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午後の紅茶にくちづけを  作者: ちょこみんと
ディンブラ・ティー
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「ねぇ、チェリーちゃん聞いてもいい?」


自分のあんみつをほとんどたいらげて抹茶をすする橙子が髪の毛を後ろに払って斜向かいの智瑛莉に問いかける。

智瑛莉も食べ慣れないおしるこを少しづつ食べていて声をかけられれば餅を噛みちぎって目だけで反応する。


「チェリーちゃんが幼い頃の紅音さんってどんな人でしたの?」

「あ、それ私も知りたい。今のと変わんない?」


喉につまらせないようにしっかりと噛んだ餅をゆっくりと飲み込んだ智瑛莉は箸を箸置きにおいてパッと顔を上げ目を輝かせた。


「お姉様はとても素敵な女性です、今も昔も。以前もお話したと思いますが初めてお会いしたのは私が小学校3年生のときで九条康晴財務大臣の就任を祝うパーティーでした。九条大臣とうちの父が中学生からの仲だったようで関西にいたうちの父も招待されそれに母と私が一緒に参加しましたの。ホテルのフロアをひとつ貸切にして行われたパーティーはそれはそれは幼い私にはたいそう豪華で盛大で…、父は九条大臣だけでなく他に招待されていた方達に挨拶をしてまわり、母と私も後をついてまわっていたのですが…私はあまりの人の多さとなれない雰囲気で体調を崩しました…」

「小学生ならそうよね…大人って淡白なのに無駄に長話するし」

「それで?紅音さんは?」


智瑛莉の話に相槌とコメントを返しながらも続きの気になる橙子は話を続けるように問いかける。


「母は私をフロアの隅にある椅子に座らせると、父の元に挨拶回りをしに行きました。私は両親が帰ってくるのを大人しく待っていたのですが、あまりにも体調が優れなかったのでその場で眠ってしまいました」


智瑛莉はすっかり冷めてしまった抹茶に口をつけてまた続けた。


「そして会場の誰よりも目立つ真っ赤なミニドレスを着た女の子が声をかけてくださったんです。…それが紅音お姉様です」

「やっぱり赤なんだ」


紅音らしい色に陽菜乃は苦笑いをうかべる。

橙子もニコニコと話を聞く。


「その当時お姉様も小柄でいらっしゃいましたが、私はもっと小さくて…。それにパーティーなどになれてる様子のお姉様はとっても大人びていて…ほんとに、その時から素敵でした」


当時のことを思い出しているのかにぃと頬を緩めて恍惚の表情を浮かべる。


「そこから私に飲み物だったり食べ物だったり…お話し相手などしてもらいました」

「へー、あの紅音がねぇ…」

「それだけでなく、…ほんとに可愛がってもらいましたの。それが初めて出会ったパーティーの時で、その次にお会いしたのはお姉様のバイオリンの発表会で…私ピアノはしていましたが、ちゃんとした音楽を、ましてや人の発表会だなんて初めてで…とても素敵でした…カプリース第24番です!!」


