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ダークエルフはなぜ町を蒸発させたのか?

ダークエルフのグアンダスが町を蒸発させたのには理由がありました。

 グアンダスはベルコン共和国の王からウォルフォード領にあるケヴィスンの砦を奪還せよと命令を受けていた。


 ケヴィスンの砦はオクラスの南方にある。ベルコン共和国とウォルフォード領の国境になる。


 もともとウォルフォード領はオクラスの南のダフラック川までであり、その南の森はベルコン共和国領だった。それを現在のウォルフォード伯爵になってから南下してケヴィスンの砦を築いた。


 ベルコン共和国の王は慌てた。すぐに取り返さないと今の位置で実行支配されてしまうと考えた。


 現在のウォルフォードの将軍は剣聖と呼ばれるハーディンで、剣を取らせれば無双であり、軍を率いても無敵だった。


 ケヴィスンの砦を攻めると必ずハーディンが出てくるのは分かっていた。取り返すどころか逆に領土を広げられる恐れもあった。


 実際ウォルフォードはそれを狙っており、因縁をつけてさらに南下するつもりだった。


 今、ウォルフォードと衝突すれば多くの兵を失って、共和国の議会でも責任を追求されるだろう。そこでベルコン王はダークエルフの軍に目をつけた。


 ベルコン共和国は多くの国が集まって成り立つ共和国だ。その中にダークエルフの国、ディラードがあった。


 国といっても900人程度で300人程度の村が3つある小さな国だった。ダークエルフはエルフの中でも能力が高くハイエルフであったが、肌の色が灰色で暗い色だったことで嫌われ、エルフと違って差別を受けていた。


 ダークエルフは理由もなく多くの国から嫌われていた。その国の兵なら失っても誰も文句は言わないだろうとベルコン王は考えた。


 しかも、ダークエルフの軍は100人程度の軍でも、10倍の兵力の軍を圧倒する強さを誇っている。その軍の軍団長がグアンダスだった。


 ベルコン王がケヴィスンの砦の奪還をグアンダスに依頼する。


「誰がやっても無理だ」


 グアンダスはすぐに断った。剣聖ハーディンは浄化の鎧を着ており、ダークエルフの魔法が一切効かない上に、物理攻撃でも無双だった。


 相性が悪すぎる相手のため、勝ち目はゼロに等しいと説明した。


「ならば、ハーディンと直接対決しなくてよいから、ウォルフォードの町を一つ襲ってくれないか」


 ベルコン王が言った。


「これ以上にウォルフォードが南下すれば民間人に危害が加わるぞと脅したいから」


 その瞬間に、戦いの歴史が変わった。


 それまでの戦いは戦士のいる軍と軍同士のぶつかり合いで領土を奪い合うものだった。町や村のない、民間人のいないところで正面衝突するのがルールだった。


「村や町を襲うのはモンスターのすることだ」


 グアンダスは難色を示す。


「お前ひとりでヨークメインを町ごと蒸発させよ」


 ベルコン王は蒸発の魔術を使うダークエルフの軍団長のグアンダスに言った。

 ヨークメインはオクラスの南に位置する歴史のある美しい町だった。


「ヨークメインがなくなれば、ウォルフォード伯爵は二度とベルコンに手を出せないだろう。やらなければこっちがやられる」


 グアンダスはベルコン王は正気ではないと思った。


「出来ないなら、ダークエルフの国の民の身分をさらに一番下の階級にするぞ」


 ベルコン王はダークエルフを脅した。


 グアンダスはディラードに戻ると三人の村長を集めて相談した。


「そんなことをするくらいなら、100年でも200年でも下の階級にいた方がましだ」


「やらなければ我々の子孫が苦痛を受ける。これ以上の差別は耐えられない」


 三人の村長の意見は割れた。


「グアンダス一人が狂った風を装い、単独行動でミッションを行え」


 会議で密談された結論はグアンダス一人に責任を負わせるというものだった。


「ヨークメインを消滅させた後は、ハーディンと一騎打ちして果てろ」


 さらにグアンダスは口封じのため一騎打ちして自分で死ねと密命されていた。


 翌日、グアンダスはベルコン王に謁見する。


「ヨークメインを破壊したのちにハーディンと一騎打ちする」


「ダークエルフの地位を下げないように約束しよう」


 グアンダスが伝えるとベルコン王はダークエルフの国の地位を下げないと約束した。


 その日のうちにダークエルフの軍団長を解任されたグアンダスはベルコン共和国から一人で出ていく。


(自分が我慢すればダークエルフの国が守られるのだろうか?)


