえる。
「ノクターン」
サファイアが詠唱すると指輪から暗闇が飛び出して、碧眼の魔女リュアラを吸い込んだ。床に白い魔法の杖がカラリと落ちた。
「ああ、なんて、私なんてことを」
サファイアが言うと床に腰を落として泣き崩れた。
(おれを人間にもどしてくれ)
頭の中にウォルフォードの声が聞こえる。
サファイアは熱に犯されたようになって、その言葉を拒むことができなかった
ウォルフォードを人間に戻すのには、時の魔女アリエルの聖女の指輪を奪わなくてはいけない。サファイアはオクラスの商人ギルドに行くと2階のアリエルの執務室に入った。
「やあ、サファイア少し大きくなったね。なにより元気そうだ」
姉弟子のアリエルは小さなころからサファイアに魔法を教えるなど面倒を見ていた。まさに姉の様な存在だった。
「アリエル姉さん。ごめんなさい」
サファイアが指輪を前に突きだす。
「サファイアそれは」
アリエルが言いかけたところでサファイアが魔法を詠唱した。
「ノクターン」
アリエルが黒い闇に包まれて、赤い杖になって床にガタンと落ちた。
その時、誰もいない空中から手が出てきてサファイアの首を絞めた。
「サファイア何をしている?」
サファイアの後ろにレギーの姿が見えた。レギーもよくアリエルといっしょにサファイアに会っていて、兄のように慕われていた。
サファイアは素早かった、肘をレギーに入れるとレギーがうずくまった。サファイアがレギーに向けて暗闇の魔法を詠唱するとレギーは革表紙の本になって床にバサリと落ちた。
レギーは革表紙の本に変えられてしまった。サファイアはアリエルの居た場所で聖女の指輪を見つけると、急いでそれを指にはめた。そして暗黒の指輪を外すと床に置く。
「レディーレ」
詠唱すると水色の時計の魔法陣が現れて時計の針が逆回転する。指輪のあった場所にウォルフォード伯爵が現れた。
「サファイア、お前も元の姿に戻れ」
サファイアの周りで時計の魔法陣が回転すると大人の姿になっていく。眼帯を外すとその姿はハーディンだった。
サファイアは小さすぎて裂けてしまった青いワンピースの代わりにアリエルの部屋のクロゼットから赤いゴスロリの洋服を出して着る。
その一部始終を執務室にいたセレアは透視して見ていた。
タリルとマリアナとセレアは同じ部屋で仕事をしていた。セレアは博識でタリルの秘書的な役割もこなしていた。
「サファイアがアリエルのところに来ている様だぞ。タリル」
セレアにはアリエルの部屋の中が見えていた。
「そうかい。サファイアに会いたいからあとでこっちにも来てもらおう」
「サファイアが暗黒の指輪でアリエルを魔法の杖に変えたぞ」
「なんだって?」
信じられないという顔でタリルがセレアを見た。
「いかん! ああ、なんてことだ。サファイアが暗闇の指輪をウォルフォードに戻した」
それをマリアナも聞いていた。マリアナが急いで部屋を出ていくとタリルもそれに続いた。
マリアナはアリエルの部屋に入ったが二人の姿はない。そのころサファイアに手を引かれて階段を降りるウォルフォードの姿があった。
二人はリトリルの林のほうに向かって走って逃げる。
「きっと、タリルが追ってくるぞ。もっと遠くに逃げないと」
「私、恐いわ、でもウォルフォードと逃げていると嬉しい」
サファイアが笑顔でウォルフォードを見た。
リトリルの林まで二人は逃げたところで足の速いマリアナが追いつく。
「ノクターン!」
サファイアが暗黒魔法をマリアナに詠唱する。
暗闇のボールがマリアナの前で消える。
マリアナが無駄だというように首を横に振った。
「プロイベーレ! レンテ! レディーレ!」
サファイアは時の魔法を連呼する。
三つの水色の魔法陣がマリアナの前で消滅していく。マリアナには効かなかった。
「あきらめろ、ハーディン、そいつが着ているのは、かつてお前が着ていた浄化の鎧だ。魔法が一切効かない」
ウォルフォードが諦めた顔をした。
ラピスラズリ色の服を着たタリルが青空から階段を降りるように近づいてくる。
「ウォルフォード、どうゆうつもりだ?」
「待ってくれ」
ウォルフォードが言って手を上げて跪く。
「暗黒の指輪はもう使うつもりはない。魔法のアイテムでいるつらさは、身をもって知った。俺はただ、ハーディンと一緒にいたいだけだ」
「私にはハーディンの記憶はもうないの。だけど、ウォルフォードと愛し合った記憶を見てしまった。私はウォルフォードを助けたかっただけなの」
「暗黒の指輪も、聖女の指輪も全部おまえに渡す。領主にも未練はない。どこかで静かに暮らすと約束する。だから見逃してくれ」
ウォルフォードは懇願した。
「私はもうリュアラ叔母さんたちに合わせる顔がありません。ウォルフォードについていきます。タリル、私を見逃して」
タリルはどうして良いか分からず後ろを向く。
マリアナがウォルフォードとサファイアから指輪を受け取った。
「どこにでも行け」と言う風にマリアナが首を林のほうに向ける。
タリルはまだ後ろを向いたままだ。
ウォルフォードとサファイアが手をつないで林のほうに逃げていく。
「タリル、いなくなるぞ。追うなら今しかない」
マリアナがタリルに小さな声で言う。
「みんなはセレアが聖女の指輪をつかってすぐ戻せるだろう。暗闇の指輪もこっちにある」
「サファイアの成長を見てきた。今、彼女を捕まえてもどうして良いか分からないんだ」
タリルはウォルフォードとサファイアを追いかけなかった。
商人ギルドに戻るとセレアが聖女の指輪でアリエルとレギーを元に戻す。
「他人を簡単に信じるな! ってね」
アリエルがハーディンに戦場で使った言葉で笑った。
「サファイアは小さいのに強すぎるよ。たぶん、リュアラもやられてるな」
レギーが役に立たなかったことを言い訳しながらタリルを見る。
「転移のカノンで今すぐ行こう」
タリル達はリュアラの家に転移した。
床に落ちている白い杖をアリエルが聖女の指輪で元の姿に戻す。
「サファイアをどうした?」
碧眼の魔女がタリルを見て怖い顔をした。
「ウォルフォードと逃げたよ。暗黒の指輪は置いて行った」
「いい魔女になれたのにねえ。惜しいよ」
碧眼の魔女が残念そうな顔をする。
「私はサファイアとウォルフォードを捕まえて魔法のアイテムに変えることができませんでした。これでよかったのでしょうか?」
タリルが碧眼の魔女に聞いた。
「済んだことをくよくよ考えるんじゃないよ」
「何回やり直したって、この世に正解なんかないよ」
碧眼の魔女が水晶玉の中を覗きこんだ。マップクオーツの中に未来が見える。
「セレア、前方に隠れている敵が見えるかい?」
「いいえ、若、敵がいたらこのセレアが先制攻撃してます」
遠くからバハムートが飛んでくるのが見える。少年とセレアが飛び乗る。下を見るとトロールが歩いている。セレアが緑の魔法陣を飛ばすとトロールが蒸発した
(セレアの依頼人はタリルの末裔だ。孫? それともひ孫かい?)
(ノディス家の若い跡取りは狼の耳をしているね。ああマリアナの血が入ったんだね。ああ、目は、サファイアとアメジストのオッドアイだ。)
(このオッドアイはサファイアの目)
碧眼のリュアラの目から涙がこぼれ落ちる。
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