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午後の紅茶にくちづけを  作者: ちょこみんと
ディンブラ・ティー
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出来たてのパンケーキが目の前に運ばれてくると白い木目のテーブルが見ているだけでお腹いっぱいになりそうないい焼き具合の厚いパンケーキに色とりどりのフルーツやソースが掛けられたもので一気に華やかなものに変わった。

それぞれの頼んだものが自分たちの目の前に来るとみなの頬が一気に緩んだ。


「んぅ…やっぱり美味しい…」


真っ先にフォークで沢山乗っけられていたいちごを突き刺して口に運んだ蒼がひと口ひと口噛み締めながらいちごを味わい、頬に絵を添え恍惚の表情をうかべた。

それに続くように翠璃もスプーンを手に取りいただきますと小声で言うと別皿で頼んでいたチョコミントアイスに手をつけた。

真美子も想像していたものよりも幾分フルーツが豪華に盛り付けられたパンケーキに驚きながらどこから食べ始めればいいのかと皿を動かしながら全ての角度からパンケーキを眺めた。


「真美子、フォーク貸して」

「え?えぇ、どうぞ」


ミルクティーだけしか注文していない紅音に奪われるようにフォークを渡すとなんの迷いもなく蒼が美味しそうに食べているパンケーキのさらに乗っていた1番大きそうないちごに突き刺して勝手に食べた。


「あっ…」

「…言うほど普通ね」


紅音は蒼のいちごを勝手に食べておきながらその一言だけ言うとフォークを真美子に返して小さな口をもごもご動かしていちごを咀嚼していた。


「あ、蒼のいちごぉ…」


最後に取っておいたらしい1番大きいいちごを取られてしまった蒼は先程の明るい表情がどんどん曇ってきて愛らしい小動物のような大きな瞳がゆっくりと潤んでいった。

紅音はいちごを飲み込むとミルクティーを啜った。


「蒼?どうしたの?」


チョコミントアイスを食べ終えた翠璃が隣でふるふると小刻みに震える蒼の異変に気づいてパンケーキに盛り付けられていたプレッツェルをつまんで様子を伺う。

蒼は盛り付けられていたいちごを見ながら唇を震わせていた。


「紅音さん酷いですっ!!…蒼、最後に1番おっきいの取っておいたのにぃ…なんで食べちゃうんですかぁ!!」

「あら、そうなの?悪いわね。いっぱいあるからいいと思って」

「蒼…楽しみにしてたのにぃ…いちご…」

「蒼さん、私のもので良ければいちご差し上げますから泣くのはよして、ね?」

「わ、私のマシュマロもあげるから」


紅音は軽く謝るが蒼は大きな瞳にうかべた涙を流しそうになるのを耐えていた。

その様子を見た真美子と翠璃は自分の皿を差し出して今にも泣き出しそうな蒼を宥めた。

紅音もばつが悪くなり蒼から目線を離した。


「うぅ…もらいますぅ…」


蒼は気持ちを切り替えようと息を深く吐くと真美子と翠璃の厚意を受け取ることにして笑顔を浮かべるがまだどことなく無理に笑っている様子だった。

真美子のお皿から4等分に切られたいちごを2切れ持っていった蒼に胸を撫で下ろすと真美子も自分のパンケーキをそろそろ頂こうと紅音が使ったフォークとナイフを手に取って1口サイズに切り分けたパンケーキにクリームとフルーツを少し乗せて口に運んだ。

それほど噛む必要のないほど柔らかく舌触りのいいパンケーキに甘さ控えめなクリームと口の中の色んなフルーツで食感に飽きずフルーツのいい匂いが鼻に抜けて一口だけでとても満足出来た。

満足感のある一口を飲み込んでしまうと、自然ともう一度切り分け作業に取り掛かった。

翠璃はティラミスパンケーキの上に飾られていたミントをどかして一口に切り分けると大きく口を開いて切り分けたものを1回で口に入れた。

唇についてしまったココアパウダーを紙ナプキンで拭き取り咀嚼する度に満足気に表情が柔らかくなっていった。


「このパンケーキ美味しいですわ。今まで食べた中で1番ですわ」

「そうでしょう?…良かった真美子さんを連れてこれて良かったです」


連れてきた張本人の蒼はそう言って貰えると嬉しそうに笑ってパンケーキをひと口食べた。

紅音は蒼が笑っているのを見ると安心したようでほっと一息ついた。


「紅音さん、ひと口どうですか?」

「私キウイ嫌いだもの」

「まぁ、好き嫌いですか?それはいけませんわ」

「キウイくらい食べなくたって死なないわよ」

「なら、パンケーキの方はどうですか?」


そう言って真美子はフルーツの盛られている反対側のパンケーキを切り分けて紅音に見せてどう?と言わんばかりに首を傾げ見つめる。

紅音は真美子とパンケーキを交互に見つめると顔を近づけてあ、と口を開く。

真美子はフォークを持つ手の反対の手を受け皿にしながら紅音の口に白いクリームの乗ったパンケーキを丁寧に押し込んだ。


「ね?美味しいでしょう?」

「…まぁね」


と言いつつも紅音の表情は満足そうに口角が上がっていた。

小さな口を動かしている様子が小動物のように見える紅音に真美子は自然と笑がこぼれた。


「…ん?」


ティラミスパンケーキを半分ほど食べていた翠璃がカバンの中で自分の携帯が震えているのに気づくと背中と椅子の間に挟んでいたカバンからクローバー柄のケースに入れられたスマホを取り出して画面に表示された名前を見ると眉を顰める。


