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阿呆達の旅路と司書  作者: 野山橘/ヤマノ
3/17

3.亜人と只人

胸糞描写あり、ご注意ください。

 夜が明け、朝になり、昼も過ぎて夕刻になった。


 ようやく旅を再開した緑色の幌馬車。

 例によってカズヤが御者台に座り、亜人のシエルラとお尋ね者のブドウは荷台の中で身を隠している。


 だだっ広い平原を抜けて山間部へと立ち入った馬車は、ちょうど今からグランドーラント王国を抜け出そうとしているところだ。


 だが、国を出るということは国境を越えるということ。国どうしの境には当然のことながら関門があるわけで。



「そこの馬車、止まりなさい。」



 赤地に金刺繍の外套に、円筒形で鍔の小さい帽子、黒いタイトスカートに包まれた腰には黒ベルト、そしてそこから吊るされたブロードソード。模範的なグランドーランド王国立憲兵団の制服に身を包んだ女憲兵が、馬車を引くフォースマの前に立ちふさがった。


 グランドーラント王国の国境は、山道を途中で横切る形で通っている。そして、山道と国境の交差点を挟むように、有事の際には砦としても利用される関門が建てられている。

 国境の向こう側の山沿いは目的地である港町の一部なので、この関門さえ切り抜けられれば後部座席2名が怯える必要もなくなるのだ。



「はいはい。通行許可証と身分証です。こないだは冒険者証で通してもらえたんですけど、大丈夫ですかね?」



 冒険者という職業柄、カズヤは国境通過に必要とされる証明証の類を揃えていた。冒険者協会は国際組織であるため、冒険者協会の存在する国であれば、これらの証明証類はどの国でも入国の手助けになることだろう。



「拝見します…、あら?」



 黒手袋を着けてカズヤの提示した証書類を受け取った女憲兵は、裏返したり陽光に透かしたりしてこれらが贋作でないことをチェックした。彼女は何度か顔写真とカズヤの顔を見比べているうち、あることに気付いたらしい。



「あの…、カズヤ先輩ですよね?」


「バレたかー。」



 実はこの女憲兵、冒険者上がりであり、冒険者時代にはカズヤと同じく王都第7支部を活動拠点としていたのである。冒険者になったのはカズヤよりも後、言い換えるならば後輩にあたる。


 ちなみに、この国の憲兵団が優秀な冒険者を引き抜くことは少なくない。免許更新の際の対人戦闘訓練である程度の結果を残しており、かつ犯罪歴のない模範的な冒険者などはしばしば憲兵として召し上げられるのだ。

 彼女もそんな出世街道を歩んできた者であり、冒険者になって1年ほどで先輩であるカズヤを追い抜いて銀級資格を取得した優秀な人材であった。



「なんですか、『バレたかー』って!? 当り前じゃないですか! 新人時代は本当にお世話になりました。今の私があるのは、先輩のお陰です! 今回は海外遠征の依頼を受けたんですか?」



 国内外を問わず、花級冒険者資格者の存在は希少である。そのため、近隣諸国から各国宛に花級資格者の要請が届いたり、それらの依頼で良い成績を修めることでリピーターが付く可能性もあるのだ。

 カズヤはその中でも特に貴重な金属級・花級両資格者で、なおかつ仕事が丁寧なこともあり、国外にも何口かのお得意様がいるのだ。

 今回もそれに関する出国だと思っているらしい女憲兵に対し、カズヤは手を横に振って見せた。



「いや、それがね。拠点を変えちゃおうと思ってさ。あと、君の出世に関しては君の努力の賜物だと思うなぁ。」


「ええええええっ!? 先輩、引っ越しちゃうんですか!?」



 仰天する女憲兵。


 冒険者が拠点都市を変更することは珍しくもないが、それでも人は知人の急な引越しに驚くものである。それが人の出入りを見張る憲兵であろうとも。特に、カズヤの拠点変更に関しては外見上何の前触れもなかったためにそれがひとしおとなったのだろう。



