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午後の紅茶にくちづけを  作者: ちょこみんと
ディンブラ・ティー
34/72

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真美子は走った。

いつもの自分の運動能力を遥かに超えて、この世の全てを追い抜いて自分だけ光かと思うほどの速さで生徒会長らしくなく廊下を走った。

振り向くな、振り向くな、後ろには夢がない──息を乱しながら走っている中でそんな寺山修司の詩を思い出す余裕があった。


「待って!!待ちなさい白樺!」

「いやぁ!!来ないでぇ!!」


背後から男性教員の引き止める声を受けそれを避けるように逃げる真美子はホラー映画さながらの叫び声を上げながら生徒たちの居なくなった廊下をひたすらに走った。


「きゃっ!!」

「ぴゃっ!!」


廊下を曲がったところで誰かとぶつかってしまいその場に倒れ込む。

体が床に倒れドシンッと重い音がするので自分の体に対する痛みよりも自分と接触事故を起こしてしまった相手を確認する。

どこか見覚えのあるショートボブの小柄な女の子をぶつかった拍子に押し倒してしまったようだった。

真美子は自分の下でぶつけた体を痛がる水色のスカーフの少女を心配そうに見つめるが少女はイテテテと声を漏らしてぶつかってきた目の前の真美子を可愛らしい目で睨みつけた。


「もう!!ちゃんと前を見て歩いてくださいっ!!」

「あ、蒼さん…っ、申し訳ありませんっ!!私…っ!!」

「真美子さん…?え、どうかなさいまして?」

「来るっ!!…来るのっ!!」


普通じゃない真美子の反応に蒼はぶつかられた苛立ちよりも何事なんだろうかと疑問に思い上半身を起こして真美子に問いかける。

しかし真美子は振り向いて背後から聞こえてくる誰かの足跡を耳にすると怯えたように、顔をどんどん真っ白にしていく。

顔の色か真美子からなくなって行くのを目の当たりにした蒼は真美子と同じ方向に目をやると何かを理解したらしく真美子の両頬に小さな手を添えてこちらを強引にむかせて顔を近づけた。


「あ、おい、さっ」

「真美子さん、後ろむかないで。私に合わせてください」


2人の間でしか聞こえないほどの小さな声で耳元でそう言われると真美子は頷き蒼に身を委ねた。

唇が重なるのではないかと思うほど顔が近付けられると思わず目をつぶり身構える。

頬に添えられた手が背中と後頭部に回されたと同時に真美子を追いかけてきた男性教員が追いついたようで、不規則な荒い息と品のない足音がすぐ近くで聞こえた。


「おい、しらか、…ば…」


蒼は自分の目の前に現れた男性教員に人では無いものを見るような冷たい目で目線だけ向けて教員の目的である真美子を抱き寄せる。

男性教員もその様子に驚きと戸惑いを隠せないようで肩で息をしてなかなか呼吸が整わない。


「まぁ。先生ったら乙女が愛し合っているのに邪魔をなさるんですか?無粋ですこと」

「あ、いゃ、…先生、白樺に用があって…」

「それは姫宮を差し置いても優先されるべき事ですか?」


蒼はいつも通りの可愛らしい笑顔を浮かべながらも教員を大きな丸い瞳で見つめるので、反論も許さない雰囲気を醸し出していた。

さらに姫宮と言う名前を出して教員は反論するのをさらにしり込みした。


「あんまり蒼のお姉様を困らせるのはやめてもらいませんか?」


蒼はそう言って微笑むと真美子の髪の毛に軽くキスをした。

それを見せつけられた男性教員は何も言えずに複雑な顔をしてそそくさとどこかに消えていった。

男性教員がどこかに消えていったのを確認すると蒼は真美子から手を離して大丈夫ですか?と問いかけた。


「あ、ありがとう…ございます、蒼さん…」

「ふふっ、お礼はチューでいいですよ?」


そう言って無邪気に笑うので本気なのか冗談なのかわからなくなり、戸惑いながら目をそらす。


「んふふっ、冗談ですよ。お礼はパンケーキでお願いします」

「…えぇ。それならば承知しましたわ」


安心してホッと一息ついた途端よっぽど追い詰められていたのか真美子の頬に涙が一筋流れ落ちた。

蒼は急に涙を流す真美子に驚くが何よりも真美子本人が1番驚いたようで咄嗟に手の甲で顔を隠して雑に拭った。


「真美子さん…?どこか痛みますか?」

「い、いえ…違います…大丈夫ですわ」

「…真美子さん…」


蒼は顔を隠す真美子の頬を撫でる。

恥ずかしそうにその手から逃れる真美子は潤んだ瞳で蒼を見つめた。

蒼は真美子を安心させるように微笑むと頬に唇を寄せた。

暖かく柔らかな蒼の唇が真美子の頬を優しく撫でる。


「蒼がまだ小さい時、泣いたらよくお母様がこうしてくれました」


そう言って微笑む蒼は真美子の手に指を絡めてもう一度頬に唇を押し付ける。

真美子は絡められた指には応えながらも頬をずらして唇から離した。


「ありがとうございます蒼さん、私…もう大丈夫ですので」

「あ、蒼ぃー!!」


指が解かれないまま廊下に体を預けていた蒼を起こして立ち上がらせたところで蒼の背後から新たな女子生徒の声が聞こえてきた。

その声のする方に蒼と真美子が目をやると学生鞄を2つ手にしている黒い髪をふたつに結いた長身の女子生徒が呆れたようにため息を漏らしながらこちらへとゆったりと歩いてきた。


