5000人の軍を勇者のパーティーは5人でボコる
剣聖ハーディンの率いる5000人の軍とタリルの5人のパーティーの戦闘シーンになります。
「相手が領主だとか、立場がどうとか、多くの人が困るとか、そんなことよりも」
「私は質屋です。借りは返してもらわねばなりません」
タリルがジャンに言った。
「ハーディンは天下無双の剣士だ。魔法のアイテムも効かない。勝算はあるのか?」
ジャンがタリルに聞く。
「私は一人ではありません。私のパーティーは強いです。ハーディン一人どころかウォルフォードの軍隊にも負けません」
タリルが答えた。
「作戦があるのだな?」
タリルがそこまで言うにはなにか自信があるのだろうとジャンは思った。
「今回のデイバルト湖の遠征ではパーティーが多くの成長をしました。流れは私たちにあります」
成長していくチームが強くなる過程で勢いが止まらないことはよくある。
「負ける気がしない。私たちは仕上がっている」
タリルが自信があると胸を張る。
「そこまで言うならやってこい。後のことはこのジャンに任せろ」
ジャンが後押ししてくれた。
「ウォルフォード伯爵とハーディンにはきっちり借りを返してもらいます。私の父と母にしたことは許してなどいません」
タリルとマリアナ、セレアとレギー、アリエルの5人は商人ギルドの会議室にいた。
「ハーディンはウォルフォード城の城下町のウォルゲートに駐屯する軍隊を私たちにぶつけてくるでしょう。おそらく、5000人対5人の対決になります」
「パーティーを抜けるなら今です」
「私は出来ることならこのパーティーで戦いたいですが無理には引き止めません」
タリルはパーティーのメンバーを見た。
「ずっと一緒だ。タリル」
マリアナのアクアマリンの目がタリルの目をじっと見つめる。
「若の子供の代まで末永くお付き合いしたいです」
セレアが静かにお辞儀をするとグリーンの髪がさらさらと下に流れた。
「今、やらなければもうできない」
レギーがシーフオブノスタルジアのセリフを言って魔女アリエルを向いて微笑む。
「やってもやらなくても俺達は塵のようなものだ」
アリエルがレギーを見てシーフオブノスタルジアのセリフを返した。
「パーティーで戦った記憶はまるで夢のようです。人間も獣人もエルフも絶対に死なないとかはないです。でも、今回はパーティー全員で生還します」
タリルが全員を見ると作戦を伝えはじめる。
「まずバハムート、ヨルムンガンド、バジリスクと私でウォルゲートに先制攻撃を仕掛けます。ハーディンの軍が待ち構えていてもいなくてもやります」
戦場になるウォルゲートはウォルフォード城の南にある城下町で軍の駐屯所だった。ウォルゲートと首都ルシファナの間には荒涼としたスペースがあってそこが戦場になる。
「マリアナの分身を1000体前に押し出します。その後ろからマリアナの本体が突っ込んでいきます」
「その後ろにセレアが陣取って光の矢を敵陣に上から降らせてください」
「アリエルは後方からセレアと自分を蒸発の魔法陣で守りを固めて、レンテで相手を鈍らせます。アリエルは必要に応じて時の魔法を使い分けたり、蒸発魔法を発動してください」
「レギーは切り札です。ハーディンが出てくるまで生き残ってください」
「ハーディンにはグアンダス戦でつかった方法を使います」
「レギーは鎧のない首を締めてください」
「ハーディンの浄化の鎧は魔法が一切通用しません。氷の聖剣も光の矢も、爆炎の杖もグアンダスの指輪も牛魔王の手袋の力もおそらく一切通じないでしょう」
「バジリスク戦でアリエルは言いました。魔法をかけるのは、なにも敵だけに限らないと」
「ハーディンに効果はなくても、私たちには効果があります。アリエルは時の魔法で私たちの時間を進めてください。相手が俊敏なキャットピープルでも10倍速なら物理攻撃もヒットするでしょう」
「私とマリアナで攻撃して注意をそらしたら、後ろからレギーが羽交い絞めにしてチェックメイトです。殺せなくても大丈夫です」
「レギーがハーディンを捕まえたらセレアは浄化の鎧をハーディンから剥ぎ取ってください」
「アリエルは浄化の鎧を着ていないハーディンの時間を5歳に戻してください。ハーディンにはもう一度人生をやり直してもらいます」
「失敗しそうになったら、バハムート、ヨルムンガンド、バジリスクに乗って逃げましょう」
