表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/27

父と母は豚野郎のロワール卿に騙された

父と母が騙されて魔法アイテムに変えられたことをロワール卿に自白させます。

 10年前にタリルノディスの父ノーザンノディスとリナノディスはロワールの部屋にいた。


「いつもお世話になっております」


 交渉人のノーザンがロワールに挨拶した。


「掛けたまえ」


 ロワールが着席するよう勧める。腹が丸く突き出て顎が二重になっている。


 ノーザンとリナは月に一度一緒の仕事がある。それが首都へのお金の輸送だった。通常は会計のリナだけで納金して終わるのだが、交渉人のノーザンが同行するのはロワールに挨拶した時に戦費や都市整備のための寄付を依頼されるからだった。

  

「早速本題だが、ウォルフォード領は今、ケヴィスンの砦の建設などで戦費がかさんでいる。商人ギルドのダノリクムに臨時の寄付を文書で依頼する予定である」


「分かりました。喜んでお引き受けいたします」


 ロワールに言われるままノーザンは快く引き受けるが、交渉はここから始まる。


「ロワール様、お願いなのですが、ケヴィスンの砦での武器や食料、生活用品などの行商の許可をお願いします」


 莫大な戦費の寄付を出来る団体は他にはざらにない。ロワールとしては許可することで、自分にとって最も難題な資金調達ができるのでまったく問題のない提案だ。


「よかろう」


 ノーザンに言わされた感じがしてロワールは気分が悪かった。


「それから、今日の夜にウォルフォード城に呼ばれているので一緒に来てほしい」


 ロワールがノーザンに言う。


「ウォルフォード伯爵に面会までさせていただけるとは、ありがとうございます」


 ノーザンとリナがウォルフォード城につくとロワールからウォルフォード伯爵の執務室へ案内される。


 ノーザンが中に入るとリナは入り口でロワールに引き留められた。


「入るのは一人だけだ」


 ロワールが低い声で言う。


 ノーザンが部屋に入ると金の短髪に青白い顔のウォルフォード伯爵がいた。


「お初にお目にかかります。ダノリクムのノーザンノディスと申します」


 ノーザンが挨拶する。


「君かね、自ら魔法のアイテムになりたいと申し出ているのは」


 ウォルフォード伯爵が言った。


「いえ、ロワール様からはそのようなことは聞いておりません。少々お待ちを。ロワール様に確認してまいります」


 後ろを向いてノーザンが部屋の外に出ようとする。


「知られたからには、外には出せない」


 ウォルフォード伯爵の声が後ろで聞こえた。


「ロワールにはめられた」


 ノーザンが気が付いた時には背中の後ろにできた黒い穴に吸い込まれていく。吸い込まれる寸前に革の袋から怯えきった妖精のチャピが外に飛び出た。


 チャピは窓の外に逃げる時にウォルフォード伯爵と目があう。床には先ほどまでノーザンだった懐中時計の形をした炎の羅針盤が落ちていた。


 次にリナがウォルフォード伯爵の部屋に呼ばれた。ロワールも一緒に中に入る。リナが部屋に入るとノーザンの姿がない。


「お初にお目にかかります。ダノリクムのリナノディスと申します。あの、夫のノーザンはどこに?」


 ウォルフォード伯爵は手にぶら下げた懐中時計の形をした炎の羅針盤を見せた。


「ノーザンなの?」


 炎の羅針盤の中の炎が大きくなって答えた。リナはその場で手で顔を覆って泣いた。ウォルフォード伯爵は炎の羅針盤をポケットの中に入れた。


「一人で残されるのはさみしいだろう。夫婦でアイテムになれ」


 ウォルフォード伯爵が黒い穴を作ってリナを吸い込むと螺旋の宝箱に変わる。それを知るものはウォルフォード伯爵とロワール以外に誰もいない。外にいる護衛も知らなかった。


 タリルの用事は財務庁長官であるロワール卿に顔をつなぎに行くことだった。