 グアンダスはヨークメインを見下ろす丘に立つと詠唱した。


「カリエンテス!」


 町全体ががブルーの魔法陣に飲みこまれて大地がズドンと揺れた。


 ヨークメインの町が蒸発するのが見えた。グアンダスはその光景を見て涙を流した。


「なんてことだ。私は今なにをした」


「ミッションを実行しただけ。仕事だった」


 グアンダスはそう言って泣いた。



「グアンダスだ。私がヨークメインを消滅させた。ハーディンを出せ」


 グアンダスはそのまま町の東にあるケヴィスンの砦にいくと城壁の前で叫んだ。


「ヨークメインを消滅させただと?」


 門番が慌ててハーディンを呼びに行く。ケヴィスンの砦に詰めていたハーディンのところには同時にヨークメインが何者かに消滅させられたと連絡が入っていた。


 ハーディンが一人で城門から出てグアンダスと対峙する。


「たった一人でやったというのか?」


 オレンジの髪に銀色の浄化の鎧を着用したハーディンが表情を変えずに聞いた。


「だったら、なにか問題でも?」


 グアンダスは気がおかしくなった風に笑顔で茶かした。


「だったら、この私がお前を捕まえなければならない」


「ははん。そんなことを言う前に兵士を城の後ろに避難させたらどうだ?」


 グアンダスが言うのを聞いたハーディンがすぐ城の方を向いて隠れろと手で合図した。兵士たちは城の後ろに移動していく。


 ハーディンがゆっくりグアンダスに向かって前進すると、グアンダスが蒸発の魔法陣を作った。グアンダスの周囲20mには古代文字の描かれた円形のブルーの魔法陣が出現した。


 ハーディンが魔法陣の範囲に入るとジュウジュウと足の下で湯気が立ったが全く無傷だった。


「カリエンテス!」


 10mまで近づいてくるハーディンにグアンダスが蒸発魔法をぶつけた。空中を移動するブルーの円形の魔法陣はハーディンに当たると、さらに背後にあった城壁にぶつかって城壁が半壊した。


 衝撃で大地がドスンと揺れた。


 浄化の鎧はすべての魔力を吸収してその攻撃の効果はゼロになる。ハーディンは無傷だった。ハーディンは城壁を振り返ると、グアンダスに向き直して進んだ。


 飾りのついた長槍のようなロッドでグアンダスがハーディンに襲い掛かる。最初の一撃はロッドの長さを生かしてハーディンの顔面を狙って突いた。


 すっと横に避けた瞬間ハーデンが踏み込んできて、グアンダスの腹に膝げりした。そのまま四つん這いになるグアンダスの背中をハーディンが上から剣で貫こうとした。


 その時、グアンダスの目から涙が落ちて地面を濡らすのが見えた。


「わざと負けたか?」


 手ごたえがない。ハーディンは殺さずに剣を首の横の地面に突き刺した。


 ハーディンのサファイア色とアメジスト色のオッドアイが「なにか理由があるだろう」と感じてグアンダスの背中を見つめた。


「死ぬつもりだったか? 理由は知らないが、ウォルフォード伯爵の前で全部吐いてもらうぞ」


 ハーディンがグアンダスを見下ろす。


 ウォルフォード城でグアンダスが暗闇伯爵に謁見した。暗闇伯爵は大の女好きで知られる。


 グアンダスの張りのある体を見て青白い顔が緩んだ。グアンダスのダークエルフの灰色の肌を見ても、気味悪がるどころか自分の愛人にしようといやらしい目で物色したのだ。


 グアンダスは「こいつの愛人になるふりをして、蒸発魔法で溶かしてやろう」と考えた。伯爵にはいつもハーディンかもしくはミアレイという護衛がついていた。


 ウォルフォード伯爵は一人で行動することはない。寝室にもどちらかが同行した。グアンダスにチャンスはないと思われたが、ある日の夜にグアンダスに千載一遇のチャンスが来た。暗闇伯爵の寝室に来るようにと呼ばれたのだ。