「電話?」

「どっかの暇なブスからよ」


と嫌そうな声で言いつつも口の中のものをある程度飲み込んで、画面をスワイプして通話が始まると携帯を耳に押し当てた。


『あ、もしもし?』

「…何の用?私は忙しいのよ?」

『私だけどわかる?』

「えっ…、ひ、陽菜乃さん?」


画面に現れて想像していた人物とは違う人物の声が電話の向こうでして思わず耳につけていた携帯画面を離してもう一度名前を確認した後に疑問符だらけの頭で声だけで電話の向こうにいる相手の名前を探し出すと恐る恐る呼んだ。


『ピンポーン。あ、悪いわねいきなり電話して、今電話大丈夫?』

「え、えぇ…かまいませんけど」

「あれ?橙子ちゃんじゃなかったの?」


普段橙子に向かって使われる高圧的な口調からどんどん大人しい口調になっていく翠璃に首を傾げながら蒼が不思議そうに問いかける。

紅音と真美子もパンケーキをもぐもぐと咀嚼しながら様子のおかしい翠璃を見つめる。


『ちょ、ちょっと、陽菜乃さん!!誰に電話かけてるんですか!!』

『え?翠璃だけど?』

『もぉ、違いますでしょ!!』


陽菜乃以外の騒がしい声が電話越しに聞こえるとあまりのうるささに耳から携帯を少し離して顔を顰めた。


「ふふっ、電話の向こうは楽しそうですわね」

「あの、何か御用です?私今パンケーキを食べているんですけれど」

『あ、そうなの?じゃあ、橙子が言いたいことあるみたいだから代わるね』

『えぇっ!?そんな、困りますっ!!』


陽菜乃の楽しそうな笑い声とバタバタと騒がしい音が電話の向こうでしているが翠璃は大人しく向こうから何か言われるのをわざわざパンケーキの手を止めて待っていた。


『え、あっ…もしもし?』

「何?」

『いや、別に…その、特に用はないんだけど…』


不安げな橙子の声に陽菜乃が何か言っているような音が聞こえてきて智瑛莉のと思われる少女のような笑い声がする。


「用がないなら切るわよ?陽菜乃さんだったから繋いでたけどブスとは話すことないわよ」

『何よ。この私と話してるのに不満だって言うの?』

「不満も不満よ。不満だらけ。あーぁ、せっかく食べてたパンケーキもどっかのブスのせいで不味くなったっての」

『はぁ?言いがかかりはやめてくださる?あんたの馬鹿舌じゃあパンケーキの味が分からないのよ。って、私はブスじゃないっての!!』

『ははは、あんた達電話でも喧嘩するのね』

『もう、おやめになったら?』


電話越しでも普段紅茶の時にしているような口論が行われると陽菜乃はケタケタと笑い声を上げて智瑛莉は本気で心配して止めようとしていた。


「ほんと、不愉快!!あんたなんかと話すんじゃなかった」

『それはこっちのセリフよ!!』

「あ、じゃあ蒼に代わってぇ」


2人の喧嘩を遮るように隣に座る蒼が翠璃の携帯を受け渡してもらって電話を代わった。


「もしもーし、橙子ちゃん?あと、陽菜乃さんと…智瑛莉ちゃんかな?」


奪われるように携帯を渡した翠璃は橙子に対して募った苛立ちをぶつけるようにひきとめられていたティラミスパンケーキをもそもそと食べるのを再開した。

紅音は智瑛莉の名を聞くと一瞬身構えた。


『あら、蒼もいるのね』

『蒼もいるんだやっほー』

「陽菜乃さんだ、こんにちはー。あ、こっちには、蒼と翠璃ちゃんと真美子さんと紅音さんがいますよー」

『お姉様っ!?』

「わ、私、そろそろ行くわね」


蒼にいることをばらされ電話越しに智瑛莉の声を感じると逃げるように千円札をテーブルに置いて立ち去ろうとするが真美子に手を握られ引き止められる。


「もう、紅音さん。お電話なんですから挨拶くらいなさったらどうです?」

「あ、智瑛莉ちゃん?紅音さんに代わるねー」


そう言って純朴な笑顔をうかべた蒼に携帯を差し出され真美子にも受け取るように目で促されると拒否できず仕方なく翠璃の携帯を手にする。


「はい、もし─」

『お姉様!?本物でございますか?わぁ、ごきげんようっ!!』


せっかく会話をしようと思ったのに元気な声に遮られる。


「ごきげんよう。元気そうでなによりだわ」

『お姉様こそ、私の電話に出てくださるなんて…嬉しゅうございます…』

「そう。でも残念ね、私もう行かなくちゃ」

『…そう、ですか…。分かりました…』


電話越しにも智瑛莉が落胆しているのが目に見えた。


「私、テストって嫌いなのよね。無くなれば、なんて無理な話だけど…早く終わればいいと思うわ」

『えっ…?』


