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午後の紅茶にくちづけを  作者: ちょこみんと
ディンブラ・ティー
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太陽が地表から現れてしばらく経って角度が大きくなって太陽の光が多くの地面に降り注がれた頃、休日ということもあり多くの人が並んでいるデパートの中や外で溢れていた。

まだギリギリ午前中だと言うのに高く上がった太陽からの熱で薄い総レースのブラウスを着ていた翠璃はうっすらと汗をかいていた。

デパート前の入口で今日遊ぶ約束をしていたいつものメンツを待っているのだが近くに日除けになりそうな日陰はなくそろそろ集合時間ということもあって翠璃は動かずにただぼんやりと目の前を行き来する人の群れを眺めていた。

ミニのジャンスカから生脚を晒している翠璃は浴びせられる陽の光で大事な商売道具の体が焼けないかが心配だった。



「…あ、翠璃ちゃーん!!」


慣れているはずの5cmのショートブーツで立っているのが少し辛くなってきた頃に待っていた人物の1人の声が聞こえてその方に目をやると、小動物のように小柄で可愛らしい少女が満面の笑みで存在を知らしめる手を大きく振って水色の膝丈ほどのフレアスカートとひらひらとなびかせながら駆け寄ってきた。

同級生のはずなのに幼い子か小動物のような可愛らしい少女が自分の元に駆け寄ってくるや否や翠璃は思わず反射的にムギュっと抱きしめる。


「うわっ、もぉなぁに?翠璃ちゃん」

「可愛い蒼。蒼ってば今日もとっても可愛い。さすが私の蒼だわ」

「もぉー、翠璃ちゃんだって可愛いよぉ。あ、翠璃ちゃんごめん、蒼ちょっと汗かいてるから…臭いかも…」


出会い頭に抱きしめられた蒼は苦笑いを浮かべながら翠璃の熱い抱擁に答えると額に汗を感じ、臭うのではないかと不安になり離れようと肩を押す。


「臭くなんてないわ。…あ、今日香水の香りが違うわね」

「あ、わかる?ママがね新しいコロン買ってくれたから使ってみたの。どうかな?」

「んー、蒼らしく爽やかで優しくて…私好き」


抱きしめた時に近くなった蒼の項あたりから香るコロンの匂いをもっと嗅ぐように顔を埋めると蒼は擽ったそうにふふっと笑う。

初夏の午前中といえど肌に突き刺さるような日差しの中で女子がピッタリとくっついて抱き合っている様子は通行人からすれば異様なものであったがそれが気になり立ち止まったりじっと見るような人はいなかった。


「あ、そう言えば橙子ちゃんは?」


いつもの3人での集合のはずなのに見当たらない1人の存在を問いかけるが翠璃は気にしていないようだった。


「遅刻するなんて本当にグズね」

「でも蒼達が早く来すぎたのかもね」


やっと翠璃から離れた紅音は左手にしていた腕時計に目をやるがまだ集合時間の5分前だった。

普段とは違う降ろし髪の翠璃は緩く巻いた毛先をいじりながらまだいない橙子に不平を漏らすが携帯を肩にかけていたショルダーバッグから取り出して電話を繋げる。

そんな天邪鬼な翠璃の様子に蒼はクスッと笑って翠璃の通話に耳を傾ける。

耳に携帯を押し当てる翠璃だったが繋がらないのか美しい外見には似つかわしくないほど大きな舌打ちをしてショルダーバッグにしまった。


「…あのブス」

「まあまあ、もう少ししたら来るって」

「もう。蒼はあの子に甘すぎるのよ」

「えー?そんなことないよー」


むぅっと頬をふくらませて蒼にそう言う翠璃に笑顔を返す蒼はやはり汗をかいたのか白色のバックからハンカチを取り出して額に当てた。

翠璃が蒼から目の前の一通りに目線を移すと一際目立つオレンジ色のトップスを着ている女の姿が見えた。

見たことあるような女と目が合ったように感じるとその女がこちらに手を振ってきたのでそいつが橙子であると翠璃は確信して、手を振り返す代わりに腕を組んでふんっと顔ごと視線を逸らした。


「あ、翠璃ちゃん。橙子ちゃん来たよ。橙子ちゃーん、こっちこっち」

「やっほーお待たせー」

「ちょっと遅刻よ?私達待たせたんだから謝罪の一言くらいあってもいいんじゃなくて?」

「はぁ?遅刻してませんしー、私は時間通りに来ましたー」

「馬鹿ね、集合時間通りに来るなんて何考えてるのよ。5分前には着いておくのが常識でしょ!!」


腕を組んだままヘラヘラしてる橙子にプリプリ怒る翠璃の言い分に翠璃よりも遅く来た蒼も苦笑いをした。


「ごめん翠璃ちゃん。なら蒼も遅れちゃった…?」

「蒼はいいの可愛いから」

「ちょっと、何よそれ」


意味不明な理由で免罪になった蒼の横で橙子は不服そうに唇を尖らせる。

そしてすぐに何かを理解したようでにゃぁっと笑って翠璃を見つめた。


「な、何よその気持ち悪い顔は…」

「ははーん、わかったわよ翠璃。アンタ…そんなこと言っといて、今日が楽しみすぎてものすごく早く来ちゃったから、私か蒼がくるまでひたすらまってたんでしょー?だから怒ってんだ」

