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午後の紅茶にくちづけを  作者: ちょこみんと
ダージリン・セカンドフラッシュ
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うだるような暑さの午後、体育の授業をグラウンドですることを強いられるなんてなんの拷問なんだろうかと思いながら始まる前から陰鬱になるのもつかの間、グラウンド中に響き渡るほどのホイッスルが鳴らされると陰鬱な気持ちでグダグダ歩いていた足が自然と教師の前に並ぶ。

こんなに広いグラウンドでどうしてこんなに密集して並ばないといけないのかと不満に思うとせっかく翠璃から貰った日焼け止めを塗った腕に汗が滲みため息さえ漏れそうになった。

しばらく突っ立っている間に声の無駄に大きい男性体育教師の話が終わり準備体操のために生徒たちは散らばる。

こんなに暑いのに2列に並んだ2人1組でやれという教師にいささかの不満を覚えるが皆が言われた通りにしだすので従わざるを得ず隣の少女と準備体操を始める。


「ごめん、私、汗臭いかも…」

「大丈夫。この暑さだものね」

「ねー。はぁあ、サボれば良かったぁ」


そう気だるげに言いながらも屈伸運動を始めるゆるふわパーマでツーサイドアップの少女は智瑛莉と同じクラスで仲良くしてくれている榎土(えのきど)ひかりで、こんなに暑いのにも関わらず日焼けしたくないからとピンク色の薄いUVカットパーカーを羽織っていた。

そうしていることもあってか真美子ほどでは無いが肌は白く綺麗で自分の焼けた肌と見比べるとそれがよくわかった。


「今日…何かな…?」

「私は球技好きじゃないけど…陸上競技はもっと嫌」

「ふふ、私も」


たわいもない会話をしながらそれぞれの準備体操が終わると背中合わせで腕を組む。

半袖の体育着から出てる智瑛莉の腕に絡んだひかりのパーカーは肌触りが良かった。


「じゃあ、私からするね」

「うん。あ、重いかも…」

「ひかりが?そんなわけないでしょ」


背中合わせのひかりを持ち上げるように智瑛莉は前かがみになるが、少し前かがみになるだけでひかりの足は地から離れて浮き上がる。

それなのに重いとか言い出すひかりを不思議に思った。


「んー…はぁ…このくらいの運動量が私にはちょうどいいのになぁ…」

「えー?それはいくらなんでも動かな過ぎだよ」

「智瑛莉は元気だなぁ。その元気分けて欲しいくらい」

「もう、同い歳なのに年寄りみたいなこと言わない」

「えへへ、ごめんごめん。じゃあ次私ね」


智瑛莉に突っ込まれると可愛らしくニコッと笑いさっき智瑛莉がしたように次は自分が前かがみになり持ち上げる。

体を伸ばされると更に陽の光を全身に浴びて、あと数時間この強い日差しに晒されたら干物みたいになるのかもしれないとふと思った。


「あっつーい…髪の毛結んでくれば良かったかも」

「あ、私ゴム持ってるけど使う?」


浮いた足が再び地に着いた時にはもう汗をかいてきていた智瑛莉はそのせいで半端に伸びた髪の毛が顔にくっつき、それを鬱陶しそうに払って下ろしてきた髪の毛を両手でまとめるとそれを見たひかりが指の第2関節まで隠していたパーカーの袖をまくってピンク色のヘアゴムをつけた右手首を見せた。

そのピンク色とリボン結びされてるヘアゴムにひかりらしい可愛らしさを感じた。


「いいの?じゃあ貸してくれない?」

「いいよいいよ。これ智瑛莉にあげる」


手首からヘアゴムを外して智瑛莉の手に渡そうとするが両手の塞がっているのを見ると智瑛莉の背後に回りまとめていた髪の毛に触れてゴムを通して1つ結びを代わりにする。


「あ、ありがとう。でも、悪いよ」

「いーの。この間暇つぶしで作ったゴムだから」


髪の毛に手ぐしを通されながらアレンジでも加えているのか単に1つ結びをするのには時間がかかっていた。


「え?これひかりの手作り?」

「うん、部活の人達にお揃いで作ったの」

「え、なら私貰えないよ」

「ふふ、でもこれはあまりで作ったの。あ、迷惑かな?」


キュッと結び終えると満足気に完成した智瑛莉の髪の毛を見つめるも好意を押し付けたのではないかと不安になったひかりは問いかけるが、智瑛莉は横に首を振った。


「ううん、嬉しい。ありがとう」

「なら、良かった。それね1番可愛く作れたと思ってるの」

「へー、ありがとう」


涼しくなった首元とヘアゴムのお礼を言うとひかりは猫目を細めて照れたように笑いふわふわの校則ギリギリのピンクベージュの髪の毛が揺れた。

よく見るとひかりのツーサイドアップも同じピンク色のヘアゴムで結われていた。


「おい、藤原っ!!何してんだ早く来んか!!」


智瑛莉がひかりと談笑しながら準備体操をある程度していると突然に体育教師の怒号に似た大声が響いた。

あまりにもいきなりだったので教師など気にせずに準備体操をしていた少女達は驚き何事かと辺りを見回すと、授業が始まってある程度の時間が経っているにも関わらずに急ぎもせずに校舎の方から優雅に歩いてきている体育着の生徒がいた。