暑く思い出を語る智瑛莉の話を聞きながら陽菜乃は抹茶を飲み干してお代わりで暖かいほうじ茶を追加で注文した。


「チェリーちゃんと二人のときって紅音さんはどんな感じなの?」


微笑んだまま興味津々に上半身を前のめりにして橙子は問い続ける。

紅音と智瑛莉の事にものすごい突っ込んでいくなぁと陽菜乃は少し感じた。


「とっても可愛いですよ。でもこれ以上は教えません。…知っているのは私だけで十分ですもの」


そう言って智瑛莉は意味ありげに微笑み残りの抹茶を飲み干した。


「それならオレンジさんこそどうなんですか?」

「え?私?」

「結局、オレンジさんは翠璃さんとどうなんですか?」


先程の反対で次は智瑛莉が興味ありげに橙子に問いかける。

唐突な質問に驚く橙子は言葉につまり助けを求めるように陽菜乃に目を向けるがとうの陽菜乃は追加で頼んでいたほうじ茶を受け取ってその視線に気づいていなかった。


「チェリーちゃんったら、どうして翠璃が出てくるのよ」

「あんた達って見てて不思議なのよ。紅茶の時は蒼が間にいるからわかんないけど、アンタと翠璃って2人になったりするの?」


黒い陶器から白い湯気を立てるほうじ茶に口をつけた陽菜乃が智瑛莉の言葉に乗っかる。


「まぁ…クラスが同じですからならなくはないですが…」

「2人だとどのような会話をなさるんですか?」

「…蒼となら委員会の話とか、お菓子の話と…色々話すんですけど…。翠璃とは…」


思い出すように首を傾げて斜め上を眺める。

それでもなかななか思い出せないらしく首を横に振って智瑛莉を見る。


「じゃあ、翠璃さんの事は好き?」

「嫌いよ。あんな口も性格も悪くて自己愛の塊みたいな口の悪い女」

「悪口だけはスラスラ出てくるのね」


好きかと聞かれると首が取れるのではないかというほど横に強く振って嫌そうな顔をすると言葉につまることなく答える。


「それにいい?チェリーちゃん。あの女はね、この私を見る度にブスだブスだ言ってくるのよ?自分がちょっと可愛くて綺麗でスタイルが良くてセンスも人よりよくて人気ファッション誌の専属モデルだからって調子に乗りすぎなのよ」