タリルから作戦を聞いたパーティーは転移のカノンで首都ルシファナに着くとウォルフォード城のある北門へ向かう。
首都ルシファナの北門とウォルゲートの間にが荒涼としたスペースがある。
この荒地は過去にいくつもの戦場になったが、ウォルゲートの精鋭に阻まれてウォルフォード城まで進軍したものはいない。
ウォルゲートの鉄の城壁が堅固なのではなく、兵士の壁なのだ。
城郭都市、首都ルシファナの北門からタリル達が出てくる。荒野に砂まじりの風が吹いて、タリルのラピスラズリ色のマントがバタバタとなびいた。
アリエルが妖精の杖でバハムート、ヨルムンガンド、バジリスクを巨大にする。
タリルがマーリスの剣で鉄の城壁ウォルゲートを指した。
「行くぞ! 俺達は強い!」
タリルが大声で叫ぶとバハムートがぶわりと空に舞い上がる。
「おああああああああああああ」
叫びながらラピスラズリ色のタリルが走って空に駆け上がって行く。
それと同時に地上をヨルムンガンドとバジリスクが並んで勢いよく前進して行く。
ハーディン軍はタリル達を待ち構えていた。その数は5000を超えている。タリルの予想通り5000対5の戦いになった。
ハーディンが右手を前に出すとサイの頭をした盾を持った獣人が前に出てその後ろに槍を持ったリザードマンが前進して来る。
さらに弓を持ったエルフが後方に構え、ダークエルフの部隊が魔法使いとして構えていた。
盾の間から大勢のドワーフと犬系の獣人と猫系の獣人の戦士がなだれ込むように飛び出してくる。
バハムートが口から炎を吐いて盾の部隊を焼いた。灰色に曇った空をラピスラズリの服を着た少年が駆けてくる。
右手にマーリスの剣、左手に爆雷の杖をもった二刀流だ。
「誰です? あの二刀流の少年は?」
獣人の兵士がハーディンに聞いた。
「質屋のタリルだ」
表情を変えずにハーディンが言う。
右目がサファイア左目がアメジストの目にバハムートの炎が映りこんでゆらゆらと揺れた。
二刀流の少年の杖からダークエルフとエルフの部隊めがけて雷を帯びた弾丸が放たれる。着弾するとダークエルフとエルフの部隊のエリアが丸焦げになる。すさまじい破壊力だった。
ダークエルフの魔法部隊がタリルに攻撃魔法をぶつけるが、タリルの周りで黒い霧の帯が高速回転してボール状になり、全てはじき返される。
エルフの部隊も弓矢でタリルに集中攻撃したが、黒い霧の帯のボールに包まれたタリルがはじき返す。
「球状防御か? どこを狙っても魔法も矢も効かない!」
ダークエルフの魔法使いが叫んだ。
魔法をはじき返しながら攻めてくる二刀流のタリルに攻撃されて、100人はいた後方支援の魔法部隊が一瞬で消滅していく。
さらに500人の弓部隊もバハムートの炎とタリルの爆雷の杖の攻撃であっと言う間に消滅した。
バハムートが旋回すると地上に炎を吐いて焼いた。ラピスラズリ色のマントのタリルが空を駆け降りながら地上めがけて杖で爆撃する。
盾をもったサイの兵士がバハムートを見上げると巨大なヨルムンガンドの白蛇の尾が横から直撃して吹っ飛んだ。
鶏の頭と足のある赤い巨大な翼竜が駆けまわって兵士に毒液を浴びせている。
「うわあああ」
負傷した戦士の叫び声が聞こえる。戦場は地獄絵図のようになっていった。
700人のサイの獣人の盾の部隊の壁があっさりと崩壊して、700人のリザードンの槍の部隊は上からのバハムートの爆撃と横からのバジリスクの毒液でパニックに陥った。
そこにヨルムンガンドの硬い尾で吹き飛ばされて壊滅状態になった。
勇敢なドワーフと犬の獣人、猫の獣人の部隊が前方の千体の氷の狼の剣士アリアナと戦闘になった。
上からカーブを描いてエルフのセレアの光の矢が狙い撃ちしてくる。光の矢がドワーフと犬の獣人、猫の獣人の体を貫通して数が減り始める。
奮戦しているドワーフに氷の聖剣が振り下ろされると、氷の人柱になる。それを容赦なく狼の獣人の女の左手のヒドラのかぎ爪が砕いた。
ハーディンの指揮する軍は残る3000人の兵士で力押しするが、あっという間に2000人、1000人と減っていく。
「援護のエルフと魔法使いがいるぞ! ぶっ潰せ!」
足の速い犬の獣人100人が後方支援のアーチャーのセレアに到達した。アーチャーを仕留めようと勢いよく走りこんでくる犬の獣人部隊。
エルフの周りに描かれた赤い魔法陣に入った瞬間に100人の犬の獣人が蒸発して消滅した。