「待っててください、皆を呼んできますから!」


「別にそういうのいいんだけど、………行っちゃったよ。」



 有無を言わさず砦の中へと引っ込んでしまった女憲兵。そのせいで彼らの見張りはいなくなってしまった。業務の放棄である。田舎の小国である所以だろうか。


 今の隙に関門を通過してしまえばいいのではないだろうか。とはいえ残念ながら、門は砦内から操作しないと開かない金属製の重たい扉で厳重に封鎖されているのだ。



「カズヤくん、今の()は一体…。」


「今はまだ喋らないでくださいってば、まったく…。」



 荷台から小声で話しかけてきたシエルラをノールックで叱責し、カズヤは肩を竦めながら御者台に戻った。


 実を言うと、このルートを通る際に検問所で知人に出会うことは想定内であった。というのも、山中のこの砦付近には日中でもしばしば魔物の出現があるため、魔物の対処術に優れた冒険者出身の憲兵が配属されがちなのである。


 冒険者出身の憲兵で、しかも王都第7支部付近の訓練所を利用している者の多くはカズヤの顔見知りである。その中には先ほどの女憲兵や彼女がこれから呼んでくる仲間たちのように、カズヤが冒険者時代に指導やアドバイスを加えた者たちもいる。


 以上の理由から、この関門を通じて国外に出るというのは、カズヤにとって都合が良い展開となりうる可能性が高いと踏んだのであった。


 とはいえ、先ほどの彼女の言から察するに、本日はカズヤの後輩憲兵が複数名集っているようである。それはさすがにイレギュラーなことだった。果たして、これがどう転ぶことだろうか。



「カズヤ先輩! みんなを連れてきました!!」



 と、カズヤがそんなことを考えつつ待機していたら、先ほどの憲兵が3名の仲間を引き連れて戻ってきた。そのうち2人は男性で1人は女性だ。



「おー、カズヤさんだ。先月に飯屋であった時振りですかね? あん時はどうもごちそうさまでした。今度は俺が奢ろうかと思ってたんだけど…。」


「先輩! 国を離れるって本当ですか?! 俺、まだご恩が返せてないですよ!!」


「え、依頼か何かだと思ったら、そうじゃなくて引越しだったんですか? 道理でこんなにでっかい荷物…。」



 わいわいと一気に喧しくなる関門前。砦の窓から、いったい何事だろうか、と彼らの上司がちらりと覗いた。



「皆、元気そうで何よりだよ。うん、グランドーラントの植生はだいぶん分かったし、そろそろ花級冒険者として知見を広げようと思ってさ。しばらくフィールドワークの旅に出ようかと。飽きたら戻って来るけどね。」



 ガヤガヤと賑やかな彼らに微笑しながら答えたカズヤは、ひらりと御者台から飛び降りるて1人1人と握手を交わした。


 ちなみに、彼の言葉の最後の一行は勿論のこと嘘である。旅に出るというのだけは事実だが、我が身は指名手配犯と亜人の国外追放を手助けしようとしているところ。果たして彼がこの国に戻ってくることなどあるのだろうか。



「旅ですか、いいですね。どちら方面に?」



 一番初めの女憲兵が馬車に繋がれたフォースマの首を撫でながら言った。青毛の魔獣は迷惑そうに彼女の顔を見ると、鼻をぶるぶると鳴らした。



「うーん、船の運行状況次第かなぁ。端的に言って、まだ決めてないよ。」


「い、行き当たりばったりですね…?」



 実際の所、カズヤもシエルラも自分たちがどこへ向かえばいいのかを知らない。旅の元凶であるブドウですらも、自身の探し物の行方が分かっていないらしい。



「なるほど。ひとまず風の赴くままということですね、判りました。」



 女憲兵はカズヤに相槌を返しつつ、バインダーに閉じられた用紙に何かを記入した。これはただ日常会話を行っているだけでなくて、門の通過のための審査も兼ねているのだ。


 ある程度記載を進めた彼女は、バインダーを胸に抱えると、重たそうに口を開いた。



「…あの、カズヤ先輩。非常に申し上げにくいんですけど……、それにあたって荷物検査させていただいてもいいでしょうか? 先輩が妙なことをなさる方ではないと分かってはいるのですが、どうしても義務なもので…。」