「もぉ、真美子さんをあんまりからかってはダメでしょ?」


そう言って一部始終を見たいたらしい女子生徒が蒼の頭を小突いて真美子の様子を伺う。

真美子を助けてやったのにからかったと言われた蒼は不服そうに頬を膨らませ小突かれた頭を抑える。


「え、えぇ…お気遣いありがとうございます翠璃さん…」

「もうっ、翠璃ちゃんたら隠れてみてたの?趣味悪ーぃ」

「見てたんじゃなくて、見えてたの!!」

「ま、まぁまぁ…」


翠璃も覗いてたと言われれば心外だと言わんばかりに眉間にシワを寄せて言い返す。

真美子は自分のせいで珍しく怪しい雰囲気になってしまった2人の間に入ってやんわりと止める。

蒼は納得いってない様子だったがすぐに気持ちを切り替えたのか子供のように純粋な笑みを浮かべ翠璃の手から自分の分の学生鞄を取った。

翠璃もそこまできにしていない様子で鞄を渡すと、真美子はどうするのかと目で探りを入れた。


「…っ!!」


帰ろうとする2人の邪魔をしては行けないとすっと立ち去ろうとしていた真美子の頬に手を添えた翠璃が泣いて赤くなった真美子の目を心配そうに見つめた。

真美子が恥ずかしそうに手を振り払うと次はまだ熱を持ってる瞼に翠璃の冷えた指先が押し当てられた。


「翠璃さん…?何をなさってらっしゃるの?」

「真美子さんは色が白いから目元が赤いとせっかくのお綺麗な顔が台無しですわ。泣き腫らした目は冷やすのがいいと以前聞いたもので」


左目の瞼の熱が翠璃の指先に連れていかれるとすぐに右目の瞼に移動して熱を取ろうとしてる。

細くて長い翠璃の冷えた指先が心地よかったが、瞼に触れられるなんてなかなかない事なので少し恥ずかしさからさらに内側から熱が発生しそうだった。


「あ、そうだ。翠璃ちゃんこれからパンケーキ食べて帰ろ?真美子さんも一緒に、ね?」


瞼を冷やしてる翠璃にそう言うと真美子にも承諾を求める。

パンケーキという単語を聞いてちょっと顔を顰め何かを考え込む翠璃出会ったがそれもいいねと快諾する。

真美子も先程の借りがあるので断らずに頷き賛同する。


「やったぁ、蒼あのフルーツのパンケーキのお店行きたかったの」

「あの新しいところ?」

「うん!!あ、真美子さんはフルーツパンケーキお好き?」

「えぇ、フルーツは好きですよ」

「よーし、じゃあ決まり!!行きましょう今から」


嬉しそうにニコニコと笑う蒼に翠璃と真美子は反論の余地もなく着いて行くことにした。

しかし真美子は自分が荷物を持ってない事に気づくと2人には悪いがすぐ戻ると伝えて階段を登り3年の教室に自分の鞄を取りに行った。

残された蒼と翠璃はその場に留まり真美子が戻ってくるのを待った。


「真美子さん何に追われてたの?」

「んー、男の先生。名前知らないから、蒼達は教わってないのかも」

「まぁ、これじゃあまた男性恐怖症が酷くなるわね」

「パーティーまでに治るのかなぁ…」

「それは真美子さん次第よ」


2人のは待ってる間に真美子についてのたわいもない会話をして時間を潰していたら鞄を手にした真美子が2人の元に戻ってきた。


「お待たせ致しました。パンケーキ…でしたよね?お店の方はどちらでしょうか」

「蒼が案内しまーす。街の方まで出ますが大丈夫ですか?」

「私は構いませんわ」

「大丈夫よ」


よほどパンケーキを食べに行くのが楽しみなのかルンルン気分の蒼はスキップのように軽い足取りで2人に早くーと言いながら先を歩いていく。

後輩達と放課後に出かけるのが珍しい真美子も蒼程表には出ていないが楽しみだった。

その隣を歩く翠璃は複雑な顔をしていた。


「あーぁ、私もうすぐ撮影だからスイーツ控えたかったのになぁ…」

「あら、なら無理に誘っちゃいましたか?」

「いいえ、食べないでストレスを溜めるなんてもっと嫌ですので」


翠璃はそう言って笑うと先にいる蒼の後ろを走って追いつく。

真美子も2人に追いつくように小走りでついていく。

そして3人は学校を出て人通りの多くなっていく道を歩いて街に向かった。

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