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午後の紅茶にくちづけを  作者: ちょこみんと
ディンブラ・ティー
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華やぐ街並みには学校帰りらしい同じ制服を着た女子高生の群衆、仕事終わりらしく自宅に戻るのかこれこらの楽しみにしていた予定に向かっているのか軽い足取りでパンプスの音を立てて歩くOLの姿が多く見られた。

普段はこんな時間に街中を出歩くことの無い真美子にとっては目に映るもの全てが新鮮に写り何かわからないものは同じところに向かって歩いている翠璃や蒼を逐一呼び止めて問いかけた。


「ねぇ、翠璃さん。あの女子生徒達が食べていらっしゃるのはなんでしょうか?」


真美子は車道を挟んで反対側にいる女子生徒の方に目をやりながら目の前を歩く翠璃の制服の袖を引っ張って問いかける。

左腕の制服の袖を引っ張られた翠璃は真美子を振り向きその視線がむく方に目をやって答える。


「真美子さん、あれはチーズはっとぐって言うものです」

「ちーずはっとぐ…?では、あの伸びてるのはチーズなんですね」

「ええ。ですがね、アレのカロリーはあの見た目と美味しさに比例しないんですよ。…もう見てるだけで胃がもたれそうですわ」


向かい側の女子生徒達が手にしているあつあつのチーズはっとぐを忌まわしげに見てそう言うと、すぐに目を逸らして蒼の背中を追う。


「着きました!ここでーす!!」


前を歩いていた蒼が立ち止まり愛らしい笑みを浮かべて目的地らしい店の入口を手で示す。

示されたのは大きなビルの1階で大きなガラス窓から見える店内にはもう既に多くのお客さんが幸せそうに名物のパンケーキを楽しんでいるのがわかる。

外に並べられたボードに立てかけられたいくつものメニュー表が傾いて沈みそうな夕日と街灯に反射して眩しかった。


「ほら、真美子さん。どれが食べたいですか?」

「ふふっ。蒼さんったら。そんなに急がなくとも私もパンケーキも逃げませんわ」


手を引かれてメニュー表の前に連れてこられた真美子は嬉しそうに笑って母親に甘える子供のように自分の腕に絡みつく蒼にそう微笑んでメニュー表に目を向ける。

パンケーキだけで10種類程ありトッピングやライトミール、ドリンクなどが写真とシンプルな文字が沢山並んでいた。

あまりお腹がすいていなかった真美子も写真などを見るとその焼かれた生地のいい匂いが今にもしてきそうで空腹感が増した。


「いっぱいありますのね…迷ってしまいますわ」

「うぅ、こんなクリームにシロップ…目に毒だわ」

「とか言って翠璃ちゃんトッピングいっぱい載せるじゃない。あ、蒼はこのいちごのパンケーキにしよっと」

「なら私も同じものを…」

「真美子さん。私はこちらのクリームチーズティラミスをおすすめしますわ」

「まぁ…ホントね。こちらも魅力的ですわね…」


後輩2人に始めてくるお店のオススメの品を言い合われ優柔不断な真美子は指を刺されるメニュー表のものを見比べて迷う。

そんな真美子を見かねた蒼は真美子の手を取るととりあえず店内に入るように入口へと歩き出す。

翠璃は両頬に手を添えてどうしようか考え込んでいる様子でその後ろをついていく。


「いらっしゃいませー」


蒼がガラス戸を引いて開けると若くて綺麗な女性店員が笑顔で営業用の挨拶を投げかける。

白いテーブルや机は温かみのある黄色がかった照明で照らされた綺麗な店内は外から見えていた通り、学校帰りなのか女子高生と若い女性がほとんどの席を埋めていてカウンター席には男性客の姿もちらほら居た。