 そのロワール卿のご子息と対戦するとマリアナが相談を持ちかけた時、代理で助太刀とはいえタリルも少し迷った。


 チャトラの敵討ちをしたところまでは良かったが、野良のキャットピープルに肩入れして、大事な商人ギルドのダノリクムの仕事に支障が出ないだろうかと不安だったのだ。


「お父さん、この果し合いは受けて良いのでしょうか?」


 タリルは炎の羅針盤に問いかける。炎は大きくなって果し合いを受けろと答えていた。


「私とマリアナで出場しますが、大丈夫ですか?」


 タリルが聞くと炎が小さくなる。


「マリアナは出場しないほうが良いですか?」


 炎の羅針盤のガラスの中の炎は小さくなる。


「私ではダメなんですね。ではマリアナとセレアのペアで良いでしょうか?」


 炎は小さいままだった。


「マリアナとアリエルのペアはいかがでしょうか?」


 その時、炎が大きくなった。


「なるほど、アリエルを参加させるのにアイテムで釣りましょう」


 炎は一段と大きくなって揺らめいた。


「私とセレアでロワールのところに会いに行きますが、二人で大丈夫ですか?」


 炎の羅針盤に聞くと炎は大きく揺らめいた。


 タリルとセレアはホテルの前の船着き場から水上タクシーに乗り込んだ。ダフラック川をを小さなボートが進む。タリルの光沢のあるラピスラズリ色のジャケットが青空の下でより鮮やかに見える。


 薄いグリーンのドレスにエメラルド色の目をした、セレアのグリーンの髪が風になびく。髪を掻き上げるセレアの細い首と端正なエルフの顔にタリルは見とれていた。


 戦っていないときのエルフは美しい。エルフの寿命は長い。若く見えるが言葉使いからすると、ずいぶん前の時代から生きているのだろうとタリルは思った。


「若、わしの顔になにかついておるのか?」


「いや、なにも。セレアが綺麗だったのでつい見とれていた。エルフは美しい種族だね」


「若、なんでも口に出して言うものではない。そういうのを人前で言うと人間関係に支障が出る。千年早いぞ。わしは末長くノディス家にいたいからな。わしをそのような対象で見るなよ」


 セレアがエメラルドの目でじっと見つめてくる。恋愛の対象で見るなと言われてタリルは赤面してしまった。


 財務庁の建物の前に船が付くとゲートの鋼鉄の柵が上がって船が建物の中に入っていく。建物の中に船着き場があった。


「商人ギルド、ダノリクムのタリルだ」


 門番に名前を伝えると内部に通された。


「やっと追いつきましたぜ、旦那、オクラスに戻ったら旦那が出ちまった後でして。でも間に合った。危ないところでしたぜ」


 船を降りて廊下の角を曲がると空中からすっとレギーが現れる。


「10年前タリルのお父さんのノーザンとリナがロワールのところに来て、その日の夜にウォルフォード城に連れていかれている。城からは帰ってきていない。お父さんもお母さんもその時に魔法のアイテムに変えられた可能性が高い。ロワールが絡んでいるのは間違いないですぜ」


「お父さんはロワールにウォルフォード城に連れていかれて魔法のアイテムに変えられましたか?」


 炎の羅針盤が大きな炎になった。


「お母さんが魔法のアイテムに変えられるのは見ましたか?」


 炎の羅針盤が小さな炎になった。


「ロワールは母さんがどのアイテムになったか知っていますか?」


 炎の羅針盤が大きな炎になってロワールが知っていると示す。


「あっしは姿を消して護衛しますんで、旦那はお母さんがどうなったかロワールに聞きだしてください。いろいろあっても忘却の杖で記憶を消しますから大丈夫です」


「それと旦那、ロワールの腹の中は真っ黒ですよ。あいつは賄賂をせびる癖がある。あいつにお金を渡すことで軍隊や建設への莫大な寄付を逃れられるんですから、だからみんなお金を渡す。ルシファナにいる会社も貴族もロワールを恐れている」


