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午後の紅茶にくちづけを  作者: ちょこみんと
ダージリン・セカンドフラッシュ
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今日の昼休みは昨日と違って日差しが柔らかくて過ごしやすいものだった。

翠璃は健康烏龍茶の入った魔法瓶の水筒とランチパックを手にして昨日後輩と待ち合わせた中庭に向かう。

向かっている最中の廊下でこれから同じようにお昼を食べるためのランチバッグやブランド物の財布を手にしてる女子生徒達に何度も挨拶の声をかけられるので愛想良く笑顔を振りまいて軽いリップサービスをした。

翠璃に挨拶を返された生徒たちの中には嬉しそうに声を上げて嬉嬉としてどこかに走っていく様な人もいた。

やっと中庭に着くと噴水との近くや日陰の多い木の辺りやベンチの方をキョロキョロと見て確認すると、東側の木の木陰の芝によく知ってる赤いリボンの少女が校舎によって切り取られた青空を眺めて誰かを待っている様子で座っていた。


「…智瑛莉ちゃん、ごめんお待たせ」

「あっ、翠璃さん。ごきげんよう」

「ふふ、ごきげんよう。そんなところで暑くない?」

「えぇ。今日は気持ちいくらいですよ」


そう微笑みながら智瑛莉が立ち上がろうとするので普段なら絶対しないのに翠璃はその隣に腰かけ、乱れのないプリーツスカートに隠れてる太ももに自分のランチバッグを乗せて隣の智瑛莉に目を向ける。


「智瑛莉ちゃんはお昼持ってきてる?」


そう問い掛けながらランチバッグから翠璃はライトグリーンのサンドイッチケースを取り出す。

智瑛莉はそんな翠璃を見るとはい、と微笑んで浅葱色のランチバッグから似たようなサンドイッチケースを取り出して顔の前に掲げて翠璃に見せた。


「良かった、じゃあ一緒に食べよっか」

「あ、私ウエットティッシュ持ってますからどうぞ」

「ありがとう智瑛莉ちゃん、気が利くのね」

「いえいえ、とんでもございません」


小分けされたウエットティッシュを1つ翠璃に渡して自分の分を開封すると手を拭いてサンドイッチケースの蓋を開く。

智瑛莉のサンドイッチケースにはパンも中身も違うサンドイッチが5つと残りの空白をうめるようにフルーツが入っていた。

その綺麗に敷き詰められたお昼ご飯を見ると智瑛莉は嬉しそうに微笑んで左端の緑色野菜のサンドイッチを手に取っていただきますと軽く言って一口頬張った。

一口で半分ほど食べた智瑛莉が唇についたマヨネーズ舐めとってもぐもぐと咀嚼する度に野菜がシャキシャキと音を立てた。


「…?」


ずっと自分の様子を見ている翠璃の視線に気づいた智瑛莉はなんですかと口にはせずに目線だけで問いかけて首を傾げた。


「美味しそうに食べるのね。まるで…」


美味しそうに食べる様子が不本意にも頭の中にいた誰かと重なったので、そこまで言うと思わず口を手で塞いで止めた。

智瑛莉はまた不思議そうに首を傾げるので気にしないでと頭を撫でて自分のサンドイッチケースの蓋を開ける。

智瑛莉のものと違ってぎっしりと色とりどりの野菜やお肉が詰まった両手で持たないとこぼれそうな程の大きなのと分厚いタマゴサンドの2つと彩り用のフルーツと野菜が盛り付けられていた。


「翠璃さんのも、美味しそうですね…」

「そうでしょ?ちゃんと見栄えもだけど栄養のことも考えて作ったのよ」

「へぇ、という事はこのサンドイッチ…翠璃さんが作られたんですか?」

「ふふふ、そうなのよ。あーぁ、自分で言うのもなんだけど食べるのもったいないなぁ」


自画自賛するようにそう言うと、レタスとトマト、ローストチキンの挟まったサンドを両手で持ち上げてうっとりと見つめた後にかぶりつく。

多く頬張りすぎたせいかレタスが噛みきれずに半端にちぎれるが、口元を隠しながら満足気に口を動かした。


「美味しいですか?」

「あはりまへお」


口いっぱいに食べるもんだから上手に発音できない翠璃を少し見上げながらクスリと笑う。

ひとつを食べ終わった智瑛莉はライ麦パンのサンドイッチをとってまた食べ始める。


「…智瑛莉ちゃんはさ、もう高校生活慣れた?」

「んん…そうですね。おかげさまで楽しいですよ」

「まぁ、誰のおかげかしら…。紅音さん?」

「おおよそは、と言うかほとんどはそうですけど…。でも、それだけじゃなくて…翠璃さんや、蒼さんとか…紅茶部の、お姉様には敵いませんが優しくて可愛くて素敵な人たちがいてくれるおかげです」


