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午後の紅茶にくちづけを  作者: ちょこみんと
ダージリン・セカンドフラッシュ
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「あれっ…」


やっと終わった3限目の休み時間、机に自分の鞄を乗せた翠璃は中身を確認するために出しては戻してを2回繰りかえしていた。

今翠璃が欲しいのは英語の教科書で別のノートやファイル、化学の教科書ではない。

そんなことを何回か繰り返していると不審に思った蒼が振り向いて問いかける。


「翠璃ちゃん?さっきから何してるの?」

「おかしいなぁ…英語の教科書入れたと思ったのにな」

「忘れちゃった?」

「そうみたい」


はぁっと、ため息をついて出したカバンの中身をしまいどうしようと頬杖をつく。


「蒼が隣の席なら見せれるんだけど…あ、橙子ちゃんに見せてもらえば?」

「見せてもらう…くっ、もらうって屈辱ね」

「もー、そんなこと言ったてしかたないでしょー?」


橙子に忘れたから教科書を見せろと頼むのが嫌らしい翠璃はあからさまに渋い顔をして頭を抱える。

教科書だけでここまで考え込む翠璃に蒼は苦笑いをうかべると図書室に行っていた橙子が本を数冊手に抱えて教室に戻ってきた。

それを見た翠璃は悟られないようにとすました顔で何事も無かったように頬杖をつく。

しれっとした態度の翠璃がおかしく思わず笑う蒼を見ながら、事情を知らない橙子は首を傾げて翠璃の隣である自分の席につく。

借りてきたハードカバーの本を机に置くと次の授業で使うノートと英語の教科書を机の上に出してから借りてきた本を読み始める。

蒼はすかしてる翠璃にほらっと微笑み諭す。

翠璃はううっと唇を小さくくわえこむとゆっくりと橙子に目を向ける。

綺麗な姿勢で本を読んでいる橙子は小さく口角を上げていて楽しそうに思えその空気を壊すのは気が引けたがせかす蒼もいて声をかけずにはいられなかった。


「ね、ねぇ。ちょっと」

「…」

「この私を無視するなんていいご身分ね」

「えっ、わ、私?」


せっかく声をかけたのに無視された翠璃は思わず立ち上がって橙子の机をバシッと叩く。

自分に話しかけられているとは思ってなかったらしい橙子は音に驚きなんだか機嫌の悪そうな翠璃に何事かと事情を知ってそうな蒼に助けを求めるように目をやる。


「何よ?私アンタの機嫌損ねることしてないと思うけど?」

「ねぇ、アンタ本読むの好き?」


意味ありげに問いかける翠璃に橙子は不審がり返事を躊躇う。

後ろで蒼は予想もしてなかった問いかけに可笑しそうにふふふと笑っている。


「アンタ好きよね?本読むの」

「そりゃあ好きだけど…。なんなのよさっきから…」

「そんなに本が好きならずっと読んどきなさいよ」

「蒼、なんなのよコレ。どうしたのこの子」

「だから、次の授業まで本読んどきなさいって言ってるの」


よく分からないことを要求される橙子は困ったように蒼に助けを求めるも翠璃にその視線を遮るように立ち塞がりまだつづける。


「いい?アンタは次の時間本読んでていいから、その間教科書私に貸しなさい」


そう言って机の上にあった橙子の英語の教科書を手に取って自分の机に置く。


「はぁ?意味わかんないんだけど。勝手に人のもの盗らないでくれる?」

「もう翠璃ちゃん、それじゃあただのワガママだよー?」

「うっ…」


理不尽極まりない翠璃の要求にありえないというような表情で反論する橙子にさすがに蒼が間に入って翠璃をなだめる。

蒼に止められた翠璃も目的に向かっての言葉が上手に出てこない自分自身に苛立ちさえ感じた。


「実はね橙子ちゃん。翠璃ちゃん、教科書忘れちゃったみたいだから見せて欲しいんだって」

「そう。…それをアンタは蒼に言わせるの?」


なるほどと納得した橙子だったが自分の教科書を取っていった翠璃の顔を見上げて問いかける。

