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午後の紅茶にくちづけを  作者: ちょこみんと
ディンブラ・ティー
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4

「でも、どうして紅音はそんなに智瑛莉ちゃんをさけるの?」


自分の背後にいつまでも隠れている紅音に陽菜乃は問いかける。

そろそろ帰れると気を抜いていた紅音はぴぎゃっと声を漏らす。


「たしかに。お二人はこの中で1番古い仲ですわよね?それに、3年ぶりの再会では無いですか、もっと喜ぶべきですわ」


食器類を銀色のトレーに乗せている蒼が先程の話の内容を思い出しながら紅音にそう言うと橙子もそうですわよ、と賛同する。

他の部員がどんなに疑問の念を露わにしていても紅音は何も言いたくないようで真っ赤な唇を固く結んでいる。


「まぁ、言いたくないのでしたら言わなくてもいいですわ。人には聞かれたくない事の一つや二つあって当然ですもの。でもね、紅音さん…」


真美子は眉をつりあげ機嫌悪そうに片方の頬を膨らませている紅音の肩に手を回して背後から抱き寄せる。

回した腕の上から至近距離で不貞腐れている紅音の顔を覗いた。


「私達の仲でも教えて下さらないの…?」


少し悲しそうな響きの声の真美子は潤んだ目で紅音の横顔を見つめる。

真美子の真っ白なもっちり肌が紅音の頬に触れると熱が移ってきそうなほど熱かった。


「近い、離れて…」

「教えてくださいますの…?」

「…それは…」


紅音はちらりと智瑛莉を一瞬だけ見るがどうしていいのか分からずすぐに目を泳がせる。

なかなか口をわらない紅音から真美子は諦めてすんなり離れると智瑛莉も複雑な表情を浮かべていた。

2人だけでなく部員中に気まずい空気が流れる。


「いいんですの…。私、分かってましたの…お姉様が、私の事避けているの…」

「えっ…?」


この空気を崩すように智瑛莉が部員を見回して笑顔で言うがその目は今にも泣きそうに潤んで端の上がった唇は震えている。

その様子を見た翠璃は薄紫色のハンカチを差し出すが智瑛莉は首を振って受け取らなかった。


「イギリスにいた時にお送りしたエアメールには1度もお返事を返してくださりませんし…携帯を買ったと言っても連絡先も教えてくださいませんでしたし…」

「ちょ、ち、ちがう!!」

「今日もせっかくお会い出来たのに…お姉様はそんなに嬉しくないようですし…」


悲劇のヒロインのような智瑛莉に部員一同が同情的な目線を送る。

紅音も困ったように眉を下げて泣きそうになっていく。


「紅音人見知りだし…久々にあった智瑛莉ちゃんが美人になってて恥ずかしんじゃない?」


落ち込む智瑛莉を慰めるように肩を叩きねっ?と紅音に目配せをする。

悪者のように扱われている紅音は耐えかねて自分の学生鞄に手を突っ込んでバンッと二通のエアメールをテーブルに叩きつけた。

いきなりの大きい音に翠璃と蒼はビクッと肩を揺らす。


「確かに…エアメールも返さなかったのも連絡先交換しなかったのも酷いことだと思うけど…じゃあコレ見てよ」


紅音が差し出したエアメールは何度も読み返されたようなシワがついていて、宛先と差出人名は青色のペンで筆記体のような文字はなぐりがきされていてなんの言語かさえパッと見ではわからず、解読するのには時間がかかりそうなものだ。

