暗黒の指輪が盗まれてオッドアイがそれを見つける
ウォルフォード伯爵だった暗黒の指輪が質屋の倉庫から盗まれます。
質屋ノディスの倉庫の中はひっそりと静かだ。埃臭い薄暗い通路を挟んで両側に棚がある。その中に武器や防具、杖や首飾り、そして指輪などのアイテムが所狭しと並んでいる。
倉庫の奥には小さな個室があって、高価な宝石の入った指輪が並んでいる。その奥にブラックスターサファイアの宝石の埋められた暗闇の指輪があった。黒い石の真ん中に十字型の光のような模様がある貴重な宝石だ。
この指輪はウォルフォード伯爵がアイテム化したもので誰も使っていないため、質屋の倉庫の中の宝石専用室に保管されている。
宝石の並んだ特別室の前に一人の盗賊の姿が見える。盗賊は扉の鍵を特殊な工具で開けると中に入っていく。端の方から宝石を袋に詰めて行と、暗闇の指輪の前で盗賊が立ち止まった。
「地味な指輪だなあ。売れなそうだし、いらねえな。でもまあ、入れとくか」
暗黒の指輪を盗賊は袋に入れて持ち去った。
無名の盗賊は暗闇の指輪の価値を知らずにこの指輪を二束三文で売ることになる。
盗賊は音が出ないように宝石の部屋のドアを閉める。倉庫の棚の間の通路を通っていく。くらい通路で背中が小さくなっていった。
暗闇の指輪はその後、町の闇市に売られた。他の指輪は見た目にも美しい宝石が入っていたので闇市でも高く売れたが、暗黒の指輪は見た目に地味だったので売れ残っていた。
また、不気味な雰囲気のため手に取るものもいない。市場の陳列棚でも目立たないので端の方に置かれていた。
「自分がなぜここにいるのか?」
暗黒の指輪は最初は何が起きているのかが分からなかった。次第に記憶が戻ってきた。
「そうだ俺は質屋と戦って負けた。光に包まれた後、魔法の指輪になったのか?」
「魔法の道具になるというのは退屈でつまらないものだ」
「俺に魔法のアイテムにされた者たちは、みんなこのような気持ちだったのか」
「これも自業自得か?」
「周りの指輪は売れていくのに、俺は不気味な見た目のせいか。見られもしないな」
暗黒の指輪が腐っていると爽やかな水色のドレスに水色の帽子、オレンジの髪に眼帯をした少女が自分を見ているのに気が付いた。
指輪を見て気になっている様子だ。
少女が指輪を買えるはずもないので、もっと大人の女性が自分のことを見てくれないものかと思った。
サファイアがこの町の闇市場に寄ったのはある村に呼ばれて雨を降らせた帰りだった。
「早く戻らないとリュアラ叔母さんが心配するわ」
市場を横切ると露天商の奥にある黒い宝石の入った指輪を見つける。黒い宝石の指輪は薄く奥に光るような模様があった。
サファイアは地味だけど気になる指輪だと思って立ち止まったが、お金もあまり持っていないので家路へ急いだ。
家に戻るとリュアラが食事の支度をして待っていた。
「サファイア。セントラルの町には慣れたかい」
「うん。でもあの町は行くたびに大きくなっていくのよ」
新しく出来た町はオクラスとロールトバール領とベルコンの間にあるのでセントラルと呼ばれていた。セントラルの町の人口はどんどん増え続けている。
タリルが予想した通りルシファナからキャットピープルが大勢移住してきたためだ。移住してきたのはキャットピープルだけではない。
ロールトバールは戦費の縮小だけでなく首都ルシファナの南の繁華街とスラム街を新しく作り変えた。
野良のキャットピープルだけでなく、闇市場は消えてショッピングモールになった。飲食店も美しくなって営業時間は夜の九時までになった。多くのお店は退去となるか、行き場を失った。そのため商売を営む者や飲食店を経営するものが大勢セントラルに移住してきたのだ。
野良ネコのバン達もセントラルに移住してきた。町が活気を帯びたのは移住者が増えただけでなく、農業が順調だったせいもある。
農業が順調だったのはサファイアが風の聖剣で雨を降らせたり晴れにしたり自由に気候を変えられたからだ。そのため作物は通常より早く大きく成長した。
また、風車を動かすために風を吹かせることもできるので、粉を挽いたり、水を大量にくみ上げたりする作業でも活躍していた。
「サファイア。君のおかげで作物は良く育って豊作だ。いつも感謝しているよ」