「犬の部隊が溶けたぞ。 まずいにゃ。罠だ。引き返せ!」
そのあとを追ってきた100人の猫の獣人がそれを見て反転して逃げようとする。
弓を持ったエルフの後方で赤と黒のゴスロリ黒縁メガネの魔女が立っている。ハートの形のガーネットの宝石の付いた赤い情熱の杖を嬉しそうに振るのが見えた。
猫の獣人の足元は泥沼になった。体半分が埋まって身動きが取れない。猫の獣人たちが嫌な気配を感じてゆっくり後ろを振り向く。
赤と黒のゴスロリ黒縁メガネの魔女が不気味な笑いを浮かべて言った。
「下らねえ野郎は地面に這いつくばって寝てな」
魔女アリエルが左手を前に突き出す。
真っ赤な魔法陣の輪が赤と黒のゴスロリ黒縁メガネの魔女の方からぶっ飛んできて猫の獣人の部隊が蒸発した。
それにひるまず勇敢なドワーフの集団が魔女のほうに向かって走って押し寄せる。
赤と黒のゴスロリ黒縁メガネの魔女が情熱の杖を振るとドワーフの足元も泥沼になった。
それでもドワーフはもがきながらも前進してくる。
「よくがんばった。これが褒美だ」
アリエルが左手のこぶしを前に突きだした。
魔女の方から赤い魔法陣の輪が水平に飛んできてドワーフの部隊が蒸発して全滅する。
氷の狼と乱戦になっていた残りの500人もセレアの放ったの光の矢でどんどん数を減らしていった。
乱戦している場所めがけて、空のほうからラピスラズリ色のマントを着た少年が駆け降りてくる。右手に剣、左手に杖を持っている。
「剣と杖の二刀流か!」
ヒョウの獣人が驚いて言った。
上空から炎の弾丸で狙い撃ちされてヒョウの獣人が吹っ飛ぶ。氷になった虎の獣人も空気砲で砕かれた。
ヨルムンガンドに獣人たちがまとめて締め付けられていく。息ができず苦しかった。もがいてヨルムンガンドを剣で刺そうとするが白くて硬いうろこに歯が立たない。
「なんてことだ。全滅だ」
後ずさりする猫の獣人の頭を後ろからバジリスクの鶏の口がとらえて上空に消えた。
ウォルゲートの方からゴーレムが10体出てくる。バハムートが上空から炎を浴びせるがあまり効果がない。
後方にいたアリエルとセレアが赤い魔法陣の上に乗りながら前に押し出してくる。
「プロイベーレ!」
アリエルが両手を挙げて停止の魔法を詠唱するとゴーレムがぴたりと停止した。
それを見て氷の狼たちが囲んで、すべてのゴーレムを凍らせた。
「子供たちのエサになりな」
ゴスロリ姿の魔女アリエルがいうと、赤いバジリスクが走ってきてゴーレムをつつくくと岩のような体が砕け散った。
横ではヨルムンガンドの白蛇がゴーレムを締め付けて砕いていた。
空中に駆けあがったラピスラズリ色の少年がゴーレムの頭に乗ると至近距離で空気砲を連弾してゴーレムを砕く。
ゴーレムの後方で砂嵐が舞う。その後ろからオレンジの髪で銀の鎧を着た剣聖ハーディンが向かって来るのが見えた。タリルは地上に降りると剣を構えた。
「10年間、剣で負けたことはない。質屋がどうやって私の相手になれるかな」
ハーディンの右目のサファイア色が怪しく光り、左目のアメジスト色がタリルを睨み続けている。
「私の剣術は勇者マーリスそのものだ。その辺のヘタレ剣士と一緒にするなよ」
タリルが言うとアリエルの方から赤い時計の魔法陣の輪が飛んできてタリルの体に入っていく。
「おあああああああああ」
叫ぶタリルが高速でハーディンに踏み込んでマーリスの剣を振る。間一髪でハーディンが避けるがタリルの剣が早い。振った刀をタリルが返す刀でさらに切り込む。
ハーディンが前蹴りをしたが、タリルが素早くかわす。ハーディンは剣を振った後に左フックを出したがタリルがパンチをかわした。
ハーディンは剣術と打撃の武術の混合を得意としており、どこから刀や手や足の攻撃が来るか分からない。
多くの剣士は読めずにあっという間に負けてしまう。
タリルは勇者マーリスの剣術がベースだが、圧倒的なスピードの優位ですべてかわすことが出来た。
それでも、ハーディンの蹴りの一つが読めずにタリルをとらえて後ろに飛ばした。
ハーディンがタリルを追い打ちするのをセレアが矢を連射して鎧に当てて後退させる。セレアの背中には赤い時計の輪が回転していた。
それを見て横からマリアナがハーディンに走っていく。銀色の髪の毛からウルフの耳が見えた。
「マートゥーレ!」