外国語に精通している真美子がエアメールに目を通すも最初の2単語目で解読不能になった。


「これは私がお送りしたエアメール…?」

「えっ、コレ…智瑛莉ちゃんが…書いたもの?」


いつも笑顔の橙子だがエアメールの文字を見た途端ひきつり笑顔を浮かべる。

少しバツの悪い顔をする紅音は続ける。


「私だって何度か返事を出そうとしたのよ…でもね、差し出しの住所が汚すぎてわからなかったの!」


智瑛莉はポカンと口を開け紅音を見る。

そんなことないよと、言おうとした陽菜乃もエアメールに目をやるとその言葉も飲み込んだ。


「送ってみたものの、宛先不明で帰ってくるし…。携帯だって…その時私は携帯持ってなかったの。…私がやっと携帯買って貰えた頃にはあなたの連絡先変わったようだった」


自分の行いの弁解が出来た紅音は両眉を下げてはぁっ、と深くため息をつく。

真美子もエアメールの文字については苦笑いを浮かべるのが精一杯だった。


「…」


智瑛莉はそこまでの紅音の話を聞くと顔を伏せる。

落ち込んでいるのか頭のリボンも本物のうさぎの耳のように垂れ下がってるようにも見えた。


「智瑛莉さん…?その…」


なにかフォローの言葉をかけようと真美子は試みるがなんと声をかけていいのか分からず背中に手を回すことしか出来なかった。

落ち込んでいるのかと全員が思っていた智瑛莉はいきなりバッと顔を上げる。

その顔は落ち込んでいるような暗い顔ではなく、満面の笑みで紅音を見上げた。


「なら、お姉様は私の事がお嫌いきなったという訳では無いのですね?」

「え、えぇ…そ、そうよ…」

「わぁ、良かったぁ!!」

「ぎゃあ!」


大好きな飼い主に呼ばれた忠犬の様に嬉しそうな笑みを浮かべ疲れ果てたようにソファに座っていた紅音に抱きつく。

身動きの取れない紅音はチャンキーヒールをドタドタと踏み鳴らす。


「なら、お姉様は私の事が好きでいらっしゃいますか?」

「はぁ?な、なんでそんな話になるのよ!?」

「えっ…だって、嫌いではないのなら好きということですよね?」

「…そうじゃなっ…く、ない?」


焦りと戸惑いから考えがままならない紅音は智瑛莉の話に乗せられる。

智瑛莉はニッコリと笑って紅音にさらに体を近づけて密着させる。

暴れていた紅音はあまりの顔の近さに目を大きく開いて大人しくなる。


「ねぇ、お姉様?私の事嫌い?」


パッチリとしたタレ目を細めて愛おしそうに紅音を真っ直ぐに見つめ、甘い吐息混じりに智瑛莉は問いかける。

そんな2人以外の部員はどうしていたらいいのか分からず大人しくその様子を眺めていた。

紅音はよっぽどその状況がいやらしく智瑛莉から顔を背けたり目を逸らしたりと小さな抵抗を繰り返す。


「やめてよ…そーゆーの…」

「意地悪な質問でしたわね…嫌いなはずないのに…」


智瑛莉は丈の短いスカートの中にある紅音の細い足と足の隙間に自分の膝を滑り込ませさらに体を寄せる。

ただでさえ短い紅音のスカートがめくれて今にも中が見えそうになるのを部員達は目線を逸らして回避した。


「ちょっ、近いわよ!?」


自分の股に嫌な感覚を味わっている紅音は智瑛莉を思いっきり睨みつけるがそれにひるまない智瑛莉は紅音の両頬に手を添えて自分の方を強引に向かせる。


「ほら、お姉様…私だけを見てくださいませ…」

「いーや」


紅音は反発するように目を合わせまいとギュッと目を閉じる。

自分の目の前で目を閉じる紅音を見ると智瑛莉はふっと微笑んでそのまま顔を近づけそのまま唇を重ねた。

紅音本人も驚きだが残りの部員も、驚き声を漏らし目を大きく開く。

翠璃は見ちゃダメっ、と隣の蒼を抱き寄せ目を手で覆って見せないようにした。


「…んっ!?」


唇に感じる柔らかな感触に驚きギュッと閉じていた目を思いっきり開くと目の前で艶かしい表情で紅音を欲する智瑛莉と目が合う。

ゆるく巻かれた長い髪の毛で隠れているが、智瑛莉は触れるだけのキスをわざとリップ音鳴らして短い間に何度も繰り返す。

いきなりのことでなされるがままの紅音は軽く混乱していて引き剥がそうと智瑛莉の肩に置いていた手が宙をうろつく。


「…お姉様?お顔が真っ赤ですわ、どこか悪うございますか?」


やっと顔をはなす智瑛莉がわざとか無意識か恥ずかしさで顔を真っ赤にする紅音に問いかける。

智瑛莉は顔色ひとつ変えず紅音を見つめていた。


「…ば、馬っ鹿じゃないの!?誰のせいよ!!昔っからあんたのそーゆー…人前で恥ずかしげなくそんな事する所が嫌なのよ!!…少しは場所を考えなさいよ!!」


やっとの思いで智瑛莉を押し返しすことが出来るとソファの背もたれを踏み越え離れると壁際に逃げて分かってないような顔をする智瑛莉を折檻する。


「あら、キスで照れてらっしゃるのですね?キスは挨拶の範囲ですわ」

「向こうはそうかもしれないけど、ここは日本よ!!意味が全く違うでしょ!!」

「そうだとしても、日本の意味と捉えてもらっても構いませんわ」


悪びれる様子のない智瑛莉に紅音は呆れ、深い息がもれる。


「だから会いたくなかったのよ…。…身体もたないじゃない…」


桃色に染った頬のままため息混じりにそう言うと、私もう帰ると学生鞄を手にして扉を開けて部屋から出ていった。

智瑛莉も紅音を追いかけて出ていこうとするが扉の前で立ち止まり部屋の中にいる先輩達に挨拶をしてお姉様ぁ!と追いかけていった。

バタンとドアが閉まると一気に部屋中は静かになった。

蒼以外の部員が気まずさからみんな顔を伏せるなかなにも見せられなかった蒼は似つかわしくないほどの笑顔で部員の皆の顔を伺うのであった。


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