「は、はぁ?そ、そんな事ないわよ!!集合時間よりも早めに来るのは業界でも常識なの!…べ、別に楽しみだから1時間前からソワソワしてたわけじゃないんだからね!!」


橙子の挑発に軽々しく乗ってしまった翠璃は図星をつかれて橙子に腕を組んだまま背を向けて弁明するが思わず本当のことを言ってしまいハッと我に返って口元を塞ぐ。

そして2人の方をゆっくり振り返ると蒼も橙子も微笑んでいた。


「翠璃ちゃんたら、そんなに楽しみにしてたんだね。じゃあ、今日はいっぱい遊ぼうね!!」


蒼は翠璃に嬉嬉として声をかけてギュッと左手を握って手を繋ぐ。


「もぉ、素直じゃないのよねー翠璃は」


蒼が手を繋いだのを見て橙子もクスッと笑ってまだ誰とも繋がってない翠璃の右手をギュッと握り3人は繋がった。

先程の失言の恥ずかしさから頬を薄く染めていた翠璃だったが、不意に両手を塞がれると照れているのかいい歳した自分が子供のように同級生にからかわれているのが恥ずかしいからかさらに頬を赤くした。


「ちょっと!!子供扱いしないでよね!!」

「まぁまぁ、ねぇ、翠璃ちゃん最初はどこ行きたいー?」

「そうよ、アンタが行きたかったとこ言ってみなさいよ」


両方から迫られる翠璃は眉尻を下げて困ったような表情を見せて手を解くべきなのか考えたが放そうとしない2人の顔を交互に見た。

蒼は翠璃が次に言う言葉を小さく首を傾げて待っていて、橙子は素直な翠璃が珍しくニヤニヤしながら見つめていた。


「…はぁ、わかったわ。私についてきなさい」

「ふふ、はーい」

「それってちゃんと楽しいんでしょうね?」


意を決したようにそう言った翠璃は手を繋いだまま目的地の方向に向かって歩き出す。

動き出した翠璃に蒼は大人しくついて行き橙子は煽るが翠璃にじっと睨まれて顔を逸らす。


「馬鹿ね、私を誰だと思ってるの?あの緑川萌乃よ?最近の流行りのスポットくらい把握済みなの」

「へー、さすが翠璃ちゃん」

「ふふん。きっと蒼は喜ぶと思うの」

「本当?わー、なんだろー楽しみぃ」


左にいる蒼に笑顔で返すと蒼も今向かっているところの概要を教えて貰えず想像だけが膨らみ楽しそうに微笑む。

何故そこに自分がいないのかと少し引っかかる橙子も蒼が楽しそうに笑うのでそれにつられてそんな事気にならなくなった。

それからしばらく両手を塞がれた翠璃が先導しながら歩くこと数分、先程までいたデパートやビルが並ぶ通りから離れ、華やかさが無く簡素な雑居ビルの前に連れてこられた。

その雑居ビルの外見だけではどうして翠璃がここに連れてきたかったのか想像出来ずに蒼と橙子は疑問符をうかべる。


「ここの3階よ」


得意げにそう言って翠璃は2人の手を引いてギリギリ2人が並べそうな幅の階段を3階に着くまで登る。

履きなれないミュールで歩かされた蒼は少しバテ気味な様子だった。


「ここ!」


3階に到着するや否や目の前にはブラックボードに可愛らしいうさぎのイラストのチョークアートが描かれていて、そのうさぎの頭上には【うさぎカフェ にんじんや】と可愛いフォントで書かれていた。


