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2,出会い


いつしか天使を追う兵士たちは居なくなっていた。

森の中をただただあてもなくさ迷う。


神殿から離れなければ。遠くに、遠くに逃げなければ。


頭にそれしか浮かばない。

だんだんと足取りがおぼつかなくなる。さすがに疲れたのだ。

どうっと倒れこむ。そしてそのまま意識が失くなるようにすとんと眠りについてしまった。



白銀の髪を美しく伸ばした人が暖炉の前の安楽椅子に揺ったりと腰かけている。


…………いや、人ではない。


ゆっくりとこちらを振り向く。どこか自分に似ているその顔は、自分とは違って壮絶に美しくかつ、近寄りがたい雰囲気をしていた。

似ているのは無理もない。なにせ、自分を創ったのはその安楽椅子に座っている、最高神アストリウスに他ならないからだ。


アストリウスは目もとを緩ませて、懐かしそうに微笑んだ。


ぐっと喉の奥から熱い塊が込み上げてくる。とっさに跪ずいて挨拶をしようとするが、金縛りのようにピクリとも動かない。

驚いて自分の体を見れば、そこには何もなかった。

あまりの事に焦って狼狽えていると、アストリウスは大丈夫だと優しくうなずいた。

閃くように今自分の体がここには無いことが分かった。どうやら精神だけでアストリウスの元に来ているらしい。


アストリウスがふと指でくいっと上に曲げる動作をした。


すると、胸元を捕まれたような感覚がして、そのままアストリウスの前までスッと滑り出した。


ぴたっと止まった自分にアストリウスが哀れむような顔をした。

そして、いたわるように手を取られると急速に体が重くなり、頭もぼんやりとし始める。


嫌だ、まだここにいたい。


そう思うが、それでもどんどんと意識があやふやになって行く。

そんな状態で頭の中に懐かしい優しい声が響いた。


『愛しい我が子よ。お前の運命は決して優しいものではないだろう。だが、絶望するな。お前を助ける者は必ずいる。まずは目覚めなさい。目覚めた時にそばにいる人間と共にいなさい。きっとお前の助けとなるだろう』


どんどんどんどん深い暗い沼に沈みこむように意識が溶けてゆっくりと周りと溶け込んで行く。


まだ自分は神から見放されていないという安心感に包まれるが、まだまだ尋ねたい事がたくさんあった。


私が人間に捕まったとき、どうして助けてくれなかったのですか?

翼をもがれたとき、どうして止めてくださらなかったのですか?

また、会えますか?

そして、ナターシャを助けてくれますか…?


悲しそうな表情をする神が見えた気がした。



バチバチと焚き火の音がして、意識が急上昇する。

はっと覚醒して飛び起きると、火の側で何か焼いていた人がびくっとしてこちらを振り向いた。


「あ、起きたのか」


そこには一人の青年がいた。黒い髪に黒い瞳。着ている防具まで真っ黒なものだから夜の今では、火の側でないと多分、そこにいることすら分からないぐらい全体的に黒い。


「あんた、あの有名な天使様だろ?」


唐突に正体を言われ、体に緊張が走る。敵か味方か。


「うお!そう警戒すんなよ。俺、別に神殿に通報したりしないし。てか、俺の神様からあんたを助けるように言われてんだよね」


そういえば、アストリウスにも目が覚めたときに側にいる人が助けとなる、と言っていた。


ならば、味方なのか?


「…神様って、アストリウス様のことですか?」

「いやいや、違うって!俺の神様は放浪と旅の風の神様!時々話しかけてくるんだよね。今回もこの森に天使様がいて困ってるから助けてやれって言われて来たんだよ」


がしがしと木の枝で焚き火を突っつきながら話す。


「それにしても、驚いたわ。なんせ、どうやって近づこうって考えてたら、目の前に転がってたもんだからどうしようかと思ったさ。てか、天使様って名前無いの?これからずっと天使様って呼ぶのは多分駄目だし。あ、てか、まだ俺の名前言ってなかったな!俺はギル!傭兵をしてるんだ!よろしくな!」


物凄い速さでどんどん話していくギルにちょっと戸惑う。こんなに一気にたくさん話す人間とあまり会ったことがないからだ。


「名前…名前は無いと思います。ずっと天使と呼ばれていたので」


考えてみたら、名前などなかった。天使と呼ばれれば、それは自分の事だから、問題はなかったのだ。

もちろん、最高神アストリウスに使えていたときに神からいただいた名前は無くもないのだが、天使ではない今、使うのはためらわれた。


「天使様って名前ないのか~じゃあ、俺がつけてやる!」


うんうん唸りながら何か呟いている。耳を澄ませてみるとチャッピーやらグッチャーやら怪しげな事を呟いていた。

このままだと、名前が大変なことになると慌てて止める。


「適当でいいんですよ!凝った名前じゃなくていいんです!」

「え~じゃあ、簡単にリーって名前にしよう。簡単だろ?一文字だし!」


リー。

その名前はどこかかつて天使だった自分の名前と似ていた。その事に、幸せを感じる。


「ええ、私もその名前がいいと思います」


そう言えば、ギルは嬉しそうにニカッと笑った。

そして笑って、突然こう言った。


「てか、リーって男なんだな!」

「はぁ?」

「てっきり女だと思ってた。めっちゃ美人だし。声も高めだし。まあ、喉仏から男だってようやく分かったしな~!」


へらへら笑うギルに、リーは呆れてため息をつく。


「私を創ったアストリウス様は男神なので、それに似せて創られたので私も男になるんですよ」

「へ~じゃああんた、アストリウス様って神に似てるのか!」


素直に驚くギルに少し笑って見せる。


「似てますよ。ただ、アストリウス様の方が何倍も何百倍も、いえ、比べられないほど美しいですが」


そうリーがうっとりと言うと、ギルがドン引いた。


「わ、分かったよ。てか、その丁寧な話し方止めてくれない?なんか背中がむずむずしてくるんだよね、その話し方。俺の方が何百歳も年下だし」

「そうなんですか?では、頑張って止めてみます…いや、止めてみるよ」

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