さすがの翠璃も橙子の正論を受け止めるも目を逸らして言いづらそうに言葉を発する。


「…悪かったわよ。強引にしたのは謝るわ…」

「ごめんなさいは?」

「…ぐっ…ご、ごめんなさい…」


謝ることに慣れてない翠璃に謝罪するように橙子が促すと、素直に頭を下げた翠璃に橙子は満足気にほほえむ。

ぐぬぬぬ、と恥ずかしそうに頬をあからめる翠璃は屈辱なのか小さく嘆く。


「まったく素直じゃないのねー」

「…もういいわよ!!教科書なんて1回くらいなくてもどうってことないんだから!!」

「まぁまぁ、見せてあげないなんて言ってないんだからほら、机くっつけましょ」


先程まで翠璃に不審感と戸惑いしか無かった橙子だったが謝罪する翠璃が見れて気分が良くなったのか自分の机を翠璃の机にガガガと動かしてくっつける。


「ちょっとブス!!何勝手なことしてんのよ!!」

「はー?教科書見せてもらう人にそんな態度していいわけ?」

「うっ…ず、図に乗るんじゃないわよブス!!」


ニタニタと笑う橙子に色んな貶し言葉が頭の中に浮かんだが一言に絞って言い放った翠璃はくっついた自分の席につくが隣の橙子にはふんっと顔を逸らす。


「わぁ、小学校の時みたいだね」

「でしょ?」


蒼と橙子は小学校という単語に楽しそうに反応するが翠璃は早く英語な授業が終わればいいのにと思い始める。


「あんまり近寄んないでよ。汗臭い」

「はぁ?乙女に向かってなんてこと言うのよ最っ低」

「乙女?冗談はその能天気な頭だけにしなさいよね」

「なんですって!!」


翠璃は橙子にいつものように憎まれ口を叩きながらもカバンから細身の黒と緑のグラデーションで彩られたパッケージのウォータータイプの制汗剤を取り出し橙子の手を掴む。

何されるのか想像していない橙子は不安げに翠璃の動きを見ていると、その翠璃はカチッと蓋を持っていた手の指で開けると数滴手のひらに乗せて掴んでいた橙子の腕にスーッと塗った。


「ひゃっ、冷たっ!!」


パッケージを見てもよく分からない液体をいきなり腕に塗りこまれた橙子はその冷たさに驚くも、自分の腕を撫でる翠璃の手から逃げようとはしなかった。


「アンタってインドアのくせに汗っかきなんだから、制汗剤の一つや二つ持っときなさいよ」

「なんかスースーする…」

「当たり前でしょ」

「あ、それいい匂いだねー」


反対の腕にも塗りこんだ翠璃に蒼も自分にもーと腕を差し出す。

翠璃は同じように蒼の腕にも制汗剤を塗り込むも、自分と腕の細さが明らかに違って心がざわついた。


「ほんとね、いい香り。なんだろ…」

「フローラルの最後にホワイトムスクが香るのよ」

「へー、なんだか香水みたいだね」

「香りが好きで買ったの。どう?汗引いた?」


ボトルのパッケージを蒼に見せて、両腕に塗り終えた橙子に問いかける。

橙子は自分の腕を鼻の前に持っていきその匂いを嗅いでいた。


「引いたかはわかんないけど、いい匂い」

「でしょ?さっきよりも何倍もましになったもの」


小馬鹿にするようにそう言いながら制汗剤のボトルをカバンにしまう翠璃をキッと睨みつけるが笑顔の蒼が橙子の後ろに回って嬉しそうに抱きしめる。


「でも、そのおかげで蒼と橙子ちゃん同じ匂いになれたね」

「まぁ、ホントね。一緒にお風呂入ったあとみたいねー」


翠璃に苛立っていた橙子だったが蒼に抱きしめられると伝染したように嬉しそうな笑顔をうかべ、さらさらーと2人は腕の肌と肌を重ねて擦り合わせる。


「暑苦しい…。こんな暑いのに良くやるわね」

「あらららら?翠璃、もしかして蒼にハグもされない負け惜しみかしら?」

「はぁ?寝ぼけたこと言ってんじゃないわよ。私はね、心が広いから誰が誰とどうしようと受け入れられるわよ、そんな卑しい感情なんか持たないわよ!!」


自分と蒼が仲良くじゃれあっていると呆れたように冷たいことを言う翠璃に橙子は、ははーんとにっと笑い後ろから回された蒼の腕を抱きしめながら挑発に似たことを言ってしまう。