「冒険者ギルドも、商人ギルドも、魔術師ギルドも盗賊ギルドも例外じゃない。ロワールにお金を払わなかった組織や貴族は、莫大な戦費の寄付を依頼されるという仕組みですぜ」


「街は野良で溢れているっていうのに、ロワールはたんまり私財を貯めこんであがる」


 レギーがうんざりした顔をした。

 

 財務長官のロワールの部屋は三階の奥にあった。部屋に入る前にセレアがロワールが護身用の小さな魔剣を服の中に忍ばせていることを教えてくれた。


 ロワールはなにかに怯えているようだとセレアは言った。


 タリルが中に入ると応接の椅子に通された。セレアは部屋のドアの外で待つ。


「商人ギルド、ダノリクムのタリルです。お初にお目にかかります」


 タリルがロワールに挨拶をする。


「ロワールだ。掛けたまえ」


 ロワールに言われてタリルは椅子に腰かけた。


「ジャンノディスが叔父だとすると、ノーザンノディスの息子ということかね」


 ロワールが聞いてきた。


「そうです。父とはお会いになったことがあるのですか?」


 タリルが聞くとロワールは少し青ざめた顔になった。


「ああ、君のお父さんはダノリクムの外商だったので、ルシファナにはよく足を運んでいたよ。ここにも来たことがある」


 ロワールがぎこちなく言った。


「母ともお会いになったことがありますね。どんな魔法のアイテムに変えられたのか教えてください」


 タリルがロワールに聞くとロワールの態度が急に変わった。


「貴様、それをなぜ知っている。仕返しに来たのか!」


 懐の小さな魔剣を取り出して振りかぶろうとした瞬間に、ロワールは後ろから手をつかまれた。空中から飛び出した革の手袋に首を締め付けられる。


「くっ苦しい。何でも言うから、首を放してくれ」


 ロワールは後ろにいる何者かに魔剣を取り上げられた。タリルは女神の冠を頭にのせた。


「母がどんな魔法のアイテムに変えられたのか教えてください」


 タリルが質問をするとロワールは従順になり、白状し始めた。


「君のお母さんは螺旋の宝箱に変えられたよ。オクラスの西にあるデイバルト湖の下に神殿があって。その台座の上に祭られている。入り口は湖の中央の島にあるが神殿までの洞窟にバジリスクがいる。今は神殿に近づけない」


 今のパーティーで行けば近づけるかもしれないとタリルは思った。


「魔法のアイテムを元に戻す方法はありますか?」


「魔法のアイテムに変えられたものは元には戻らない。ウォルフォード伯爵を殺しても魔法は解けない。時間でも戻せない限りむりだな」


 にやにやしながらロワールが答えた。笑うと腹の肉が揺れる。


「ウォルフォード伯爵の弱点はありますか?」


「ウォルフォード伯爵の弱点か。魔法攻撃は全部ブラックホールに吸い込まれる。ウォルフォード伯爵は物理攻撃での戦いはしない。物理攻撃で襲い掛かろうにもハーディンやミアレイがいつも護衛にいるから、近づけるやつはいない。弱点は女かな。女好きは直らないね」


 ロワールがあきれた顔をする。


「ハーディンの弱点はありますか?」


「ハーディンの弱点だって? そんなものはないよ。浄化の鎧で魔法が効かない上に物理攻撃で剣聖に勝てる奴はいない。おまけにあの剣は不滅の剣だ。どんなに硬いものでも貫くだろう。ハーディンの唯一の弱点はウォルフォード伯爵だな。なにがあったか知らないがウォルフォード伯爵に逆らったことはない」