入った瞬間から鼻に届いたパンケーキが焼けているいい匂いとトッピング等の甘い匂い、お客さんの話す明るい声で溢れていた。

蒼は店内をぐるっと見回して空いている席を見つけたのか真美子を窓際の4人がけのテーブル席に連れていく。


「とりあえず、席について考えましょう。パンケーキは逃げないんですもんね」


そう微笑んで真美子と翠璃を席につかせる蒼はサッと3つ折りにされていたメニュー表を机に開いて真美子と翠璃に見せる。

店外に掲示していたものをそのまま小さくしたようなメニュー表にもう一度目を向ける。


「蒼はイチゴのやつ。翠璃ちゃんはティラミスでしょ?」

「んー…いや、んー…んー…」

「翠璃さん…?どうかなさいましたの?」


真美子とは別の理由から頭を抱えて悩んでいる翠璃を不思議に思い問いかける。

翠璃は恨めしそうにメニュー表を睨みつけると何かを決心したように商品名を指さす。


「私やっぱり自分に嘘をつきたくないので、クリームチーズティラミスパンケーキにプレッツェルとマシュマロと…チョコミントアイスを別皿で貰おうかしら」


嘘をつきたくないと言った少女の口からは想像もしえなかった程の多くの注文がなされた。

いつものことなのか蒼は笑顔でりょーかーいと間延びした声で答え次は真美子の答えを待つが真美子はその答えに驚く。


「え、えぇっと…私は…この季節のフルーツパンケーキにしますわ」

「それ、蒼も大好きですぅ。あ、すいませーん」


3人分の注文が決まったところで蒼が店内を見回して店員を見つけ挙手して呼ぶと若い清潔感のある1つ結びの女性が笑顔でこちらのテーブル席に歩み寄ってきた。

蒼1人で3人分の注文を済ませると伝票に殴り書きして、しばらくお待ちくださいね、と笑顔で下がっていった。

真美子は連れてこられたパンケーキ屋と言う慣れない場所で落ち着きなく当たりを見回したりしてソワソワしている。

蒼と翠璃はその様子を見てクスッと笑う。


「もう、真美子さんったらどうかなさいましたか?」

「いや、その…私、このような所初めてで…どうしていいのか分かりませんのよ」

「いつも通りでいいんですよ。お紅茶頂いている時と大差ありませんよ」


翠璃はそう言って二つに結った自分の髪の毛を顔の前に近づけて毛先を見つめ出した。

翠璃の隣に座る蒼も鞄から最近ハマっていると言う漫画を取り出してペラペラとめくって開く。

いつも通りと言われてもどうしていいのか分からない真美子はいい匂いのするキッチンや女子高生同士出来ているお客様やカウンターに座って仲良く話しているカップルなど店内を見回した後に窓の外を眺めた。

外の地面よりも少し高い店内から眺める街並みには未だに学校帰りの学生と帰宅中のOLやスーツ姿の人の姿があちこちに見えた。

他にすることも無く注文したパンケーキが届けられるまで窓の外を眺めていた時、何よりも目を引くほど真っ赤なミニワンピースを着た長髪の女性らしいシルエットが目の端にうつる。

茶色がかった長い髪の毛は1本も乱れることなく綺麗にまとめられ折れそうなほど高いピンヒールで歩く度にふわりふわりと揺れる。


「…」


真美子が真っ赤なミニワンピースの女性をぼんやりと見ていると道路脇に止めた黒の高級そうな車から降りてきたスーツ姿の男が女性の後ろを追いかけてさらに何か言っている様子だった。

二人の会話する声なんて聴こえない店内で真美子は無声映画のような2人の様子に目が釘付けであった。

自分の言うことを女性に無視されているのかスーツの男は目の前で歩くのをやめない女性の手を無理に掴んで強引に引き止めた。


「まぁ。強引に…」

「何か言いました?」


つい思ったことが口に出てしまった真美子に翠璃が目線だけを上げて反応する。

真美子は窓の向こう子無声映画に指をさして翠璃の目線を移動させる。

手首を掴まれた女性はその手から逃れようと必死に抵抗していたがとうとう両方の手首を掴まれて押さえつけられる。


「うわぁ…最低な男…。女を力でねじ伏せるなんて人のすることじゃないわ…」

「あの女性を助けに行きましょう!!きっとあのままだとあの男に何をされるかわかりませんわ」

「えっ、でも…真美子さんが?」


助けに行くと言った途端に真美子を翠璃は心配そうな目で見つめた。

その目が何を言わんとしているのか分かった真美子は何も言い返すことも行動にすることも出来ずに下唇をキュッと噛み締めてもう一度窓の外に目をやった。

男に押さえつけられたままのワンピースの女性がもうそのまま根負けして連れていかれそうになっていた。

何も出来ない、そんな罪悪感が急に真美子の中で沸き起こった瞬間、無声映画の女性が男が気を緩めた瞬間を見計らって短い丈からスラッと伸びている細い足を男の股に目掛けて思い切り蹴りあげたのだ。