「お、荷物検査があるんだ。この前は無かったんだけどなぁ。まあ、最近は物騒だもんねぇ。君たちも大変でしょ。」


「全くです。」



 憲兵に同情して見せたカズヤではあったが、内心では何度も舌打ちをしている。


 重大事件を引き起こした挙句、逃亡している誰かさん(ブドウ)のせいで関門の防備が厳しくなっているのだ。誰かさんが彼女自身の首を絞めることとなったわけで、ざまあ見ろと思わなくもなかったが、それと同時に自分が巻き込まれることも確定的である。全力で後ろ2人の存在を隠し通さねばならないわけだ。


 幸いというべきか、ここで言う荷物検査はそれほど厳しいものではないだろう。馬車の中をアピール程度に見せて、やましいことはないと理解させられれば問題ないという程度のものだ。

 ブドウには大きな木箱に身を隠してもらえばいい。体長が長すぎて隠れられる所のないシエルラに関する言い訳も既に考え付いているし、本人とも打ち合わせ済みだ。


 後は、憲兵たちが鼻を妙に効かせすぎないことを祈るばかりである。



「旅に出るにあたって、第7支部で運送依頼をいくつか引き受けてきたんだ。旅行ついでにそれをこなしておこうかと思ってね。数が多くて恐縮だけど、荷下ろしは手伝うよ。」


「ああ、お構いなく! 外から見させて頂ければ問題ありませんので。代わりに、幌を開けて頂けますか?」



 狙い通り、憲兵たちは荷物を1つ1つ確認していくつもりがないらしい。カズヤに対して信頼感を抱いている者が揃っていたことに加え、終業時刻ギリギリを狙ったことが功を奏したようだ。


 第一関門を突破したところで、カズヤは顔の高さぐらいに右手を挙げて憲兵たちの注目を集めた。



「あ、そうだ。一番初めに紹介しておかないといけないのが居るんだった。()()()()()()()()。」


「…()()()()()()。」



 カズヤの妙な呼びかけに対し、妙な返事を返したシエルラ。

 幌を潜って静かに這い出てきた彼女はどう見ても亜人であり、通常はこの国に居てはならない存在だ。憲兵たちは一斉に武器を構えた。


 …という展開にはならず。



「お、カズヤ先輩も隅に置けませんね。()()()()()()()()()()()()。」


「ヒュウ。」



 にやにやしながら男衆たちは真顔のカズヤの脇腹を肘でつついた。新しくやって来た方の女憲兵も、無言で口に両手を当てている。



「あ、亜人奴隷ですか。ちょっと意外ですね、カズヤ先輩が亜人奴隷を買うなんて…。それに、なんというか、すんごい…。」



 何故かショックを受けた様子の女憲兵は、そう言って自身の外套を見下ろした後、シエルラの胸部を凝視した。丘と巨峰である。


 シエルラは、先日までの小奇麗なブラウスとスカート姿から一転し、小汚く汚したボロ布のようなローブを纏っていた。美しい顔と指の長い両手はランタンから集めた煤と油汚れに塗れ、長い尻尾には金属の重りが繋がった無骨な枷が嵌められている。彼女の恰好を例えるならば、まさに()()と言ったところか。



「えーと、旅の道中で炊事とか掃除とかを手伝ってもらうつもりでさ。竜亜人は頑丈だって聞いたし、温度変化とか環境の変化にも強いだろうから、長旅にはちょうどいいでしょ? だから連れてこうと思うんだけど…。」