そのままの意味なのかなにか含ませた意味があるのか恥ずかしそうに床の一点に視線を送る紅音がそう言うと先程まで落ち込んだような智瑛莉の声が一瞬に明るくなる。


『…お姉様ったら素直じゃありませんのね。でも私そんな紅音お姉様が本当に愛おしくてたまりませんわ』

「…そう。なら私はもう行くから。…真美子に代わるわね」


照れ隠しのつもりか無愛想にそう言うと押し付けるように真美子の右手に翠璃の携帯を渡すとそのまま後輩2人に挨拶することなくそそくさと店から出ていった。

フルーツを口にしていた真美子は口元を手で覆いながら一礼して携帯を耳に当てる。


「…もしもし、白樺です」

『あ、ほら陽菜乃さん』

『うっ…』

「まぁ、そちら…紫之宮さんでよろしいですか?」

『うん、ごめんねパンケーキ食べてる途中に』

「いいえ、構いませんよ。…紫之宮さん達は何してらしたんですか? 」

『智瑛莉と3人で橙子オススメの抹茶屋さん来てた』

「あら、それならば私の電話はお抹茶を中断させてしまってますか?」

『あ、ううん、そんな事ないよ』

「まぁ、そうですか」


そこで会話が一旦止まり真美子と陽菜乃に沈黙が流れる。

電話の向こうで陽菜乃が何かを橙子と智瑛莉に言われているようだったがなんと言っているのか聞こえず自分から話していいのかこのまま切るべきなのか真美子は迷った。


「あの…紫之宮さん?」

『あ、あのね…真美子…』

「はい。なんでしょうか?」


真美子はそれまで咀嚼していたフルーツをごくんと飲み込み陽菜乃の言葉を待った。

陽菜乃が後輩になにか急かされている声だけがかすかに聞こえた。


『はぁ…真美子、聞いて欲しいんだけど』

「えぇ、改まってどうなさいましたか?」

『別に変な意味はないんだけど、橙子達に言えって言われてるから言うね。…その…』

「はい」

『真美子、私は真美子が好きよ。いつもありがとう。これからもよろしくね』


真美子は思わず手にしていた携帯を落としそうになった。

しかし後輩の前でそんな姿は見せられまいと、なんでもないように装う努力はしているが陽菜乃に改まってそんなことを言われると嬉しさと気恥ずかしさが相まり不思議と鼓動が早くなって、頬が熱くなるのがわかった。

聞こえていながらも触れないのか、そもそも聞こえていないのか蒼と翠璃は互いに頼んでいたパンケーキを食べあっていた。


「…ふふっ、紫之宮さんたらおかしい人。どうしていきなりそんな事おっしゃるんですか?」

『いや、その…まぁ、…今、伝えたいなって…』


照れたような陽菜乃の後ろからキャッキャと騒ぐ女の子の声が聞こえた。

真美子はクスッと笑って嬉しそうに目を細めた。


「紫之宮さん。本当は目を見て言いたいのですが、聞いてくださいますか?」

『な、何?』


蒼は最後のいちごを口に入れるとやはり気になるようでチラリと真美子の方に目をやる。


「紫之宮さん。私だって、紫之宮さんの事お慕い申しております」


電話で見えていないのに真美子は頭を下げながら陽菜乃に思っていたことを伝えた。

聞き流していた方がいいと思っていた翠璃と蒼も真美子が電話の向こうにいる陽菜乃に向かってそう言うので思わず手を止めて真美子に目をやった。

しかし幸せそうに頬をゆるめる真美子後輩2人はに見つめられているのにも気づかなかった。


『ふふっ、何よそれ。真美子ったら…でも嬉しいな。ありがとう』

「私こそ、ありがとうございます」

「お2人は幸せそうでいいですねぇ…」


嬉しそうに微笑む真美子をみて蒼も自分の事のように喜び微笑む。

橙子の謎の電話に苛立っていた翠璃もそんな真美子の笑顔を見ると不思議とつられて穏やかな気持ちになった。


『あっ、じゃあ…もう切るね』

「はい。では、また明日学校で」

『うん、ばいばい』


陽菜乃の方から電話を切られ長いように感じれた通話が終了した。

真美子は耳元から携帯を離すとケースをパタリと閉じて両手で翠璃に返却した。


「ごめんなさいね、翠璃さん。長電話してしまいまして」

「いいんですよ。お2人が幸せそうでなによりですので」


そう言って微笑みながら携帯を受け取りカバンにしまった。

翠璃と蒼のお皿には沢山盛り付けられていたフルーツやパンケーキの姿が無くなっていたが真美子の皿にはまだ半分ほど残っていたのに、真美子は謎の満足感で箸が進まなくなった。


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