それに乗った翠璃があからさまに嫌がるように眉間にシワを寄せるのを見ると、蒼は素直じゃない彼女にクスッと笑う。


「じゃあ、橙子ちゃんと蒼がここでキスしてもいいの?」


何かを企んだように悪く笑った蒼は橙子をまたギュッと抱きしめ直すと肩に顎を乗せて目の前の翠璃にわざとらしく問いかける。

翠璃と橙子は突然の蒼の発言にえっと驚くも冗談でしょと本気にしなかった。


「もー、蒼ったらまたそんなこと言ってー」

「そうよ蒼。こんなブスのキスなんてどうでもいいけど、蒼は自分を大切にしなさい」


ふふふと笑う橙子をしれっと貶して蒼を説得する翠璃に蒼はむぅっと頬を膨らませた。


「何よぅ。2人とも蒼の事バカにしてるの?」

「違うわよ。初めてをこんな女で済ませるなんてもったいないって言ってるの」

「別に蒼初めてじゃないもん!!」


全然相手にされない蒼は2人に口をとがらせて思わず反論するが、2人は蒼の発言に目を丸くする。


「え?蒼?」

「もーっ、蒼だって子供じゃないもんっ」


頬をふくらませる蒼だったがその様子は幼い子供のように見えた。


「そう言えば蒼の彼のことまだ聞いてない」

「確かに…いつになったら教えてくれるの?」

「えー、知りたい?」

「そりゃあ知りたいよ」


怒っていたかと思えば次はなんだか照れたように笑い出す蒼に今日もやっぱり可愛いなぁとしみじみと翠璃は感じた。

橙子は抱きしめられながらも蒼の彼の話に興味があるように追求する。


「実はね…最近運命的な再会をしたの」

「運命的な再会…!?」

「そう、この前さ…」


初めて話す彼のことを少し照れながらに話し出した蒼だったが4限目の始業のチャイムにさえぎられ無理やりに終わらされる。

空気を読みすぎているとさえ思うチャイムのタイミングに翠璃は思わずツッコミたくなるが教材を手にした英語教師が入ってきて言葉を飲み込む。

続きが気になる様子の橙子も教師が目に入るとため息をもらしてしぶしぶに教科書とノートを開いて授業に向き合おうとした。

2人のピッタリくっついた机の上に開かれた英語の教科書の英文に目を向けても読む気にはなれない時間が授業の間何度かあった。

翠璃は理解しているかはともかく教師が黒板に書いたものを1字1句間違えることなく板書していると隣からシャーペンが伸びてきて丁寧にまとめていたノートの端になにか文字が書かれた。


【蒼の彼ってどんな人かな?】


文章が書き上げられると隣の橙子の方に目をやり表情を確認する。

オレンジ色のシャーペンを右手に持って授業中にも関わらず、両肘をついてなにか楽しいことを想像しているのか空中を眺めながら頭の上に音符でも見えそうなくらいに楽しそうに口角を上げていた。

真横でそんな橙子を見た翠璃は色々と思うことがあったが、緑色のボールペンで教科書に【ヘラヘラすんなブス】と書き込んだ。


「ちょっと、私の教科書…っ」


筆談をしていたはずなのに、自分の教科書に書かれた悪口とも思えるフレーズに思わず橙子は小声で翠璃につっこむ。

翠璃はそんな橙子を軽く無視してノートに橙子の筆談の続きを書いて、スっと目の前に差し出してみせる。


【私は知らないけど、蒼が選んだ人なんだからいい人よ。きっと】


橙子が読み終えたと思うと自分の机に戻して消しゴムで筆談の内容をザッと全部消す。

橙子はかろうじて読み取れた翠璃の筆談に意外性を感じて驚きながらもそうよね、小さく微笑みと納得したように頷いた。

一応2人の筆談は終わったが、翠璃はシャーペンを右手に持ったまま何かに迷うように橙子のノートをチラチラと見ると教師が黒板の方を向いた時にスっと橙子のノートの下あたりに書き込む。


【アンタいないの?好きな人】


自分で書いときながらも早速後悔を感じ書いた文字にやっぱり無しと言うようにバッテンで消して翠璃は目線を思わず窓の方に向ける。

橙子は翠璃からのいきなりのメッセージにまた小学生みたいな悪口でも書いてきたのだろうと思っていたが、書かれた内容を目にすると何かの見間違いかとしばらくずっと戸惑いながら見つめていた。

戸惑いと照れを隠しきれずに何度かシャーペンを握り直しながら筆箱から花形の付箋を取り出して何かを書き込むとべりっとはいで翠璃の右手の甲に貼っつけた。

頬杖をついていた右手に違和感を感じて付箋の存在に翠璃が気付くと恥ずかしそう俯く橙子と交互に見合せてはその付箋を剥がして書かれた文字に目をやる。


【アンタ】


しっかりとした綺麗な文字で真ん中でそう書かれていて翠璃は痛みさえ感じるほどに一気に胸が高鳴った。

一瞬ではよく理解できなかった翠璃は目を見開いて驚き、夢かもしれないと付箋中をよく見ると右下に少し小さめの字で続きが書かれていた。


【アンタ 以外】


隣からふっと笑う声が聞こえて翠璃はその笑い声だけでなくうかつ嬉しく思ってしまった自分の浅はかさに心底いらだちを覚え、ぎゅうっと爪がくい込むほど手を握りしめると可愛らしい花形の付箋はぐちゃっとシワがつく。

いつもバカにしてくる翠璃に仕返しのつもりでしてやった橙子はまんまと嬉しそうにした翠璃に失笑したが、付箋を握りつぶすのを目の当たりにするとやりすぎてしまったと身構える。


「…」


翠璃は色々なものにいらだちを感じながらも、握りしめた付箋を机に放置して涼しい顔をして英語の授業をまじめに受け始める。

その様子に橙子は少し戸惑うも何もしないように同じく授業を受ける。

これ以上自分から何もしないことが1番いいのかもしれなかったが、やられっぱなしでは癪に障ると思った翠璃はある程度時間が経った頃に赤ペンで橙子のノートの隅に文字を書いた。


【奇遇ね、私もよ】


それだけ書くとペンを筆箱にしまってそれ以上は隣の席に干渉するのをやめた。








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