 そう言うととロワールはタリルに言った。ニコニコして機嫌が良さそうだった。


「それと、ハーディンはルシファナのスラム街出身だ。ハーディンのオッドアイは猫族、キャットピープルによくある突然変異だ。ハーディンの俊敏性は人間のものではないな。水浴びするハーディンの裸を一度だけ覗いたことがあるんだ。おしりに丸い猫の尾があったんだ。見た目は人間に見えるがハーディンはキャットピープルだよ」


 ロワールが思い出していやらしい顔をする。


「ウォルフォード城に簡単に近づく方法はありますか?」


「ウォルフォード城には簡単に近づくことができない。ハーディンとミアレイの部隊がいつも護衛している。時々若い女が城に連れて来られるが、魔法のアイテムにされたのかな? 出てきたものはいない。俺が口封じのために連れてきた女もたくさんいたけどな」


 ロワールが笑うと顎の下の肉が揺れた。


「それと城には地下があって、ウォルフォード伯爵の弟、ロールトバールが幽閉されている。ロールトバールは元の総務庁長官だ」


「ロールトバールは南の繁華街とスラム街を一掃してゴミの無い街に再開発しようとした。それをウォルフォード伯爵が止めたことで意見が対立したのさ」


「ロールトバールは潔癖症だ。俺はウォルフォード伯爵のほうが金が儲かるし、組みやすいから助ける気はないがね」


 ロワールが首をすくめた。


「あんた、ほんとに豚野郎だね」


 タリルはレギーに合図を送った。レギーは忘却の杖を振る。


「ロワール様、これは良い情報なのですが、今日の闘技場の果し合いでツーオンツーがあります。きっとロワール様の雇ったチームが楽勝でしょうね。相手は16歳の女の獣人と体の細い無名の魔法使いです。貯め込んだ金をつぎ込んだら儲かりますよ」


「だれだっけ君は?」


 ロワールがタリルに聞く。


「商人ギルドのものですよ。これで私は失礼します」


「そうですか?」


 ロワールが首を傾げた。


 タリルとセレアと姿の見えないレギーは水上タクシーに乗って財務庁の建物を出たところで船着き場におろしてもらった。


「転移のカノンでスラム街へ行こう。そこでレギーはバンに変身してくれ。野良のキャットピープルのために闘技場で戦うやつらがとてつもなく強いから、全財産を賭けろと言いふらしてくれないか?」


「そういえば旦那、マリアナがいないですね」


「闘技場でツーオンツーで戦うのはマリアナとリュアラの弟子の魔女アリエルですよ」


 タリルがレギーに教えた。


 スラム街で野良のキャットピープルに宣伝を終えるとタリルとセレアとレギーは闘技場に向かった。5試合目に入っており、場内の興奮は高まっていた。


「セレア、マリアナとアリエルのチームに賭けても良いのですよ」


 タリルがセレアの財産は増やせるよと笑った。


「若、すまんな、マリアナとアリエルのチームが勝つ券を買って来る」


 エルフのセレアは嬉しそうにしながら売り場に向かった。二人の強さは知っている。


「あっしもちょっと行ってきます」


 堅実なセレアが賭けると聞いてレギーも真似してあとを追った。


 セレアもレギーもお金は使わないが、増やすのは好きだ。


 5試合目が終わってツーオンツーの入場が始まる。満員の客席の中にタリル達も混ざった。場内の興奮は最高潮に達していた。


「アリエル、種族、ヒューマン、二つ名は赤の魔女、主なアイテムは情熱の杖!」


 魔女アリエルがネームコールされる。


 ハートにカットされたガーネットの宝石の付いた赤い杖をもった、黒と赤の細いゴスロリの魔女が、闘技場に入って来ると観客に愛想を振りまいた。


 キャットピ―プルだけが応援していた。


「なんだか弱そうだぞ」


 細身のゴスロリの魔女を見てとレギーが不安そうな顔をした。


励みになりますので是非応援よろしくお願いいたします。


続きが知りたい、今後どうなるか気になる!と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