「うさぎカフェ…?」


それぞれのものは知ってるが掛け合わせたものを知らない橙子は褒めてほしそうな子供のように目をキラキラと輝かせる翠璃に首を傾げる。


「そうよ。さ、入るわよ」


翠璃は新しく付け替えたのか古びたこのビルには似つかわしくない茶色のオシャレなドアを開けて中に2人を連れ込んだ。


「いらっしゃいませー」

「予約してた早乙女ですけど」

「はい、お待ちしておりました。では靴を脱いでお好きな席にどうぞ」


中に入ると若い女性の店員が翠璃と軽く何かを話してカフェのように席に案内された。

そして連れてきた翠璃よりもテンションが上がったのが蒼だった。


「わぁ!!うさぎさんがいっぱいいる!!」


白色のフローリングの上にラグマットが四つ敷かれそれぞれにローテーブルとクッションが置いてある店内のあちこちに色んな種類のうさぎがごろんと寝転がっていた。

それを見た蒼はすぐに1番近くにいた灰色のたれた耳のうさぎを抱き抱えた。


「見てみて2人とも!わぁ…可愛いー」


そんな蒼の姿はその場にいた橙子と翠璃だけでなく店員までもうさぎが与える癒し以上の癒し効果を受けて自然と頬が緩み心安らいだ。


「やだどうしよう…私、今ウサギよりも蒼を抱きしめたいっ!!」


橙子は持っていた鞄をローテーブルの方に置くと抱き上げたうさぎの頭を撫でている蒼を数十分前の翠璃の様に蒼をぎゅうっと抱きしめる。

うさぎにしか意識がなかった蒼はきゃっ、と驚き橙子に目をやり微笑むと抱いていたうさぎのもごもごしている口元を橙子の鼻に押し当てる。


「うひゃっ…もぉくすぐったい」

「この子もふもふしてて気持ちーの」


そう笑った蒼は抱いていたうさぎを橙子に手渡してまた別の子を探しに部屋の中を動き回る。


「蒼は喜んでくれると思ったの…良かった」


先に床に座り込んで膝の上に真っ白なうさぎを置いて体を撫でていた翠璃は嬉しそうに笑った。


「うん、楽しい!!翠璃ちゃん、連れてきてくれてありがとう」


足元によってきた数匹のうさぎを愛でながら蒼は満足そうであった。

橙子は蒼から受けとった灰色の子を抱いたまま翠璃の隣に腰かける。

紅茶の時なら嫌な顔をされるのにうさぎの癒しの魔法で翠璃の顔には優しい笑みが浮かんでいた。


「アンタもうさぎの前だとそんなに可愛く笑うのね」

「当たり前よ。ブスなんか見て可愛いって思えないもの」


橙子に声をかけられた翠璃は目線を移すことなく嫌味っぽく言うので橙子はハイハイそーですかー、と軽く流す。

抱いていたうさぎが橙子の胸元に手を置いて頭を撫でるように催促するような動きを見せるので指の腹で優しく撫でてやると、橙子はあることを思いついた。


「ねぇ、翠璃」

「何よ」


何かを企んでいるような橙子に名前を呼ばれてもそれを感じとれたのか翠璃は橙子に顔を向けないまま返事をする。

違う反応の翠璃にむぅっと膨れるがもう一度声をかける。


「もぉ、名前呼んだんだからこっち向きなさいよ」

「…うるさいわね。何よ…っん!?」


しつこい橙子を無視し続けるつもりだったがこのままずっと絡まれそうな気がしたので仕方なく答えてあからさまに不本意そうに橙子の方に顔を向けた時、橙子のヘラヘラした顔よりも先に視界は灰色のうさぎで埋め尽くされ鼻の先に柔らかい感触を感じる。

橙子は先程蒼がしてきたように翠璃の鼻にうさぎの口元を優しく押し当てた。


なんだこれ、と目をぱちくりさせてうさぎと見つめ合うと顔が離れていって橙子のニヤニヤ笑う顔が見えた。


「ちょ、何してんのよ」


うさぎにキスされた鼻を拭うように指先で触って橙子に問いかけると橙子はニコリと楽しそうに笑って答える。


「ほら、これで私と間接鼻キスね、翠璃」


間接と言えど鼻キスと言う単語に翠璃はハッと気づくとみるみるうちにチークが要らなかったと思うほど頬が染っていく。

橙子はそんな翠璃には気づかずに翠璃が可愛がっていた白色のうさぎのしっぽをなでる。


「は、はぁ?何言ってるのよブス」

「まぁまぁ照れなくていいのよ」

「て、てて照れてなんかないの!!迷惑って言ってんのよ!!ばぁか!!」

「翠璃ちゃん、そんなに大声出しちゃダメだよ」


顔を真っ赤にさせた翠璃がヘラヘラ笑う橙子の頬をぎゅうっとめり込むほど手で押すのを蒼がシーっと口の前に人差し指を立てて静かにするようにすると、ごめんなさいと口を手で覆う。

蒼も翠璃達と同じようにテーブルのある席ついて置いてあったメニュー表をパタリと開いてざっと目を通す。

目の前に開かれたメニュー表に橙子も興味ありげにメニュー表を覗き込む。


「飲み物くらい頼みましょうか」

「いっぱいあるなー…蒼、ミルクティーにする」

「んー、私は…抹茶ラテ。アンタは?」


ひざ掛けのように自分の膝にもふもふの毛で暖かいうさぎを膝の上に置いて隣の翠璃に問いかける。


「私レモンティーのストレート」


そう言うと翠璃の膝に乗っていた真っ白なうさぎが翠璃の膝から降りてどこかに駆けて行った。

ずっと触れていた温もりがなくなり急に冷える太ももを翠璃は切なそうに撫でた。

蒼が店員に注文を伝えると明るい返事が返ってきた。

頼んだ飲み物が来るまでなにか食べ物をと2人がメニュー表に必死な間翠璃は自分から逃げていったうさぎを寂しそうにその後を目で追っていた。







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