それを目の当たりにした真美子と翠璃は衝撃的すぎて同じように驚きの声を出す。

股間を蹴られてしまった男は女性を掴んでいた手を離してゆっくりと膝から崩れ落ちていった。

女性はその様子を見るとその場から逃げ出すように走り出し、その足でこちらのお店に向かっていた。

呆然としていた2人はこちらに走ってくる女性から目が離せなかった。

女性がこちらに近づいてくるにつれて真美子と翠璃にまた別の衝撃がはしる。


「あ、あれ…もしかしてあの方」

「ま、真美子さん…あれって、紅音さん…ですか?」

「え、えぇっと…」

「いらっしゃいませー」


2人がお互いの顔を見合わせて先程の女性の正体は紅音なのではないかと言い合っていると入店のベルとともに店員の明るい声が聞こえる。

聞いたことのおるようなピンヒールの音とともに現れたのは真っ赤なミニワンピースを身にまとっている先程の無声映画の主演女優、九条紅音だった。


「紅音さん…!!やっぱり、紅音さんでしたのね!!」

「うわっ、真美子…驚かさないでよ」


紅音は突然入った店で名前を呼ぼれたことに驚くが名前を呼んだのがよく知っている人間で安心に似たため息を漏らし、真美子以外の2人にも目をやって確認する。

すると今まで読書に集中していて気づかなかった蒼がパタンと本を閉じて突然現れた紅音の存在に少し遅れて反応した。


「わぁ、紅音さんだー。しかも私服だなんてどこかにお出かけですか?」


どうぞ座って、と自分たちが居る4人がけのテーブル席のひとつ空いているところに紅音を案内した。

走ってきて少し息の切れている紅音は椅子をガッと引いて見た目の可愛らしさからは想像できないほど乱暴に腰かけた。


「紅音さん、先程の人は…?お知り合いの方?」


自分の目の前に座った紅音に聞いていいのかという遠慮もなく翠璃が自分が気になることを質問した。

紅音は見ていたの?と怪訝そうな顔をするが背もたれに体を預け胸の前で腕を組んで素っ気抜く答える。


「肩書きなら九条大臣の第2秘書よ。言い換えるなら私の12個上の兄ね」


淡々と答える紅音は運ばれてきたお冷に、口をつけた。

無色透明だったグラスには紅音の真っ赤なキスマークが出来た。


「お兄様にあんなことしてよろしいの?」

「いいのよ。私が何したってあの男には九条の愛娘をどうすることも出来ないわ」

「お兄様と何をあんなに言い争ってたんですの?」


翠璃の問いかけに答える前に店員に向かって手を挙げてロイヤルミルクティーを頼んだ。


「言い争ってなんかないわ。あの男があまりにも過保護過ぎるからほっといて言っただけよ」

「にしてはお互い随分手荒いことをしますのね」

「ほんと、あの男は女子高生相手に力にものを言わすのよ?つまんない男。あんなのが国に尽くす議員になるなんてとんだ笑い草ね」


紅音は兄を思い出しながら見下すように笑った。

その笑みに真美子はゾッとした。


「紅音さんはそんなにおめかししてどこかにお出かけですか?」

「ええ。悪いけどミルクティーを飲んだら出るわ」

「えー、みんなとお話したかったですう」

「なによ。紅茶の時に出来るじゃない」

「そうですけどー」


すぐに出ていくという紅音の答えに不服そうに頬をふくらませ幼女のような仕草をする蒼にポーカーフェイスを決め込んでいた紅音もクスリと笑う。


「わるいわね。でも今日は行くところがあるのよ。また今度、時間作って待ってるわ」


珍しく自分から後輩を誘う紅音に真美子はさらに驚く。

そう言われた蒼は嬉しそうにぱあっと表情を明るくして、絶対ですよ?と念を押す。

そうこうしているとキッチンからパンケーキを焼いている香ばしい香りが強くなった気がした。


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