茶色のライ麦パンのサンドを手にして嬉しそうに微笑むと翠璃と同じように大きなひと口で食べた。


「まぁ、かわいいこというのね」

「んふふ」


それにつられて翠璃も笑って2人仲良くお昼ご飯を食べる。

こんな所で後輩とこんなほのぼのとして自分の作ったサンドイッチを食べる日が来るなんてとしみじみ思うと噛みごたえのあるローストチキンを味わった。


「ねぇ、聞いてもいい?」

「何でしょうか?」

「…紅音さんはさ…智瑛莉ちゃんが好きって言うと…なんて返すの?」


ある程度咀嚼されたものが飲み込まれる音がすぐ横でしたのに目をやると先程まで幼い子供のような可愛らしい笑顔を浮かべていた智瑛莉の顔からはその愛らしい表情はなくなりただ目の前の翠璃を少しの敵意と不審がるような目で見つめていた。

そんな目を向けられるとも思っていなかった翠璃はなにかまずいことに触れてしまったのかと目を逸らしてなんでもないからとこの数秒間を無かったことにしようとした。


「なぜそんなこと聞くんです?」

「え、いや…別に…ただの興味本位」


翠璃は誤魔化すようにそう言った口に食べかけのサンドを詰め込む。

レタスとトマト、ローストチキンとパンとそれに塗ってあったソースが一気に口の中で存在感を示すようにそれぞれの味が口の中でころころと変わった。

何度咀嚼しても飲み込みやすいほどの形状にならない口の中のものに一抹の不安を感じながらも手で覆って口を動かしていても隣の智瑛莉からの何かを探るような視線からは逃れられなかった。


「…お姉様の事が気になりますか?」

「ちが、そうじゃなくて…」

「…」


自分をすごい目で見つめてくる智瑛莉がどうしたら先程のような笑顔に戻ってくれるのだろうかと翠璃は頭をフル回転させて考えたがその真っ直ぐな目に頭は働きを止めそうになる。


「…ふふっ、すいません。冗談ですよ」

「え?」


目力だけでゆっくりと扼殺されるように苦しくなっていき強ばった表情になった翠璃を目の前にした智瑛莉はその必死さに失笑する。

しかし翠璃には智瑛莉がどうして笑ったのかわからずさらに混乱した。


「ごめんなさい、翠璃さん。…翠璃さんは以前お姉様と一緒に寝てた人なので少し意地悪してみたくなっただけですから。ふふっ、そんな顔しないでくださいよ」


申し訳なさそうに笑う智瑛莉が謝罪の意を込めてもう一度頭を下げると数週間前の保健室の事を思い出した翠璃はやっと理解が出来て納得した。

クスクス笑う智瑛莉はまた新しいサンドイッチを食べ始める。

その様子を見た翠璃はほっと安心して持ってきた水筒に入れていた烏龍茶でぐちゃぐちゃになった口の中と今の感情を体の内側に流した。


「…気になる…って言うか、知りたいのかも」

「…お姉様の事ですか?」

「いや、紅音さんのこととかではなくてね…」


半分しか食べてないサンドイッチケースから残りのたまごサンドを取り出してはあとはもう食べまいと蓋を閉じて空を見上げる翠璃は素直な言葉を口にした。

智瑛莉はもぐもぐしながら話し出す翠璃に耳を傾ける。


「なんて言うのかな…好き、って真っ直ぐに伝えるのも…伝えられるのも…できないから、かな…」


そこまで言うと照れたように笑ってたまごサンドにかぶりつく。

智瑛莉も手にした分を食べてしまえば、黙々とたまごサンドを口に運ぶ翠璃にふわっと微笑みかける。


「もしかして…それって恋のお悩みですか?」

「え?別にそんなんじゃないけど」

「ふふふ」


そう笑う智瑛莉も水筒のお茶を1口飲むと濡れた口元を拭っては続ける。


「私は翠璃さんもご存知と思いますが、お姉様がこの世の何よりも大好きです。愛してるんです。その気持ちは変わりませんから、いくらお姉様に渡しても減らないんです。それにお姉様も素直じゃない方なので10投げても1返ってくるかどうかですよ。だけど…私はそうだとしてもお姉様に好きって伝えていたいと気持ちの方が何倍も強いんです」

「へ、へぇ…」


淡々と言葉途切れることなく話す智瑛莉の熱量に少しおされる翠璃だったが智瑛莉は微笑んで続けた。


「…それに、好きって伝える行為は相手のためじゃなくて…自分の感情を整理するための自己満足だと思うんです」

「自己満足…?」

「えぇ。伝えることで付随的に相手の気持ちが良くなることがあるだけなのに、あたかもそれがメインみたいなってることこそ間違いなんです。それに伝えられる側も無責任に受け取ってはいけません。程よく噛み砕いて処理する方法を見つけないときっと耐えられないと思いますから。…自分自身に」