 暗闇伯爵はグアンダスと一緒に寝室に入ると扉の前でハーディンに下がれと命令した。ハーディンは寝室の中に入らずに扉の外にいた。


 今、ハーディンは中にいない。寝室の中を見渡したがアマゾネスのミアレイもいない。


 暗闇伯爵がベッドに腰を掛けると「横に座れ」と言った。グアンダスはまだチャンスではないと思った。


「なぜ町ごと蒸発させた?」


 暗闇伯爵は落ち着いた声で聞いた。グアンダスはどうせこの後に暗闇伯爵を殺すのだと思って、ダークエルフが差別を受けていることを話した。


「私達ダークエルフは脅されて、私達の子供が差別を受けないような方を選んだ」


 ダークエルフの会議で自分が命令されて町を消滅させたことも、暗闇伯爵の前ですべて話してしまった。グアンダスは自白しながら泣いた。


「私が町を消滅させました。でも、命令されて仕事だったから仕方なかった。私の何がいけなかったでしょうか?」


 泣きながらウォルフォード伯爵に聞いた。


「町を消滅させたことだ」


 ウォルフォード伯爵に言われてグアンダスはすっきりしていた。


 今がチャンスだと思って、自分よりも小さなウォルフォード伯爵をグアンダスはベッドに押し倒すと馬乗りになった。見下ろして目を見つめると蒸発の魔法陣を作る。


 ブルーの円の中に二人が入る。暗闇伯爵が蒸発して溶けるはずだった。ブルーの円陣の中で蒸発しない暗闇伯爵の回りにブラックホールのような暗い輪が見えた。


「蒸発魔法が吸収されている?」


 グアンダスの魔法は効かなかった。


「だれもお前を許しはしない」


暗闇伯爵はが言うとグアンダスは暗闇伯爵の上に突っ伏してさらに泣いた。


「だれも私を許してはくれない」


 グアンダスが暗闇伯爵の胸に額をつけて言った。暗闇の中にブルーのリングが吸い込まれて消えた。二人の影が暗闇に包まれた。


 グアンダスがウォルフォード伯爵の配下に入って間もなく、ライラス湖畔の別荘に同行した。早朝に湖で水浴びをしていた。


 湖に吹く風と朝日が気持ちよかった。今まで味わったことのない幸福感だった。


 一緒に来たアマゾネスのミアレイが異変を感じた。丘に向かって歩くと服を着て戦闘態勢に入った。

 少年とエルフと狼の獣人と魔法使いの4人のパーティーにミアレイが一人で挑んだ。


「俺の獲物だから手を出すな」


 ミアレイが言ったので加勢しなかった。ミアレイは強かったが剣と杖の二刀流の少年に倒された。


 そのあとにグアンダスが4人のパーティーと戦った。戦い初めてしばらく消耗戦が続いた。

 別荘からハーディンが出て来るのが見えた。狼の獣人の女がハーディンに向かって行った。

 相手が3人になって、勝ったと思った瞬間、小さな妖精が上空をおびえながら飛び上がるのが見えた。


 妖精に気を取られた瞬間に少年の魔法が防御する魔法の盾に激突してその圧力で魔法陣の外に両足がはみ出た。


 その時、後ろから何者かに首を締め付けられた。グアンダスは抵抗できたが、締め付ける手を自分でほどこうとはしなかった。


 首を締め付けている男の息づかいを感じる。


(泣いているのか?)


「お父さん。お母さん。ララ」


 男が言った。


(ヨークメインの町の遺族か)


「私を許してください」


 全身の力を抜いたあとグアンダスは絶命した。


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