 カズヤはそう言うと、シエルラの顔をちらりと見た。沈鬱そうに目を伏せている彼女は、軽くウィンクをして問題ないことを伝えてきた。


 さて。ここで、彼らがこれから脱出しようとしているグランドーラント王国の背景について説明しよう。


 何時ぞや述べた通り、亜人排斥国家であるグランドーラント王国は、隣国である亜人至上主義国家のトエルリー共和国と冷戦状態にあり、亜人の出入りを禁止している。

 直接戦争があった時代の緊張感が薄れてきた今でも、相変わらず純人間とエルフばかりが通りを歩いており、亜人に対する嫌悪感は薄れていない。


 だが実は、そんなグランドーラント王国の中にも亜人たちは住んでいるのである。


 遡ること35年前に勃発した、今のところ両国が最後に直接的な対決を行った武力衝突“フリズベルグヒルの紛争”。初めは不利だったグランドーラント王国が友国の援軍を得たことで逆転勝利を収めた戦いである。


 明確に勝敗が付いたとはいえ、両国の被害は共に大きかった。トエルリー共和国ではそれぞれ軍人だけで死者3000名、行方不明者800名が出たというのが政府機関の公表である。対するグランドーラント王国側もそれより少し数字が小さい程度でほぼ同じだ。


 さて、トエルリー共和国の行方不明者800名のうち、何百人かは遺体が発見されなかっただけで既に死亡しているだろう。今でも戦場跡地では長い尾てい骨が見つかるほどだ。逆に、国へ逃げ帰ることが出来たものの、故郷へと戻れていない者もいるはずである。


 そして、ここまで述べてきた者たちの総数は、行方不明者のうちの約半数程度に過ぎないと断言できる。


 なぜそう言い切れるか。それこそが、シエルラが憲兵たちの前に堂々と姿を現すことが出来た理由である。


 戦争の展開を変えたグランドーラントの友好国には、王国軍が戦地で捕らえた共和国軍人の約400名を捕虜として国に連れ帰ったという記録が残っている。これは、捕虜の一般兵に混ざっている権力者たちを共和国との交渉材料として利用するためだ。

 だが、亜人と純人間の間には価値観の決定的な違いがある。そのため、どの者がトエルリーにとって有効な人質たりえるかは分からず、この計画は早々に頓挫したのだ。


 とはいえ、捕虜たちを大人しく解放してやるというのも戦勝国としてのプライドに傷が付く。かといって、捕虜をただ養うのにも金は要る。賠償金を敗戦国の捕虜に還元するのは癪であるし、国民の血税を憎き亜人たちに使えば反感を買うことになるだろう。伝統ある王家のポケットマネーを使うのも言語道断だ。


 そこで、当時のグランドーラント王国政府は、身分を問わずに捕虜たちを全て奴隷とし、市場で捌くことにしたのだ。400名の捕虜軍人たちは中央市場の一角に新設された奴隷市場で売買され、物好きな金持ち貴族や労働力を求める商人などに買われていった。


 さて、そんな購入者たちの中に、奴隷たちを番で買っていった者たちがいた。彼らの目的は亜人たちを交配させて数を増やし、奴隷商を開業することだった。

 奴隷商たちの商売は現在も続いており、奴隷を扱う市場の数も増えた。結果として、奴隷の価格は多少裕福であれば庶民でも手が届く程度にまで落ちたのだ。


 話が長くなったが、憲兵たちが荷馬車から現れた竜の亜人のことを捕縛しなかったのは、この奴隷制度が根底にあったためである。そして、シエルラ本人もそれに乗じて奴隷のフリをしたためである。



「そういうことでしたら、その亜人奴隷の通過も認可いたします。」


「どうも。対応が早くて助かるよ。」



 憲兵が4人も集まっておいてこうもあっさりと騙されたというのはどうかとも思うが、そこは平和ボケした小国の国境。狭い世間の中、尊敬している先輩がまさか堂々と正面切って密出国の手助けを行うとは考えられなかったのだ。


 この調子で馬車の検分も雑かつスムーズに終わり、ブドウの隠れた木箱に対して疑問を呈されるようなこともなかった。先ほどからチラチラしていた憲兵たちの上司が砦から出てきたので何事かと思ったが、彼はただ単にカズヤへと挨拶しに来ただけであった。