「ふふふ、橙子さんはよっぽど好きなのね」

「どこが!!」


不貞腐れたように話す橙子の言葉に陽菜乃がツッコミ智瑛莉が思わずクスクス笑う。


「でも、この間のダンスもお二人同じペアでしたでしょ?どうでした?」

「どうって…まぁ、翠璃もリードしてくれたから合格はしたけど…。ほとんど私の実力よ」

「翠璃も言うわよねー、私が王子様になってあげるって…ドラマ見てるみたいだった」

「あ、それ私も思いました。意外とロマンチストなんですのね」

「ほんと翠璃ってそうすかしてる 所があるのよ。覚えておいてねチェリーちゃん」


橙子はそう言ってあんみつの残りに手をつける。


「来年から大変ね。私たちいなくなったら智瑛莉と蒼が二人を止めなくちゃだものね」

「私は放任主義なのでほっておきますわ」

「翠璃が突っかかってこなければ喧嘩なんてしないわよ。だいたい翠璃が私を目の敵にするのがいけないのよ」


不服そうに頬をふくらませ不満がる橙子は最後に抹茶を飲み干して両手を合わせてご馳走様でしたと、食器に頭を下げた。


「陽菜乃さんだって、真美子さんとは最近いかがです?」

「そう来ると思ったわよ…。そんなこと聞いてなんて答えを期待してるのよ」


熱々のほうじ茶をちびちび飲んでいた陽菜乃が橙子から話を振られるとあからさまに嫌な顔をする。


「だって、生徒たちの間でお2人のご関係は密かに囁かれてるんですのよ?実際どうなのかなって、女の子は噂話好きじゃないですか」

「お2人は中等部からそのような仲ですの?」


テーブルに両肘をついて正面の陽菜乃の顔をにこにこしながら見つめる橙子と隣の陽菜乃に新たに興味を持った智瑛莉の2人に問い詰められる。

しかし陽菜乃は焦ったりすることも無くただほうじ茶をゆっくり飲んでいた。


「…ほんとに知りたい?」


後輩ふたりを交互に見つめて意味ありげに声を潜めた。

思っていたのと違う反応を見せる陽菜乃に後輩2人はどんなことを打ち明けられるのだろうかと身構えて頷く。

するとそれまで両手で持っていた茶碗をゆっくりと音を立てずにテーブルに置いて、上半身を前のめりにして2人に顔をちかづける。


「実はね…」


深刻な顔で語り出そうとする陽菜乃ひ智瑛莉と橙子は緊張感が伝染したかのように真剣な顔で息を飲んだ。

陽菜乃は2人の表情を見て覚悟を決めたように血色の良い唇をゆっくりと開く。


「実は私と真美子はね…もう、ただの友達じゃないの」

「えっ…」

「まぁ…」


智瑛莉も橙子も陽菜乃の解答を聞くと思わず声を漏らし徐々に目を開いて驚く。

陽菜乃は俯いて何かを我慢するかのように自分の唇を咥え込む。


「という事は…やはり」

「お2人は…ただならぬご関係なのですか…?」


陽菜乃は小刻みに肩をするわせており、橙子達からは頷いているようにも首を降っているようにも見えた。

智瑛莉はものすごいことを聞いてしまったと陽菜乃をじっと見つめ橙子は驚きと感嘆のあまり開いた口が塞がらない様子だった。


「では…陽菜乃さんと真美子さんは…今はどのような…ご関係に?」

「お2人は…その、どのくらいなさりますの?」

「…っんふ、ぷぷっ」


興味津々に自分に際どい質問を投げかける智瑛莉と橙子の真面目で真剣な顔に笑うのをこらえていて肩を震わせていた陽菜乃も耐えられなくなり吹き出して声を出して笑ってしまった。

2人はいきなり笑い出す陽菜乃の行動が理解できなかった。


「ふ、ふふっ…もぉ、2人とも何本気にしてるのよ。…っふふふ、おっかしぃ」


静かな店内の雰囲気を壊さないように口元を手で隠しながらお腹を抱えてゲタゲタと笑うので肩が震えている。

まだ理解できない橙子は何事かと首を傾げ、気づいた智瑛莉はむぅっと頬をふくらませた。


「え?陽菜乃さん…?」

「よく考えなさいよ、私こんなだけど女よ?真美子も女の子。だから友達以上の関係なんてなれるわけないでしょー?」


ぽかんとしてる橙子の様子がおかしくまだケタケタと笑う陽菜乃は落ち着こうと程よく冷めたほうじ茶を飲んでからかってごめんねと微笑んで謝る。


「そんなことありませんよ!!女の子同士だからって関係ありませんわ!!」


隣に座る智瑛莉が陽菜乃の腕をギュッと掴んで真剣な眼差しで訴えかけてくるのでもしかしたら自分が間違った考え方をしているのではないかと不安になった。


「いや、そんな、女の子同士だからとかじゃなくて…」


橙子もからかわれたと分かれば少しムッとして頬杖をついて困惑する陽菜乃を見つめる。


「もう、陽菜乃さんったら!!私達をからかったんですのね」

「だからごめんってば。本気にされるとも思ってなかったし」

「もう私達、陽菜乃さんが正直に真美子さんの事好きって言わないと許しませんよ?」

「ちょっと意味わかんないし」

「そうです。私たちの前で真美子さんに好きって言ってください」

「なんでそうなるのよ。私別に真美子の事嫌いとか言ってないし…」


後輩2人に変なことで言い寄られ熱くなってる2人に両手を前に出して宥めるように目配せをしながら苦笑いをする。

しかし2人は引かずに陽菜乃に言いよる。

1人でいないせいで普段より強気な2人に陽菜乃もたじろく。


「違いますよ陽菜乃さん。きちんと言葉で伝えることに意味があるんです」

「だから、なんでそうなるのよ」

「まぁ理由はなんだっていいんですよ。私達は陽菜乃さんが真美子さんにそう言ってるところが見たいんですよ」


たじろいている陽菜乃ににこりと微笑んで橙子は自分のオレンジ色のスマホを取り出し電話帳を開いて陽菜乃に手渡した。

差し出されては仕方なく受け取るが、本気なの?と目だけで聞いて少し考えた後にある人に電話を繋げた。


「あ、もしもし?」


先程まで嫌そうな顔だった陽菜乃は意味ありげに口角を上げて笑った。


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