#1僕は勇者じゃない。
モニターを見つめながらオンラインゲームをしている僕は勇者ではない。
というか、このゲーム内で戦っているキャラクターも勇者ではない。
ゲームは嫌いじゃない。というか、好きな部類だと思う。
でも大好きかというとそうでもない。
初めてクリアしたゲームはなんたらクエストとか、なんとかファンタジーだった気がする。
まわりがやっているから?親が買ってくれたから?理由はもう覚えていない。
が、それなりに没頭して世界を救おうと時間を費やした。
にしてもだ。このゲームはいちいち面白くない。
クエストを選択したら基本的にはあとは放置。オート機能でサクサクと敵を倒してくれる。
なんども言うが、僕は勇者ではない。
そしてこれは、僕の冒険でもない。
僕はお金をもらってこのゲームのレベル上げを手伝っているのだ。
人生のほとんどを仕事に追いやられ、とにかくお疲れの人はたくさんいる。
単なるレベル上げをする時間すらない。
異世界での物語だけ楽しめたらそれでいい。そんな人間もいる。
その点、僕は違う。
毎日家に引きこもってゲームをしている。
いや、別にかつてからこうだったわけじゃない。まあその話は置いといて。
来る日も来る日も家にじっとしているなかで、なんて生産性もないもんだ。
なんて、ネットを見ていたら「代わりの冒険者募集!」という書き込みを見つけた。
自分の代わりにオンラインゲームのキャラクターのレベルを上げて欲しい。
というもので、成果に応じてお金を支払ってくれるそうだ。
依頼者の名前は「ルピナス」と書いてあった。
僕は「ルピナス」にメールを送った。
あれから1ヶ月。
僕は毎日、ルピナスからの依頼にあるキャラクターを指示通りに育てていた。
1日の終わりには成果を記載したメールを送付。
ルピナスからは翌日、成果に見合っただけのお金が振り込まれる仕組み。
金額でいえばそれほど大した額ではないのだけれど、
「お世話になっております」
「ありがとうございます」
「明日もよろしくお願いします」
ありきたりだけど、そんなルピナスからのメールが妙に嬉しかった。
そういえば、ルピナスは女性なのだろうか?
そもそも、ルピナスってどういう意味だろうか。
と、色白ですらっとした白い髪の少女を思い浮かべたが、
いやいや、ここは目の前のゲーム画面じゃあるまいし、と自分をいなした。
そして、それはそんなある日のことだった。
今までのルピナスからではありえない内容の依頼のメールが届いた。
「私の代わりに魔王を倒してくれませんか?」