 最後に今後の予定などの簡単な質問をいくつか受け、あっさりと審査は終わったのだった。



「…では、カズヤ先輩。名残惜しいですが、審査は合格です。なので、今の状態のまま出国していただいてかまいません。」



 寂しそうな顔で憲兵団式の敬礼をした女憲兵。それに続いて彼女の同僚たちもカズヤに敬礼を送った。



「皆、遅い時間までありがとね。僕のせいで終業時刻を過ぎちゃったみたいだ。」



 わざとらしく時計を見ながらそう言ったカズヤ。実際には終業時刻から1分程度しか過ぎていない。ばっちりと計画通りである。



「あ…。そういえば、カズヤ先輩。最後に聞いておきたいことがあるんですけど……。」


「ん-、何かな?」



 遠慮がちに口を開いた女憲兵に対し、カズヤは何か感づかれてしまったのかと少し背筋を寒くしながら応対した。



「えっと、個人的な質問なんです。その、リーサ先輩がいらっしゃらないようですけど、()()()()()…?」


「あー…。」



 危惧していた類の質問は来なかったが、これはこれで面倒臭い質問が来たので、カズヤは思わず脱力した。


 リーサとは、冒険者協会王都第7支部の受付嬢、すなわち依頼受付係の女性である。彼女もまた元冒険者であり、カズヤの同期に当たる。受付窓口でも常に枕を相手に気だるげにしていた怠け者だが、美人で愛嬌があるために人気者であった。



「別れてきた。」


「…!! つまり、今フリーってことですか?!」



 そして、カズヤの元恋人でもあった。




 ▽ ▽ ▽




「カズヤくんはおモテになるんですねぇ。さっきの子、ちゃんと断らなかったら付いてきそうな勢いでしたもの。」


外面(そとづら)の良い人間を目指してるのでね。」


「うふふ、そんなこと言って。元カノさんのこともすごく大事にしてたじゃないですか。」


「外面の良い人間を目指してるのでね。」



 執拗に絡んでくるシエルラを面倒くさそうに振り払っているカズヤは、昨晩狩猟したレッドレッグの腿肉をステーキサイズに切り分けている。そして、ブドウはそんな2人の様子を幌馬車の中から呆れた顔で眺めている。


 無事に関門をパスし、フォースマたちをもうひと頑張りさせた彼ら一行。馬車が山道を抜けたのは、1つ目の月が昇りつつある頃だった。


 全速力で荷馬車を飛ばせば港町で宿を取れる時間ではあった。だが、こんなところで旅の相棒たちの足を潰すわけにはいかない。経済的な意味でも。

 ともかく、そういうわけで、本日は関門からしばらく行ったところにある平らな土地で休息を取ることとなったのである。


 平地と呼ぶには周囲の起伏が激しいこの場所。元は畑であったらしく、水はけの悪さがアカブチゼニゴケの絨毯という形で顕在化していた。



「………。」


「おっと、何か言いたげですね、ブドウさん。もしかして、殺した瞬間を見た獲物の肉は食べられないタイプの人ですか?」



 あれだけ殺しといて、という台詞を最後に付け加えなかったのはカズヤの成長だろう。結果的に表情へ漏れていたのでナイフを突きつけられることとなったわけだが。



「………食事の事は関係ありません。……ただ、私も先ほどの憲兵たちと同様、あなた方の関係性を主従のものだと思っていたもので。」


「え、本当ですか? ブドウちゃんって、なんというか…。ピュアですね?」



 苦笑交じりにそう言ったシエルラは、つまみ食いをしようとした手をカズヤに叩かれて悲鳴を上げた。野生獣肉の生食は寄生虫の危険性が高いため、お勧めできない。



「……ではどうやって、シエルラ…さん、はあの国に滞在していらしたのですか?」


「呼びやすいように呼んでくれればいいですよー。呼び捨てでも、あだ名でも。カズヤくんも、ね?」



 そう言って、スジ肉の掃除に苦戦しているカズヤに下手くそな流し目を送ったシエルラ。彼女は相手にされていないことに気付くと、気まずそうに咳払いをした。


 そして、照れ隠しのように自身のことについて語り始めた。


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