自分よりも若い女の子が笑顔でそう語っていることが翠璃には不思議であったが智瑛莉の言葉には説得力が感じられた。

分厚いたまごサンドの残りを全て口に入れた翠璃はゆっくりと咀嚼しながらぼんやりとまた空を見上げた。

先程まで薄い雲が微かにかかっていた青空はほとんど油絵の具のようにこってりとした白に塗りつぶされていた。

伝える方は自己満足、伝えられる方は責任を持たなくてはならない、これでは不釣り合いのような気がしたが出汁の効いた卵焼きの味が美味しくて翠璃をそれ以上考えさせるのを止めた。


「難しいのね…人って」

「ふふ、だからこそ飽きないんでしょうね」

「智瑛莉ちゃんったら意外と詩人みたいよね。なんだか聞いてるこっちも照れちゃうかも」

「いえいえ、王子様には敵いませんわ」

「ううっ、馬鹿にしてるでしょ」

「ふふふ、お互い様でしょう?」


そして2人は目を合わせて可笑しく笑いあった。

残りのサンドを適当に口に放って指についたパンかすをその辺のしばの上で指をこすって落とす仕草をすればそれぞれの飲み物でさっぱりさせる。


「はぉ、なんだかお腹いっぱいだわ」

「そうですね。満足感で一杯です」

「さて、じゃあ保健委員のお仕事終わらせよっか」

「はい!!」


手を合わせてご馳走様と行儀よく挨拶をした智瑛莉がサンドイッチケースを片しながら翠璃に元気よく返事をしてランチバッグから昨日保健教諭からもらった紙を取りだした。

翠璃も同じように手際よく後片付けをすると紙を持つ智瑛莉の手元に目がいった。


「まずレイアウトなんだけどね、大体いつも上に"保健だより"って大きく出してこのくらいの幅の段落でひたすら写していったらほとんど埋まるの。イジるの面倒な時はフォントを大きくして誤魔化すの」

「ふんふん…壁新聞のような感じですね。絵とか写真は使いますか?」

「ええ。でも乱用しすぎて文章が疎かになるのはダメよ。…んーそうね、今回で言うと私がパッと思いついたのは日焼けだから太陽のイラストを上の方において…反対側の下に日焼けして苦労してる女の子のイラストを置くとか…かな。智瑛莉ちゃんはどう思う?」

「いえ、私も翠璃さんのアイデアが素敵だと思います。イラストと題字のバランス感とを気にすれば素敵なものになると思います」


先程のふんわりとした概念のようなものの会話と違って目的と期日がはっきりと決まっている保健委員の仕事の話し合い始めるもお互いに意見を言って、その意見が衝突せずに互いに尊重しあえていとも簡単に決定する。

そこからあらかたを決めると次はその内容をデータに起こそうとランチバッグを手にして生徒たちの使えるパソコン室に向かう。

二人が昼食を食べ終えた頃には同じく食べ終えた生徒たちが食休みのために中庭に集まってきた。

程よい日差しと食後の安心した体にはゆっくりと睡魔が襲って来そうで翠璃はそれが来る前にさっさと校舎の中に入ってパソコン室のある1階の突き当りへ急いだ。


「今からで終わるかしら…」

「明日に印刷まで終わらせればいいんですものね。大丈夫ですよ、もしもの時は私がやっておきます」

「駄目よそんなの。私もやるの」


自分よりも忙しい翠璃を気遣って声をかけたつもりの智瑛莉だったがピシャンと返されて面食らい思わず立ち止まる。

しかしそんなことも気にしない翠璃が目の前で廊下を綺麗に歩くので自分と同じ指定の制服のはずなのに全く違う華やかな衣装のように見え、背中を見る智瑛莉からは翠璃があたかもきらびやかなランウェイを歩るくモデルのように見えてその洗練された姿の綺麗さと内から溢れるようなオーラに思わず息を飲んだ。

瞬きも忘れて翠璃を見ていると、智瑛莉は自分の胸元がざわついて名前の分からない感情が現れた。

なんなんだろうコレは、紅音に向けるものとは似て非なるものだけどよく似ている。

そう考えていると智瑛莉と翠璃の間には距離ができていて、ハッと我に返る智瑛莉は早足で翠璃に追いつこうとした。


「み、翠璃さんっ」

「なーに?」


てててと早歩きで追いついた智瑛莉がその背中に思わず声をかけた。


「今、翠璃さん凄い綺麗でした」

「え?何いきなり?」


智瑛莉の声に声だけで反応した翠璃だったがいきなりの発言で振り返らずにはいられなかった。

驚きの表情で智瑛莉の顔を見返すと智瑛莉はキラキラと目を輝かせて翠璃を見つめていた。


「綺麗…いや、かっこいい…」

「いきなりおかしな子ね。当たり前よ私だもん」


智瑛莉が急に褒め出すので驚きつつも翠璃は誇るような笑みを浮かべて智瑛莉にウインクをして応えるとたどり着いたパソコン室の扉を開いた。

その後を追いながら智瑛莉はこれからの保健委員の仕事の事よりも自分に見えた翠璃がどの表現が1番ふさわしいのかを考えていた。





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