バンと部下の猫たちが嬉しそうな顔をしてサファイアにお礼を言った。
サファイアの眼帯がずれてアメジストの左目が見える。
「オッドアイ? それは猫族によくある特徴だね。俺達と一緒の種族かい?」
「そうだけど、オッドアイのことは叔母さんに言われて内緒にしているんです。人間の魔女として生活しなさいって」
「そうかい。悪いことを聞いちまったね」
バンは小さなころのオッドアイにサファイアの姿を重ねて懐かしい気持ちになった。成長したオッドアイはウォルゲートの戦いで死んだと聞いていたし、年齢も違いすぎる。
(ばかな。もう、オッドアイは死んじまったんだ)
サファイアは覚えが早かった。碧眼の魔女にさらわれてから、碧眼の魔女のもとで修行を積み、短い間で多くの魔法を習得していた。
ある日、サファイアはタリルから風の聖剣をプレゼントされた。天気を変えることのできる剣で、タリルも使い道が分からなかったがこの剣は多くの人を救っていた。
サファイアは雨が少なくて農作物の生育が悪いと嘆いている村に雨を降らせ、逆に天気が悪くて果物の生育が悪いと聞くと出かけて晴天にする。
風がなくて風車が回らず粉が引けないと言われれば、風車の場所に行っては風を吹かせた。その噂が伝わって、天気を変えてほしい場所に良く呼ばれた。
水色の爽やかなドレスを着た少女は眼帯はしていたが、明るい性格と美しい顔立ちで人に好かれていく。いつしか風の少女と呼ばれるようになった。
リュアラはサファイアと一緒に食事をし終わると、自分の部屋に籠って水晶玉の中を覗き見た。タリルから未来が見えるかもしれないと渡されたマップクオーツだった。
サファイアの体の周りに黒い影がまとわりついているのが気になったためだ。
(暗黒の指輪を嵌めたサファイアが黒い煙のボールを出して、赤いゴスロリの服を着た時の魔女アリエルを吸い込むのが見える。アリエルが魔法の杖に変えられてしまう)
(サファイアが時を操る聖女の指輪を拾うと、少女だったサファイアが大人の姿に変わっていく。ああ、なんてこと。サファイアがハーディンにもどっていく!)
「この指輪はウォルフォード。暗黒の指輪は質屋の倉庫にあるんじゃないのかい?」
碧眼の魔女は慌てて雲の絨毯に乗るとオクラスの町の商人ギルドのあるタリルの執務室に向かった。タリルの執務室にはいつもセレアとマリアナが一緒にいる。
魔女アリエルはタリルの部下ではないので隣の個室を与えられている。時の魔女は特別な待遇だった。
「やあ、リュアラ、こんなに遅い時間にどうしたんだい?」
「タリル。暗闇の指輪は保管してあるかい?」
「どうしてだい?」
「マップクオーツを覗いたらサファイアが暗闇の指輪を嵌めているのを見たのさ」
タリルは倉庫の宝石のある部屋に行くと暗闇の指輪がなかった。他の宝石もなかったので管理者に聞くと少し前に宝石泥棒にあったという。
「暗闇の指輪は盗難にあっていました。今はどこにあるか分かりません」
「やはりそうかい」
「それで、未来のサファイアはどうなりました」
「アリエルから聖女の指輪を奪うつもりだ。でも今はあの子は知らないんだ。村のために頑張るいい子だよ。なにもしてないあの子を責められない」
「どこかでサファイアは指輪を見つけるということですね」
「そうさね。どこにあるかわかったら良いのだけど」
「アリエルには話しますか?」
「聞いたらアリエルはどうするだろうか? サファイアを殺しにくるかね。でも、サファイアに何かしたら私が黙っちゃいないよ」
「セレアどう思う?」
タリルやマリアナは仕事で困ったことがあるとセレアに相談することが多い。
「リュアラが未来を見てしまったことはなにか意味があるのでしょう。おそらく未来は変えられないとは思いますが、アリエルには私から伝えておきましょう。」
リュアラが頷いて雲の絨毯に乗って帰っていく。
セレアが隣のアリエルの部屋を透視するとアリエルは家に帰ってしまってもういない。
「タリル。アリエルは今日はもういないから後で伝えることにするぞ」
「分かった。頼むよセレア」
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