純日本人には珍しく遠くからでも分かるほどの背の高さと長い手足は立っているだけでも様になり、さらに何よりも目立つ金髪も彼女が純日本人ではなくフランス人とのハーフであることを物語っていた。

地毛だというその金髪はここが女子校でなければ男子かと思ってしまうほどのショートヘアで、左のサイドをピンク色のピンでクロスに止めている。

少女達が藤原と呼ばれたその生徒の姿を見ると感嘆の声をもらして目が離せなくなっていた。


「ごきげんよう、可愛い雛鳥達。今日も一段と陽射しが強いけど君たちの可愛さで和らぐようだよ」


藤原と呼ばれた生徒は怒っている体育教師には目もくれずに目鼻立ちのしっかりとした顔で少女達に柔らかく微笑むと漫画に出てくる王子様が言うようなセリフを恥ずかしげもなく口にする。

雛鳥と呼ばれた少女達は恥ずかしそうに頬をあからめるが、ひかりは呆れたようにため息を漏らしその様子を見た智瑛莉は苦笑いをうかべた。

藤原 葉月(ふじわら はずき)、それが遅れてきた王子様の名前で智瑛莉と同じクラスでありひかりと同じく演劇部の1年生だった。

自然に王子様のような雰囲気を漂わせながら何事も無かったように列に並ぼうとした葉月は教師に捕まった。


「おい、藤原。随分かっこいい登場だな。先生には挨拶もなしか?」

「おっと、ごきげんよう。挨拶が遅れたのは謝ります。でもね先生、かっこいいだなんてよしてください。ボクがかっこいいなんていつものことじゃないですか」


皮肉めいたことを言われているのにも気づかない葉月に教師は笑顔でいるが苛立っているのは言葉の端々と声色でもわかった。

しかし葉月は王子様のようにキラキラとしたオーラを発しながら余裕げに微笑んで答える。


「ああ、そうだな。いつもの事だな。お前がいつもいつも授業に遅刻してくるのわな!!」

「遅刻?やだなぁ先生。働き者の時計の針がボクの知らない間にも健気に時間を刻んだだけですよ」

「…」


大声をあげる教師に臆することなく微笑んだまま葉月は謝るどころかクサイことを言いながら校舎の外壁に掲げられている時計を指差す。

そこまで悪気もなく言われると教師は遅刻について怒らなくてはならないのに、怒りを通り越して呆れとその発想になる葉月の頭に関心さえ感じ何も言えなくなる。

智瑛莉と一緒に準備体操をしながら見ていたひかりがその空気を察したようで、慌てたように葉月と教師の間に割って入り、葉月の肩を叩いて無理に頭を下げさせる。


「わっ、ひ、ひかり?」

「ごめんなさい先生!!コイツ、そういうの疎くて…バカなんです、ごめんなさい!!」

「え、榎土?」

「ほら、アンタも謝んなさいよバカ!!」

「…え、ご、ごめんなさい…?」

「私からもよく言っとくので、校庭20周くらいで許してやってください」

「に、20周!?」


遅れてきた張本人よりも必死に頭を下げて謝罪するひかりに葉月も教師も驚き、教師はその必死さに負けたように次からは気をつけろと言って校庭20周も命じられることもなくその場は収まった。


「まったく…私も気にしてればよかっ…た」

「ありがとうひかり。ボクのために謝ってくれて。そんなにボクの事を想ってくれているだね」


疲れきったようにため息を漏らすひかりが智瑛莉の元に戻ろうとすると引き止めるように葉月が後ろから抱きしめ愛しそうに微笑み感謝の言葉を口にする。

頭1つ分違う葉月に抱きしめられたひかりは能天気にそんなことを言う葉月に苛立ちを覚えるも、どこか嬉しそうに照れた表情になる。


「ばか…みんな見てる…」


回された葉月の手をキュッと握りしめて周りの視線を感じながら恥ずかしそうに小さな声で返すと、その仕草が可愛く思えた葉月は嬉しそうに微笑む。


「それは姫が可愛いからだよ…ぃってぇ!?」


薄く頬を赤らめて葉月の胃もたれするほどの甘い言葉に答えて2人の空間を作っていたひかりだったが、思いっきり葉月の足を踏みつけて手を振りほどく。

思わぬ衝撃に声を上げて葉月はゆっくりと崩れ落ちる。


「調子乗んなバーカ!!」


ひかりは葉月にそう吐き捨てると眺めていた智瑛莉の方に戻っていく。


「ごめーん、智瑛莉。騒がせちゃって」

「いいの?藤原クン」

「いいのよあんなバカ」

「そっか。あ、今日ソフトボールするってさ」

「そうなんだ。チーム一緒だといいね」


帰ってきたひかりに目だけで葉月のことを指すも気にするなと言われるとそれ以上は気にすることなくひかりに今日の体育の科目を教える。

崩れ落ちた葉月は取り巻きらしい他の女子生徒から囲まれて心配され、すぐに愛想のいい笑顔をうかべる。

体育教師はなかなか言うことを聞いてくれない生徒たちに頭を抱えながらも体育の授業は続行された。

ソフトボールが開始される頃には炎暑は気にならなくなっていた。




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