セレアの後ろにいたアリエルが両手を高く上にあげて詠唱するとマリアナめがけて赤い時計の輪を飛ばした。
マリアナの背中に赤い時計の魔法陣の輪が入っていく。走っていく狼の獣人のスピードがアップしていく。
「この間のウルフか。また死にたいか」
ハーディンが迎えうつ。ハーディンがマリアナの剣を腕の鎧で防御すると、マリアナの裏拳が飛んでくるのをかわして前蹴りをした。
マリアナはにやりと笑うと前蹴りをかわして、ハーデンに膝蹴りを当てる。
鎧の上からでも響く衝撃にハーディンがくの字になった。
「早くて見えないか? 猫ちゃん」
マリアナが言ってさらに肘を入れようとするのを、後ろに飛んでハーディンがかわす。
すぐにハーディンが走りこんでマリアナを剣で突く。マリアナが今度は後ろに飛んで剣をかわす。
「猫に出来て、狼に出来ないことなんかないよ」
マリアナが剣とヒドラの爪を交互に繰り出すと、速すぎる攻撃にハーディンが防戦一方になった。
「スピードでは負けない」
ハーディンが高速で剣を繰り出して踏ん張るがマリアナを押し返せない。
じわじわと後ろに下がるハーディンの背後の空から、革の手袋が出現してハーディンを羽交い絞めにした。
「チェックメイトだ」
後ろから知っている低い声がした。
「うっ。苦しい」
びっくりして後ろを振り返ると空中から腕が出ている。
振りほどこうとして暴れると空中から羽交い絞めしていた者の姿がハーディンに見えた。
「ウォルフォード!」
驚いてハーディンが脱力する。
「なぜ? なぜなの? ウォルフォード」
脱力するハーディンは鎧をエルフのセレアに脱がされて、軍服姿で仰向けになった。
サファイアとアメジストのオッドアイが呆然と空を見上げる。
「ハーディンから離れろ」
アリエルがとレギーに言うと、ウォルフォード伯爵がハーディンから離れた。
仰向けになったハーディンが、呆然自失しながらウォルフォードを目で追う。
ウォルフォード伯爵の姿が薄くなるとレギーが現れてにやりと笑う。ウォルフォード伯爵はレアアイテムの虹の鏡でレギーが変装したものだった。
「だましたな!」
ハーディンは慌てて起き上がる。
「他人を簡単に信じるな!」
アリエルは両手を高く上げる。
「レディーレ!」
時の魔女が詠唱するとハーディンの足の周りに赤い時計の輪が浮かび上がり、高速に逆回転を始める。ハーディンの周りの時間が逆転する。
どんどんハーディンは小さくなっていく。
赤い魔法陣の回転が止まって消えると、だぼだぼの軍服を着たスラム街にいた頃のオッドアイの少女がそこに立っていた。
「タリル、戦いの時はその優しさはいらないって言ったじゃないか。この子は私がもらって魔女に育てるよ」
空から雲の絨毯に乗った碧眼の魔女リュアラが現れて、オッドアイの女の子を抱えて絨毯に載せる。
「良い目をしてるね」
リュアラが少女に笑顔で言った。
碧眼の魔女の目を口をポカンとあけた少女が見つめた。
「そうさね。今日からおまえはサファイアと名乗りな。アメジストの左目はしばらくの間、眼帯で隠すんだね」
サファイアに自分と同じ黒い眼帯をつけた。
「師匠! 僕、時の魔女になりました」
師匠のリュアラを見つけたアリエルがうれしそうな顔をした。
「碧眼の魔女を倒すのは時の魔女だって街の噂さね」
リュアラが冗談を言ったが、顔は笑っていなかった。
「タリル、サファイアが成長したら雇っておくれよ。じゃあまたどこかで合うさね」
碧眼の魔女が少女をさらって空に飛んで消えた。
「みんなバハムートに乗って」
アリエルが言うと、パーティーを載せて上空に舞い上がる。ヨルムンガンドと赤いバジリスクは小さくなってアリエルの両肩に乗った。
「レディーレ!」
アリエルがバハムートに乗りながら、先ほどまで戦場だった地面に向けて巨大な赤い時計の輪を飛ばす。
地面に当たると赤い時計の魔法陣が逆回転すると死んだ兵士たちが起き上がってくる。
「なんだ、わし、若くなっとるぞ。力がみなぎるわい」
ドワーフの戦士が言った。起き上がった戦士は若くなっていた。子供になってしまった者までいた。
「少しもどしすぎた」
アリエルが言うとレギーが地上に向かって忘却の杖を振る。兵士達はさきほどまで戦っていたことをすべて忘れた。
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